個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2014/11/01 17:51 修正2回 No. 99
      
〜第30話・最速の称号〜

初夏の太陽がマツダスタジアムを照らす。
空は雲一つない青に染まり、そこに飛行機雲が線を描く。
球場にはなんと2万人を超える数の観客が詰めかけ、試合の開始をまだかまだかと待っていた。
カープ投手陣最速160km/hを誇る剛腕・工藤と、巨人の誇る本塁打製造機・井浦の対決を見るためである。

「おうお前ら、しばらくぶりだな」
ポケットに無造作に手を突っ込んだ井浦が、カープベンチの前までやってきた。
「あ、井浦、久しぶり」
飯田もバットをボックスの中へ入れて井浦に応える。
性格の違いゆえかあまり知られていないが、飯田と井浦は同期である。
「工藤さんの調子はどうよ? 俺ぁ160キロ近いスピードボールを場外にかっ飛ばすために毎日死ぬほど振ってんだからな」
「場外ってまた大袈裟だな……もし打てたら何でも奢ってやるよ」
「よーし言ったな!?」
そう言うと井浦は自分のベンチへと歩いて行った。
飯田は現在盗塁王争いのトップをひた走り、井浦は本塁打ランキング2位と好調。
今日先発の工藤は、防御率・奪三振数共に現在1位という圧巻の成績を叩き出していた。
因みに、奪三振数第2位は倉田、最高防御率2位は喜多川となっている。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2014/11/03 12:50 No. 100
      
初回の工藤は圧巻だった。
一番二番をストレートとカーブのコンビネーションで連続三振。
そして三番の大田を152km/hのストレートでサードゴロに打ち取り、無難な立ち上がりを見せた。
「よーし工藤、ナイスピッチだ」
清水が手を叩きながらベンチに工藤を迎える。
「しかし初回で152キロって……随分と飛ばしてるな工藤よ」
その隣で、先程まで工藤の球を受けていた大引が呆れたように言った。
それに対して工藤は「大丈夫ですよ」と笑いながら言い、水分を口に含むとベンチに腰掛けた。
「しかし今日は外野が意外と暇になるかもですね」
飯田が半ば冗談という風に言った。
工藤は6月のソフトバンクとの交流戦で、自己最速の160q/hをマークしている。
それからというもの、試合を重ねる度に頻繁に160q/hを記録し、11勝を挙げる活躍を見せている。
彼のシーズン最多勝利記録は14であり、今年はその記録を塗り替えるだろうと言われているのである。

一方広島の攻撃は、飯田・御村の2連続ヒットでチャンスメイクするも、後続が続かずこちらも0点で初回を終えた。
そして2回、工藤と井浦の勝負に、両チームのファンの熱気は最高潮。応援歌のラッパが声援にかき消される程だ。
「よっしゃぁ! 一発かましてやんぜ!」
そう意気込んだ井浦は豪快に素振りをすると、大股でバッターボックスに向かった。
そして井浦の名前がコールされ、審判はプレイを告げた。
工藤はサインを確認すると、こちらも豪快なワインドアップから第一球目を投じた。

『ストライク!』
少し速めのカーブがアウトロー一杯に決まる。
見送った井浦はバットを担いで工藤を凝視した。
今日の工藤は変化球にもキレがある。相当調子が良いのだろう。
そう思った井浦は、一度打席を外して一回素振りをした。
工藤自身も、今日は調子がいいと自覚していた。練習の時から球にノビとキレがあったからだ。
工藤は深呼吸をした後、大引のサインを確認した。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2014/11/07 19:48 No. 101
      
