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ロックされています  星への架け橋  名前: 稲本圭  日時: 2012/10/14 13:18 修正3回   
      
「3年だけ待ってもらえますか……? 絶対、届けに来ますんで――」
(プロローグより)


―――――

どうも、お初にお目にかかります、稲本圭です。
パワプロをモチーフとした、小説を書かせていただきます。
宜しくお願いいたします。


※注意点
・この話はフィクションです。実際の団体、個人とは一切関係がありません。
・正史からは、大きくかけ離れています。
 会うはずのない人物が会ったり、歳が大きく変更されていますが、ご了承下さい。
・作者の猪狩愛が大きすぎるかもしれませんが、ご了承下さい(笑



――あらすじ
甲子園にいって、プロにいく。
そう心に決めた”小波勇気”は、あかつき大附属に進むことを決意した。
たくさんの仲間とともに、時に笑い、時に泣く。
そして、夢の甲子園という星を目指す――。
パワプロ風王道高校野球小説。



――リンク集
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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/14 13:24  No. 1    
       
プロローグ

「何故……こんなことに……」
小さな白い部屋で、掠れた声が聞こえる。
微かに流れ込んでくる光は、それを照らしてはいなかった。

そこに、1人の青年が、近づく。
彼は、少し見つめた後、後ろを振り向く。


「3年だけ待ってもらえますか……? 絶対、届けに来ますんで――」
彼――小波勇気は、暗闇の中、確かな声で言った。
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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/14 13:31 修正2回 No. 2    
       
1


まだ少し冬の寒さが残っており、春の訪れとは、まだまだ言えそうにない時期だった。
小波は、入学式よりも1ヶ月早い今日、あかつき大附属高校の門をくぐりぬけた。
理由は単純明快、野球部の試験があるからだ。
この試験に受かり、受験で合格すれば、あかつき高校の野球部に、入ることが出来るのだ。

しかし、もし試験に落ちてしまうと、仮に受験で合格しても、野球部には入部することが出来ない。
それを避けるため、この試験は、受験の1ヶ月ほど前に、行われるのだ。

「うわっ、多いなぁ」
試験会場に着いた小波は、まずその言葉を発した。
確かに、試験会場には、軽く300人はいるだろうという人数が、押しかけていた。


あかつき大附属高校――甲子園出場春夏合わせて47回、優勝6回の名門校。
誰もがその強さに憧れ、あかつきで野球がしたい、そう思うようになる。

だが、あかつきで野球をする、というのは、誰にでも与えられた権利ではない。
この300人の中で、受かれるのは毎年大体30名近く、実に9/10の選手は、試験の段階で落とされてしまう。

小波も、そのことは知っていた。
しかし、それでもあかつきで野球がしたい、そう思う気持ちに、嘘はつけないのだ。

「君も入部希望者でやんすか?」
始まるのを待っていた頃、小波は後ろから不意に声をかけられた。
そこには、丸渕眼鏡をかけた、お世辞にもかっこいいとはいえない青年がいた。
「そうだよ、君もかい?」
小波は自然に、眼鏡の青年へと返した。
「そうでやんす。おいらは”矢部明雄”というでやんす」
「僕は、小波勇気だよ。よろしくね」
「よろしくでやんす」
がっちりと握手を交わす2人。
このとき、2人は何故か、以前からの親友であったかのような親しみを覚えていた。

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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/14 13:33  No. 3    
       
「さて、ではこれから、あかつき高校野球部入部のテストをする。
 それぞれ、まずは近くにあるゼッケンをつけろ」
それから30分ほどしたころ、スピーカーから、突如音が流れてきた。
小波と矢部は、それに従い、ゼッケンの方へと向かった。

「お、僕は77だ、やったね」
「おいらは42でやんす……。何で一緒にとりに言ったのに、こうもかわるでやんすか!」
少し熱くなっている矢部を小波が宥めつつ、スピーカーの音が聞こえるよう、場所を移動した。

