個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/01/29 20:30 No. 31
      
第31話〜練習試合直前〜

茜は甘奈と恵理に言われた通りにさっそく、この日から体操着姿で部活動に出ることにした。

「監督、こんにちは〜」
茜がグラウンドに出ると一部の部員の視線が釘付けになり、茜は2つ後悔した。
1つは体操着姿を見られるのが恥ずかしいこと、これは慣れれば問題ないが…もう1つは…寒いことだ。暖かいと思っていたら予想以上に寒かった。

黒木は茜に近づき
「アカネちゃんの体操服姿、めっちゃ似合ってんじゃん。超可愛いじゃん!」
黒木は少し声が大きくなる。

「『黒木くんの言うとおり、茜ちゃんの体操着姿ってやっぱ可愛いな…中1以来に見たけど』」
荻野は茜の体操着姿をじっくりと見る。

「…荻、見過ぎ。気持ちわかるけど」
橘はポンポンと荻野の肩を叩く。

「い、いや。別に僕はそこまでみてない…けど…」
荻野はビクッとしながら茜から視線を逸らす。

いつも通り3人で盛り上がっていると、どうやらもう練習が始まるようだ。
1年生はまだまだついてこれていない印象だが、それでも最初の時に比べるとマシになってきただろう。

軽めの練習を終え、小休止後ノック等の練習を始めるのがいつもの流れだが、今日は本格的な練習に移る前にどうやら、大橋から話があるようだ。

「1年生にとっては突然の話で申し訳ないけれど、5月4日に埼玉県の会田高校と練習試合を行うことにしました。まぁ、2年生や3年生はご存知の通りだと思いますが、私の弟が会田高校OBという縁もあり、3年前から定期交流試合を組ませていただいております。会場は埼玉の川口公園野球場にて行います。また、スタメンはそのときに伝えます。以上!」
大橋は連絡を終えると少し休んだら再開するというニュアンスをいつもより強めに言う。

紅は会田高校と聞くと一瞬顔色が変わる
「『会田高校…か。』」
紅と会田高校に何があったのかはわからないが、紅にとっては何かがあるのかもしれない…。

黒木はスポーツドリンクを手に取りながら
「なぁ、荻。会田高校って強ぇのか?いきなり県外試合で埼玉とか…試合はうれしいけどだりぃ。」
黒木は怠そうな顔を一瞬するが、一気にスポーツドリンクを飲み干し、切り替える。

荻野は少し考え込み
「…いや、僕も分からない。」
荻野は少し残念そうに答える。
荻野たち1年にとっては初の対外試合試合に出れずとも学ぶものはあるだろう。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/02/10 13:36 No. 32
      
第32話〜埼玉上陸〜

学校の最寄り駅を出て2時間30分費やしてようやく会場の最寄り駅へと到着する。

景色は少し寂しいが、それでも都心に近い恩恵か埼玉県では恵まれている方かも知れない。
5月初旬だというのに、埼玉は意外に寒いのである。これは地理的に仕方のないことなのだが…

影浦は駅に降りると一つ伸びをする。
「ようやく、着いたか…試合前だけどすげぇ疲れたぜ」
影浦は眠そうな声で言う。

高橋はその様子を見ながら
「はは、そりゃあね…それに君はここまでずっと寝ていたから怠いだろうね。」
高橋は爽やかな笑顔で言う。

「仕方ないだろ?遠いからよ。って淳は?」
影浦は言い終わると欠伸をする。
影浦は白瀬がてっきり近くにいると思い込んでいたためアレ?と思う

「淳は、ほらあそこに…曲聴いてるから呼んでも気づかないと思うけど…って勝一が遅いだけだけどな」
高橋は少し影浦をからかう。

影浦は少し黙り込み
「っせーな…って1、2年もいない…マジで俺達が最後か。」
影浦はあたりに高橋以外誰もいないことに気づき落ち込む。

影浦と高橋は仲良く会話しながら球場へと向かった。
川口公園野球場はお世辞にもきれいな球場とは言えないが、やや狭いが練習試合をするには申し分のない球場ではあることは確かだ。

大橋は会田高校の監督に近寄りぺこりと頭を下げる
「お久しぶりですね、扇監督。いい1年が入ったと聞きましたよ?」
大橋は親しそうに声をかける。

「ええ、1年ぶりですな大橋監督。今年度もよろしくお願いしますよ。そちらもいい子が入ったと聞きましたが…まぁお互いに試合で楽しみにしますか、後…こちらが先にアップさせていただきますがよろしいかな?」
扇と呼ばれる会田高校の監督は大橋とガッチリと握手を交わすと自軍のベンチへと戻っていく。

大橋も氷水ナインの元に戻る。
「え〜、今日の試合は自分の足りないところを見つけながら勝ちにつなげていけましょう」
大橋は氷水ナインに檄を飛ばす

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/02/20 22:36 No. 33
      
第33話〜練習試合〜

両チームとも試合前のアップを終え、いよいよ試合が始まる。
荻野たち1年生はベンチで先輩方に声援を送るのが役目だ、オーダー表によると会田もスタメンに1年はいない。

さて、試合が始まる。

大橋は顔をしかめながら
「やはり、あちらは澤田で来たか…」
大橋は澤田のことを気にしているのか顔に表情が出る。

だがそれも無理はない、澤田は今年のドラフト候補生No.1とも言われる逸材である。
それもそのはず大型な体格から投げるのは最速154kmのストレートにスライダー、フォークを持ち合わせている本格派右腕で競合間違いなしと言われている。

氷水の先頭打者松本が打席に入る。

初球を見送ることが多い松本はこの日も初球を見送る、コースから大きく外れているからか、見送ったかのように見えたが。見逃したのではなく反応できなかっただけである。それくらい速かったのである。

澤田は制球力に難があるためカウントを悪くするが、直球のゴリ押しを続け松本を見逃しの三振に取る。
ベンチに戻ると大橋の顔は怒っていた。
まぁ、無理もない一度もスイングをしなかった、いくら澤田が豪腕でも、一度ぐらいはバットは振れるはず、いくら打てなくても、だ。

2番の高橋は空振り三振に倒れる。続く白瀬は粘るが最後はあえなく三振に終わった。
白瀬はベンチに戻る前に一瞬澤田を見る。

「ちっ、やっぱ速いなあいつは…」
影浦は防具を着けながら愚痴る。

白瀬はベンチに戻りグラブを取りながら
「影浦、今日は久々にホットで行くぜ」
珍しく白瀬が熱くなっている
影浦は自然と笑みが浮かぶ

1回裏の攻撃が始まる
「あ、どーも。影浦くん。今年もよろしく」
田口は慣れ慣れしく話しかけるが影浦は無視する。

───ッパァァン

乾いたミット音が響く。会田ベンチは白瀬の初球に驚きを隠せなかった、それだけではない影浦も高橋、氷水も驚愕する

扇は唖然とするがすぐに表情を戻す
「白瀬に速さがあるのは知っていたがまさか1年でこれだけ伸びるとは…」
扇は白瀬に感心する

「『って〜、あいつ今まで速くても149kmだったはず…』」
影浦はマスク越しに表情をゆがめる

田口は振り遅れながらもなんとか白瀬にくらいつくが、最後はセカンドゴロに打ち取られる。

続く2番の森本、3番の高木を連続三振に打ち取り会田の攻撃を無失点に凌ぐ。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/03/19 09:26 修正1回 No. 34
      
第34話〜白瀬の投球〜

氷水は2回表も三者凡退に倒れる。

影浦は守備位置につき、白瀬の球を受けながら
『淳が熱い時って変化球に頼らずに速球主体で行くんだよな、捕るこっちもそっちの方が気持ちいいけどなぁ…!』
影浦は自然に笑みがこぼれる。

高橋も白瀬の方を見ながら
『ホットで行く、か。…楽しみだけどねぇ…』
高橋も楽しみなのだが何か不満があるのかやや苦笑する。

「…行くぞ」
白瀬は投球動作に入り、影浦のミットを目がけて白球を投げる。

『…甘い!』

───キィィィン

会田の4番打者澤田が白瀬の高めに浮いたストレートをジャストミートで捉える。
打球は大きな放物線を描きながら、レフトスタンドにたたき込まれる。

「ちっ…。」
白瀬は腰に手を当てダイヤモンドを一週する澤田を見ながら舌打ちをする。

『これがあるんだよな、これが。速球重視にした時の淳には』
高橋はやっぱりかという顔をしながら白瀬を見つめる。

扇は笑顔で澤田を出迎える
「いい一発だな。…甘く入ったな」
扇は澤田と一言交わす。

澤田はヘルメットを取りながら
「ええ、去年よりは速いですよ。ただ相変わらず被弾癖はかわらない、かわってないです。」
澤田は冷静に白瀬のことを言う。

大橋は頭をかきながら
「…またか、いい加減被弾癖を直して欲しいものだ。」
大橋は白瀬の悪癖にあきれているようだ。

「っしゃあああ!先制点!澤田さんナイスバッティング!」
元気よくハイタッチで出迎えるのは会田の元気印荒金健吾(あらがね・けんご)である。

澤田は片耳押さえながら
「相変わらずうるさいぞ、健!…まぁそれがお前の特徴であり、チームが盛り上がる秘訣になるからいいが」
澤田は苦笑しながら荒金とハイタッチする

白瀬はその後制球を乱しながらもなんとか後続を打ち取る。

白瀬はベンチに戻ると飲み物を飲む

「また一発病が出てしまったな…淳」
高橋は白瀬の隣に座りなげかける

白瀬は汗をぬぐいながら
「…ああ、だが俺も打たれたくて打たれているわけではない…だが力任せのストレートで空振り奪うのは気持ちが良いこと、だが反面打たれやすいく制球が乱れるのは俺も理解しているし、そこが課題だ…俺の」
白瀬は自己分析をしながら打たれた原因を言い当てる

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/07/21 10:53 No. 35
      
第35話〜決着〜

氷水ナインは澤田の剛球を捉えきれずに0行進で試合が進む。一方の白瀬も澤田に許した一発以外は完璧な投球が続く。
中盤以降互いに出塁を許すのが増えてきたがしっかりと要所を締める投球を繰り広げ得点を与えない。
エース通りの投げ合い、試合展開は速く気がついたら既に9回表を迎えていた。
チャンスを作り氷水の主砲影浦を迎える

影浦はヘルメットを抑えながら
『ワンアウト3塁1塁で1点差…俺が一発打てば逆転だ!』
影浦は気合いを入れてグッと構える

「澤さん、このイニング抑えれば勝ちだ!なんとか抑えきってくださいよ!…ってお前等ももっと声を出して応援しろよ!影野ォ!三嶋ァ!」
荒金は身を乗り出して声を大きく張り上げながら声援を送る