大引のサインはインハイへの釣り球。しかし工藤はこのサインに対し首を振った。
以前工藤は、井浦に対して投じたインコースの球を東京ドームの看板に運ばれたからである。
その理由を鮮明に覚えている工藤には、釣り球とはいえインコースに投げる事を多少躊躇っているのだ。
工藤の要求に同感したのか、大引は対照的にアウトローに速球を外すサインを出した。
これには工藤も首を縦に振り、セットポジションへ入る。そして、再び大きなワインドアップから第二球目を投じた。
すると、これに井浦は手を出してきた。
足を右方向へ踏み出すと、強大な遠心力を纏ったバットをボールへぶつける。
「隆浩! 行ったぞー!」
しかしこの球は外角へ外したボール球である。
井浦の打球は隆浩の守るライトへ距離の出ない高いフライが上がった。
そして、そのフライはしばらくして隆浩の赤いグラブにきっちりと収まった。

「アウト!」

広島の観客席から大歓声が上がった。
井浦は悔しそうな表情を浮かべながらベンチへと走っていく。

その頃、ロッテ対西武の試合では……

『で、出たぁーーーっ!! 天海、日本球界最速、163キローーーっ!!』
QVCで行われていた試合では、なんと天海が163km/hを記録していたのである。
「な、なんなんだアイツは……か、怪物じゃねえか……」
これには西武の選手達もたまったものではない。
まだ3回だと言うのに163キロをさも当然のように投げられてしまっては、驚愕せざるを得ない。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2014/11/09 00:58 No. 102
      
広島は連打を浴びせてはいるが、チャンスで一本が出ず、4回までを無得点で終了した。
一方の巨人も、絶好調の工藤にこれまでヒットわずか2本に抑えられ、二塁を踏ませてもらえずに5回表を終了した。
そして広島の攻撃は4番の大引から。
投手は技巧派左腕の梶井。大きく縦に割れるカーブを中心とした多彩な変化球を操る投手である。
一打席目に大引はこの梶井のスラーブを詰まらされてサードゴロに打ち取られている。
そこで大引は、敢えてそのスラーブに狙いを絞っていた。

大引の読みは的中した。
大引の膝元に落ちるスライダー、スラーブが投じられた。
――この球だ! 打ち損じるな!
大引は迷いなく踏み出し、スムーズにバットを走らせた。
心地良い快音と共に、打球は左中間のど真ん中を貫く。
「「「よっしゃあ!!」」」
カープベンチが沸く。大引は一塁ベース手前で膨らみ、二塁を狙った。
巨体を揺らして全力疾走する大引が一二塁間地点に達するとようやくセンターが打球に追い付き、
鋭い返球をセカンドに返した。
大引は勢いのままにセカンドベースへと滑り込む。そして悠々と立ち上がり、拳を握って突き上げる。
それに便乗するように、カープベンチからもガッツポーズが飛び出した。
そして、今シーズン現在29本の本塁打を放ちブレイク中の岡本に打席が回った。

その初球だった。

真ん中高めの釣り球を、岡本は強引に振り抜いたのである。
センターフライと思われた打球はぐんぐんと伸び、
遂にはマツダスタジアムのスコアボードのど真ん中に炸裂した。
ハイボールキラー岡本の30本目のホームランである。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2014/11/16 00:34 修正2回 No. 103
      
「はは……そう言えばアレを打つ奴がいるんだよな〜」
梶井も流石に度肝を抜かれたようで、バックスクリーンの方向を向いたまま空を仰いでいた。しばらくして、我に返った梶井は、
「っつーかアイツに釣り球打たれたのコレで四回目だぞ!?」
と頭を押さえて喚いていた。
カープベンチに岡本が帰ってくる。
「おい岡本、結果は結果だけどあれは完全ボールだからな? なんでお前はいつもあの球に手を出すんだよ……」
呆れ顔で清水が指摘する。
「いや〜、なんか本能的にかな? 高校時代からあの球には必ずと言っていいほど手を出してましたから」
清々しい顔で岡本は言うと、ヘルメットを外してベンチに置いた。
しかし、後続がなかなか続かない広島打線。
6、7、8番を連続三振に取られ、5回を終了した。

