個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-第4話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/05/21 20:49 No. 4
      
何か球場の雰囲気いや、久寿川ライガースの空気なのか、この回はこれまでと何かが異なっていた。

「うん…?そういえばこの投手、ブルペンでも居なかった!前の回から投球練習してた形跡が無かったよな…?」

山本は不可解な疑問を浮かべながら左打席に付くのだが、打席からの光景を魔の渡りする事になった。

「なっなんだ!?この守備シフト…」

山本は、声を発しそうになるが食い止めたが、その違和感から背筋に一筋の汗が流れ落ちた。

それはライガースの守備にあった。
内野陣が1塁手、3塁手が各々の塁に張り付き、2塁手と遊撃手は各塁間のド真ん中に陣取り、外野は右翼と左翼がかなりの前進守備のシフトを引いていたのだ。

無死走者なしの場面で、打者シフトにしても異常なもので、この山本という打ち分け出来る打者のシフトとして見当はずれ所ではなかった。

「…いつも通り、いつも通り」
山本は頭で念じながら静かに汗だくの手でバットを強く握り締めた。

一方、マウンドの奈々は怪訝な表情であった。
捕手の五郎丸とサインが合わず、3度とも首を横に振てっいた。

「いつものアレか…多用したくないが…」
根負けした五郎丸は、頭を掻きながらアレのサインを出した。

個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-5話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/05/22 22:09 修正2回 No. 5
      
サインの直後、奈々は今まで怪訝で殺気立っていたのが嘘のように、ニコッと満面な愛嬌100倍の笑みを見せた。
それは可愛い天使が降臨した様相にも周囲は心を奪われそうになった。

ライガースナインはいつもの恒例行事のように平然と静観していた。

気分を良くした奈々は、スッと振りかぶってから、一気に地面スレスレの姿勢に移った。

「低い…!?アンダーかよ…!!」
山本が気をとられた一瞬の出来事だった。
ビシューッ。まるで鞭がしなるように奈々の右腕が高速で振り抜かれた。

「球…っ消えた!?」
山本はこの状況に打席で硬直した。

ヒュルヒュルッ〜ポスッン。キャッチャーミットにボールの軽い音が微かに響き、はっと山本は振り返った。

「ストライクッー!!」
ミットへボールが収まっており、球審が腕を高らかに振り上げた。

「…消える魔球?」
それが山本の脳裏に過ぎったが、何故か違和感が拭えなかった。
仮に、消える魔球を目にしたのなら、ファイターズベンチでざわつきはあるものの、このリアクションは異常な希薄さだった、何より球審も見えないはずの球の軌道を判定された事も不可解だった。

山本が憶測している間に、ボールはマウンドの奈々へ返球が済んでいた。

個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-6話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/05/24 00:49 No. 6
      
奈々は、返球から早々と2球目の投球態勢を始めた。

「返球して、すぐにだとぉ!?」
この一連の動作に、山本は完全に不意を突かれたと言わんとばかりの表情を浮かべたが、時既に遅く、ビシューッとしなる右腕の音が響き、先程と同様に低い投球動作で投じられた。
「このぉーっ!!」
ダメを承知で強振する山本だったが、当然ながらブンッとバットは空を切り、ヒュルヒュルッ〜ポスッンと遅れてミット音が虚しく響くのだった。

山本には、マウンドの小柄な奈々の堂々とした振る舞いに、まるで大魔神と対峙しているような威圧感であった。

しかし、対象的に女房役の五郎丸は血相を変えた表情で、アタフタと、次の投球を促すように焦る返球をした。

「……?」愕然としていた山本でもその異変を汲み取れた。
「山本っー!!」
そこへ一声、次の打者である加藤の呼ぶ声が聞こえ、バッターサークルの方に振り向いた。

加藤は無言で空を指差し佇んでいたのだ。

これに、五郎丸はしまったとばかりに苦虫を噛んだ表情となった。

少し遅れて、はっと山本は加藤が意図する事を理解してコクッと頷いた。

先程と一転して、奈々が投じる球の正体を、完全に見切ったとばかりな余裕の笑みを浮かべた。

個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-第7話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/05/25 00:01 No. 7
      