「いや、応援してっから…つーか今の場面はどうしても自分が登板しているならどう抑えられるかって考えてしまうぜ」
影野は苦笑する

三嶋は冷静に戦況を見守りながら
「いや、ここは普通に澤田先輩抑えるぜ?…見ろよ、2人とも相手の4番…なんつったか?影島だか影浦だか覚えていないが前の打席までと比べてフォームにガチガチに力入りすぎている、アレだけ力入っていちゃあな…それに、澤田さんもとっくに気づいているはずだ。」
影浦のバッティングフォームを見ながら抑えられる確証を見つけた。

澤田はロージンに手を触れながら
『力入りすぎだな…すぐに打たせて取るか…』
澤田はスッと投球フォームに入り、影浦に対し第1球を放る。

三嶋や澤田の予想通りに影井等は初球のシュートにつまり、打球はショート正面に転がり、あっさりと併殺打となる。

影浦は1塁を駆け抜けると天を仰ぐ
「あ〜、くそ、ひっかかったか…」
影浦は澤田の術中にはまり嘆く。

そして、両チームホームベースに集まり、一例をする。

「…やっぱ、強いな…会田は」
影浦は白瀬に同意を求めるかのように話しかける

白瀬は澤田の元に駆け寄る
「今回もお前にやられたな…やはり、目指すのか?プロを…」
白瀬は影浦を半ばスルーして澤田にプロに行くか聴く。

澤田はフッと笑い
「…いや、まずは甲子園だ。当然プロを目指すが今は甲子園が最優先事項だ。甲子園に出て優勝した上でプロに行くことが目標だ。」
澤田は当然だ!と言わんばかりに言う。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/08/27 14:20 No. 36
      
第36話〜大会まで…〜

会田高校との練習試合が終わり2ヶ月がたち、氷水高校の野球部のグラウンドでは普段通り練習が行われいた。3年生部員はよりいっそう気合が入っていた。

それもそのはずだ、あと1週間ほどで白瀬や影浦たち3年生最後の大会が始まるのだから。
そして練習も激しくなりつつある。

橘は息を切らしながら
「…最近の練習…すっごい、キツいよね…暑いし練習量多いし…」
橘はくつろごうとしていると後ろから怒号が聞こえてきた。

「おい、橘ぁさっさとノックに参加しないか!」
大橋は声を荒らげ橘を呼ぶ

橘はビクッとしながら立ち上がりグラブを手に持ちセカンドの守備位置に向かう、しかしその足取りはフラフラであった。

荻野と紅等外野投手組は外野でポール間走を行う。
1時間したころだろうか、ようやく内野ノックは終わり内野陣には休憩が与えられる。

橘はハァハァと息をしながら仰向けに寝転がる。

高橋は2本ドリンクを持ち橘のとなりにへと向かう
「カズ(橘和巳)、お疲れ様」
高橋は軽く微笑みながらスッと左手に持ってたドリンクを差し出す。

橘はドリンクを受け取り
「あ、ありがとう…ございます。」
高橋に礼を言うとドリンクを飲む、しかし極度の疲れからかむせ返ってしまう。

「おいおい…大丈夫?落ち着いて飲みな?…カズ、君前々から思ってたけど守備凄いね、正直憧れるし羨ましいよ。それに元々三サードと聞いていたけどセカンドも上手いね、君…」
高橋は橘にボソッと話しかける

橘はキョトンとしながら
「え、ありがとうございます!いや…守備は僕…気がついたらうまくなっていたっていうか。中学の時にひたすら守備連させられていたんで…」
橘は照れくさそうに言う。

「…そうか。」
高橋は柔らかい表情で橘を見たあと空を見上げる。

練習後部室に部員全員が集合し大橋からレギュラーの発表があった。

「まず、投手背番号1は白瀬淳だ。」

「はい!」

「背番号2、影浦!…まぁ皆には悪いがこの2人は盤石だろう」

「はい、ありがとうございます!」

「ファースト、背番号3、島田!」

「はい!」

「そして、セカンド、背番号4は…橘!お前だ!」

橘の名前が呼ばれた瞬間に部室はオオッと歓声が上がる

「…え?僕…ですか?ありがとうございます!」
橘は満面の笑みを浮かべて喜ぶ

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/08/27 14:46 No. 37
      
第37話〜1回戦の相手〜

「サード、背番号5で高橋。頼んだぞキャプテン!」

「はい、分かりました」
高橋は気を引き締めるように言う。

結局レギュラーはこのように発表された

投手  白瀬  背番号1(3年)
捕手  影浦  背番号2(3年)
一塁手 島田  背番号3(3年)
二塁手 橘   背番号4(1年)
三塁手 高橋  背番号5(3年)
遊撃手 池田  背番号6(2年)
左翼手 斎藤  背番号7(2年)
中堅手 岡島  背番号8(3年)
右翼手 岡崎  背番号9(2年)

大橋は部室から出ると井上は大橋を追いかけるかのように部室を飛び出した。

「監督!なんで俺じゃなくてあの1年がレギュラーなんですか?俺はあいつより打てますし、しっかりと練習してきました!なんでですか!それになんで…なんでベンチにも入れないんですか!」
井上は感情をぶつけるように投げかける

大橋は井上の方を振り向かず
「確かにお前のほうが打てるが、セカンドとしての能力は橘に比べてお前のほうが圧倒的下だ、今までお前は何回守備でエラーを犯した?打てるかどうかよりあいつの方がセカンドとして安定するんだよ。」
大橋は冷たく井上に言い放つと校舎へと向かう。

井上は俯いた表情で部室へと戻る。

高橋は部員全員いることを確認し前へ出る。
「えーと、キャプテンの高橋です。本日レギュラー発表があり、惜しくもベンチ入り、または残念ながらスタンドで応援することになった部員もいますが…ここで終わりじゃあ、ありません。3年になってレギュラー取れなくて辛い思いしている人もいると思う、でも応援として我々に力を貸してください!そして全員で甲子園に行きましょう!」
高橋は代表として、挨拶をし、本日はこれで解散となった。

レギュラー発表から数日が立ち、いよいよ夏の大会が始まる。

氷水高校の1回戦の相手は座間工業高校との試合である。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/08/27 23:35 No. 38
      
第38話〜1年生レギュラー橘和巳〜

暑い夏の日差しが照りつける中全国各地で甲子園を目指し熱戦が繰り広げられている。
氷水高校は開会式の翌日第1試合、相模原球場で座間工業高校との試合を迎える。

アップを終え、試合開始を待つのみとなった。
先攻は座間工業高校、後攻は氷水高校なった。

両校ともホームベース前に集合し
「よろしくお願いします!」
気合の入った挨拶と一礼をすると、氷水高校ナインは守備位置へと散らばった。

「1回の表座間工業高校、1番ファースト飯田君」
ウグイスのアナウンスとともに飯田は打席へと向かう。

飯田が打席に入ると試合開始のサイレンが球場に鳴り響く。

橘は守備位置で一つ息を飲む
『や、やっぱ…緊張するなぁ…』
橘はまだ落ち着かない感じだった。

白瀬は投球モーションに入り飯田に対して、この試合の第1球目を投じる。

しかし、ややスライダーが甘く入り飯田に打ち返されてしまう。

打球は痛烈なあたりで一二塁間を抜けようかという打球に橘はなんとか捕球し、一塁に送球しようとしたがややファンブルしかけて、結局飯田に内野安打を許してしまう。

飯田は一塁ベース上から橘の背中にガンを飛ばす
『ちっ、あのクソチビ…ヒットになったからいいものの…俺のツーベースをもぎ取りやがって』
内心イラツイているのかずっと橘にガンを飛ばしている。

『…アウトは取れなかった、か…だが助かったぞ橘』
白瀬はホッと一息つく。

高橋はアウトにできなくて悔しがってる橘にニコッと軽く微笑む

「2番レフト吉田君」
2番の吉田が打席に入る。

白瀬は影浦のサインに頷き投球モーションに入り、吉田に対して第1球目を放る、やや真ん中高めに入るストレートが決まり、まずはワンストライクをとる。

影浦は白瀬に返球しながら
『今日はあまり制球力がいつもに比べるとないと見るか…ならば』
影浦は白瀬にサインを送り、白瀬もそれにうなずき、2球目を放る。

吉田は白瀬の甘めに来たシュートにつまり、橘の真正面へと転がる、橘は丁寧に捕球してしっかりとショートの池田へと送球し、池田から島田へと渡りゲッツーで打ち取る。

「3番キャッチャー子安君」

白瀬は子安を簡単に追い込むもそこから粘られ、8球目を弾き返される。

『今度こそっ…!』
橘は打球を追いながらしっかりと捕球し、今度はしっかりと一塁へと送球した。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/08/28 00:11 No. 39
      
第39話〜脅威の足〜

高橋は橘を出迎える
「カズ、いい守備だったよ…1回表全部君の守備機会だったね」
高橋は橘のことを相変わらず評価しまくりである。

橘は笑みを浮かべながら
「正直緊張しっぱなしですよ…やばいです、それに2番打者ですし…」
橘は帽子を取り、ヘルメットを被りネクストバッターズサークルへと向かう

「1回の裏、氷水高校の攻撃、1番レフト斎藤君」
斎藤が打席に入り、相手の投手高橋を迎え撃つ

絶対に何人かはいるのだが、斎藤もそのうちの1人なのかイチローの打席に入った時の真似をする。

高橋は初球タイミングをズラす目的で大きなカーブを投げ込む。
斎藤は外れると思い目線を切るがギリギリ入っていて、ストライクを先に取られる。

「う…ボールだと思ったのに」
斎藤は見逃したことを悔しがる。

2球目も同じカーブを投げ込み、今度は手を出して打ち上げてしまう。結局セカンドフライに倒れ、まず1アウトをとられてしまう。

「2番セカンド橘君」

橘は打席に入り、一礼する。

橘の耳にはブラスバンド部の演奏が聞こえてくる。

『す、凄い…ブラスバンド部の応援が…やばいまた緊張してきた…』
橘はようやく落ち着いてきた緊張がまたぶり返してきた。

「ットライーク!」

橘は初球をあっさりと見逃してしまう。

橘は2球目のストレートを打ちにいくがタイミングが全く合わずに空を切る。

子安は思わず笑いを堪えてしまう
『こいつ…全然タイミングあってねぇな、よくレギュラーに選ばれたもんだな』

橘は大きく外れた3球目を見逃し、4球目は打ちにいくも弱々しい打球が一塁側ファールゾーンへと転がる。
高橋が橘に対し5球目を放る。
橘は避けようとするが、腰にわずかに当たってしまう。

