個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/04/18 21:15 修正1回 No. 56
      
〜第22話・対巨人戦〜
久々に巨人と試合をするカープ。選手全員がアップを終え、1塁側ベンチで今か今かと試合開始を待っていた。
「そういえば久々に井浦を見た気がするなぁ」
投手コーチの健太は懐かしく思いながら、興奮したのかバッターボックス上でマエケンダンスを披露した。
久々にマエケンダンスを目にしたカープ側のスタンドは拍手喝采。隆浩や飯田も、それにつられるかのように拍手を送った。
マエケンダンスを終え、健太がスタンドへ向けて手を振ってベンチへ戻ってきた。
「健太のマエケンダンスを見たのは何年ぶりかな…」
大引が懐かしく思いながらも健太に近寄り、良かったぞ、と言ってブルペンへ向かった。

ブルペンでは工藤が半分呆れ顔で待っていた。
「もう大引さん! 早く受けて下さいよ〜」
大引はすまんすまんと言いながらミットを取り出し、早速サークル内で腰を下ろした。
足を上げて工藤が腕を振る。150km/hは出ているであろう剛速球が大引のミットに収まる。
工藤は好調だ。それは近くで見ていた健太も確信していた。
ブルペンで球を受ける事15分。試合開始の時間があと10分と迫り、大引と工藤は肩慣らしを切り上げてベンチへ腰掛けた。
試合開始の時間は刻々と迫る。試合開始まであと5分…

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/04/25 18:36 修正3回 No. 57
      
「そういえば隆浩、お前今本塁打数いくつだったっけ?」
大引が隆浩にぼそっと呟いた。
「4本ですよ。なんか調子が上向きみたいなんで…」
「じゃあ今日8本まで上げようか」
大引と隆浩の間に長い沈黙が訪れた。そしてすこしして隆浩がやっと口を開いた。
「は、8本って無理ですよ! 一試合に4本なんか打てませんよ〜」
「ははは、冗談冗談! ま、自分のペースでやれ」

こう言ったように試合開始までは冗談話などでカープベンチは盛り上がっていた。
そして、ついに時刻は1時になり、先攻ジャイアンツで試合が始まった。

『1番・センター、長野』

ジャイアンツ先頭の長野がバッターボックスへ入り、足場を均して構えた。
先発の工藤。今シーズンは3勝1敗。自身の調子もなかなかの好調であった。
そして第一球目。長野の体めがけてかなり速い球が来た。
(うわっ! 当たる!)
しかし、これは工藤の持ち球のカットボールである。投手と打者の中間地点で曲がる球だと気付いた長野は、
多少のけぞりながらも体制を立て直して内角のカットボールを叩いた。
そして、持ち前のバットコントロールでサムスの守るレフト線のライナーを打った。

カァン!

「サムス―――ッ! 頼む――――ッ!!」
大引が懸命にサムスに向かって叫んだ。だが、明らかに捕るのは不可能に近い。
しかし、ここが正念場だ。最年長の意地とプライドを賭け、思い切り走る。
だが、いくら意地とプライドがあっても引力を無くせるわけではない。
どんどんボールと地面が近寄ってくる。球場の多くのカープファンが「これはもう捕れないな」と諦めかけた次の瞬間、
サムスが思い切り横っ跳びをした。
「うおおおおおッ!!」
約10Mの跳躍力を持つサムスの横っ跳びは、ライナーの軌道を描き、
遠かった打球をいとも簡単に捕球した。その瞬間、一塁側の赤一色のスタンドから嵐の如く大歓声が起こった。
『捕ったぁ―――!! 広島の新戦力サムス、持ち前のジャンプ力で不可能と思われた打球を捕ったぁ―――!!』
球場の誰もが見たことのないほどのダイビングキャッチに興奮していた。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/04/26 20:29 修正1回 No. 58
      
工藤は1回表を三者凡退に切って取り、かなり調子がいい事を見せつけるかのような顔でベンチへ戻ってきた。
「調子、いいな」
大引が工藤の肩をポンと軽くミットで叩き、頑張れよ、と一言言ってからベンチへ座った。

