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〜第34話・大引のルーツ〜 大引健太は,元プロ野球選手である大引成留の子として生まれた。 捕手であった父親の影響を強く受けた彼は,幼少期より捕手の英才教育を施された。 「施された」と言うよりは自ら教えを「乞うた」のである。小学生に上がる少し前の事である。 この時期は,誰だって主役になりたがる。 誰もがこぞって,投手や遊撃手などメジャーなポジションをやりたがる。 そんな時期にあってただ一人,大引健太は「キャッチャーしかやりたくない」と言い張った。 もちろん父の影響がかなり大きかっただろう。しかしそれ以前に,大引健太は捕手の魅力を誰よりも理解していた。 ダイヤモンドの収束点に陣取る扇の要。グラウンド内すべてを見渡せる特等席。 選手を鼓舞し,投手の能力を引き出し,そして自らの配球で相手の打者を翻弄する…… 大引にとって,これ以上の主役の座は考えられなかったであろう。 ここから,捕手・大引健太の野球人生が幕を開ける。 時間は飛んで小学3年生の秋。大引は,この歳では考えられないほどの配球術をすでに確立しつつあった。 しかし,それと同時に露呈したのは「打撃の弱さ」。 基本的に捕手はあまり打撃を得意としない。野村克也や古田敦也などの超一流を除いては。 しかし,彼の父・大引成留はその超一流の中の一人であった。 そのようなこともあり,大引健太は常に超一流であろうとした。それも「父を超える」存在に,である。 9歳にして父親ほどのミート力は自分にないと自ら悟った彼は,磨き上げるべき点を「飛距離」に絞った。 それからというもの,捕手としての練習の合間にバットをひたすら一心不乱に振りこんだ。 練習後もグラウンドに残り,何百,何千と振った。 小学生のする練習量ではない。 彼の幼い手は,マメとタコによってボロボロになっていった。 しかし,彼の上達への執着心は凄まじく,「疲れ」という当たり前の感情すら上回っていた。 結局,シーズン終わりに自宅へ帰ってきた成留に止められて練習量は落ち着いたが,それでも他の少年たちに比べて異常なほどの練習にのめり込んでいた。 こうして,彼の小学校生活6年間は終了した。 その後地元中学に進み,当然のように硬式野球クラブに入った直後,彼の積み上げてきたモノが一気に開花することになるのである。
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