橘は一瞬痛がるがすぐに一塁へと向かう。

「3番ピッチャー白瀬君」
白瀬は打席に入り、バットを高々と構える

「打て!淳!」
高橋はベンチから白瀬に応援を送る。

白瀬は3番を任されているだけあって打撃も得意な方だ。

高橋は白瀬に1球目を放るが白瀬は豪快に引っ張り打球は三塁線を破り、レフトフェンスに直撃する痛烈な打球を放つ。

橘は打球を見ながら1塁、2塁、3塁へと駆け抜ける。橘が3塁をけった時にようやくショートの竹中にレフトの吉田から返球が行くも、竹中が本塁送球するときにはすでに橘はホームを駆け抜けていた。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/08/28 02:10 No. 40
      
第40話〜唖然〜

橘はホームベースを駆け抜けると満面の笑みでベンチに戻る。

「よし!先取点!」
池田はベンチでガッツポーズをする。

高橋は橘を頭をポンと軽く叩き
「カズ!ナイスラン!この先取点はとにかく大きいよ!それに相手に与えたダメージを大きいだろうね…多分、君の足に驚いてると思うよ」
高橋はまるで自分のことのように喜ぶ

一瞬の出来事だった…
白瀬が高橋の初球を打ち返し、橘が1塁からスタートすると…気がついたら橘はホームベースを簡単に駆け抜けていた。

この光景に観客全員…いや座間工業高校野球部、一部の氷水野球部員の唖然とさせた。

高橋は呆然としながらマウンドに立ち尽くす。
「ばかな…あそこまで速い選手見たことないぞ。吉田だってそこまで守備悪くないのに…嘘だろ…」
流石に動揺を隠せないようだ。

「あんなメチャクチャな1年いるかよ…ありえねぇ…」
飯田は軽く舌打ちをする。

子安はマスクを右手に持ちながら
「…電光石火の失点、あの足…次からマークせざるを得ないな…」
子安はそう言うとマスクを被り次の打者が入ってくるのを待つ

「4番キャッチャー影浦君」

大柄な体型の影浦が打席に入る。

高橋子安のバッテリーも影浦には要警戒して攻めてくるはずだろう。

影浦は外角低めが苦手な傾向があるというデータが頭にある子安はそこを中心に攻めてくるだろう。

高橋は影浦に対して第1球目を放るが、要求より高めにスッと入る。影浦は失投を逃さずに捉える。

───キィィィィン!

───いい音の金属音を奏でながら大きな放物線を描く。

───まるで、どこまでも描き続けそうな美しい放物線、その放物線はレフトスタンドの奥にあるネットに突き刺さる特大2ランとなる。

高橋はマウンドで天を仰ぐ。
高橋も油断したわけではないだろう、油断したくても己の実力を考えれば油断できない打者。

しかし、橘を追い込みながら死球を与え、次の白瀬に初球を痛打され、橘は俊足を飛ばし、一気にホームに生還される。ここでガクッと来たのだろう
そして、気落ちする間も無く影浦に初球を豪快にレフトスタンドへ運ばれる痛恨の被弾。たった2球で3失点してしまったという後悔と絶望が高橋の中には残ってしまった。

これで気落ちしたのか座間工業は氷水に打ち込まれ、結局氷水に7−0とコールド負けを喫してしまう。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/08/28 10:42 No. 41
      
第41話〜初戦突破〜

試合後のロッカールームはやはり汗臭い、それは運動してたっぷりと汗をかいたあとだから仕方ないとはいえば仕方ないのだが…

橘は着替えようとしていると白瀬が橘の元に駆け寄る。
「…いい守備だったな今日は…何度もお前に助けられた、助かったぞ、次の試合もよろしく頼む」
白瀬はそう言い終わると橘とグータッチをする。

橘は照れくさそうにしながら
「『実は記録にはなってないけど一つミスあるんですよね…』はい、頑張ります。白瀬さんも頑張ってくださいよ?」
橘はやや笑みを浮かべる。

影浦は橘の後ろに回りこんで橘に軽くチョークをかける
「お前、先輩に生意気な口調で話すなよ〜まだお前1年じゃねぇかよ!まさか調子乗ってるのか〜?」
影浦はニヤニヤしながら言う

「べ、別にそんなんじゃないです!調子乗ってませんよ…っていうかやめてくださいよ」
橘はやや嫌がり影浦から逃れようとする。

高橋は制服に着替え終わり
「やめておきなよ、勝一。…ホモくさいから」
高橋はやや毒をつく

高橋の一言で影浦は苦笑いするがロッカールームは笑いに包まれる。

橘は影浦から解放されるとさっさと制服へと着替える。

そして、結局一番最後に着替え終わって球場出たのは影浦である。

球場からの帰り道、灼熱の太陽が照りつける中帰らなければいけないのはやはり大変である。

白瀬は帰り道を歩きながらふと思いつく
「『唯一の1年生レギュラーで緊張しっぱなしだと思ったが…以外と溶け込んでるな橘も…』橘、この後暇あるか?」
白瀬は橘に問いかける

橘はキョトンとする
「え、いや別にありますけど、どうかしたんですか?」
橘は白瀬の唐突な誘いに驚いたままだ。

「いや、この後飯でも行かないか?って思ってな飯まだだろ。ここらへんにいい店あるの知ってるんだ」
白瀬は珍しく橘を飯に誘う。

「あ、はい。そうですね。行きましょう!」
橘は嬉しそうな顔をしながら白瀬についていく。

「珍しいな淳が後輩誘うって」
高橋は駅の方向から離れていく2人を見ながら、ふと呟く。

「ああ、確かにあいつが後輩を誘うのは見たことないな…たまに俺とお前、淳で飯に行くぐらいだしな」
影浦も高橋に同意しながら言う。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/01 15:17 No. 42
      
第42話〜2回戦対杉田高校戦〜

氷水の2回戦の相手は氷水が第2試合の杉田高校と決まり、杉田高校との試合当日を迎える。

この日はまだ7月だと言うのに地獄のように暑い…こんな時は試合などせず冷房の効いた涼しい場所でゆっくりしていたいものだ。というレベルの暑さである。

しかし、それでも高校球児たちは炎天下の中甲子園を目指し試合を繰り広げている。

「座間工業との試合みてわかったと思うが、氷水のあの1年は要警戒だぞ、悔しいが武の肩じゃあ…おそらく橘を刺すのは難しいだろう…だから絶対に橘を塁に出すな!頼むぞ、アンディ!」
杉田高校の監督橘高はアンディに檄を飛ばす

アンディは無言で頷く。

アンディは杉田高校の交換留学生として杉田高校に滞在している。日本語はある程度喋れるが素行が悪く教員からはあまり好かれてはいないがスポーツに関することにはまじめに取り組むので体育会系の教員、生徒からは非常に好かれている。

しかし、学業の成績が乏しく、一学期終了と同時にアメリカに帰国する予定であったが、橘高の頼みにより夏の大会終了まで日本に滞在できるようになった。

アンディは1回戦は先発で9回を僅か2安打で投げきり初戦を突破している。

「杉田高校か〜あの学校運動部自体は目立った実績ないけど交換留学生制度があるから毎年運動部に外人がいるんだよね…だから油断はできないのが厄介だな…」
高橋は準備運動しながらぽつりと言う

氷水のアップが終わると大橋は今日の試合のオーダーを発表する。

「今日の杉田高校の試合は前の試合とはちょっとオーダーを入れ替えました。
1番セカンド橘、2番サード高橋、3番ピッチャー白瀬、4番キャッチャー影浦、5番レフト斎藤、6番センター岡島、7番ショート池田、8番ファースト島田、9番ライト岡崎、今日はこのオーダーで行きます。」
大橋はオーダーをたんたんと発表する。

橘は1番と聞いた瞬間に鳩が鉄砲を食らったような顔をして驚く。
「…え?僕が1番…ですか?」
橘は大橋に確認するかのように尋ねる。

「ああ、打撃に課題があるのは事実だが座間との試合で魅せたその足なら1番においておく価値がある」
大橋は橘に1番においた理由をあっさりと言う。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/02 23:23 No. 43
      
第43話〜アンディ対橘〜

球場の時計が13時20分をさしたころ、両軍のベンチから選手が元気よく飛び出しホームベース上に整列する。

「「よろしくお願いします!」」

何人か気の抜けた間延び挨拶があるのはご愛嬌。

杉田高校のナインが守備位置に付き、アンディが投球練習を始める。

橘はベンチ前で素振りして試合開始を待つ。

橘が打席に入ると球審がプレイボールと合図をするとともに試合開始のサイレンが鳴り響く。

橘はアンディの大きさに苦笑いするしかなかった。
『で、でかい…190cm近くあるんじゃないの?あの人…』
身長わずか160cmの橘からすれば実身長よりさらに大きく見えるはずだ。

アンディは見下した眼で橘を見る
『おいおい、小学生が高校生の大会に出ちゃあいけないぜ』
アンディは薄ら笑みを浮かべてしまう。

薄ら笑みを浮かべたまま橘に対して初球を投げる。

橘も勢い良く打ちに行くが完全に振り遅れてしまう。

影浦はベンチでやや呆れながら
「ど真ん中の甘い球を振り遅れて空振りか…」
影浦は呆れつつも仕方ないかという顔で橘を見守る。

杉田の捕手高島は笑いを堪えながらアンディに返球する。

橘はアンディの直球に振り遅れたのを苦笑しながら
『いや…これ、アレだよね?というより外人使うのってアリなの?いいんすか?外人使って…すいませ〜ん、この大会って外人投手出ていいんですか?いや、反則だよねこれ…きっと反則だよ…打てるわけないよこんなん』
苦笑しているが、心のなかでは半ばあきらめ気味なのか余計なことまで考えてしまう。

アンディは返球を受けるとリズムよく投げたいのか2球目を即座に投げる。

橘は強振する勢いで振りに行くが、2球目もやはり振り遅れ、今度は勢い良く空振りしたおかげか尻もちをついてしまう。

流石にこの光景には杉田高校からは失笑が起きる。
それだけではない、スタンドにいる杉田高校の応援、また味方である氷水高校の応援している人も一部笑ってしまう

橘にレギュラーを奪われ、挙句の果てベンチ入りできずにスタンドで応援している井上は橘の光景に苛立ちを隠せなかった
「っざけんなよ、あのクソチビが!なんで、俺があんなチビにレギュラー取られなきゃなんねぇんだよぉ!」
当然橘の耳には入るわけないが井上は感情のぶつけどころがなかった…。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/02 23:55 No. 44
      
第44話〜アンディ対橘2〜

「おいおいしっかりやれよ〜1年〜」
杉田高校のスタンドから橘をやや小馬鹿にした声が多々聞こえる。

橘はヘルメットを一時的に深く被りユニホームについた砂をはらう、橘の耳に野次は聞こえないが笑い声だけはしっかりと聞こえてきた。

『まるで素人だぜ…リトルリーグレベル以下だぜ…このチビは…さてどうしてやるか…』
アンディは高島のサインを見ると一瞬驚くが直ぐに不敵な笑みを浮かべ、投球フォームに入る。

