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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります  ファイターの小説  名前: パワプロファイター  日時: 2012/06/23 06:37    
      
 皆さんに私から、重大な告知をしなければなりません。ついに私は決意しました。私が自分の家の印刷機で紙に刷っていた小説の第1章から第9章までを、可能な限り毎日、このズダダンに発表したいと思います!このパワプロファイターこと「タカハシユウジ」が! この小説、その名も「イーグルスの星」!
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2012/11/16 22:20 修正1回 No. 137    
       
 数日後、札幌ドームにて

 試合30分前、巨人軍一同は、一部屋に集まっていた。原監督から今日の先発オーダーを言い渡されるのである。
「よし、みんなそろってるな!? では、今日のオーダーを言い渡す」

 言い渡された直後、札幌ドームの電光掲示板にメンバーが発表された。

 読売巨人軍

 一番 ライト 長野久義

 二番 センター 松本哲也

 三番 ショート 坂本勇人

 四番 キャッチャー 阿部慎之助

 五番 サード 村田修一

 六番 レフト 高橋由伸

 七番 DH 小笠原道大

 八番 ファースト 横田真司

 九番 セカンド 大累進

 先発投手 杉内俊哉

 オープン戦初日からフルオーダーである。横田の名前が告げられた瞬間、場内は歓声とブーイングが飛び交った。しかし、彼は至ってしょげてはいないようである。真司は闘志を燃やすようにつぶやいた。
「一発決めてやろうじゃないか……!」
 原監督はそんな彼の様子を見て上機嫌そうな表情である。そして、真司の所によって来て一声かけた。
「思いっきり暴れてこいよ!」
 真司はその言葉が嬉しくてたまらなかったようで、「ホームラン打って見せます!」と意気込み、素振りを始めた。

 一方の北海道日本ハムファイターズのオーダーは次の通り。

 一番 セカンド 伊東健

 二番 ショート 金子誠

 三番 センター 糸井嘉男

 四番 レフト 中田翔

 五番 ファースト 稲葉篤紀

 六番 ライト 陽岱鋼

 七番 サード 小谷野栄一

 八番 DH 鵜久森淳志

 九番 キャッチャー 大野奨大

 先発投手 武田勝

 こちらも負けず劣らずフルオーダーだ。伊東の名前がコールされたとたん、ライトスタンドの日ハム応援団は狂喜乱舞。試合前からドームは盛り上がっている。真司はとても粋に感じて、バットを振り続けた。さぁ、オープン戦の幕が間もなく切って落とされる。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2012/11/16 22:23  No. 138    
       
 お読みいただき、ありがとうございました!
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2012/12/01 18:31  No. 139    
       
第十八章

 試合は武田、杉内両左腕の快投で幕を開けた。日ハム先発の武田は、精密なコントロールと緩急自在なピッチングで、一回二回を完ぺきに抑え、場内のファイターズファンを沸かせた。しかし、一方の杉内も負けてはいない。ノビのある直球と、大きなカーブで三振の山を作ってみせる。こちらも二回を完全に抑える投球で、この試合は投手戦の雰囲気を醸し出してきた。そして、三回の表、巨人の攻撃。

 アウト!

 小笠原がショートフライに倒れ、横田真司の打席に回ってきた。場内は彼がコールされたとたんに再び罵声と歓喜がいれ混じる。横田は思う。

 あぁ、今僕は、プロ選手としての真価が試させ始めている。この罵声、この歓喜、それらは僕の価値そのものなんだろう。僕は将来ビッグになるんだ。じゃあ、それを証明してやろうじゃないか!

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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2012/12/01 18:33 修正1回 No. 140    
       
背番号1、それを背負った彼の背中には、無数のフラッシュが浴びせられた。それを胸に秘め、横田真司は打席に立つ。マウンド上の武田勝は、冷静さを保ちながらも勝負師のような鋭い眼光を横田に放つ。

 横田は打席に立ち、構え、武田は投げた。その球は遅く、大きく山なりに少し斜めに落ちる変化球だ。サークルチェンジである。ギリギリ外角低めだ。横田はボールと思い、見送った。球審は、じっとボールを見極めてコール。

 ストライク!