そして一回裏、カープの攻撃は、1番、センターの飯田。
今季はすでに7本塁打。かなり調子がいいようだ。
相手投手は相川。球界1のドロップカーブと落差抜群のパームが武器の投手。
(飯田は一発もあるからな…ここはまず外角低めやろ)
第一球目、真ん中高めから外角低めへ速く、かつ大きな変化のドロップカーブが投じられた。
飯田のバットは空を切り、ボールはミットの中へ収まった。
(す、すげぇ変化だな…こんなの連続して投げられたらひとたまりもねえぜ…)
飯田はゾッとしながらも、何とか打ってやろうとバットを構えた。
(よし、行ける。次は内角高めにストレートやな)
第二球目。足を上げて速い腕の振りからなかなかの速球が繰り出される。

ズバ――ン!!

ボール

飯田はスピードガンを一目見てからバットを2,3回振り、再び構えた。
(148キロか…それに加えてドロップカーブ。緩急をつけての高レベルなピッチングをする奴だな…)
そして相川は、ロージンの粉を手に付け、大きく腕を回して第三球目を投じた。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/04/26 21:16 No. 59
      
ドロップカーブが飯田の内角をえぐり、飯田は1ボール2ストライクと追い込まれた。
(よっしゃ! ほな行くで、俺の決め球を!)
相川はニヤリと笑みを浮かべ、セットポジションから第4球目を投じた。

「な、なんだあの球は!?」

相川の第4球目、カープベンチは騒然となった。
高め、完全ボールコースに90km/hほどの遅球が山なりの軌道を描きながら来たのだ。
高すぎてボールのコースとはいえ、あまりの遅さにゾッとした。だが、
(お、遅い…だがなんだ? なぜかこのまま外れる気がしない…本当にこの90キロ余りの遅球が高めに外れるのか…?)

ググッ…

シュルシュル…

飯田の嫌な予感は当たった。いや、当たってしまったと言うべきか、高めの完全ボール球が大きく落ちてきたのだ。
日本球界で緩急を付けるときに広く用いられる『パーム』だ。

グググッ!

「なっ!!」

しかも、低めのコースまで落ちてきた。この変化は、現中日ドラゴンズの倉田態の変化と瓜二つだった。

パッシ―――ン!

ストライ――ク! バッターアウト!

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/04/29 02:25 修正3回 No. 60
      
「パ、パームだ…」
隆浩が顔色を変えて呟いた。あまりの変化量に、さすがの大引もなかなか言葉が出なかったが、
しばらくして正気を取り戻した大引は、汗を垂らしながら飯田のもとへ歩いていった。
「飯田、あれは打てなくても仕様がない…気を落とさずに戦うんだ」
「は、はい……」
しかし、打てなかった飯田はやはり気落ちしているようだ。力なく返事をするとベンチへ倒れこむようにへなへなと座った。
「飯田さん…」
隆浩は飯田を心配しながら弱く呟いた。

「せやけど、打てへん球でもないわな」

その時だった、いきなり後ろから見たことのない顔のユニフォーム姿の人物が話しかけてきた。
「あ、あなたは…?」
隆浩は、誰なんだ?と言いたげな顔で言った。
「おぅ、オレは二宅(にやけ)ちゅうモンや」
「二宅さん…? あの〜ファンクラブの方ですか?」
二宅と名乗る男は、半分呆れ顔で言い返した。
「お前…オレの事知らんのか? 新米2軍投手コーチ、二宅」
その時、神庭にこちらの話が聞こえたようで、ガタッと立ち上がったかと思うと、二宅へ向かって早足で歩いてきた。
「し、師匠!」
「え? 師匠?」

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/04/29 05:06 修正2回 No. 61 HOME
      