アンディが橘に対して3球目を投げる。

スッポ抜けたのか、3球目は橘の顔面付近に投げ込んだ。
橘は「うわぁ」と弱々しい声を出してボールを避け、またしても転んでしまう。

『カズ…』
高橋はネクストバッターズサークルで橘を見守る。
「今のは武の指示だな…あいつは背が低かったり少しでも弱そうな打者だとすぐにああいうことやりやがる…試合が終わったらいい加減言わんとな」
杉田の監督橘高は呆れながら試合を見つめる。

高島はもう1球体の付近に投げ込むように指示し、アンディもそこに投げ込む。

橘は少し怖がりながら避ける、しかしこれで並行カウントとなる。

アンディは橘に対して5球目を投げるが、今度は橘がまだやや振り遅れているが初めて前へ飛ばす。

橘は手がしびれたのがバットをおいて両手をパタパタさせる。

アンディは高島のサインに頷き橘に対して6球目を投げる。
またしてもストレートを投げ込む、ここまで橘に対しては全てストレートである。

しかし、6球目はやや高めに入る、橘は打ちに行くがどん詰まりの打球になり、3塁側に転がる。

アンディが打球を処理したときはすでに橘は1塁を駆け抜けていた。

橘にとってはきれいなヒットではないが高校野球で公式非公式含めて初ヒットとなった。橘には足がある、だからどん詰まりでゴロになったらヒットになる確率も高い。

橘はホッとした顔をしながらアンディの背中を見てふと考えこむ
『そーいえば、よくプロ野球とか見てると外人投手って俊足のランナー出して、ランナーが盗塁する動作するとイライラするよね…この人もそうなのかな?』

「2番サード高橋君」

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/03 21:34 No. 45
      
第45話〜Rapid Express Tachibana Kazumi〜

「2番サード高橋君」

高橋はフーッと一息吐いてから打席に入る。
スイッチヒッターのため、高橋は右のアンディに対し左の打席に入った。

『カズを散々コケにしてくれたようだね…そのツケはきっちりと耳揃えて払ってもらうよ…!』
高橋は冷静な顔とは反比例し内心は怒り心頭だ。

橘はスーッと1歩、2歩…3歩とリードを少しづつ広げる。

アンディが牽制の動作に入るとスッと橘は1塁ベースに戻る
橘は1ベースからまたリードを大きく広げる、今度はアンディは牽制球を投じると同時に瞬時にベースに戻る。

当然タッチされる前に帰塁したのでセーフだ。
橘はもう一度リードを広げるが、すぐに帰塁する。

アンディは背中越しで橘を殺すような目つきで睨みつける。

高橋への初球を投じた瞬間、橘はスタートを切る。
そして高橋も打ちに行くが、打球は痛烈なファールとなる。

アンディは球審からボールを受け取ると首を横に回す。

橘は懲りずにアンディを煽るかのごとくリードを大きく取る。
アンディはやや強い送球をする。

際どいタイミングだがこれも橘が間に合いセーフだ。

『あのクソチビ、粋がりやがって…潰すぞ…』
アンディは橘の見込み通り苛ついて来た。

高橋はアンディの様子を見ながら
『あの様子…可愛そうだけどもう少し地獄を見せてあげなきゃ俺の気がすまないよ…』
高橋はベースをトントンと叩く

アンディは高橋に対し2球目を投げる、高橋は空振りするがその間に橘は2塁盗塁を成功させる。

アンディは高島からの返球を受けると1つ大きな声で叫んだ。

高橋はバットを短く持ち替えアンディの投球を待つ。

しっかりと見極めながらストライクゾーン来たボールは尽くカットする
8球目、9球目、10球目…

フルカウントから高橋に11球目にアンディはついに堪えたかボール球を投げてしまい、高橋はフォアボールとなる。その間に橘は2塁から3塁を陥れる。

「3番ピッチャー白瀬君」

アンディの投球と同時に高橋は盗塁を試みて2塁を狙う、高島はそれを見て即座に2塁に送球する、高橋は2塁への送球を突然ハーフウェーで止まる。

「ホーム!」
高島が叫び、2塁手もホームに返球する、しかし橘は返球が来る前にホームを踏み、高橋はその間に再度2塁へ進塁した。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/08 00:35 No. 46
      
第46話〜アンディの復活〜

「結局やられたい放題でいきなり失点か…」
橘高は肩を落とす

その後1回表は白瀬の進塁打、影浦敬遠の後5番の斎藤の犠牲フライでもう1点加点して1回表を終えた。

1回裏白瀬はきっちりと三者凡退で抑える

「2回表、氷水高校の攻撃7番センター岡島君」

『へっ、追加点とってとっとと試合決めちまおうぜ!』
岡島は自信満々にバッターボックスに入る

アンディはフーッと一息吐いてから捕手の方を向く。

アンディの額からは既に大量の汗が噴き出している。

高島のサインに頷き、投球フォームに入る。

ゆったりとしたフォームからボールが投げられる。

アンディから投げられたボールは真ん中寄りにスーッと行く

岡島は「しめた!」と思い打ちに行くが岡島が打つ瞬間ボールは急にストンと下に落ちる。

岡島は振りに行ったバットを止めることはできず空を切ってしまう。

『今のは…』
岡島はアンディの1球にやや驚く

影浦はベンチでアンディと岡島の対決を見ながら
「今の落ちる球…淳、お前のフォークと同じぐらいの落差じゃないか?」
影浦は隣で戦況を見守っている白瀬に話を振る

白瀬は残念そうに首を横に振り
「いや、俺のフォークはあそこまで落ちない。…だが、アレが決まり始めると厄介だな」
白瀬は残念そうな顔をした後険しい顔をする

「…ああ。」
影浦は白瀬の一言に頷く

アンディは制球に不安があるため2球目、3球目と外れてボールになってしまう。

アンディは帽子を取り汗を拭う。汗を拭っても拭っても汗が出てくる、それくらい今日の日差しは強い。

岡島に対しての5球目は落差のあるチェンジアップを使い三振を奪う。
アンディは岡島から三振を奪うと波に乗ったかのように池田、島崎とチェンジアップを有効に使い連続三振に切って取る。

アンディは初回以降完璧に立ち直りランナーを出しても後続を打ち取り無失点で抑えるという快投を見せる。

9回裏に入り、白瀬は肩で息をしながら打席のアンディと相対していた。1点差に追い上げられランナーは2塁3塁、アンディは長打力があるため長打を打たれれば逆転サヨナラ負けになる。

白瀬は影浦のサインに頷きアンディに対し渾身の1球を投げ込む、アンディのバットは白瀬のボールに当たることなく空を切り試合が終わるとアンディは悔しさから天を仰ぐ

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/08 01:15 No. 47
      
第47話〜もう1人の1年生〜

氷水は3回戦、4回戦と着々と突破し準々決勝で現在は湘南商業高校に6回で5対0と大量リードを広げていた。

大橋は腕を組みながら
『この点差があれば…試せるか?』
大橋はスッとベンチから出て選手交代の指示を出す。

そしてウグイス嬢が選手交代についてアナウンスする
「氷水高校選手の交代です、ピッチャー白瀬君がレフトに入り、レフトの斎藤君代わりまして紅君が入り、ピッチャー。3番レフト白瀬君、5番ピッチャー紅君以上に変わります」

白瀬はベンチからレフトに向かい、

背番号10を付けたもう1人の1年生はマウンドへと向かう

橘は笑みを浮かべながら
「クレ、緊張しないで落ち着いてね」
橘は自分が公式戦初出場した時の事を棚に上げ言う

「…お前が言うな、たっちー。…とはいえ高校に入って公式戦のデビューか…楽しみだぜ」
紅は少し不敵な笑みを浮かべる

「紅、シニア時代は全国を経験しているらしいが…それでもここは高校野球だ、油断するなよ!しっかりと腕振って投げろ!いいな!」
影浦は早口で紅に言うと軽く右胸をどつく

「6回裏湘南商業高校の攻撃は4番ファースト七野君」

紅は影浦のサインに頷きオーソドックスな投球フォームに入る

初球は内角低めをつくストレートだ。

影浦は捕った時にやや違和感を感じた
『…気のせいだといいんだがな」

七野はバッターボックスの砂をならしながら
『スピード出てないな…本当にあの紅優生か?』
七野は去年シニアの大会で名前を騒がせたあの紅優生なのか疑問に思った。

スピードが出てない、七野も影浦もここに違和感を生じたのだろう。

紅は早いテンポで投げ込み相手に考える隙を与えない
七野は紅相手にあっさりと三球三振で討ち取られてしまう

紅は緊張感を感じさせない投球リズムで相手を淡々と打ちとっていく。

スピードこそは出ないがそれでも相手は紅に手こずり凡打の山を築く。

紅は7回、8回、9回と回を増すごとに少しずつスピードが出てきた、そして9回の先頭打者1番の南相手に今日最速の142kmのストレートが真ん中高めに決まる。

2球目も甘く入りライト方向を狙われるがこちらも同じ1年生の橘の好捕によって阻まれる。紅はこの回も三者凡退で締め氷水高校は準々決勝を勝ち上がったが、最後まで影浦の紅に対するとある「違和感」は消えなかった。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/08 11:58 No. 48
      
第48話〜決勝の相手は…〜

試合終了のサイレンが鳴り響く

「「ありがとうございました!!」」

両チーム一礼するとともにこの瞬間は勝者と敗者が決まった瞬間である。

スコアボードの方に目を向けると西横浜高校対氷水の対戦結果は…

氷水の9回裏に3xとスコアが記載されている。

3対5で氷水高校でサヨナラ勝ちとなっている。

9回裏は橘凡退の後高橋白瀬と連続安打の後影浦が起死回生の逆転サヨナラスリーランをライトスタンドへと叩き込んだ。

影浦は笑顔でベンチに戻るまで何度もガッツポーズを繰り返す

ロッカールームに戻ると白瀬は影浦を出迎える
「サンキュー勝一、お前のおかげだ。俺がもう少し抑えていればここまで苦戦しなかったな…ナイスホームラン!」
白瀬はやや笑顔を浮かべながら影浦とハイタッチする。

「ふ、しかしハマスタは広いな…狭い狭い言われてるけど高校生レベルから見れば広いわ」
影浦は喜びを全面に出しながら言う

「あと一つだ!あと一つ!気を引き締めて行くぞ!」
高橋は冷静に話そうとするが声は興奮している。

氷水は創部初の県大会決勝進出のためなのか大喜びだ

紅はアイシングしている白瀬のところに行き
「白瀬さん、横浜スタジアムのマウンドってどうでした?」
紅は同じ投手だからか白瀬に横浜スタジアムのマウンドの感想を求める。