 それを聞いた横田は思わず叫んだ。
「何だって!?」
 信じられないような気持ちで審判に振り向いたが、それで判定が覆ったら苦労はない。横田は、武田の超絶なコントロールに驚きを隠せなかった。武田は背が小さい。しかし、この時ばかりは横田にとって大きく見え始めたのだった。彼の体に力みが生まれ始める。
 二球目は、クロスファイヤーの直球。武田のストレートは威力がない。しかし、持前の緩急と四隅に投げられるコントロールを駆使すれば、その直球は武器に変わる。横田は見事に翻弄されて、ファーストゴロに倒れた。悔しさで、武田に対して振り向くこともできなかった。横田はベンチに帰ると、原監督はすかさず歩み寄って口添え。
「これがプロの投手だ。次、しっかりいこう!」
 そう言われた横田は、少し気持ちが楽になるのであった。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2012/12/01 18:35  No. 141    
       
 試合はそのまま両投手の好投が続いた。五回まで両軍はパーフェクトに抑え込まれる事態。この静かなる展開に、球場に詰めかけた観客は固唾をのんで見守るだけ。そして、六回の表。ファイターズの投手は、同じく左腕の吉川に変わった。

 ファーボール!
 
 小笠原は一塁に歩いた。そして、横田が右打席に向かう。ベンチからは、大累が「しまっていこー!」と鼓舞する。横田は気合を入れた。しかし、武田と吉川は正反対のタイプである。吉川は、コントロールのバラつきがあるパワータイプ。横田は対応できなかった。結果は、見逃し三振。バットを振ることもできずに……。彼の顔に焦りが生まれ始めた。そして、大累も倒れ、巨人打線はこの回もノーヒットに抑え込まれる事態に。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2012/12/01 18:37  No. 142    
       
 しかし、六回の裏。この男の名前がコールされた。

 選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー、杉内に変わりまして、井本。ピッチャー井本。背番号30。

 球場の日ハムファンたちは、横田以上に激しいブーイングを浴びせはじめた。そのさなか、井本は、ゆっくりと左腕を回しながらマウンドに向かいながらつぶやく。
「へへへっ、俺の独擅場がやってきたぜ! このムードを一気に変えてやる!」
 内野陣と捕手、そして川口コーチがマウンドに集まり、川口が井本に調子を聞いた後、ショートの坂本は、開口一番にこう。
「井本、チームプレイは大事だからな。お前ひとりで野球やってんじゃないんだ」
 すると、井本はこういった。
「あぁ〜? 坂本、あんたもいつものようにタイムリーエラーすんじゃねぇぞ、分かったな!」
「何だと!」
「ん〜! 試合終わったらやるかオラァ!」
 そこに、サードの村田修一が割って入った。
「止すんだ二人とも! ただし、井本、あまり飛ばし過ぎんなよ?」
 しかし、井本はなめたような顔で言い放つ。
「村田、あいにく俺は機嫌がわるいんでねぇ〜。この一年坊主のおかげでな!」
 横田を指さした.むっとする横田。川口はすかさず言葉を差す。
「こらっ! 今は喧嘩してる場合じゃない! さぁ、しまっていくぞ!」
 内野陣は持ち場に戻っていった。最後に阿部慎之助が「力むなよ」と口添えをしたが、井本の機嫌は直っていない。横田は、そんな彼に少々呆れていた。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2012/12/01 18:40 修正3回 No. 143    
       
