個別記事閲覧 Re: 第二章-投手な理由 第18話 名前:リリカル兄貴日時: 2015/06/25 22:07 No. 19
      
ある日の練習中


「そういえばさあ、奈々様って打撃とか守備練習をほとんどしてないけど、上手いのか?まあ、ボクみたいに華麗な打撃と守備は無理と思うけどね。」
「お前も相変わらずだよな…そういえば俺も見た事ないな、ほとんどが投球練習だけだよな。」

練習が一段落した走攻守に三拍子あるが自信過剰な遊撃手の御影 俊介(みかげしゅんすけ)と、守備の名手である二塁手の今津 聡一郎(いまづそういちろう)は休憩中に些細な話で盛り上がった所へ、奈々が投げ込みを終えて戻ってきた。
「二人で、なに盛り上がってんの〜?」
珍しく、練習後でも機嫌の良い奈々が自分の事と知らずに、話の輪に割って入った。
その話を聞いて、少し変な間が空いた後に、奈々はたどたどしく言いはなった。
「二人とも、あたしが投手以外で出来るポジション言ってみなさいよ…」

「あっ!!」
御影と今津は阿吽の呼吸のように声が揃った。そして過去のあの出来事を回想した。

それは以前に、奈々がライガースに入団した時期に、ポジション決めの紅白戦が一度だけ行われた事があった。

試合当初、奈々はレフトの守備についていたのだが、率直に結果を言えば奈々のチームが大敗をした。
それは、球団始まって以来の記録尽くしの紅白戦になったのであった。

個別記事閲覧 Re: 第二章-投手な理由 第19話 名前:リリカル兄貴日時: 2015/07/01 20:47 No. 20
      
-回想-
この日の紅白戦は今年度の主力メンバーを決める試合であった。
無論、奈々や他の選手もこれがどれほど重要かは、語る必要がない位に各々がレギュラーアピールする一行事となっていた。

なぜ争いが激しくなるのも訳があり、レギュラー23人は年間で一定数の試合出場や練習の優遇を受けれるが、補欠の場合は試合出場するにも各試合毎に、レギュラー以外に空いた残り3枠(※主力に故障者が出ると枠は増える)を主力選手との兼ね合いで監督が起用選手を抜擢するという、困難な条件とグランド整備や用具の手入れなどの雑務もこなさないならないハードな内容なのだ。

とはいえ、レギュラー10人程の枠はほぼ確定している為に、実際は準レギュラー枠争いの意味合いが強い試合なのであった。

この紅白戦に、当時補欠の奈々は赤組の8番左翼手で出場したのだった。
同じチームに、4番捕手の五郎丸、そして3番遊撃の御影と6番二塁の今津、他の主力も合わせてレギュラーが計6人揃っていた。
奈々達、赤組の先行で試合は始まった。1回から猛攻が展開された。
1アウト1塁で3番御影が、チャンスを広げて1、3塁として4番の五郎丸がセンター方向への本塁打と容易に3点を奪った。

この五郎丸の一発で、白組の投手はストライクが全く入らず、5番から7番に3者連続四球と、1アウトながら満塁と絶好の機会で、初回ながら8番の奈々に打席が回ったのだった。

個別記事閲覧 Re: 第二章-投手な理由 第20話 名前:リリカル兄貴日時: 2015/07/05 21:48 No. 21
      
奈々はサイズが合ってないのか、ヘルメットを気にしながら左打席についたと思ったら、いきなりバットの先端を空高々と向けた。

「予告ホームラン!?」

今まで男子だけのチームに、女子が加入するだけでも、注目の的であるのに、この宣戦布告には、グランドにいた全員が大きくどよめいた。
とはいえ、当の本人は「…確か、こう構えると目立つ言ってたっけ?」とライガース監督こと、父の話を真に受けての事とは、今の行動をにこやかに親指を立ててグッジョブと言わんばかりの監督だけであった。

この後先を考えない奈々の行動が、白組に火を付けたのは当然であった。

殺気立った中、プレイが再開されたのだが、打席の奈々に全員が何か違和感を感じていたが、赤組の一人が
「あっ、バット握りが逆だ!!」
そう、いわゆるテニス持ちでどう考えてもボールを遠くに飛ばせるものではなかった。

「うるさーぃ!!コレで打てるのっ!!」

顔を真っ赤にしながら、周囲の野次をかき消す高音の声が響きわたった。

それでも意地なのか、バットの握りは一切変えなかった。

色々とゴタゴタはあったものの、試合は再開された。

「ちっこいから、今までと違って、投げにくい…」白組の投手、西灘は小柄と分かっていたが、改めて奈々への投球しにくさを痛感した。

そして、ワインドアップから奈々に対して第1球が投じられた。

珍しく、今まで制球出来ていなかったストレートがズバッンとド真ん中に入った。

しかし、奈々はぴくりとも動かずに見送り、1ストライクとなった。

「ヤバかった…」西灘は打ちごろの絶好球を投じた事にヒヤヒヤした。だが、初球とはいえ全く反応しなかった奈々に、不気味さを感じた。