「…俺的にはちょうどいいな、投げやすいな…」
白瀬は自分の感じたことを素直に紅に伝える

氷水野球部ナインは着替え終わると即座にロッカーを出て外で大橋から軽い話があった後全員で横浜スタジアムのスタンドに入り決勝の対戦相手が決まる試合を観戦する。

やはりほぼ客席は埋まっているため立ち見で見るしかなかった

「新横浜高校と保土ヶ谷工業高校?」
橘は対戦相手を見てキョトンとする。

橘の隣で見ている高橋はフッと笑い
「ん?ああ、保土ヶ谷工業はここ近年力をつけてきた高校だよ、まぁ新横浜については…説明の必要はないよね?」
高橋は橘から見れば優しくてよくしてくれている先輩だろう、今回も橘に優しく教える。

どちらが勝ち上がり、氷水高校と決勝をやりあうのか…どちらが勝ち上がっても油断ならない相手だ。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/08 12:27 No. 49
      
第49話〜澤田の異変〜

埼玉県でもこの日高校野球埼玉大会の決勝が行われていた。

「ボール!フォアボール!」
球審がそう宣言すると澤田はまたしても苦しそうな顔をする。

3塁からランナーがゆっくりと帰ってくる。

スコアボードを見ると試合はまだ4回表で春日部中央高校が会田高校に2点ビハインドをつけられている。

「おい、どうした澤田!いつものお前らしくないぞ!」
田口はマウンドに行き澤田に声をかける。

「…うるせぇ、とっとと…戻れなんでもない…」
澤田は田口を追い払う素振りをする。俯いててよく顔が見えないが、辛そうな顔に見える。

田口は舌打ちしそうになったところを我慢しながら守備位置へ戻る
『澤田が制球難とはいえここまで制球難な時はなかったぞ』
田口はマスク越しから澤田を心配そうに見る。

「5番レフト川口君」

状況はこの回突如制球を乱し、4者連続四死球を与え、相手に1点献上しなおもノーアウト満塁とピンチが続く。

澤田は躍動感のあるフォームから川口に対し第1球目を投げる。

「ットラーイクッ」

パシーンとミットに突き刺さるいい音が鳴り響く。
スピードガンに計測されたスピードは今日最速の150kmに球場はどよめく

澤田はボールを力強く受け取る。
そして顔を歪めながら全力で腕を振り川口をねじ伏せに行く

これも真ん中高めに決まるが川口のバットは空を切る

『最早、痛みなど関係ないわ!甲子園に行くのは俺達だ!』
澤田は気合を入れて川口に対し3球目を投げ入れた瞬間

───今まで感じたことのない電撃が澤田の体内に突き刺さる感覚に陥る

川口は三球三振を喫し、田口が澤田に返球しようとした矢先、田口は顔色が変わる

マウンド上で澤田は肩を押さえて蹲っていた。
顔は苦悶の表情、額から溢れ出る脂汗

「澤田ーーー!」
田口はマウンド上に駆け寄ると衝動的に叫んでしまう。

会田高校のベンチから扇が飛び出してくる。
…どう考えても澤田は続投不能だろう。澤田は扇に抱えられベンチに下がり、

無情の投手交代を告げられた。

結局試合は澤田を欠いた会田は後続が打ち込まれ逆転負けをしてしまった。

一方場面はかわり神奈川県ではすでに試合が終わったのか白瀬達は帰りの電車の中だった。
白瀬は携帯をいじくりながらとあるニュースに目が止まり
「なにっ!?」
と声が出てしまった。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/08 16:00 No. 50
      
第50話〜決勝戦始まる〜

白瀬の目に止まったのは「会田高校・澤田拓一(3年)負傷降板」という記事だ。

記事によると
「プロ注目の会田高校3年の澤田拓一は春日部中央高校との試合中4回表の川口を三振に打ちとった直後肩を押さえてマウンド上に蹲った、その後マウンドに戻らず負傷降板となった。
怪我の状況次第ではプロ注目右腕から手を引く球団が多そうだ。」

白瀬はやや落ち込んだ表情を見せる
「澤田…悔しいだろうな…怪我もそうだがチームも…」
白瀬は負傷した澤田に同情するかのような口調で言う。

「淳、気持ちは分かるが…明日勝とうぜ」
影浦は白瀬を慰めるかのようにポンと肩を叩く

翌日の横浜地方はこれ以上にない快晴で決勝に相応しい天気とも言える。
横浜スタジアムは決勝のチケットを買い求める客が暑い日差しの中朝からずっと並んでる客もいる。
横浜スタジアムはシーズンより高校野球決勝のほうがよく入ると皮肉られるがどうやらそれも嘘ではなく紛れも無い「事実」のようだ。

氷水高校が守備練習終わる頃、いつの間にか開門の時間になったのか球場の外で待っていたお客がゾロゾロと入ってくる。

橘は客席を見渡したながら
「凄い人…今からこんな中で試合やるの…?緊張するよ…」
橘は足がやや震えている感じがした。

「まぁ、流石は神奈川県大会決勝と言うところだね…」
高橋も客席を見渡す。

決勝の対戦相手である新横浜高校と守備練習が入れ替わる形で氷水は一度ベンチに下がる

白瀬は守備練習を始める新横浜を見ながら
「新横浜高校…昨日の試合見て改めてここ相手には油断できんというのは分かった…だが俺が打たれなければいい話だ!」
白瀬は自らを奮い立たせるように言う

今日の試合には新横浜高校の生徒、氷水高校の生徒も見に来ているのを見ると決勝戦というのを実感させられる。

大橋は野球部全員集め話を始める
「え〜、後もう少しで今年の神奈川県大会決勝が行われます、相手はご存知の通り名門校の新横浜高校です。ですが、ここまで来たらどこが相手かも関係ありません、後1つ勝って!甲子園に行きましょう!悔いのない試合で勝ち上がって全国へ行こう!」
大橋は力強く言う。

20分後両校がホームベース上に整列した。

「「よろしくお願いします!!」」

試合前の挨拶が終わり、いよいよ決勝戦が始まる。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/16 01:31 No. 51
      
第51話〜試合開始〜

「守備につきます新横浜高校、投手大野君、捕手高野君、一塁中津君、二塁小川君、三塁迫田君、遊撃蓑田君、左翼中野渡君、中堅河野君、右翼後藤君」
ウグイス嬢が守備位置を投手から順に読み上げていく。

マウンドでは大野が高野にボールを投げ込み投球練習を行っている。
ミットにパシーンといい音がなるボールが何球も続く

客席は横浜スタジアム名物であるみかん氷を食べる人や、団扇や扇子で少しでも暑さを和らげようとする客が多い。

「1回表、氷水高校の攻撃は…1番、セカンド橘君」
ウグイス嬢がアナウンスするとともに橘はバッターボックス手前で一度お辞儀してからバッターボックスに入る。

「プレイ!」
定刻より5分遅れの12:05にプレイボールがかかる。

横浜スタジアムに鳴り響くサイレンは今までのとはやや違う特別な感じに橘は聞こえた。

大野は投球フォームに入り、ゆっくりと第1球目を投げ込む。

「ットラーイッ!」

橘は打ちに行くが手が出ずに見逃してしまう。

『この子の足が脅威なのは初戦と2回戦で知られている。…でもね。』
高野はマスク越しから橘を見上げる。

そして少しすると立ち上がり守備陣に守備位置を伝達する。

この季節にスポーツはただでさえきついのに防具をつけている高野は倍暑く感じるだろう。

新横浜の守備陣は少しずつ少しずつ前へ出てくる。
一塁手と三塁手が投手の位置と同じ位置まで出て、二塁手、遊撃手は定位置よりやや前、レフトは元々ショートがいた位置にセンターはセカンドベースの後ろ、ライトはセンターの定位置で構える。

『超極端な前進守備…』
橘は守備位置を見ると顔を曇らせる。

しかし、守備位置を見ると内野は6人、外野は1人。
センターの頭を越えれば橘の足なら余裕でランニングホームランだが…。

高野は再び座り、大野にサインを送る
『…橘君だっけ?かわいそうだけど…君には外野は1人で十分なんだ…。』
高野は橘を同情するような眼をするが、やってることはエゲツがない。
しかし、それも橘の打撃成績を見れば仕方ないのかもしれない。橘は今大会わずか1安打、それも内野安打。
打率に直すと.045と1割にも満たない数字である。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/16 01:57 No. 52
      
第52話〜屈辱の橘シフト〜

大野は腕をだらんとさせて、高野のサインに頷く
『まだ1年で初の公式大会の決勝でこんなことされたらかわいそうだよね、敵ながら同情するよ、けどよ…』
大野は橘にやや同情しながら橘に対し2球目を投げ込む。

橘はムキになってフルスイングするもバットに当たらず空振りしてしまう。

「ストライクツー!」
球審の判定が橘の心に強く突き刺さる。

大野は高野から返球を受けながら
『けどさ、投手から見ると打者がこうアンパイだとちょっと楽なんだよな…』
大野は薄ら笑みを浮かべていた。

橘に悪いと思いつつ、まずアウトを計算できる打者がいるだけ投手にとってこれほど楽なことはない。

「うぅ〜、あのシフトなんだよ〜和巳ちゃん(橘)がかわいそうだよぉ!ねぇ!甘奈もそう思うよね!?ね?」
3塁側に氷水高校の応援に来た同校の女生徒である。早坂恵理はぶぅ〜と頬を膨らませていた。

甘奈は「え?私!?」というリアクションをとってから恵理の方を向く
「…ごめん、私野球詳しくないから…分かんないよ。たまにお父さんが見ているのをチラッと見るだけだから…そうね、野球好きの恵理が言うならそうなのかもね…。」
甘奈はやや口を濁すように言う。

しかし、2人共と遠くから見ると生徒とはわかりにくいぐらい日焼け対策を施していた。

「たっちー…」
茜はベンチでスタンドで見ている恵理と甘奈と同じことを思ったのか心配そうな顔で橘を見守る。

『なんだよこれ…なんなんだよ…』
橘は心の中でなんども同じ言葉を繰り返す。

大野は橘に対し3球目を投げる。

3球目はドロンと落差の大きいカーブだ、橘はバットを出さずに見逃す。

「ボール!ボールワン!」
大野のカーブボールはやや高めに外れ、ワンボールとなる。

橘はホッと胸を撫で下ろすが顔は笑ってないし、どちらかといえば辛そうな顔をしていた。

『…悪いな、1年…でもこれも経験だと思ってくれ!』
新横浜の監督小田はベンチで足を組みながら冷静に宣教を見つめる。

大野は橘に対し4球目を投げ込む。

『僕を…僕をなめるな!』
橘は半ギレになりながら大野の4球目を力強く引っ張る。

しかし、打球は橘シフトにまんまと引っかかり、サードゴロとなる。

橘は歯を食いしばり俯きながらベンチへと戻る。
ベンチに俯きながら戻る橘の小さな体はやや震えているように見えた

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/16 02:33 No. 53
      
第53話〜消沈の橘〜

屈辱的な極端な前進守備、橘シフトにひっかかりサードゴロに倒れた橘は俯きながらベンチへと戻ってきた。

橘は影浦にポンと慰めるかのように背中を叩かれる。

橘は元気なくベンチに座り込み、俯く。
『なんで…どうして…どうして、どうしてなんだよ…今まで野球やってきたあんなこと…どうしてなんだ』
橘は頭の中が思考停止してしまっているのか言葉のレパートリーが極端に少なくなっていた。

