個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-第10話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/05/30 00:24 No. 11
      
ヒュルヒュルッ〜ポスッン。
ヒュルヒュルッ〜ポスッン。

打席の加藤はぴくりとも動かない、たった2球でツーストライクと追い込まれた。
ただ、手も足も出ない見逃し方には見えない、何かを狙っている意図の目つきであった。

五郎丸が返球するタイミングで加藤は小言を漏らした。
「あのピッチャー、大してスタミナが無いな…」

それなりに、地区大会上位チームとは分かっていたが、奈々の弱点を5球で感づかれたのは、奈々の暴走があったとはいえ、五郎丸には大誤算の展開を向かえていた。

そして、奈々は加藤への3球目を投じるが、相変わらずの超スローボールを投げた。

弧を描いてヒュルヒュルッ〜とミットへ吸い込まれるが、
ガキーン!!

しかし、前に飛ばなかった。そうでなくとも、こういった球をプロ・アマを問わず、どこのチームも当然していないものであり、慣れても容易に打てるものでなかった。

個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-第11話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/05/31 00:12 No. 12
      
「さすがに、簡単に仕留められないか…」

加藤は、理解しているかのように呟いた。

五郎丸は、奈々に対してサインを出すが、奈々は何かしら意図がある事は承知しているが、表情は冴えないけれども、了承して頷く。

そして毎度の事ながら、低い身長で低姿勢の地面スレスレから右腕を振り抜くのだった。

ヒュルヒュルッ〜カッン!!

相変わらず、弧を描く超スローボールが打席の加藤に迫るが、金属バットのぶつかる音が響き、ことごとくカットされた。
ヒュルヒュルッ〜カッツ!!
ヒュルヒュルッ〜ガキィーン!!

奈々と五郎丸のバッテリーは、更に2球続けて超スローボールを投じた。
当然ではあるが、加藤もタイミングが合ってきて、前にファールボールが飛び始めた。


「あの特殊な球をタイミングは違っても、全球をほぼ同じ所に投げきれるのか!?」
選球眼の良い加藤は、奈々のあまりの制球力に驚愕していた。

それを横目に、五郎丸は当然といった顔つきで加藤の様子をうかがっていた。

そして、このままでは打たれるのも時間の問題と考えてここは勝負と、あるサインを奈々に出した。

奈々は、おやっとした顔つきであるが、二つ返事で頷いた。

個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-第12話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/06/01 22:01 No. 13
      

奈々は、これまでと同様に右腕が地面に今にもつきそうな位置から投じられた。
加藤も、これまで同様に視界を上空へロックオンしたのだが、見えないままだが…その刹那だった。
スパーン!!

ボールがミットに収まる乾いた音が響き渡った。

「ストライークバッターアウッ!!」
続けて、審判の大きなコールが響く。

五郎丸は、奈々の暴走もあるが、全球超スローボールしか投じてない事を逆手に取り、まんまと加藤を出し抜いたのであった。

「あそこで、ド真ん中の低めの70q程度のストレートを投げさせるとは、あの捕手はとんだ勝負師か?」
ベンチのファイターズ監督は、敵ながら賞賛に値する思いっきりの良さに度肝を抜かれた。

それでも、不可解なのはライガース監督の行動の無さであった。
これまで、7回の守備変更までは要所で、サインなど指示が少なくとも出していたが、マウンドに奈々が立ってからは、大仏のようにピクリと動かない。

これまでの試合中の素行を見ても、指示を出さないのは、目に見えて逸脱している事は明白だった。

これは、(※第9話参照)前述した奈々が監督との約束で登板中には、一切の指示を出さないルールも影響していたのだった。

個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-第13話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/06/02 23:56 修正1回 No. 14
      

打席についた4番千原は、確信をついた一言を放った。

「あの女投手、持ち球2つだけか、…だからあのリードね……」
ピクッと反応するも、五郎丸は返す言葉もなく無言であったが、内心はサインを出すにも手詰まりでカウントを取る球種が見当たらなかった。
簡単にアウトを取らせてもらえないのはわかっている、打ち取るならゴロか?いや、力負けして長打が目に見える、やはりフライか?それも長打は確実だ。
かといって、空振りを狙えると思えない。
それでも、しぶしぶサインを出す五郎丸であった。

奈々が千原に対しての1球目だった。
相変わらず、独特の低い体勢から振り抜かれる右腕がむちの様にビシュッとしなる。
「ストレートだが、低い!!」
千原は、すぐさまバットスイングを止めた。
スパーン!!
「ストライーク!!」
地面スレスレから投じられたら球が一直線に構えたミットへ吸い込まれるようだった。