「よし、じゃぁ、これからテストを始める。
 テストのやり方は簡単だ。投手希望者は、2年生の野手と一打席勝負をしてもらう。
 野手希望者は、2年生の投手と勝負だ。投手なら抑えれば、野手なら出塁すれば、合格だ。
 なお、受ける順番は、俺がくじをひき、当たったゼッケンの番号のやつが受けることになる。以上だ。
 ではまずは……」
スピーカーの男は、有無を言わさない、といった感じで、ひたすら喋っていく。
しかし、小波は軽い不安を覚えていた。一打席勝負で、俺に打てるのか――と。
だが、そのとき、ふと頭に映像が浮かんだ。その映像は、小波の心に、火をつけるものだった。
『そうだ、やらなきゃいけないんだ……絶対に!』
「いよいよ始まるね……、絶対やってやろう、矢部君!」
気合十分とばかりに、小波が矢部へ言った。
矢部は、少し反応がおくれながらも、「お、おうでやんす」と返す。


一世一代の大博打が、今始まろうとしていた。

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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/14 15:25 修正1回 No. 4    
       
2

「まず初めは……37番」
スピーカーから流れてくる音と共に、ゼッケン37の男が歩き出した。
彼は、茶髪で、俗に言うイケメンな顔立ちをしていた。

バットをケースから抜くと、その足でバッターボックスに入った。
「いよいよだね……」
「まずは、お手並み拝見でやんす」

彼は打席に入り、足場を作った。その後、バットを空高く上げ、投球を待つ。準備が出来たと分かると、2年生の投手は、ためらいなく、その腕から白球を繰り出した。
少しスリークォーターよりのフォームから投げられた球は、外角低目へと、綺麗に吸い込まれる。

「ストラィーク!」
審判の響きある声が、グランドに響いた。
ゆうに140kmは出ているであろう速球。
小波は、さすがだな、そう感心していた。
そして、打席に入ると、そのスピードも、もっと速く感じるのであろう、そう考えていた。

しかし、打席の男は、何の恐怖も抱いていないかのように笑みを浮かべ、またフォームを整えた。
「あいつ……笑ってやがる」
小波は、気がつくと声に出していた。
おそらく、このことは、誰もが思っていることであろう。

2年生投手は、ムッとした表情を浮かべながら、2球目を投げた。
なめるんじゃねぇ――そう言うかのような、内角高目への速球。
普通の選手なら、140km中盤の速球が来ただけでびびるところだが、彼は違った。

トップから最短距離でヘッドを走らせる。
腰の回転をぎりぎりまでこらえ、ミートポイントに引き込み、そのあとは、一気に腰を回転させ、手首を返す。
このことにより、もっとも根元に当たりやすい内角高めの球も、しっかりと芯に当てることができていた。

「何!」
2年生の投手は、困惑の表情を浮かべながら、打球を見る。
打球は、内野の頭をゆうに越え、外野の頭さえもぎりぎり越える当たりとなった。

「ツーベースヒット」
審判が、打球を見た後、大きな声で言った。
スピーカーの男は、それを聞いた後、満足気な声で、打者の男に言う。
「よし、合格だ。お前、名前は」

スピーカーの声を聞くと、男はバットをしまい、上を向いて答えた。
「梅田圭、外野手です」
その瞳は、もっとどこか遠いところを見つめている――梅田を見ながら、小波は感じていた。
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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/14 22:31  No. 5    
       
3


梅田は、試験が終わると、人ごみから離れたい、とばかりに外へ出ようとする。
その方角は、丁度小波たちがいるほうだった。
小波は、すかさず声をかける。
「ねぇ、あの……梅田君」
「ん、なんだい」
嫌そうな顔一つせず、梅田は声にこたえた。
「あの、その、さっきのことだけどさ……。すごいね」
小波の話に、梅田は一度俯き、空を見上げてから答える。
「あんなやつの球ぐらい、打てて当たり前さ。やつなんかと……比べものにならないんだから」
「えっ?」
小波は、梅田の言っていることが分からないように、首をかしげる。
しかし、梅田はこの話について長く話したくないのか、すかさず他の話へ持っていこうとした。