6回の表、巨人の攻撃、バッターはこちらも4番の井浦から。
井浦は片手でバットを担ぎ、無言でバッターボックスに入ると、バットの先端をピッチャーの工藤に向けた。
球場が静まり返る。しばらくして井浦は大きく息を吸うと、よく響く大声で
「よっしゃ来いやあぁあぁあ!!!!」
と叫んだ。
その瞬間、巨人側スタンドは沸きに沸きかえった。
オレンジ色のタオルを頭上で振り回し、盛大なラッパの音色と共に、『喧嘩上等』のサビがマツダスタジアムに鳴り響いた。
すると、次は工藤が井浦に向けて、堂々とボールの握りを見せつけ、
「行くぞ井浦!! こうなりゃ直球勝負だ!!」
とこちらも響く声で言い放った。
井浦の顔から、勝負が待ちきれないと言った笑みがこぼれる。
そして井浦は、バットをどっしりと上段に構えた。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2014/11/19 00:25 No. 104
      
「タ、タイムお願いします」
大引が駆け足でマウンドに駆け寄る。
「工藤、お前……」
正気なのか、と言いたげな大引を制し、工藤が言った。
「すいません大引さん。でも……でもアイツとは、どうしても直球で勝負したいんです」
工藤は井浦に目線を移して続けた。
「もし打たれるとしても、弱気な変化球よりも思い切ったストレートを打たれたいんですよ。それに……」
もう一度大引に視線を戻し、笑顔を浮かべながら言った。
「このマツダに集まってるスタンドの皆も、直球勝負を望んでると思いますよ」
大引はその一言を聞いて確信した。
……こいつ、本当に勝負が好きなんだな。
記憶を辿ってみれば確かにそうだった。
いつも球界屈指の強打者を相手にしてはそれを上回る直球を放ち、数々の名勝負を生み出してきた工藤。
その工藤に対し、変化球でかわすリードをすることは、それこそ愚かな行為だった。
大引は半ば呆れながらも工藤を見つめ、
「やるからには勝つぞ」
と言ってミットで工藤の胸をポンと叩き、守備位置へと戻って行った。

井浦に対する第一球目はアウトローへの直球。
工藤は、お決まりのワインドアップから第一球目を投じた。
井浦のバットの上をすり抜け、乾いた音が球場に鳴り響く。
工藤は大引から素早くボールを受け取ると、早めの間隔で第二球目を投じた。
インコース低めに投じられたその球を、井浦は強引かつ技巧的に引っ張る。
打球はファウルグラウンドの観客席にぶち当たった。
早くも追い込んだ工藤は、変わらず早い間隔で第三球目を投じた。今度はインハイへの全力投球である。
井浦のバットにボールが吸い込まれる。
打った! 球場の誰もがそう思った瞬間、井浦のバットは根元から真っ二つに粉砕され、ボールは一塁側内野席の空席に当たった。
球場の誰もが、この刺激的かつハイレベルな真っ向勝負に息を詰めた。
今まで数々の特大アーチを放ってきた井浦の赤いバットが、たった三球で粉砕されてしまったのである。
これも、井浦の力と工藤の球威が衝突し合った結果なのだろう。
井浦は、バットを予備の黒バットに交換すると、またバットの先端を工藤に向け、
「勝負だぁ!!」
と叫んで再び構えに戻った。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2014/11/30 02:26 No. 105
      
何秒経っただろうか。
先程までとは対照的に、四球目を投げるまでにかなり長い間隔が開いた。
カウントはノーボール2ストライク。状況的には工藤が圧倒的に有利だ。
ここで一球外して様子を見るか、それとも勝負に行って打ち取るか……。
大引は迷った末、サインを決めて工藤に指で伝える。インハイに一球外す全力投球。振ってくれれば儲けものだ。
井浦は多少のボール球でも手を出す事はしばしばある。その可能性を信じてのリードである。
小さく息を吐いてから、工藤は第四球目を投じた。
もはや弾丸に等しい工藤の直球は、井浦の胸元ぎりぎりをえぐった。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2014/12/03 19:12 No. 106
      