「ド真ん中の低めギリギリ!?」

審判にしても、一瞬は判定に困る程のコースへ決まった。

「ハァッ、ハァーッ…」
ただ、投げ終わった後の奈々の様子が、今までと明らかに違い、肩で息をはじめていた。
そう、超スローボール多用による体力消耗が顕著に出始めたのだった。

個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-第14話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/06/04 22:11 No. 15
      
いつもの半分超えた程度なのに、なんでわたしヘトヘトなの、そういえば超スローボールは10球以上投げるなとか、連続で投げるなって、監督か誰か言ってたっけ?と奈々の脳裏を駆け巡っていた。

疲れが伺える奈々は、千原に対して2球目を投じたのはストレートだが、ガキィーンと金属音が響き、三塁線のわずか20cm外側へ切れてライナーが飛んだ。

明らかに、これまでのストレートと違いノビが無くなり、ホーム手前で失速したように沈み込んだ。

間髪一髪と、奈々は額から流れた汗をひと拭きしたが、険しい表情が尚も続いた。

五郎丸は、サイン確認で少しでも時間を稼ぎたいと思うが、いつもと異なり忠犬と化していた奈々は、どのサインでも二つ返事であった。

それが災いして、超スローボール、ストレートまた超スローボールと、投じたが今までと打って変わってカウントが取れない状況に陥り、気がつけばフルカウントになっていた。

既に、奈々以外の投手は降板したこの深刻な状況で、奈々がライガースに入団した時のある事を思い出し、五郎丸は思い切った采配に打って出ようと、今まで実戦で使ったことのないサインを出したのであった。

ここまで、二つ返事の奈々も今にも舌打ちが聞こえそうな渋い顔で、かなり間が空いたもののイヤイヤながらサインを了解した。

個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-第15話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/06/07 19:44 No. 16
      

奈々はロジンバッグを手に付けながら、このタイミングであんなの要求するって嫌がらせなの、しかも実戦でも、いやいやこれまで数回しか投げたことないアレを…と内心思いながら、顔がほのかに赤みがかっていた。

奈々にとっては、何か曰わくつきの球種であるのは、間違いないのだろう。

決心して、奈々は大きく振りかぶったのだが、今までと大きく異なりアンダースローではなかった。

「ぅん?」と打者の千原でも、それにすぐさま気がつくぐらいだった。

これまでと違い一瞬、オーバースローいや、スリークォーターと思ったが普通投手のそれとは、動作が明らかに違うというより、おかしかった。
間髪なく、ビシュッと奈々の右腕から投じられた。

「女の子投げ!?」

そのまさかであった、五郎丸が要求したのは肘と肩が下がって球を押し出すように投げるコレであった。

これには、ファイターズ一同や、観衆はどよめいたが、それだけのどよめきでなかった。

ギュルルンと、上空高々上がり、超スローボールの弧を描いた軌道でバッターボックスへ迫る。

千原は、投げ方が違っても超スローボールと判断して、渾身のスイングの構えでバットを始動させたブーンッと振り抜いた。

個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-第16話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/06/10 22:16 No. 17
      

ギュルルーン!!ズバッーンと打者に襲いかかるような唸りをあげてミットへ吸い込まれた。

「ストライークバッターアウト!!」

千原の渾身のフルスイングは、完全に振り遅れて空を切った。

超スローボールと思った球は、全くの別物で、縦スピンがかかった高速ボレー回転の球であった。

打者の千原も、あの投球フォームから物凄い球が投じられるとは想像もしておらず、呆然とするだけであった。

試合終了と同時に、奈々は一目散と五郎丸の所へ駆け寄って歓喜の包容というわけでもなく、これでもかとグローブで何度も思いっきり殴るのだった。

「五郎丸のアホ〜!!あたしにあんな恥ずかしい投げ方させるなぁ〜!!」

五郎丸は、やっと一息つけるといわんばかりに、「はい、はい…」と生返事で聞き流した。


「そういえば、皆は知らないが約束って、どんな事だったんだ?」

試合後の帰路で五郎丸は、奈々が監督と交わした約束の内容を勝利してご機嫌の奈々に訪ねた。

「あれね、あたしの名前は奈々でしょ、だから今度試合で0に抑えたら、背番号7(なな)に変えてってお願いしたの〜♪」

奈々はにこやかに、とんでもないひと事をさらりと答えた。