試合が再開された。打者は小谷野栄一。阿部のサインはトルネード・キャノン。内角低めに構える。井本はにやりとして、第一球を投げた。その瞬間、阿部は驚いた。なんと、内角高めギリギリにボールが来たではないか。一歩間違えればビーンボールになりかねない。過去に一度だけ、井本はそれで危険球退場になったことがある。阿部は肝を冷やした。だが、意外な展開を見せた。小谷野はびっくりしてのけぞると、グリップにボールが当たったではないか! そして、その打球は阿部の足元に転がり、阿部は難なく捕球して横田に送球。キャッチャーゴロになった。観衆はどよめいた。まるで、「大リーグボール」のような離れ業によって。その後、鵜久森に対しては、全球トルネード・キャノンを繰り出した。来るとわかっていても打てないのが彼の直球である。鵜久森は空振り三振。次の打者、大野は打てない捕手なので、あえなく一球で仕留められた。切れ味抜群のスライダーを引っかけてショートゴロ。あえなくこの回の攻撃はゼロで終わった。井本は意気揚々とベンチに戻っていく。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2012/12/01 18:42 修正4回 No. 144    
       
七回の表、バッターは長野久義。日ハムの投手は吉川が続投。横田は、ただ祈るように手を組みながらベンチに座っていた。しかし、巨人ベンチは沈滞ムード。打てる気がしない様子だ。思いもしない展開など起こるはずがない。しかし!

 乾いた、痛快な音を響かせた打球はセンター前に落ちた。ヒットである。巨人ナインは一気に盛り上がった。そして、それを境に吉川の調子が崩れ始める。二番、俊足の松本哲也は四球で歩く。無死、ランナー一、二塁。バッターは、勝負強さが一級品の坂本勇人。吉川は動揺を隠せない。コントロールがさらに不安定に。スリーボールノーストライク。キャッチャー大野は、仕方なく真ん中に構えた。吉川は心が疲弊したような表情を浮かべながら投げた。ぼう球だっだ。坂本はシメた! と言わんばかりの顔を浮かべながらフルスイング。快音を響かせた打球は、左中間を深々と割っていく。レフトの中田が追いつき、二塁に返球したが、時すでに遅かった。二点二塁打。巨人先制。すぐさまセカンド伊東がマウンドに駆け付けて助言をしたが、効果は全くなし。吉川はさらに崩れていく。四番の阿部を歩かせ、村田は単打。高橋由伸は四球。小笠原も歩き、押し出し。4−0。なおも満塁である。そして、横田の名前がコールされた。
 横田は気合を入れた。
「よし!」
 原監督は、「思いっきり振ってこい!」と鼓舞。
「任せてください!」
 横田の声は力強かった。さぁ、プロ初めてのチャンスでの場面。汚名を返上することができるか!? 
 
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2012/12/01 18:44  No. 145    
       
 お読みいただき、ありがとうございました。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2013/01/02 23:42 修正1回 No. 146    
       
 第十九章 前篇

 横田はじっと見ている。投手吉川の周りには、内野手たちが集まり、捕手の大野も駆け付け、栗山監督も吉川の激励のために駆け足でマウンドに向かった。切羽詰まっている様子を横田は感じている。吉川はかなり動揺しているようで、栗山は彼の両肩を両手でポンポン叩きながら、必死の思いで諭しているようだ。セカンドの伊東の様子は見えないが、おそらく静かに吉川を見守っているのだろう、と横田は思った。横田はその様子をただただ、括目。バットを下ろして。自分でも、肩が硬直しそうな気分であるのは理解していた。しかし、ここはクールにならなければならない。そう、横田は思っていた。

 そうこうしているうちに、日ハム内野陣、捕手、栗山はマウンドから離れ、試合が再開。横田はギュッとバットを握りしめ、投手吉川をギッと睨みつける。見てみると、吉川が気持ちを整えたようであるのがうかがえた。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2013/01/02 23:44  No. 147    
       
プレイボール!

 球審の甲高いコールがされた直後、吉川はセット・ポジションから、第一球。左腕をめいっぱい振り下ろした。内角高めの直球だ。肩の近くでピュッと伸びあがってくる。しかし、横田も負けずに懸命に腕をたたんでフルスイング。引っ張った。バットの真っ芯に当たった。横田はすぐさま打球を確認。目で追った。白球は大きく大きく伸びていき、レフト・ポールをそれるか巻くかのきわどいものだ。横田はたたずみ、祈るようにただ打球を凝視している。スタンドが沸いた。しかし、三塁塁審は、腕をぐるぐる回さなかった。

 ファール!