橘が俯いているといつの間にか攻撃が終わっており、気持ちの整理がつかないままセカンドの守備位置へとつく。

高橋は守備位置に向かいながら白瀬に話しかける
「淳、出来るだけセカンド方向に打たれないようにしてくれ。」
「わかってる、…だが無茶言うな、打たせて取ることはなんとかできるがセカンド方向に打たせるなってのは無茶ありすぎだぞ…」
白瀬はやや肯定しつつも高橋に反論する。

白瀬はワインドアップから影浦に向けて投げ込み、投球練習を行う。

「1回の裏、新横浜高校の攻撃は1番ショート蓑田君」

1番の蓑田が打席に入るとガラリと会場が変わったような錯覚に陥る。

まるで、ここは音楽館か?と。

その錯覚の実態は新横浜高校ブラスバンド部の美しい演奏が原因である。
新横浜高校ブラスバンド部は全国でも有名である。
野球部にそのブラスバンド部の応援がついているというのは、非常に心強い相棒だ。

しかし、白瀬はブラスバンド部の威圧感のある演奏に興味ないからのように淡々と投げ込み簡単に蓑田を追い込む。

白瀬は影浦のサインに頷き、3球勝負で行こうと蓑田に投げ込む、しかし蓑田は白瀬のスライダーにくらいつき、セカンド方向へと飛ばす。

橘は必死に打球を取りに行く、しかし送球しようした矢先に手から汗なのか、緊張からなのか滑ってボールを落としてしまう。

スコアボードにはE4と表示され、蓑田の出塁に喜ぶ1塁側の大声援が橘の耳に鳴り響く。

白瀬は仕方ないという顔で橘にアイコンタクトを取る。橘は折れそうな心をを必死に繋ぎ止める。

「2番ライト後藤君」

後藤は打席に入るやいなや白瀬の初球を強引に引っ張って打つ。
打球はまたしても橘の方へ転がる

橘は捕球にややもたつきながら送球する。

しかし、送球は無情にもショート池田の頭を越え、レフト方向へ転々とする。

橘は俯き下唇を噛む。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/16 11:26 No. 54
      
第54話〜1塁3塁のピンチ〜

守備が上手い橘がまさかの連続エラーでピンチを作ってしまう。

やはり、橘シフトにより心を折られかけて直後にセカンド狙われて2回続けてエラー…、それに加え負けられない決勝戦、そして新横浜高校の大応援が響き渡る。
橘はこれほど辛いことはないだろう。

「『やはり、あいつの言うとおりセカンドはまだ厳しいか…俺も狙って打たれてるわけではないがな…』橘!ドンマイドンマイ!リラックスして、落ち着いて」
白瀬はエラーをして落ち込んでる橘の方を向いて橘を励ます。

橘は軽くお辞儀するが、今の橘にとってからみればその白瀬の激励が胸に突き刺さるほど辛い。
橘の頭のなかでは励ましてくれているのは分かるが逆に追い込まれいている、そんなような心理的状況に陥ってしまう。

「3番サード迫田君」

迫田は右打席に入り声を上げる。

『こっからが問題だぜぇ、淳!』
影浦は迫田を見上げながらここからが難関だと判断した。

『問題はこいつからだな…今の橘からするとここで俺がランナー返したらあいつは確実に…潰れる。ただでさえ、潰れてかけているのに必死に自分で折れた心を食い止めている、だが、不用意に打たれた俺があいつを追い詰める原因になった1つでもある』
白瀬はランナーに目で牽制しながらここからどうするべきか最善の策を考える。

そして、迫田に対し第1球目を力強く投げ込む。
迫田は打ち返そうと打ちに行くがバットが空を切る。

『ちっ、速いな…』
迫田は舌打ちする。

白瀬は迫田に考える暇を与えずに即座に2球目をテンポよく投球フォームに入る。
2球目も速球が外角高めにパシン!とミットにいい音をたてながら決まる。

白瀬が3球目を投げようと投球フォームに入った瞬間、後藤は1塁からスタートし、迫田も白瀬の球を弾き返そうと打ちに行くが、ボールは迫田のバットから逃げるかのようにカクンと落ち、バットは空を切る。
影浦は捕球すると即座に2塁ベースカバーに入った池田に投げ込む。

際どいタイミングだったが、僅かに影浦の送球が勝り、三振ゲッツーとなりこれで2アウトだ。

「4番セカンド小川君」
そして、プロ注目のスラッガー小川が打席に入る。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/22 17:19 No. 55
      
第55話〜白瀬対小川〜

小川が左打席に入ると観客の目線は一斉に小川に集まる。
高校3年間で打った通算本塁打は45本塁打を記録し、上位指名が確実と言わしめる逸材だ

白瀬は小川を見つめながら
『…今年の夏の大会は調子いいが…一時期調子を落としたと聞く。ま、だからと言って気は抜けないが…気負いすぎてもいけないが…面白い』
白瀬はフッとマウンドで軽く笑みを浮かべる。

白瀬は影浦のサインに2回クビを横に振り、3回目でようやく頷く。

投球フォームに入り、白瀬の右腕からボールが放たれる。
小川は足を上げ、白瀬の白球を打ち砕こうとフルスイングで打ち向かう。

しかし、白瀬のストレートは小川のバットに当たらずにミットに入る。
小川のスイングスピードは早く、空振りした瞬間に心地の良い風と風を切った音が影浦の耳に聞こえてた。

影浦は白瀬にサインを送るがまたしても白瀬は首を横に振る。

『まさか…淳!お前…ちっ、打たれても責任もとらんし知らんぞ俺は』
影浦は白瀬の意図に気づき半ば諦め気味に白瀬の要望通りに投げさせるようにサインを送る。

白瀬はスッと足を上げ、投球フォームに入り腕を力いっぱい全力で振り、ボールを投げる。
小川は白瀬の速球に力負けしないようにさっきより始動を早くする。

しかし、それでも白瀬の速球に振り遅れバットは空を切ってしまう。

『この俺が…速球に2球続けて空振りだと…?俺は真っ直ぐに強いんだぞ!?ふざけるなよ』
小川はやや自分に苛立つ

白瀬は3球目もストレートにこだわり、ストレートを投げ込む。

『なめるな!』
小川は白瀬の3球目を打つもののバックネットにある金網にあたり「ガッシャーン」という音が響く。とともに客席からは「おぉ〜」という声が上がる。

白瀬と小川の力勝負に応援に詰めかけた客は視線が釘付けだ。

白瀬はとことんストレートに拘り、またしても力押しで小川をねじ伏せようとする。

小川は5球目を捉え、心地の良い金属音とともに打球も美しい曲線を描くがわずかにファールとなってしまう。
白瀬と小川の勝負に1球ごとに歓声が上がる。

白瀬は歯を食いしばり力いっぱい6球目を投げ込む。

小川は白瀬の6球目を打ち砕こうとするが、白瀬の直球はまるでバットから逃げるかのように僅かにホップしたように見えた。

小川のバットは空を切り、白瀬は力で小川をねじ伏せた。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/23 00:48 No. 56
      
第56話〜影浦シフト〜

白瀬の6球目はとある球団のスカウトが持っていたスピードガンに154kmと自己最速を上回る数字を計測されていた。
「小川を見るために来たが…あの投手も悪くないかもな…まっすぐはいい。」
そのスカウトはノートに何かを書き込んでるようだ。

「よし、いいぞ!白瀬!よく抑えた。」
大橋は白瀬を嬉しそうに出迎える。

「…小川の時のこだわりは正直焦ったぜ…でもまぁ、よくやったぜ」
影浦は苦笑しながら白瀬とグータッチする。
嬉しそうな顔を浮かべるものが多いなか、橘は1人憂鬱な表情でベンチに戻る。

「2回の表、氷水高校の攻撃は4番キャッチャー影浦君」

左の大砲が小川なら右の大砲は影浦と神奈川県大会では騒がれた4番対決、偶然にも小川を打ちとって直ぐに回ってきたのがこの影浦だ。
炎天下の神奈川県大会、どうやら見どころは多そうだ。

『うちの小川を双璧の右の大砲影浦勝一か…高校では目立った成績ではないがツボに入った時の打撃は驚異的だな…』
高野は守備陣に合図を送り、自ら守備位置に座り、大野にサインを送る。
新横浜の守備陣はやや後ろに下がり左よりに少しずつずれ、二塁手がセカンドベースの真後ろファーストが一塁と二塁の中間にいるという影浦の長打に特化した影浦シフトを敷く

影浦はそのシフトを見ると軽く舌打ちをする。
『ちっ、まーた影浦シフトか…こいつにゃあ嫌な思い出もあるが…まぁ、もう慣れっこだがよ…相変わらず姑息なんだよ高野は、あん時のこと思い出すじゃねぇか』
影浦は常日頃から長打力をマークされて影浦シフトという引っ張りに警戒したシフトを敷かれることが多く、影浦自身一度それで打撃を崩したことがある。

「高野といい、監督の小田といい、頭が良すぎるな…うちの各選手の特徴ごとにシフト取りやがって、それを実行できるバックも流石は強豪校と言ったところか…」
大橋は気難しい顔をしながら戦況を見つめる。

球場の温度はおそらく簡単に40度近くまで上がっているであろう。
今日に限って無風、風が吹いても生暖かい熱風しかふかない。

そのため、両軍とも体力を大きく奪われながら試合を行っている。
試合はまだ2回が始まったばかりだ。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/23 01:21 No. 57
      
第57話〜大野対影浦〜

決して心地の良い風ではないが、風がふき、砂埃が舞い上がる。

砂埃が収まり、プレーが再開すると「おぉ〜」と盛り上がる。その原因は何なのか?

