|
- 〜第32話・終盤戦〜
広島は林原のホームスチールで1点を追加し3対0。しかし2番の御村はショートゴロでゲッツー。3番の隆浩も三振に倒れ、試合は終盤7回。 清水は降板した工藤に代わり、最近は中継ぎとして大成しつつある沢村をマウンドへ送った。 先発補強のためにとトレードで抑え2人を輩出して獲得した沢村だが、ここ最近は伸び悩んでいた。 清水が沢村の2軍調整を考えていた時、投手コーチである前田が中継ぎへのコンバートを勧めたのだ。 最初は戸惑いもあったが、清水もやるからには、と辛抱強く起用し、ついには中継ぎで13イニング無失点という記録を打ち立てた。 それ以来、沢村は中継ぎとしての起用が主流となってきたのである。
『読売ジャイアンツ、選手の交代をお知らせいたします。 7番、小林に代わりまして、宇和。背番号06』
ここで巨人の阿部は、ショートの坂本を代える前提で代打に宇和を送った。
「沢村、ちょっといいか」 足場を均しながらロジンバッグを手に取っていた沢村のもとに大引が駆け寄ってきた。 「ヤツとは恐らくお前は初対戦だろうから情報を教えてやろう。あいつの名は宇和 慎太郎(うわ しんたろう)。本職はショートだから恐らくこの回の終わりに坂本と交代して守備に入るだろう。あいつの武器は堅実かつ広い守備範囲を持つショートの守備だが、バッティングに関してもヒット性の打球を飛ばすのが上手い好打者だ。塁に出たら完全に盗んだ盗塁もしてくるから気を付けろ。だから、持っている変化球を織り交ぜながらストレートで押していくぞ」 「了解です」 できる限りの早口で聞き取りやすい説明を終えた大引は駆け足でサークルへと戻っていき、沢村も落ち着いた様子で深呼吸をした。
「やっと上がってきたか宇和よ」 大引はすれ違い際に囁いた。それに対し、宇和も楽しげに答えた。 「そりゃあいつまでたっても2軍なんか居られませんからね。……っていうか沢村もそっち行ってたんスね」 「単なるトレードだよ」
|