 スタンドの観衆はさらにどよめく。横田は思わず、「あぁー!」と叫んでしまった。バットを振り下ろしたくなった。しかし、それはやめておく。悔やんでしまったが、アウトになった後に本当に悔やんだ方がいい。そして、マウンドの吉川を見る。吉川は冷静さを失ってはいないようだ。さっきとは違う。
 第二球、外角低めのスライダー。ボールゾーンからギリギリストライクゾーンに入ってきそうだ。だが、横田は見送った。球審は一瞬逡巡したが、一拍ためてからコール。

 ストライク!

 ノーボール・ツーストライク。早くも追い込まれた。横田はとっさに叫んだ。
「タイム!」
 横田はつぶやいた。何度も。.

 負けちゃだめだ、負けちゃだめだ、負けちゃだめだ……。

 さらにつぶやく。

 僕はビッグになるんだ。巨人を背負って担ぐ、球界の大打者になるべく、真上君からホームランを打つべく、今までやってきたんだ。こんなところで転んでいたら真上君に一生対抗できないんだ……。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2013/01/02 23:46  No. 148    
       
しばらくしてから、横田は気持ちを整え、バッターボックスに戻った。そして、吉川を見やる。横田の目から見ても明らかに冷静になっているように感じられると共に、闘志に溢れている様にも見てとれた。その時、横田の体には緊張とは全く意味の違う力が、体を支配した。そして、三球目、カーブだ。これも外角低め。直球、スライダー、カーブとだんだん球速は遅くなる。緩急をつけているとはとても思えなかった。横田は一瞬ニヤリ。思い切り、振り切った。
 その打球音は、「乾いた」というよりも、「轟く豪音」と言っほうがふさわしい。その打球は、滞空時間は長いが、みるみるうちにセンターフェンス直撃せんがごとく伸びていく。横田は長打を確信して、懸命に走った。もう打った球の勢いなど確認しなくてもいい。気づいたら、すでに三塁に到達。それと同時にセンターの糸井からセカンドの伊東へ中継が帰ってきた。一塁ランナーの小笠原もとっくのとうに、本塁を踏んでいた。巨人7−0日本ハム。横田は思わず叫び、拳をドームの天井へ突き上げた。場内の巨人ファンは一気に沸いた。その喜びは横田の体中を包み、さらに彼を高揚させ、自信を与えていった。

 七回の裏の時点で、巨人が七点リード。そこで、原監督は動いた。そして、ウグイス嬢のコールが響いた。
 
 読売巨人軍、守備の交代をお知らせいたします。ファースト、横田に替りまして、ボウカ―。八番、ファースト、ボウカー。背番号42。

 その瞬間、札幌ドームの巨人ファンから、熱烈な声援が。横田は自ら進んでベンチから出ると、帽子をとって声援に応えのだった……。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2013/01/02 23:49  No. 149    
       
 明けまして、おめでとうございます。そして、お読みいただきありがとうございました。今年も「イーグルスの星」を宜しくお願いいたします。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2013/02/01 21:30  No. 150    
       
第十九章 中編

攻守交代のさなか、井本は機嫌が悪かった。
「クソッ、せっかくの俺の快投が……!」
 ぶつぶつ文句を言ってマウンドに向かおうとしたらベンチに戻ってくる横田と目が。井本の目には、横田は生意気にもしれっとしているように見えた。井本はニヤニヤしながら思わず皮肉をいう。