マウンドの奈々は、今回はサイン確認をしてはいる。

まるで、1球目を投じる前に戻ったかのように、奈々は五郎丸の出すサインをことごとく拒否の一点張り、だが今回は五郎丸も一歩も引かない膠着状態となった。

打者の山本もしびれを切らしたが、マウンドの奈々はそれ以上だった。

「もぉーいいっー!!」
我慢の限界とばかり、甲高い声が響いた矢先に、奈々はスッと投球動作を始めた。

「あのっバカっ!!」
とは言うものの、こうなっては五郎丸も為す術がない。おそらく投じる球は同じと察していたからであった。

それはアレの秘密が分かった打者山本にも筒抜けの事態でもある。

例によって、奈々は低い姿勢からのアンダースローで投じた。
ビシューッ!!

なんと、マウンド方向を一切見ず、空を見上げていた。

「くっ、バレバレかっ!!」
しかめ面で五郎丸はぼやいた。

山本の視界に、弧を描くあまりに遅い速さで動くアレを捉えていた。
それは、ホームベース間近から軌道が地面へ降下を始めた。

「予想通り、超スローボール!!」
山本は待ってましたとばかりに渾身のフルスイング。

ブーンッ!!
ヒュルヒュルッ〜ポスッン。

だが捉えたと思った打球は、かすりもせず空を切り、捕球した軽い音だけが響いた。

個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-8話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/05/25 23:07 修正1回 No. 8
      
「ストライークッバッターアウト!!」
力強く球審の右腕が上げられた。

「捉えたはず、どうして…!?」
山本は、呆然と打席でひざまづいた。

バットの軌道は完全にボールを捉えていたが、奈々の投げた球は無回転のあまりにも遅いスローボールが故に、空気の流れに大きく影響を受けやすかった為に、渾身のフルスイングをまるでボールが避けるように軌道が変化したのである。

「ふぅー」比較的に動じない五郎丸でも、分かっていたが安堵の溜め息が漏れる。

「審判、タイム!!」

次の打者を迎える手前、五郎丸はスッと立ち上がりマウンドへ静かに向かった。

「ぅん?」とばかりに、奈々はきょとんと五郎丸を見つめた。

ライガース内野陣は、ご愁傷様とばかりにマウンドへ合掌を軽くした。

マウンドで、2人が向かいあったと思った瞬間だった。

「あぎゃぁぁ〜〜○×っ△◆〜っ!!」

グランド全体に、途中から言葉にならない断末魔の叫びに覆われた。

五郎丸が背後から、奈々に対して両拳でこれでもかと言わんばかりの腕力で左右のこめかみにねじり込んだのであった。
(そう、某作品のジャガイモ頭の五歳児が母親にされているグリグリである)

「いつも、勝手ばかりするなと言っただろ…」

平静とした態度でこれでもかと、奈々のこめかみをこれでもかと言わんばかりに攻め続けた。

個別記事閲覧 Re: 守護神はじめました-第9話- 名前:リリカル兄貴日時: 2015/05/27 23:07 修正2回 No. 9
      
「なんなん!これぇ女子にする仕打ちなん?」

五郎丸の殺人的な一撃により、涙目の奈々は地の関西弁が全面に出していた。

「お前の場合は、その素行は常習だろ」
「あたしの球は、誰も打てへんも〜ん!!」
「お前、この試合負けたら監督との、あの約束があるんだろ!!」
「あっ…」

そうこう一悶着していたが、その一言で、ふと約束を思い出した奈々は、ゾッとして青ざめ、まるでこの世の終わりのような表情となり、遠目からでも、背中の25番が震えているのが伺えた。

その約束というのは追々に語る事になるが、とんでもない内容であったが、条件を呑んだ奈々もまた、そうであると言うしかない酷いモノであった。


そんな周囲は、そのやり取りを夫婦漫才かと思える様相だった。

一方、ファイターズの監督は帽子のツバを3回触り、打席を待つ加藤へとある指示を出していた。

マウンドから五郎丸が戻り、試合が再開されたての初球だった。

今までと一転して、じゃじゃ馬が忠犬に化けたかのように、一回のサインでコクリと頷いた。

「約束の内容は知らんが、どんな恐ろしい内容た…」五郎丸は、そんな事を脳裏に浮かべながらミットを構える。

奈々は低い体勢から素早く右腕を振り抜いた。