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ロックされています  野生児  名前: トッキー  日時: 2013/08/12 10:01 修正13回   
      
三作目。

不定期更新。



【プロローグ】
悲鳴 >>1-2


【第1章 中学3年】
10月1週 死んだ野生児 >>3-4
10月2週 歩み >>5
10月3週 助っ人と女性キャッチャー >>6-8



【第2章 高校1年】
4月1週 ヤクザの高校>>9-10
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ロックされています   プロローグ@  名前:トッキー  日時: 2013/08/12 10:47 修正2回 No. 1    
       
うるせぇ、ちょっとは静かにしてろーー





保志陽翔(ほしはると)は願う、心の中で。

全国中学校軟式野球の決勝というだけあって、客の入りが多いのは陽翔にも容易に想像できた。

だが……

ここまで客が多いとは思わなかった。
陽翔にとっては予想外の出来事だった。
座席はすべて埋まっているのはもちろん、立ち見客も多い。

陽翔は、ギャラリー全般を毛嫌いしているのだ。



「ちょっとは落ちつけよ……」

捕手の小田切巧(おだぎりたくみ)が審判にタイムをかけ、こちらに歩み寄ってくる。
陽翔はようやく我に帰ることができた。

「そんなに俺、機嫌悪そうにしてたか?」

「おう、般若みたいになってたぞ。」巧はにやにやしている。

「プッ……」陽翔もそれを聞いて、吹き出さずにはいられなかった。

「般若ってあれか、あの、泣く子はいねぇーがーってやつか?」

「それはなまはげだよ、バーカ」

「はいはい、そうですかー」巧に学問では敵わない。適当にあしらっておくことにした。

「左腕の調子は?」巧は真顔に戻る。

「問題ないぜ。」

そう言いながらも、陽翔は今この瞬間まで、自分の利き腕が悲鳴を上げていることに気づかなかった。

だが……
陽翔はこう思っていた。



ーー自分のチームのキャッチャーにマウンド引きずり降ろされてたまるかよ……



事実、痛みも、違和感もなかったが、そんな事はどうでもよかった。

「あと三人、抑えようぜ。」巧はそう言って、キャッチャー・ボックスに戻って行った。

スコアは3-1、相手のパワフル中学校を一点リードしていて、この九回裏が終われば、陽翔達が所属する長曽根(ながそね)中学校の優勝が決まる。

だが、陽翔はその九回裏、相手の先頭打者にデッドボールをぶつけてしまった。
それで、小田切が歩み寄って来た訳だが、小田切が戻って行った後も、状況は好転しなかった。



その次の打者を歩かせてしまったのだ。
ストライクを一つも決めることができずに。



陽翔は間違いなく、不機嫌だった。
それこそ、顔が般若のようになっていたのかもしれない……
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ロックされています   プロローグA  名前:トッキー  日時: 2013/08/12 11:31 修正2回 No. 2    
       
陽翔の制球力は良い方ではない。
所謂、「ノーコン」といったところである。

だが、それを補う能力が、彼にはあった。
それは球速。
彼は全中の舞台となる、神奈川に入ってから、130キロ台を4回も計測している。
しかも、彼はまだ中学二年生である。

中三で140q/hも夢ではないというのが周囲の見解であった。

そして、落差のあるフォークボール。
だが、このフォークボールが、彼の左ひじを蝕んでいた。











「そいつは、諸刃の剣ってやつだ、気をつけろ。」

「何?モルツの次?
モルツってあれか、サン○リーの作っているルービーの種類か。」

「何を言っているんだ、いいか、諸刃の剣(もろはのつるぎ)、一方では非常に役に立つが、他方では大きな害を与える危険もあるものの例えのことだ、要するに、リスクがあるんだよ。」

「ディスク?あぁ、それならこの前辞書で引いたぜ。
円盤状の記録媒体の事だろ?」

「はぁ……とにかく、フォークの投げすぎには気をつけろよ?」

「大丈夫、食器を投げるほど俺は鬼じゃねぇよ。」

「なんか、ごめん……」





ーーそういやぁ、そんなやり取りもあったな。
まったく、俺は野球しか能がないみたいだな。

さぁて、さっさと終わらせようぜ、パワフル中学校さんよ。
東條小次郎…(とうじょうこじろう)だったかな、さっきの借り、ここで返してやるよ。
さっきのホームラン、あれは失投だからな。
あんなので気を良くしたら、大間違いだぜ?