その直球に、井浦は手を出してきた。
殆ど条件反射によってのけ反るような体勢で振り抜かれたバットは、がつっ、という鈍い音をたてながらボールを根元で捉えた。
工藤の球威ならば凡打はほぼ確実と言っていいだろう。しかし……
「うおらあぁあぁああーーーっ!!!」
何たることか。井浦のとてつもない気合いと共に、ボールはレフト線の長打コースへと伸びていった。
「なっ……んだと!?」
大引はマスクを放り投げながら、レフト方向へ視線を向けた。
根元に当たったというのに、レフト線の長打コースへ飛ぶとは信じ難い光景だった。
しかし、その信じ難い光景から一瞬にして意識を切り離し、レフトを守っている大鞆に声をかける。
「大鞆ーーー!! 行ったぞーーー!!」
大鞆は飯田と充分渡り合えるだけの走力を振り絞り、懸命にボールを追った。
大鞆は懸命にグラブを伸ばし、なんとかグラブの先端で捕球した。
その直後だった。体勢を崩した大鞆は強烈な勢いで転倒。ボールがグラブから飛び出る。
「フェア!」
そして、こぼれ球に追いついた飯田がショートの御村に返球する。その後すぐに大鞆の元へ駆け寄った。
「大鞆! 大丈夫か!?」
大鞆は足首を押さえてうずくまり、その表情は苦痛に歪んでいた。
「た、タイム!!」
ベンチから清水と衣笠が猛ダッシュで駆け寄ってくる。
「どこを痛めた!?」
大鞆は、振り絞るような声で右足首を捻ったと答えた。
「よし大鞆、掴まれ」
衣笠が大鞆に肩を貸し、大鞆はベンチへ入って行った。
そして、ベンチに戻って清水は言い放った。
「神庭! 急だが行けるか?」
「待ってましたのー!!」
そして、凄い勢いで神庭がレフトへと走って行った。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2014/12/12 23:59 No. 107
      
アクシデントの間に井浦は二塁へ到達。
負傷した大鞆に代わってレフトには神庭が入った。
「切り替えて行くぞみんな! ノーアウト!」
この重い空気を変えるべく、大引が大声を張り上げて守備陣に気合いを入れる。
幸いそこまで落ち込んでいる様子もなく、各ポジションから次々と威勢の良い返事が返ってきた。
確かに一発打たれはした。だが、まだヒットを一本打たれただけで点が入ったわけではない。
後続を打ち取りさえすれば、無失点で切り抜けられる可能性は充分すぎるほどにあるのだ。
打順は5番の坂本。巧打もあれば長打もある厄介なバッターである。
大引はライトの隆浩を前に、そしてレフトの神庭を後ろへ下がらせた。その後、思い出したように飯田もレフト側へ寄らせる。
坂本は巧打と長打の二つを抜け目なくこなすのがウリだが、そこに穴がある事を大引は見破っていた。
坂本が巧打を試みてバットに当てに来た場合、ほとんどと言って良いほどレフトに浅い打球は来ない。
だが、その代わりにセカンドとライトの中心に狙ったかのように落ちる打球が多いため、大体がライト前ヒットになるのである。
逆に、坂本が長打を狙って振り切ってきた場合、大体がレフト後方への強烈なライナーもしくは左中間を真っ二つに破る強烈な打球のどちらかだ。
だが稀に、外角一杯の球をフルスイングされるとライト後方への強烈なライナーが襲う。
しかしこの場面では、その危険性を承知したうえで勝負をかけるべきだ。その分、凌ぎ切った時にはこちら側に一気に流れが来る。
覚悟を決め、大引はアウトコース低め一杯にミットを構えた。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2015/01/31 00:03 No. 108
      