へっ、結局ホームランを打てなかったじゃねぇか……。

すると、横田は聞こえていたのか、「それが何か?」と返してきたではないか。それが井本の癪にさわった。
「あぁ!?」
「まぁ、打つことに越したことはありませんが」
「てめぇ……!」
 怒った井本は横田の胸倉を掴み、一触即発に。巨人の選手たちは冷や汗を流しながら緊張に包まれる。殺伐とした空気がおおう。原監督は、事態を重く見た。駆け足で近づく。
「こら、何やってる、やめるんだ!」
 原は両者に割って入った。井本はバツが悪そうな顔をする。
「原さん……」
 横田も同じだ。
「監督……」
 原は神妙は顔をして続ける。
「喧嘩は試合が終わってからよそでしろ。だが、口げんか程度にしろよ? けがをされたらかなわん。そして、チームの輪が崩れたら元も子もないからな。巨人軍の選手として自覚した行動をとってくれ。分かったな? それでは井本、しまっていこう!」
「……、分かった、原さんよ……」
 さすがの井本も原の言葉にはかなわないのである。しかし、これで腹の虫が収まったわけではない。彼はイライラズカズカとマウンドに登って行った。内野陣と捕手阿部は冷や冷やと額から汗を流しながら、緊張するばかりである。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2013/02/01 21:32  No. 151    
       
投球練習に差し掛かろうとした時、阿部慎之介は、「トルネード・キャノン一本でいくか?」と訊いてきた。しかし、井本はつりあがった目つきでこう。
「あぁ!? 俺に配慮してんのか?」
「そうだが……」
 すると井本は同じような調子で続けた。
「阿部よ……、あいにくと今の俺の精神状態では直球でもコントロールはおぼつかないぜ〜。杉内じゃあねぇんだからよ!」
「……、しまっていこう……」
 阿部自身はどう言ったらいいか分からないような困惑した表情で、持ち場に着いた。
 そして始まった投球練習では、井本は暴投すれすれの球を連投してしまった。小声で「クソッ!」と何回も言いながら。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2013/02/01 21:34  No. 152    
       
七回裏、一番の伊東健に回っていた。井本はマウンドから彼の顔を見やる。右バッターボックス上で構えている伊東は、嫌らしいくらいにクールに見えた。そんな彼を見ると、かなり気に障る。

 畜生……、ボロ負けしてんだから少しは気落ちしろってんだ……!!

 井本は腹を立てながら、阿部のミットを見やる。外角低めギリギリだ。
「くそっ、これでも食らえ!」
 最大力でボールに指を押し込み、全力投球。球威は抜群だ。しかし……、大きく高めに外れた。
伊東は一向に表情を変えることなく、淡々と打席で構えている。そんな彼に井本はさらに苛立つ。
「……、涼しい顔しやがって……!」
 そこへ、大累が心配そうな顔を浮かべながらマウンドにやってきた。
「井本さん、大丈夫ですか……?」
「あぁ!?」
「落ち着いていきましょうよ……。井本さんはウチのエースなんだし……」
「それで済むなら苦労はねぇ、空気読め!」
「……、すみません」
 大累は気を落としながら守備位置に戻っていき、さらにフィールド内はピリピリしだした。井本は再び伊東に相対する。この空気を楽しんでいるように見えて仕方がない。余裕の笑みさえ伊東は浮かべていた。
そして、第二球目。キャッチャーミットは真ん中低めに構えられてある。
「食らえ!」
 さらにボールは渦を巻いていた。しかし、中途半端に高めに。伊東はバットをしならせて引っ張った。
 小気味い音を放った打球は三遊間へ。やべえ、抜けるじゃねぇか! 井本は瞬時にそう思った。しかし、ショートの坂本は懸命に横っ飛びを敢行。打球に追いついた……が、弾いてしまった。レフト前ヒット。
「畜生、坂本!」
 思わず大声を出してしまった。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2013/02/01 21:36  No. 153    
       
 坂本はバツが悪そうな顔をして詫びたが、井本の怒りは頂点である。捕手と内野陣が再び集まった。
 ボウカ―は井本を宥めるように肩をたたく。村田はただひたすらに「落ち着け、まだ七点差もあるんだ!」と、説きふそうと必死だ。打球をはじいた坂本は「すまない……」と詫びるのみ。だが、それで済むのであれば、井本はその程度はできている人間だということだ。
 井本は片手で坂本の胸倉を掴んだ。
「おい、エラー男の坂本君、お前は一体どんぐらいピッチャーの足を引っ張ったら気ぃ済むんだ?」
 巨人の選手達は緊張に包まれ、球場もどよめく。そこへ、原監督が駆け足でやってきた。
「こら、いい加減にするんだ!」
 井本はそんな彼を見た途端、仕方なさそうな表情を浮かべ、舌を鳴らしながら、ゆっくりとゆっくりと手をおろした。その場がどうにか落ち着きを取り戻す。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2013/02/01 21:38 修正1回 No. 154    
       