大野の方に視線を向けると大野は軽く笑みを浮かべながら影浦に対し直球勝負を大胆に予告した。

高橋はベンチで苦笑しながら
「淳、彼…大野は君と小川の直球勝負に対向する気なんじゃないのかい?」
高橋は大野の直球勝負の宣言を見ながら言う

白瀬はフッと笑い
「…いや、それもあるかもしれないが…自身があるだけだ。直球だけであいつを抑える自身を…」
白瀬は影浦は抑えられる可能性が高いというニュアンスで高橋に答える。

白瀬の言葉通り、影浦は小川とは違い速球に振り負けることが多々あり、影浦はカッとしやすい性格。大野と高野のバッテリーはそこを読んだのであろう。

大野が投球フォームに入ると影浦はグッとバットを力強く握る。

大野の左腕から白球が投げ入れられる。

宣言通り直球が投げ込まれる
影浦は対抗してフルスイングするが、バットに当たらず高野のミットにボールは入る。

大野は2球目も直球を投げ込む、影浦はやや振り遅れボテボテなゴロがファールゾーンに転がる。

影浦は早くも追い込まれながら際どいコースの直球はつまりながらもカットしながら粘る。

粘っているうちにボール球も増えてきて、カウントをフルカウントまで持ってきた。

『…制球難なところで粘られてるな俺…』
大野は苦笑しながら高野からの返球を待つ。

真ん中高めに甘く入った直球を影浦は完璧に捉える、しかし僅かに左にきれ、ファールとなる。

『あっぶねぇ〜』
大野は胸を撫で下ろす

影浦の痛烈な当たりに新横ナインはど肝を抜かれたであろう。

『…打ち損じてくれて助かったぜ影浦…カットはしているがやはり頭はカッカッしているようだな…」
高野は不敵に微笑む

『うぜぇな、しかし今の打ち損じるとは…ったくあいつにもイライラするし、今の仕留め切れなかった自分がうぜぇ』
影浦は先ほどに比べてもイライラしているのは分かる。
まるでこの暑さで茹だって湯気が出そうな、それくらいイラツイているように感じる。

大野は投球フォームに入り影浦に対し12球目を投げ込む。
影浦は打ちに行くが、どまんなかの直球に完璧に振り遅れ空振り三振に倒れてしまう。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/29 00:56 No. 58
      
第58話〜ピンチ〜

試合は膠着状態のまま、6回まで終わる。
白瀬はランナーを再三出しながら、要所をきっちりと締めるピッチングで得点を与えず、逆に大野はここまで被安打2とほぼ完璧に氷水打線を封じ込めている。

時間は2時を指し、未だに日差しは衰えるどころか強さをますばかり、おそらく今部屋にいてテレビをつけたら熱中症で○人病院へ搬送されたという報道が出てもおかしくない。

「7回裏、新横浜高校の攻撃は1番ショート蓑田君」

新横浜の切り込み隊長蓑田が打席へと入る。しかし、蓑田は白瀬と相性が悪く、今日はここまで3三振を喫している。

白瀬はこの回、初球は内角にスライダーを投じる。
蓑田はのけぞってボールから避ける。

「ボール!ワンボール!」

白瀬は影浦から返球を受けると帽子を取り、汗を拭う

白瀬は蓑田に2球目を投じる、蓑田は白瀬のボールをしっかりと見ながらスッとバットを出す。
コツンとしっかりとバットに当たり、まるで芸術のように転がる、高橋が捕球し、送球しようとするも既に蓑田は1塁を駆け抜けていた。

「…意表を突かれたか。くそ」
白瀬は疲れからかやや顔から余裕が消えてきている。

「2番ライト後藤君」

白瀬は影浦のサインに頷き、しっかりと腕を振り、この試合100球目を後藤に投げる。
やや高めにスゥーと入り、後藤は見逃さずにしっかりと振りぬく
振りぬいた打球はレフトフェンスに直撃し、もう少しでホームランという当たりであった。

しかし、蓑田はホームに帰ってこず、3塁で止まってしまう。
蓑田の脚力を考えれば余裕でホームを陥れることはできたのだが…一先ず氷水にしては助かっただろう。

『気落ちしている場合じゃない…ここをしっかりと抑えなければ…』
白瀬はしっかりと抑えなければと気合が入る、逆に気合が入りすぎていないか心配になるほどだ。

「打てー迫田ー!」 「ここで決めちまえー!」
新横浜の応援スタンドからは迫田に声援が飛ぶ。
いや、声援というよりは合唱に近い。

「お前も続け、迫田。ここで俺とお前で点を取るぞ!」
小川は迫田と一言二言かわす。

「3番サード迫田君」

「っしゃあああああああああ!行くぜぇ!」
迫田は声を出しながら気合を入れ、打席へと向かう。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/29 01:15 修正1回 No. 59
      
第59話〜先取点〜

新横浜の応援のボルテージが次第に上がっていき、ドンドン声が応援が大きくなっていく。
新横浜の応援は疲弊している相手投手にとっては耳障りで、これほど鬱陶しいと感じることはないだろう。さらに相手打者と対戦し、ピンチを抑えなければいけない。
新横と対戦する時の試練ではあるのだが、回が進めば進むほど手強くなる、新横の応援。まるで蟻地獄にハマったかのように。

さて、白瀬は迫田をどう抑えるのだろうか?いや、抑えることはできるのであろうか?

白瀬は肩で息をしながら影浦のサインを見る。
若干右足が攣ってる感じがある、帽子のツバからは滝のように汗が流れ落ちる。

白瀬は影浦のサインに頷き迫田に対し第1球目を投げるが、高めにスッポ抜ける。

白瀬は投げ終わった後、足を気にする。
大橋は白瀬の異変を察知し、一度ベンチに下がる。
ブルペンで投げている紅はペースアップして、仕上げを急ぐ。

審判団も氷水ベンチ前に集まる。

白瀬は水を美味しそうに一気飲みし、ペットボトルに入ってた水を飲み干してしまう。

白瀬はホッと一息つくと大橋の方を向く
「監督、俺を変えないでください!俺はまだ行けます!」
白瀬はやや強めの語尾で言う。

「だが、その様子を見れば脱水症状だと分かる、無理はするな!変わった方がいい!」
大橋は白瀬を必死に説得しようとする

「監督!俺は変わって後悔したくない!後悔するなら打たれて後悔したほうがマシです!俺はまだ投げれる!」
白瀬の言葉は力強く、目にも闘志が宿り、執念を感じる。
大橋は白瀬を説得するのを諦めたか、白瀬を再びマウンドへと送り出す。

白瀬は試合が再開すると、迫田に渾身の投球を続ける。

4球目を力で抑えに行き、迫田も打ちに行くが打ち損じしてしまう

打球はフラフラとセカンド後方への大飛球となる。
前進守備を敷いていたため、橘は必死に打球を追いかけ、皮肉にも身長が足りないため、ダイビングキャッチを試みる。

なんとか、捕球するが橘が体勢を戻して送球しようとする間に蓑田は3塁からタッチアップし、無情にもホームを踏む。打ち取ってた、打ち損じてくれた。でも打ち損じた分…得点へとつながってしまった。

続く、4番の小川に甘く入った変化球を完璧に捉えられ、痛恨の2ランホームランを被弾する。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/09/29 11:47 No. 60
      
第60話〜劣勢〜

小川は満面の笑みを浮かべながらダイヤモンドを一周する、白瀬はマウンド上で天を仰ぎながら悔しがる。

痛恨の1球だった、橘が意地でワンアウトもぎ取るも蓑田が好判断でタッチアップし、ホームを陥れ、新横が先取点もぎ取り、さすがの白瀬も気落ちしたようで、失投があまくど真ん中へと吸い込まれ、小川は簡単に失投を捉えた───

白瀬はその後、5番の高野に出塁許すも、なんとかその後を打ち取り、3失点で7回裏を抑える。

ベンチに戻ってくる氷水ナインの顔は暗い、終盤に来てついに新横に失点を許したからだ。

『僕がもう少し早く送球してればあの点は防げたし…相手に点をやることもなかった…』
橘は自らの送球がワンテンポ遅れたことに悔やむ。
しかし、悔やんでも先ほどのイニングはやり直すことができない。

「1番セカンド橘君」

橘は嫌そうに辛そうに打席へと向かう、相当橘シフトで精神的にキテいるのであろう。
空は晴れているが、橘の心の中の天気は今にでも雷雨が降り出しそうなぐらいの曇った天気ではなかろうか。

さて、大野はここまで投げて被安打2ではあるが四死球は9つ与えているにもかかわらず自責点は0だ。
橘が打席に入ると、再び橘シフトを敷く。
このシフトが橘を精神的に追い詰めている原因だ。

橘の顔つきは今にでも泣き出しそうな顔だが必死に涙をこらえている様子にも見えなくはない。

大野は橘に対して簡単にストライクゾーンにボールを集める、他の打者に対してはボール先攻の苦しい投球なのにだ。
橘は長打がほぼ皆無のため、ストライクゾーンに投げても痛打は食らわず、またカットもあまりできないため。大野にとっては楽な打者には違いない。

『大野〜、他の打者にもこういう投球してよ〜』
高野は苦笑しながら心の中で大野に訴えかける

『はぁ…ここまで野球やってきて辛いことはなかったなぁ…試合が一番楽しいのに…こんな辛い思いするならこの試合おわったら辞めよっかなぁ…』
橘はもう心がほぼ折れかかっており、小さな脆弱な紐でその折れかかっているものを吊るしているにすぎない。そんな状況だ。

この打席も橘は強引にうちに行くも橘シフトにひかかってしまい、簡単にアウトとなり、後続簡単に討ち取られ、無得点で8回表を終了する。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/10/04 22:08 No. 61
      
第61話〜意地〜

白瀬は8回裏を三者凡退に抑え、3点のビハインドのまま9回表の攻撃が始まる、この回先頭の影浦が大野の初球を捉え2点差へと縮める。

「勝一、ナイスホームランだ!」
高橋は笑みを浮かべて影浦を出迎える。

「ああ、皆まだ諦めるなよ!試合はまだ終わっちゃあいない!」
影浦は気を引き締めるように言う。

その言葉通り、氷水ナインは火がついたのか眼の色が変わる。

だが、5番の斎藤6番の岡島と連続三振に倒れてしまい窮地に追い込まれてしまう。

「7番ショート池田君」

池田はやや緊張しながら打席に入る
『おいおい、影浦先輩の一撃の後簡単にツーアウトか…クソッ…でもまだ俺がアウトにならない限り…』
池田は簡単に追い込まれるもそこから驚異的な粘りを見せフォアボールを勝ち取る。
『まだ…試合は終わらない!』
池田はフォアボールを選ぶとドヤ顔で一塁へと向かう。

「8番ファースト島田君」

大野は肩で息をしながら、島田に対して第1球目を投げ入れる。しかし、疲れからか真ん中やや高めに吸い込まれるように入る、島田はそれを見逃さずに打ちに行く

バットがボールに当たると美しい金属音を奏でながら打球は放物線を描き飛んで行く

「入れ!入るんだ!」
島田は祈るように打球を見つめながらベースを回る。

しかし、僅かに入らずにライトフェンスに直撃する間に島田は2塁に到達、池田は3塁で止まる。
9番の岡崎が打席に入ると高野はおもむろに立ち上がり、岡崎を敬遠し、歩かせる。ここまで橘は全打席橘シフトでやられ、大野とは絶望的に合ってない。岡島に比べれば橘のほうが怖くないという判断なのだろう。