「プレイ!」

審判の声が響く。
うるせぇな、オッサン。
さっさと締めてやるから、もう少し仕事してくれ。


サインが来る。フォークボール、低め……
出し惜しみするなってことだな、分かったよ。

東條がこちらに向かって睨みつけてくる。

分かったよ、投げるから。
ちったぁ大人しくしてろ……









ーーそして、俺は左腕を振……










「「おい、陽翔、しっかりしろ!!」」



「「担架だ、担架!!」」
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ロックされています   中学3年 10月1週@  名前:トッキー  日時: 2013/08/18 11:45 修正6回 No. 3    
       
あいつ、本当に日本の「野生児」なのか?ーー



約20m離れた彼の不気味なほど涼しげな顔を見ると、そう思わずにはいられない。
こいつ、本当に日本では「野生児」と呼ばれていたのか?





ある日、ジュニア・ハイスクールの担任が陽気な声で、「新しいクラスメートを紹介するそいつは
日本人で日本では「野生児」と呼ばれてたそうだ」と切り出してきた。

担任がオーバーな表現を使うのはいつものことだったのが、純粋に興味が湧いた。

だが、そいつが教室に入ってきた瞬間、俺は目を疑った。

彼の眼には「色」がなかった。
白と黒いう名の無色。
そして、それは今も変わらない。

「なんでそんな死んだような眼をしていたんだ?」

興味本位で聞いてみたら、彼はこう言ったのだ。

「生きがいを失った。」

言った、というよりは、吐き捨てた、という表現のほうが正しいかもしれない。
変な奴だ、と思ったが、ふぅん、とだけ言ってその場を離れた。

とにかく、あと一年と少しの時間が経てば、シアトルから抜け出せるのだから、こいつみたいな変人や、外国人とも関らなくてもすむだろう、と思っていた。
俺は親の仕事の都合で5年前からアメリカに来ていた。
親の仕事の都合とはいえ、嫌いな異国人との生活はもうこりごりだった。





だが、ある時そいつが壁に向かって何かをを投げているのを見て、声をかけずにはいられなかった。
よく見ると、それは軟式野球ボールだった。

俺自身、ベース・ボールは好きだった。
シアトル州の優秀選手にだって選ばれたことがあるし、上手い、という自負はそれなりにはある。

声をかけ、ごく自然に、話し、友人になり、親友になった。
そして、彼が失った生きがい、というものが野球だったことも、打ち明けられた。

「左の肘が壊れたんだ、日本では治らないから渡米を勧められたけど、シアトルのでっかい病院でも、治るのに一年はかかるって。笑っちゃうよな。」

相変わらず吐き捨てるような口調だったうえに、顔が少しも笑ってなかったから、こっちが笑いそうになったが。



紆余曲折あって今に至るが、やはり、今でも彼の眼には「色」がない。
彼の眼は死んでいる。

右投げに矯正して、そこらへんの奴とも引けを取っていないほど成長しているのに……



なんでだろう、と思う。
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ロックされています   中学3年 10月1週A  名前:トッキー  日時: 2013/08/18 12:35 修正3回 No. 4    
       
「ラスト一球だ!!」

俺は、回想から我に返り、約20m先の保志陽翔に向かって叫ぶ。
あまり彼の腕を虐めるのは論理的じゃないので、最初から今日は20球しか全力で投げない、と頭で決めている。

「彼」はコクリ、と頷くだけだった。



彼はワインドアップモーションでスムーズな流れで投球動作に移る。
鋭い右腕の振りから、火の玉のような球が来る。
相変わらず、キャッチャー・ミットを構えた所には違うところにボールが来るが、そんなのは関係ない。
スパァン!と心地いい音が響く。

ストレートの速度、球筋から、打者の手元で利き手とは逆方向に急激に鋭く曲がる、いやーー折れると言った方が正しいか。
しかも、今のボールはこの20球の中で、最高のボールだった。
やっぱり、こいつは尻上がりに調子を上げてくる。