「それより、お前名前は?」
小波は不意をつかれ少し動揺しながら、また平静を取り戻し、答えた。
「小波勇気っていうんだ。受かったらここに来るつもり」
「おいらは矢部明雄でやんす。よろしくでやんす」
小波と矢部が、梅田と握手を交わした後、梅田は笑みを浮かべたあと、また外へ出ようと歩き出した。
しかし、その梅田の足が、途中で止まる。

「あれ、梅田君、どうしたの?」
小波がそう言ったが、その声は梅田には聞こえていないようだ。
梅田の瞳孔はカッと見開かれ、その先にあるただ一つの人物だけを映していた。

「猪狩……」
猪狩、と呼ばれた人物は、視線に気付くとニッコリと笑った。
「やぁ、久しぶりだね、梅田君」
「猪狩、キサマァ」
突如、梅田は目を鋭くし、猪狩を睨んだ。
小波は、後姿からでもその怒りが滲み出ているのを感じた。
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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/14 22:33  No. 6    
       
「いやー、何をしているのかと思えば、凡人たちの無駄な足掻きのための場か。
 まったく、ほんと意味がないことをしているんだね」
猪狩はなおも笑みを浮かべたまま、こちらの方へ歩いてくる。
「まぁ、凡人は凡人らしく、楽しく野球をやらないとね。ほら、梅田君も笑って」
猪狩は梅田に微笑みかけるが、梅田はただ猪狩を睨み続けている。
そうして猪狩の肩を梅田が掴みかけたとき、スピーカーを持つ男が、猪狩の名を呼んだ。
「ん、なんだ、猪狩じゃないか。どうしたんだ?」
猪狩はなんら表情を変えずに答える。
「いえ、なんとなく来ただけです」
猪狩はそう答えると、梅田の横を、何もないように通り過ぎていった。

小波の横を通ろうかとしたとき、猪狩は前を遮られた。
小波が、移動してきたのだ。
「ねぇ、猪狩、だっけ? さっきの、どういうことだい?」
「ん、さっきのって?」
小波は、猪狩の目をみて、真剣な眼差しで話す。
「凡人は楽しく野球していればいい、ってことさ。バカにしすぎじゃないか?」
小波がそういうも猪狩は何も反省をしていないように、答えた。
「ふん、そのままの意味さ。君たちみたいに、何も推薦も貰っていない人たちは楽しくしていれば良いじゃないか」
そこまで言った後、猪狩の目が、突如真剣なものになる。
「あかつきは、遊びでやってれるほど、甘くないんだよ」
猪狩の言葉に、小波が反論しようとしたとき、ゼッケン77が呼ばれた。
どうやら、小波の試験の番が来たようだ。

小波は、少しの間猪狩を睨み続け、「ちっ」と舌打ちをした後、試験の方へと急いだ。
バットを取り出し、ヘルメットを被り、打席に入ろうとしたとき、後方から声がするのが聞こえた。
嫌みったらしく、キザで、さっきまで聞いていた声――猪狩の声だ。
「監督、こいつの相手、僕がしてもいいですか? アップはすでに終わらせています」
猪狩がそういうと、スピーカーの男はすこし悩む素振りをみせ、隣の白髪の男と相談をし始めた。
その後、決断したように、スピーカーの男が答える。
「よし、面白い。やれ」
「ありがとうございます」
監督の回答に満足気な表情で、猪狩はマウンドへと向かった。
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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/14 23:29 修正1回 No. 7    
       
4


猪狩が投球練習をする。
小波は、それにあわせてタイミングを計り、横で素振りをしていた。
これならいける――小波は、少し安堵した表情で、右打席に立つ。

「さて準備は良いかな?」
「あぁ、いつでもこい」
強気な発言が猪狩にはおかしかったのか、口元に笑みを浮かべながら、猪狩は振りかぶった。
『あれ、さっきよりフォームがゆったり……』
胸の開きを抑え、ひざが割れるのもこらえる。
そうしてぎりぎりまでこらえた後、一気に全ての力を解放する。
腕は、しなやかな鞭のようにしなり、トップを少し過ぎた頃、指先から、白球が繰り出された。