「神庭さん? し、師匠って一体?」
「ほれ、広島のナックルボーラー『ニヤケ』のことですのー」
「え!? あ、あの伝説のナックルボーラー!?」
伝説のナックルボーラー・ニヤケ。
隆浩が高校1年の時に引退した、通称・変化球王。
パームの変化量とナックルの変化を融合した『ビクトリーパーム』の第一人者である。
ビクトリーパームの長所として、パーム以上の変化量を誇り、
ナックルのように空気抵抗で揺れ、打者の目を欺く、というものだった。
しかし、その性能ゆえ、決して容易に習得できるものではない。
かと言って、相当な投げ込みをしたからといって習得できるとも限らない。
限りなく恵まれたセンスと努力が必要なのである。
しかし、ビクトリーパーム最大の短所は、とてつもなく球質が軽い事にあった。
誰もが目を疑う高性能な変化球の為、当時かなりの脚光を浴びたビクトリーパームだが、
ジャストミートされたときの飛距離は相当なものだった。
かつて、あの長嶋茂雄、王貞治とも対戦した二宅だが、
長嶋と王に、合計でビクトリーパームを5発場外に運ばれているのである。
弱点を見抜かれ、直球派にコンバートしようとしたが、
もともと技巧派だったがために、直球の伸びが今一つだったのである。
そして、プロ野球人生17年目の夏、引退を表明したのであった……

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/05/12 19:41 No. 62
      
「せやけど、あのパームにも弱点はあるで」
二宅は、相川の方を向いてニヤリと笑みを浮かべた。
「え? そ、そんなこと分かるんですか?」
飯田が信じられないような顔をして聞き返した。
二宅は見てみろよ、と呟きながら、2番・御村を指差した。

カキッ!

「ああ、だめだ。また外野フライだ…」
飯田が肩を落として呟いた。しかし、しばらくして飯田はある事に気付いた。
「ん? 待てよ? 普通バットの先に当たって外野まで飛んでいくか?」
それを聞くなり、二宅は待ってましたと言わんばかりの顔で言った。
「そうや! 相川のパームはかなりの変化量を追求した挙句、ボールの回転が中途半端になって軽い球になってもーたんや!」

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/05/13 20:14 No. 63
      
「そ、そうか! 変化量は多いけど球が軽い、要するに当てに行けば攻略は難しくないって事ですね!」
「そうや! 次からミートを心がけて打ってみぃ! そないしたら打てる! そして勝てる!」
二宅はそう言うと、さっさとベンチを出て行った。

試合は4回裏に突入した! そしてバッターは二宅にアドバイスをもらった1番飯田。
相変わらず切れ味のいい変化球を駆使し三振を量産している相川に対し、ここまで0対0。
果たして、飯田のこの打席で広島へ流れを寄せる事が出来るか!?
(飯田は今日俺のパームに太刀打ち出来とらん! ここもパームで翻弄して三振や!)
相川はいかにも楽勝というような表情を浮かべながら足元を均し始めた。
この時、飯田は頭の中で自分に、大丈夫大丈夫と繰り返し言い聞かせていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜回想〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そうや! 次からミートを心がけて打ってみぃ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(とにかく球に当てる…余計な力を抜いてコンパクトに…球に当てることさえできれば…)

ビシュッ!!
シュルシュル……

(打てる!)

カキィ――ン!!

「な、なんやて!?」

飯田の打った打球は、軽く振り抜いたとは思えないほど鋭かった。
最初はレフトフライと思われた打球だったが、軽い相川のパームは打ってもなかなか落ちてこない。
段々とスタンドとボールとの距離が迫ってくる。

・・・

ガコォン!

飯田の打った打球は、空を飛ぶ一本の矢の如く、巨人側のスタンドへ突き刺さった。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/05/16 18:09 修正1回 No. 64
      
「な、なんやて…俺の球が打たれた…?」
ここから相川は崩れ始めた。2番、御村にフォアボール。3番隆浩にもセンター返しを浴び、
さらには大引にも死球を与えてしまった。
「相川が崩れ始めたな…」
健太が腕を組んで呟く。その後ろのドアから、二宅が忘れ物をしていたらしく帰ってきた。
二宅は忘れ物のバッグを担ぐと、すぐさま相川に目を向けた。
「おぅ、どうやら飯田が突破口を見つけたみたいやな」
二宅は軽く笑みを浮かべ、清水の元に歩いていった。
「監督、ほな俺は帰るわ。」
「おう、お疲れ。また好きなタイミングで来てくれよ」