「どうだった?」

彼がこちらに歩み寄ってくる。
相変わらず、表情を読み取りにくい面だなーー

「カットボールのキレ、良くなっていたじゃないか。」

「まあな。」

今でも、こいつの吐き捨てるような口調は治っていない。
常時不機嫌というわけではないだけに、さっさと直してほしいと思う。
まぁ、いいボールが来て、気分が悪いわけはない。
少し聞きたいことがあったので、聞いてみるか。


「なぁ、日本に帰るんだろ?」

「まぁな。シアトルは住みやすかったけど。」

「ベースボールは?続けるんだろ?」

すると、これまで無表情だった彼が、ニヤリと笑った。不気味だと思ったが、声には出さない。
キレるかもしれないし…



「吉本。」

「何だ?」

「俺はなぁ、日本の高校野球界に革命を起こそうと思っているんだよ。」

「はぁ?」

「それでな、2なんか使えないようにしてやるよ、これからはな、3の時代だ。」

あ、と思った。
彼の眼に色が戻っていた。
生き返ったーー



「革命をおこす。弱小の高校でな、エリートを倒してやるよ、そしてーー大富豪になってやる。」


じゃあな、と言って彼はその場を立ち去った。



ーー大富豪で例えるのかよ。
俺はお前みたいにカード(勇気)がないから、中堅の高校にしておくぜ?

吉本、と呼ばれた男もまた、その場を立ち去った。
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ロックされています   中学3年 10月2週  名前:トッキー  日時: 2013/08/26 10:58 修正6回 No. 5    
       
親父の話によると、学校の編入は済んであるらしい。

長曽根高校…栃木県の田舎にある学校に通うことになるそうだ。
まぁ、条件指定したのはこっち側なのだが。
とはいっても、最近まで通っていた長曽根中学校のすぐ近くにある。

前住んでいた家は売ってしまっていたが、新しく住むアパートが高校と目と鼻の先、という話は聞いていた。



「じゃあな。」

だれに聞こえるわけでもなく、保志陽翔は呟いた。

未練がないわけではない。

ただこのアメリカの学生寮にも思い出、というものがある。

俺が怪我をして、日本では治らないと言われ、アメリカでも治らないと言われ……
それで、家族が滞在しているアメリカにそのまま住みついた…

新しく住む部屋がどんなところかは分からないが、おそらく此処の居心地の良さには敵わないだろう、と思う。

このままずっとここに残りたいとも思った。
だが、彼にはこの学生寮から立ち去らなければいけないという「現実」がある。

陽翔はそっと、学生寮に背を向けた。



……それは同時に、アメリカとの別れ、旧友との別れも意味していた。

未練はある。
だが、彼は歩みを止めてはならない。
彼は、前に進まないといけないのだ。



「待ってろよ…長曽根高校。」

そう呟いて、彼は空港への歩みを始めた。










「……あ、スーツケース忘れた。」

…そして再び学生寮に戻るのであった。
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ロックされています   中学3年 10月3週@  名前:トッキー  日時: 2013/08/26 11:26 修正8回 No. 6    
       
シアトルから成田までは9時間かかった。
まだ今夜泊まることになっているホテルの夕食まで時間があるので、陽翔は東京のとある川沿いに寄っていた。



「河川敷ねぇ……」

彼には日本のすべての景色が真新しく見えた。
野球をやっている少年も…



「大輔!大丈夫か!?」



おや、悲鳴が聞こえる。
まぁ、日本もしばらく来ていなかったから、河川敷ですら悲鳴が聞こえる嫌な時代になったのかもしれーー

って違ぇよ!



ダッシュで悲鳴のほうに向かう。
だが…



「いや、大丈夫だよ」



俺の出る幕ねぇじゃん!
もうホテルに戻ろうと思ったそのときだった。

「しかし、今日はもう投げない方がいいんじゃねぇのか?大輔。」

「まぁね、そうさせてもらうよ。」

「でも、大輔が下がったら、ピッチャーがいないよな、どうするよ?」



ちらり、と皆がこちらを見る。


……え、俺?