乾いたミットの音が、グランドを支配した。
一瞬、辺りが静かになる。その後、思い出したかのように、審判がコールした。

「ス、ストライィーク!」
小波は、ただ呆然と、捕球されたミットを見つめていた。
投球練習とは、全然違うじゃないか――。
快速球、そんな言葉がよく似合う球だった。
しかし、猪狩はなんの驚きも見せず、ただ普通に、第2球を放った。

1球目と同じコースに、同じストレートが投げられる。
小波はそれにあわせ、バットを振り出すが、バットとボールの間には、大きな空間があった。

またしても、ボールはミットへ収まる。
ストライクツー、もう逃げ道はなかった。
おそらく140km中盤の、サウスポーから放たれる速球。
さらに、まだみぬ変化球。これを、あと1球で打ち返さねば、不合格となるのだ。
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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/14 23:31 修正3回 No. 8    
       
小波の足は震えた。恐怖で、不安で――。
「どうした、もう終わりかい?」
猪狩の声が小波へ届く。終わり、終わりなのか? そう自問自答しているのか、小波は俯いたまま、何か思想をめぐらせていた。

『だめだ……終われない、まだ、まだここでは……終われない!』
一度ゆっくりと瞼を閉じ、精神を集中させ、目を開いた。
小波の瞳は、さっきまでとは比べ物にならぬほど、意思が宿っていた。

『さっきまでとは違うな……』
猪狩もそれを察知したようで、明らかに真剣な目つきで、右足を引いた。
『絶対に……、打つ!』
小波も、瞳の先に闘志を燃やし、ただ白球がくるのだけを待った。

猪狩の手から、第3球が放たれた。
真っ直ぐに振り下ろされた腕から、風を切るように白球が向かってくる。
『真ん中低め、もらった!』
小波はコースにあわせ、バットを振り出す。
低めのため、出来る限りヘッドを上から真っ直ぐに振り下ろす。
いける、そう体で確信した小波。だが、白球はチェックゾーンぎりぎりで、奇妙にも曲り始めた。
その球は、突如小波の体へと向かってくる。

スライダーだ――。

「く、くそ」
明らかにバットの軌道から離れてゆく白球。
しかし、小波も諦めていなかった。
体で感じるまま、小波は軌道を修正する。手首の返しを早め、バランスの崩れを防ぐため、少し右足を引く。
そのまま腰の回転だけで、小波は、バットを振り切った。
その甲斐あってか、バットはなんとか白球を捉え、打球はショートの方へと転がった。

しかし――。
「ショートゴロ、バッターアウト」
審判は、ショートゴロを告げた。
それは、無情にも、死の宣告となるものだった。

ルールでは、出塁できなければ不合格だ。小波はそれを思い出し、俯いた。

「すごいね、僕の球に当てたじゃないか。誇りにしてくれて良いよ」
にこやかに笑い、猪狩は言う。
それだけいい残すと、マウンドを下り、グランドから去っていった。

小波は、悔しさの解放場所が分からず、一度土をけり、瞼をきつく閉じた。
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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/14 23:36 修正2回 No. 9    
       
少しの空白が、場を支配する。
その後、スピーカーの男から、声が聞こえた。
「よし、合格だ」
「えっ?」
小波はすぐさま振り返り、何故だという表情で男を見る。
スピーカーの男は、それを察知してか、自ら話し始めた。
「中々良い反応だった。だから合格だ、名前は?」
突然流れてゆくことに、ついていけていない小波。
しかし、どうやら自分は合格できたらしいと悟ると、小波はなお唖然としながら、答える。