そして投じる第一球目。坂本は積極的に手を出してきた。
一塁線の鋭い当たりだったが、わずかに切れてファール。
この打球から、大引は坂本を打たせて取る投球で抑えることに決めた。
今日の坂本は珍しく積極的に打ちに来ている。打撃が好調な証拠である。
しかし、だからと言って迂闊にストライクを取りに行くのは危険だ。
実際、今シーズンはストライクを取りにいった際の被安打率が高い。
打ち取ろうとした配球を読まれて狙い打ちされるケースも多いし、相手は球界でもトップクラス打者の坂本だ。
ここは無理に攻めず、一球カットボールを外角に外すのが賢明だ。
サイン交換が終わり、工藤はセットポジションから第二球目を投じた。
坂本はその球に反応したが、ギリギリ外れると見極めてバットを止めた。
判定はボール。カウントは1ボール1ストライク。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2015/02/07 03:03 No. 109
      
(やっぱり一筋縄ではいかないな、坂本は)
大引はしばらく考えこんだ後、工藤に第三球目のサインを出した。
工藤は頬に空気をため、ぷぅーと息を吹いた。
そしてセットポジションに入り、素早く大胆なテイクバックで第三球目を投じた。
その時だった。二塁ランナーの井浦は、工藤の投球と共に三塁へ走り出した。三塁への盗塁である。
(バカな!? 自殺行為だ!)
大引は井浦が走っているのを確認すると、立ち上がりながら捕球し、三塁へ思い切り放った。
タイミングは完全アウトだ。三塁の岡本はサードの名手だし、こぼす事も無いだろう。
「うおぉらあああぁああぁぁあーーーー!!!」
岡本のグラブにボールが入ったその瞬間だった。井浦は方向を変え、三塁ベースの右側に滑り込むと、上体をひねって三塁ベースに左手を伸ばした。
その左手は岡本のグラブの下をくぐり抜け、がっしりとベースの端を掴んだ。
「セーーーフ!」
球場全体が歓声で揺れた。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2015/03/01 10:59 No. 110
      
何という執念だろうか。
自宅の薄型テレビで試合を見ていた大引成留は、井浦の自殺行為とも思える三盗(三塁への盗塁)に驚いていた。
中学、高校までならば捕手の肩力もまだこれからなため十分三盗は通用する。
しかし、プロ野球の世界となれば三盗は至難の業とも言っていいほど難易度が高くなる。
しかも、捕手がセ・リーグナンバー1とも言われる選手ならばなおさらだ。
成留自身も現役時代は捕手だったが、三盗を仕掛けて来られたのは元ダイエーの玉城兵治と元近鉄の大多摩善造の二人のみだ。

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2015/05/21 20:21 修正3回 No. 111
      
「すいません。少しタイムを」
励ましの言葉をかけようと大引が一旦タイムをかけてマウンドに駆け寄る。
「気にするな工藤。仮に打たれてもセンターには飯田、それに両翼には神庭と隆浩がいる。大抵の打球は取ってくれるさ」
そうは言っても、やはり井浦に三盗を決められたのは痛い。これでヒットが出れば1点は確実だ。しかし口には出さない。
「まず前進守備を敷き、坂本・大田・小林を連続で凡打に打ち取る。なに、心配はいらんさ。意地でもパスボールはしない。だからお前も全力で攻めて来い!」
「はい!」
ミットで工藤の胸をばしんと叩き、サークルに戻る。内野は前進。大引は迷ったが、勝負をかけるべく外野も若干前へ寄せた。
さあ、ここが正念場だぞ。心の中でエールを送りつつ大引はサインを出す。
再び豪快なワインドアップから坂本に対する第四球目を放った。この状況で大引が勝負球に選んだのは……
――内角高め!
狙い通り坂本はバットを振ってきた。だが大引は、工藤が投げた時点で確信していた。この球は当たらない、と。
乾いたミットの音が響き渡り、坂本のバットは空を切った。当たるはずがない。なぜならこの球の速さは……

162km/h

球場が歓声に包まれた。自己最速の160キロを2キロも上回る162キロ。
アウトコースを意識させ、いきなりインハイの、それも160キロオーバーの剛速球が決まれば、どんな名打者でも打つのは困難。
しかも今のコースはストライクゾーンギリギリのこれ以上ない球だった。