「まぁ、大輔のチーム、ボロ勝ちしているんだから助っ人に投げてもらおうぜ?差を縮められるかもだし。」

「そうだな、それでいいよな?」

最後に言った言葉は自分に向けられたものだった。



「オフコース。」



陽翔は快諾した。
野球選手魂に火がついた。

差を縮められる?
冗談じゃねぇ、このまま逃げ切ってやるよーー
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ロックされています   中学3年 10月3週A  名前:トッキー  日時: 2013/08/26 12:28 修正7回 No. 7    
       
現在の状況は6回裏でこちらの守り、ノーアウトランナーなしから鈴本大輔(すずもとだいすけ)という少年のボークで1番打者が出塁。

中学軟式野球なので、試合は七回まで、つまり俺はあと6個のアウトを取ればいい、楽勝な仕事だ。


「球種は?というよりお前、経験者なのか?」

キャッチャーが何か聞きに来た。
ってか、こいつ女じゃん。大丈夫かよ…

「経験者だよ。球種はカットボールとカーブとチェンジアップとムービングファスト。ってかお前、本当にキャッチャーできるのかよ?」

「心外だな。」

そう言って彼女はキャッチャーボックスに戻って行った。

ロジンバックを手に取り、右打席に入った相手打者を見る。
2番打者だからなのか?小柄じゃん。チビじゃん。

…サインはチェンジアップを低めのストライクゾーンに……
ってか俺、ノーコンなんだけど。
まぁ、甘くなってもいいや。

ワインドアップモーションから、顔付近まで足を上げる。
100%の力で腕を振るい、一塁側に右足を倒すーー

ワイルドなフォームとは裏腹に、来るのは緩いボール。しかも腕の振りはストレートと同じ。

ーーこれに打者が戸惑わない訳がない。

ボールの判定にはなったが、相手は内心ビビっているはずだ。

サインが来る、ムービングファストをストライクゾーンに。コースの指示は来なかったが、こちらとしては好都合だ。

腕をふるう。

ドバァン!!という、快音というよりは破裂音が河川敷に木霊する。

女のキャッチャーが顔をしかめている。
それはそうだ。この外国人みたいな投球フォームは、恵まれた身長と上半身をフルに使い代わりに下半身をあまり使わない。
その代償としてまったくキレずに、まったくノビのないボールが来る。



ーーだがそれが、鉛のように重いクセ球を生み出す。



殆どの日本人投手は下半身をフルに使い腕を弓のようにしならせて、キレとノビのあるボールを繰り出す。
だが、キレのあるボールは反発力が大きいため、打者にとっては軽く感じるのだ。
重い球はその真逆である。

そして重い球のメカリズムをフル活用したのが陽翔のボールなのだ。

そして、このフォームに変更することを提案してきたのが、旧友である「吉本」という男だった。
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ロックされています   中学3年 10月3週B  名前:トッキー  日時: 2013/08/27 11:41 修正4回 No. 8    
       
そしてストレートのキレがない…
陽翔の場合、それが絶妙にマッチして重いストレートに、不規則変化がかかっている。
所謂ムービングファストボール。
途中までストレートの速さで来るものの、手元で不規則変化するーー
これは、バッターのみならず、キャッチャーにとっても厄介だろう。
初見では打てないし、取れないというのが陽翔の見解だった。





ーーしっかし、あの女、よくムービングファストなんて取れたな…

おっと、サインが来た。
カットボールを外角、ストライクゾーンへーー
りょーかい。

一連の動作で腕を振る。

ストレート系のボールが来て占めた、とでも思ったのか、2番打者はバットを振って迎え撃つ。
だが、当たらない。

当たりめーだ。
このカットボールも、途中まではまったくキレない棒球だが、手元で急に「折れる球」だぜ?
アメリカ産を舐めてもらっちゃ困るんだよ。



カーブ、チェンジアップのサインが来たが、これには首を横に振る。
渋々といった感じでムービングファストを要求してきた。
緩急をつけたかったんだろうな。
まぁ、そんな小細工俺には必要ない。
俺はーー力でねじ伏せる。