「小波勇気、遊撃手です」
「よし、がんばれよ。次……」
そのまま打席を出ると、急速に抜けていく力を感じながら、矢部のいるほうへ向かった。

「すごいでやんすね! よく当てたでやんす!」
「え、あ、あぁ。ありがとう」
徐々に”こと”を理解してきはじめた小波。平静さも、取り戻し始めた。
同時に、ここで野球が出来るんだ、という喜びも覚え始めていた。

「次、42番」
「あ、おいらでやんす。いってくるでやんす」
スピーカーから声が聞こえ、矢部が打席へと向かい始めた。
42番は、矢部のゼッケン番号だ。

しかし、矢部が打席で戦っている間、小波はそれを見ていなかった。
先ほどの猪狩との試合を、振り返っていたのだ。
自分でも、よく当てられたな、そう思う一打席だった。
最後の集中力でずっと挑めれば――反省もあるが、収穫もある一打席だったと、小波は振り返る。

そんなことを考えていると、矢部が小波の元へ戻ってきた。
どうやら、すでにテストを終えたようだ。
「ふぅ、でやんす」
「あ、矢部君、終わったの? ごめん、見てなかったよ。どうだった?」
靴紐を、矢部は結びなおす。
そうしてまた立ち上がり、矢部は、キリッとした表情で、自慢げに答える。
「1球で、合格を決めてやったでやんす」
「え、ほんと!? すごいじゃないか!」
小波は興奮気味に矢部へ話す。さらに、小波は続けた。
「どこへ打ったんだい?」
すると、突如矢部は元気をなくし、俯き気味で答えた。

「死球で出塁でやんす」
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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/15 20:03  No. 10    
       
5


「それにしても……」
「ん、どうしたんだい?」
試験に受かったからか、少し気の抜けた顔をしている矢部。
その矢部が、口を開く。

「さっきからあのスピーカー持ってる人、口調悪いでやんすよね。なんかむかつくでやんす」
「えっ、もしかして矢部君、知らないのかい?」
「何をでやんすか?」
本当に何か分からないといって表情を浮かべる矢部。
そんな矢部に、小波はツッコミをいれる。
「あれ、監督だよ」
一瞬きょとんとする矢部。数秒後、言葉の意味を理解したようで、突如大声をあげた。
「えぇぇぇぇぇ、でやんす」
「ちょ、矢部君うるさいよ」
矢部は、まだ信じたくないと言わんばかりに、言葉を紡ぐ。
「本当に、あのグラサンいかつい奴が監督でやんすか? だってさっき、隣の白髪の方と相談してたじゃないでやんすか! あれが監督でやんしょ?
 それに、名門校の監督は、何もしない置物のような監督じゃないでやんすか? もしくは巨乳で優しいお姉さんでやんす!」
「矢部君、何を期待しているんだい……。とりあえず、後者はありえないよ。大体、あの白髪の人は、校長先生だよ、あかつきの。
 あの人は元監督でもあるからね。体の関係で現役からは退いたらしいけど。っていうか、本当に何も知らないんだね。良く受かれたね……死球で」
矢部にちょっかいをかける小波。
矢部は期待通りの表情で、奇声をあげる。
「ムキーでやんす」
顔を真っ赤にする矢部と、笑う小波。
この後、周りの人物達にうるさいと注意され、しょぼんと2人がしていたことは、言うまでもない。
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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/15 20:10 修正1回 No. 11    
       
「よし、試験が終わったようだな。合格者は27名。合格したやつら、おめでとう」
しばらくしたころ、監督が、試験の終了の旨を伝えた。
27人――そのうち、9人にのみ栄光が与えられる――小波はぎゅっと、拳を握り締めた。

そうして、試験終了のあと、監督の話が始まる。
「えー、俺が監督の千石だ。あかつきの目指すのは、甲子園優勝のみだ。
 当然練習もきついが、頑張ってくれ。じゃぁ、あとは入学後だな。
 君たちの入学を楽しみにしている。以上だ、解散」
一方的に話をしたあと、話は終わり、また同時に試験も終わりとなった。
威圧的な監督の風貌からか、解散となっても、無駄口をたたくものはいなかった。