「1番セカンド橘君」
橘は俯きながら打席に入る。
『試合が終わったら辞めよっかなぁ』
橘は精神的に堪えているのかやや不貞腐れているようにも見える

大野は初球、2球目と簡単にストライクを取る、そして橘に対して3球目を投じる、どうやら3球勝負で行くつもりだ。

『…僕をいい加減なめるな!』
橘は甘くどまんなかに入ったボールを力いっぱい振りぬくと痛烈なゴロでレフトの横を抜け、返球する間にランナーは全員ホームを踏み、橘は2塁の到達する。
橘は起き上がると子供みたいな満面な笑みを浮かべ2塁ベース上でガッツポーズを決める。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/10/05 10:17 No. 62
      
第62話〜勝者と敗者〜

橘の後続はあっさりと打ち取られ、追加点は取れなかった。
だが、橘に逆転打を放たれたのは大ダメージだろう。

「よし、このままリードを守りぬくぞ!」
影浦がそう言うと、氷水ナインは「おう!」と答える。
9回裏、この最後の攻防で甲子園行きの高校が決まる。

しかし、白瀬は簡単に打たれ、ノーアウト2塁3塁の大ピンチを招いてしまう。

『個人的には彼に注目していたが…体力が予想以上に無いな…』
とある球団のスカウトは白瀬の情報をメモ帳に書きながら戦況を見つめる

「7番キャッチャー高野君」

一打サヨナラ優勝の可能性があるだけに新横の応援はドンドンとボルテージが上がる。

『くそ、ボールが思うように行かない…だがこの回をこの回さえ凌げば…俺達が甲子園に行けるんだ!』

白瀬の渾身の投球に高野は太刀打ちすることができずに、三球三振を喫してしまう。

「8番ファースト中津君」
中津はバットを短く持ち白瀬の速球に対応しようとするが。バットに当たらず、中津も三振に切って取られる。

「9番ピッチャー大野君に代わりまして川村君」
高野に代わり、スラリとした体型の川村が打席へと向かう。坊主頭ではあるが所謂イケメンの部類に入る顔立ちでどことなく可愛らしさを感じられるからか異性からは人気がありそうだ。

「影浦先輩、お久しぶりです。」
川村は満面の笑みで影浦に挨拶する。

「…挨拶するとは礼儀正しいな、俺も久々に話したいことがあるが今はそんな状況ではない」
影浦は川村の方を向かずに言う。
白瀬は直球主体で押しに押しツーストライクと追い込む。

『これで…決める!』

白瀬が投じたラストボール、決して油断したわけではない。しかしボールは甘く高めへと抜ける。

川村は驚きながら打ち返すが、打球はファースト正面に転がる。

「ちっ…」
島田は打球に合わせることができずに綺麗にトンネルしてしまう。

橘はカバーしようと打球に飛びつくが───

無情にも、グラブの先端に打球が当たりファールゾーンへと転がり出る。
すると次の瞬間、新横浜側のスタンドからは大歓声が上がる。
打球が転々とする間にランナーは次々へと帰り、新横浜が逆転優勝を決めた。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/10/05 10:42 No. 63
      
第63話〜終戦〜

マウンドで悔しさからか下唇を噛みしめる白瀬
『…終わった』

影浦は呆然と歓喜にわく新横浜を見つめる。
やはり、全員ショックの色が隠せない。

橘は打球を弾いたところで座り込み涙をこらえきれずに「ウッウッ」と声を出しながら泣き始めてしまう。

まだ試合後の整列が終わっていない。
なんとか、整列し試合後の一礼をする。

そして、ロッカールームに戻ると橘は俯き再び泣き始めてしまう
「白瀬…せんぱぁい、3年の先輩方ごめん…なさい…。」
橘は大粒の涙を流しながら自分の最後の守備を悔やみながら謝り続ける。

影浦の目は赤く充血しているが、涙を流さないように必死に堪えている感じだ。

白瀬はフゥと一息ついてから橘の方を見て
「…いや、いい。気にするな」
白瀬は橘を慰めるように言うが、まだ悔しさが残っているのが見え取れる口調だ。

橘にとっては相当辛い一日だっただろう。
橘シフトで泣きそうになるぐらいの屈辱を味わい、最後には逆転サヨナラを許す痛恨のエラー。これで折れないわけがない。

高橋は着替え終わると橘の肩をポンと叩き
「俺達は残念ながら甲子園には行けなかった、でもそれは決して君のせいじゃない、力がなかっただけだよ。
…あんなシフトを敷かれたり、そして最後のあのプレーは責められない。結果的には辛いことになったけど。よく飛びついた。ファインプレーだよ、でもカズ、君達はまだ5回甲子園に行くチャンスが残っている。
だから俺たち3年生の分もこれから頑張ってくれ!今日は辛くて涙が止まらないかもしれない…でもね、カズ…止まない雨はない。…っとこれは失恋した人に言うことかな?まぁいいかな?それにとある歌で流した涙はいつしか光へと変わるというフレーズあるだろ?あの通りだよカズ、今日の悔しさ、涙は絶対に力となる!だから…腐らずに頑張れよ!」
高橋は橘を慰めるかのように優しく声をかける。
実力的には白瀬影浦には遠く及ばない、選手としてもこれと言った特徴はない。だがキャプテンに任命されたのはこの人柄の良さだろう。

「…はい、ありがとうございます…。」
橘は先程よりは落ち着いたがまだ涙は止まらない。

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/10/05 17:31 No. 64
      
第64話〜1年グループ〜

神奈川県大会が終わり、翌日から新チームが発足した。

新キャプテンには2年池田が指名されたが、池田は拒否し、新キャプテンは池田の推薦で紅となった。
いつもポーカーフェイスを装っている紅も流石にこれには驚きを隠せなかった。
本日は新チーム誕生後初の練習休みなので、1年生達はどこかに遊びに行く予定と立てていた。

「あ、荻。おはよう。」
橘は荻野に手を降って荻野に声をかける。

「浩一君遅いよ〜もう。…これで後はえりりん(恵理)と紅君だけか。」
茜はむぅ〜と頬を膨らませる

荻野は苦笑しながら橘たちのもとへと向かう
「ごめんごめん、ちょっとお姉ちゃんと話してたら…つい、ね?」
荻野は手短に遅れた理由を言う。

荻野は橘な茜と話していると、10分後ぐらいに紅と恵理が到着する。
「ごめ〜ん、遅れた〜。あ、ギノッチ(荻野)だ〜久しぶり〜なんかさ、夏の大会中に出てないし一言も台詞無かったよね!?この小説の主人公なのにね」
恵理は茜に軽く謝ると荻野を見つけて声をかける。

「悪いな、早坂と待ち合わせしてて遅れちまった。」
紅は申し訳なさそうな顔をする。

甘奈はため息を1つつくと恵理の近くへと行く
「メタ発言はやめなさい、白けるわ」
恵理の頭を軽くポカッと叩く

「いてて、痛いよ〜甘奈〜ってクレ、わざわざ駅で待っててくれてありがとうだよ〜一瞬私彼氏いたっけ?と勘違いしたよ〜」
恵理は少し痛がる素振りを見せてから紅に話をふるが、紅は表情を崩さずに恵理の発言をスルーした。

荻野は恵理の発言に苦笑浮かべながら
「何言ってるかわからないんだけど…有田さんもそうだけど…一応ベンチには入ってたよ。…出番無かったけど、僕も出たかったな」
荻野は遠目で橘と紅を羨ましそうな目で見る。

紅は荻野の発言聞くとフッと鼻で笑い
「…まぁ分からんでもないが、まだお前バッティングフォーム固まってなかったじゃないか。それに、高橋先輩の言葉を思いだせよ。」
紅は荻野に軽く言い返す。

「…一応全員揃ったし、そろそろ移動しようよ。ここ暑いし」
橘は一瞬顔が曇り、話題を即座にかえここから移動しようと言う。

6人とも少し大きめの荷物を持っている、さてどこに行くのだろうか?
いや、持っている荷物から想像はつくか

個別記事閲覧 Re: 頂点を目指せ 名前:アチャ日時: 2013/10/14 10:15 No. 65
      
第65話〜海水浴〜

集合場所近くのバス停からバスに乗り、バスにゆられること15分たち、バスから降りると、独特な匂いを感じる。

目の前には砂浜が広がる、荻野達は海水浴に来たようである。

「江ノ島か…こっちに引っ越してきたけど、来たこと無かったわ。」
甘奈はボソッと呟く。

恵理は目をキラキラ輝かせながら
「やっぱ、夏と言ったら海水浴だよねー。この間おニューの水着買って良かったー、企画してくれてありがとね、和巳ちゃん!さ、早く水着に着替えよ〜よ」
恵理は嬉しそうに甘奈の背中を押しながら海水浴場の更衣室に足早に向かう。

女子3人組より、少し遅れて、荻野たちも男性側の更衣室に向かう。

「…俺は異性と遊びに来たのは初めてだな…というより、遊ぶこと自体久々だな。たまに部活帰りにお前等とコンビニによる程度だ。練習や勉強する時間が多いし、弟ともよくやるからな。」
紅はフッと笑う

橘は目を点にするかのごとくに紅の発言に飛びつく
「へぇ〜、そうなんだ。意外だねって、クレ、弟いたんだ!?」
橘は紅に弟がいるということに驚く。

「ん?ああ。佑樹って言うんだ。まだ中2だけどな。背はお前たちよりデカイぞ」
紅は橘のリアクションをスルーしながら答え、そして背の小さい橘と荻野を少し煽る

橘は紅の煽りに、ムッとするが、荻野は苦笑しながら着替える。
着替え終わると、外に出て女性陣を待つ。

「おまたせだよ〜どぉ?可愛いでしょ〜」
恵理は明るい声で橘たちと合流する、後ろから遅れて甘奈と茜がやや恥ずかしそうに合流する。

「3人とも可愛いじゃん!さ、早く泳ごうよ」
橘は素直に女子の水着を見ながら感想を言う

荻野は茜を見つけると顔が赤くなったような感覚に陥る
『…茜ちゃんの水着も結構可愛いな、中1の時の水泳の授業でスク水は見たことあったけど…それに胸も結構あるんだ…って何を考えているんだ、僕は…』
荻野は茜を見るが直ぐに視線を外す。もう一度チラ見をしそうになるが、自重する。いつまでも見ていたいが、気づかれたらリアクションに困るからだ。まぁ年頃男子らしい恥ずかしがり方ではある。

甘奈は茜から視線を外す荻野に心の底でため息をする。
「…茜、私達も行きましょ」
甘奈は茜の手を引くように海の方へ向かう。