2番打者はかろうじてダウンスイングでバットに当ててきた。
だが、当てただけだ。

不規則変化で芯を外し、鉛球で詰まらせる。
こうして出来たどん詰まりのピッチャーゴロを俺は一塁に送球する。

審判のアウトのコールの後、周りがどよめく。

本当に野郎共は五月蠅い。
もう少し静かに野球を見ることができないのだろうか。

いや、今日くらいは許そう。


ーーなんたって黄金の国ジパングで最高のスタートを切れたんだからな。

そんなことを思いながらボール回しをしている内野手を見る。

そんな彼らの清々しい笑顔を見た彼の横顔もまた、清々しかった。



第1章・完
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ロックされています   高校1年 4月1週@  名前:トッキー  日時: 2014/01/06 13:30 修正1回 No. 9    
       
……とにかく長い校長の話、綺麗事しか並ばない新入生代表の言葉。
とにかく話を聞くだけの退屈な1時間はもうすぐ終わる。
この入学式に参加した新入生、保志陽翔は不意に思う。

入学式がつまらないっていうのはどこも同じなのかな、と。



陽翔が寝入ろうとしたその時、知らない教師が何やら大声を張り上げたものだから、陽翔は驚いた。
何事かと周りを見たら生徒、職員が一斉に椅子から立ち上がっているではないか。慌てて彼も椅子から立ち上がった。

「礼っ」

職員の号令に従い、陽翔は頭を下げた。





体育館から教室へ移動し、皆が自分の席に着いた。
担任の尾藤(びとう)という若い女教師がこのあとの予定を手短に話した。休み時間を挟み、教室で2時間のHRのあとに昼食となり、そのあと下校らしい。
そして、尾藤はなぜか慌ただしく教室を発った。
おそらく会議でもあるのだろう。



休み時間といっても、何をするわけでもない。
この長曽根高校に入学してきた唯一の知り合いである小田切巧は隣のクラスだ。わざわざ隣のクラスに行ってまで友人と話すのも面倒だが、暇なので話に行くことにした。
陽翔が席を立とうとしたそのときだった。

「おまえ、入学式の時寝てただろ〜」

人懐っこい笑顔を浮かべた男が暢気(のんき)な口調で話しかけてきた。


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ロックされています   高校1年 4月1週A   名前:トッキー  日時: 2014/01/06 13:54 修正2回 No. 10    
       
知らない男だ。
だが、スルーするわけにもいかない。「まぁな」と陽翔は答えた。

「やっぱりな〜俺は奥居和雄(おくいかずお)って言うんだ、よろしくな。」そう言って奥居は手を差し出してきた。

「おう、よろしく。」陽翔も手を握り返した。

「いやーおいら、岐阜から引っ越してきたものだからさ〜知り合いがいないんだよ。だから、顔知っている人に徹底的に話しかけようと思ってさ〜」

「ん?お前は俺を知っているのか?」

「ああ、中学二年の時に全中で見たんだ〜保志陽翔、別名野生児、有名だぜ?」

「ってことは、お前も野球やってたのか?」

「まぁな〜受験シーズンまっ最中に親父が転勤だっていうもんだから、あまり高校選べなかったんだ〜」

そうだったのか、と陽翔は呟いた。その声には驚きが入り混じっていた。

こいつを野球部に誘おう、と陽翔は思った。
全中で見た、というのならおそらくこいつは全中でプレーしていただろう。
ベンチ外だとしても、全中に出るような中学で練習していたのだとしたら、おそらく基礎はできている。
どうやって勧誘しよう?と思っていたその時だった。

「あっそうだ、お前きをつけろよ。」何か思い出したと言わんばかりに奥居が話しかけてきた。さっきまで浮かべていた人懐っこい笑顔は消え、奥居の目は真剣だった。

どうした?と陽翔は返した。物思いに深けている間に奥居の顔が人懐っこい笑顔から真面目な顔に早変わりしている(ように見えた)ものだから、陽翔は噴き出しそうになった。

「さっきの入学式の時にお前、寝てただろ?あれでいきなり生徒会長に目つけられたら大変だぜ?」

生徒会長に目をつけられたら何かあるのだろうか?
陽翔にはいまいち話の重大さが解らなかった。
だが次の瞬間、奥居和雄はとんでもないことを口にした。










ーーここだけの話、ここの生徒会長、ここら辺を牛耳るヤクザの娘なんだぜ。だから生徒会長に目付けられないようにしろって話。目付けられたら最悪、この学校からつまみ出されるぜ……



話の後半は、陽翔の耳にも入ってこなかった。


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