ノーアウト一塁の場面で二番の金子に相対する。うまくいけばゲッツーを獲れる状況だ。阿部はツーシームを要求した。バットの芯を外すためである。しかし、井本は首を横に振った。あくまでトルネード・キャノン一本でいくつもりなのだ。そして、彼はニヤリと笑みを浮かべたあと、とんでもないことをしてのける。
「そろそろ行こうか……、へへ!」
 ストレートの握りで、ボールを金子に向けて突き出した。そう、直球宣言である。それを観た観衆は大きくエキサイト。巨人ファンは狂喜乱舞し、日本ハムファンは一斉にブーイング。そして、「北の国から」のイメージ曲をトランペットが一斉に放つ。日ハム応援団は大声で歌い上げる。ドーム全体が大きく盛り上がった。まるで祭りだ。
 阿部はしぶしぶ井本の気持ちを受け止め、ミットを叩いた。そして、井本の全力ピッチ。大きく足を上げ、腕を力いっぱい振り下ろした。この試合一番のうなりをあげた竜巻球。金子は必死に上から叩いた。結果は……。

 四、六、三、ダブルプレー! 日ハムナインは悔しがり、巨人ナインは喜び、場内の観客は歓喜と悲鳴に二分された。

この瞬間、井本は吠えた。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2013/02/01 21:41  No. 155    
       
 お読みいただき、ありがとうございました。
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返信記事数が276件。300件を超えると書き込みができなくなります   Re: ファイターの小説  名前:ファイター・ドクトリン  日時: 2013/02/12 23:53  No. 156    
       
第十九章後編

井本は三番の糸井を難なく三振に仕留めると、試合はそのまま両軍とも無得点が続き、ゲームはついに九回の裏に進んだ。
井本は冷静さを取り戻していた。本来の針の穴を通す制球力が、スライダーと直球のコンビネーションを支えている。女房役の阿部も安心した表情を浮かべて球を受け、難なくリードする。これがエースというものだ。
さて、井本は七番の小谷野と相対する。井本はもう自信満々に不敵の笑みを浮かべていたが、一方の小谷野はまだあきらめていないようで、引き締まった表情からよほどの闘志が伝わってくるのだ。そんな彼が井本にとっては面白いのである。
「へへっ、やんのかコラァ……!」
 阿部もサインは直球。外角低めに構えてある。井本は確認すると、大きく振りかぶり、大きく足をあげ、強烈に腕を振って投げつけた。その球は、珍しく、強烈にスピンが効いているよりも、回転が少なく重い球質である。小谷野は必死に食らいついた。
 井本は打球の行方を確認。球はライト線に流され、フラフラとして勢いがなかった。ファールになるか、フェアか。いや、フェアになる打球だ。ライトの長野は必ず打球に追いつかんとして必死に走っている。
「とってくれ、長野!」
 思わず井本は言葉を発した。取れるか取れないかギリギリのタイミングだ。ともすればポテンと落ちるかもしれない。長野は決死に思いでスライディング。これが球際である。場内は息を飲んだ。果たして……。
「クソ、長野何やってんだ!」
 井本は怒り心頭に発してしまった。長野は後逸してしまったのである。打球は転々とファールゾーンに転がっていく。小谷野はしめたといわんばかりにもうダッシュ。中継にボールが帰ってきたときにはすでに二塁ベースを踏んでいた。井本は怒りに身を任せてグラブを地面に叩きつけた。長野はバツが悪そうに詫びたが、それで彼の怒りが収まったら何とやらである。
井本はムシャクシャしながら阿部の方に目をやると、マウンドから見も十分に阿部はただ苦笑いしているように感じとれた。次の打者は鵜久森である。
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