ぞろぞろと、人の群れが会場から出て行く。
小波と矢部は、外に出た後、改めて空へ拳を上げ、入部できる喜びを分かちあった。

「よし、じゃあ矢部君、これから頑張ろう!」
「でやんす!」
熱くもう一度握手をする。
その強さには、彼らの想いが込められているのだろう。
そうして、お互いの結束を深めた後、彼らはそれぞれの帰路についた。
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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/15 21:27  No. 12    
       
6


ついに、春――。
つぼみは、見事に桜の花を咲かせ、桜色の道を作り上げていた。
春風と共に聞こえる希望の歌は、全ての人の心を、鮮やかに染めていく。

そんな4月、小波と矢部は、ついにあかつきの門を、正式にくぐろうとしていた。
「いよいよでやんすね」
矢部が、珍しくキリッとした顔で言う。
「あぁ、そうだね」
小波も、少し緊張の混じった声だが、想いが瞳に込められているようであった。


入学式は、いたって平凡なものであった。
校長が、あかつき高校について熱心に述べ、時間が過ぎていく。
それが終わると、生徒会からのあいさつ、新入生の言葉……と、小波たちがぼーっとしている間に、時間は過ぎていった。


「いやー、長かったね、入学式」
「でやんすね。面倒でやんす。それより小波君、おいらたち、同じクラスでやんすね」
「え、本当かい! やった!」
矢部が、クラス表をみながら言った。
小波はそれを聞き、確かに嬉しそうな表情を浮かべている。

「でも、そんなのあんまり関係ないぜ」
「えっ?」
後ろから突如聞こえた声に、小波は思わず振り向く。
そこには、梅田が立っていた。
「俺たちは4時間目が終わると即練習だ。試験はでないといけないが、正直クラスなんて、どうだっていい」
「あぁ、確かにそうだね」
小波は、梅田の意見に頷きつつ、しかしやはり嬉しいな、と少し柔らかな表情でいた。
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ロックされています   Re: 星への架け橋  名前:稲本圭  日時: 2012/10/15 21:31  No. 13    
       
このあと、小波たちは、このあかつき高校についての諸注意などを受け、今日の授業は終了となった。
この後は、一般生徒は、部活動体験が待っている。
これは、一週間、部活動を体験し、その後に入るクラブを決める、という制度である。

しかし、野球部だけは例外だ。
一ヶ月ほど前のテストで、既に野球部の新入生は決まっている。
そのため、野球部の生徒は、これからすぐに練習となるのだ。

「矢部君、急ごう! 初日から遅刻なんて目も当てられないよ!」
「ガッテンでやんす」
小波と矢部は、ものすごいスピードで、教室を駆け出していった。
その光景を、梅田が後ろから、立ち上がり準備をしながら、眺めていた。


部活動別ロッカールームに着くと、そこにはすでに、何人かの生徒が着替えていた。
といっても、2,3年生は入学式のあとすでに練習を開始しているので、ここにいるのは、みな1年生だ。

「ん、おぅ、お前等も野球部か?」
部屋の中にいた、がたいのよい男が、小波たちに話しかけてきた。
「あぁ、そうだよ。僕は小波、小波勇気。こっちは矢部明雄君っていうんだ、よろしくね」
小波が一通り自己紹介をしたところで、今度は相手へと移る。
「俺は合田剛だ。んで、こっちのちっこいのが、柳沢千夏だ。よろしく頼むぜ」
自己紹介を終えると、小波たちは部屋の中を少し歩いてみた。
どうやら、かなり本格的なもので、高校とは思えぬ綺麗さが目立っていた。

少し見てみたところで、小波たちは着替え始めた。
野球のユニフォームとは面倒なもので、着方が少し特殊だ。
矢部は新しいストッキングがきつすぎたのか、小波の隣で奇声を上げながら着替えている。
小波はそれを完全にスルーし、道具を持ち、グランドへ向かった。
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