個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/02/24 18:26 修正6回 No. 38
      
〜第15話・歓喜〜
工藤の剛速球で、相手の5番打者をファールフライに打ち取った。しかし、工藤は自分の肩に違和感を覚えていた。ブルペンで投げ込んでいた時から
気にしてはいたが、大したことは無かったためそのまま登板した。そして相手打順は6番井上。違和感を覚えながらも全力投球する。
高めにきわどくボールになった。第二球目もインハイに高く外れ、球が早くも浮いてき始めた。
工藤に異変があると判断した大引は、審判にタイムを告げると、マウンドに駆けて行った。
「工藤、お前もしかして肩が痛いんじゃないか?」
大引は目を細めながら言った。
「だ、大丈夫ですよ大引さん。ほ、ほら!」
工藤は笑いながら大雑把に肩をぐるぐる回してみせた。しかし、大引には分かっていた。肩に違和感がある事を。
「隠すな工藤。お前は一軍の守護神なんだぞ」
「う・・・」
工藤は黙り込んだ。そして、しばらくしてから言った。
「ブルペンに入った時から違和感があったんです。でも、大したことはなかったのでそのまま登板したんですよ」
「そうだったか・・・よし工藤、お前、今日はちょっと休んだ方がいい」
大引は冷静にベンチを見ながら言った。しかし、工藤は反対した。
「いえ投げます、俺は守護神ですから。チームに迷惑をかけることはできません!」
この言葉に大引は厳しく言った。
「何を言ってるんだ工藤! お前が肩を壊せばそれこそ大迷惑だ! お前は守護神なんだろ? 今日壊して残りの試合で投げれなくなったらどうするんだよ!」

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/02/26 18:26 修正2回 No. 39
      
大引は工藤を見つめながら続けた。
「俺は高校時代キャッチャーをやっていた。そしてある日の試合での事だった。エースの投手が肩の痛みを訴えたんだ。俺は大したことはないと続投させたんだが、それが大間違いだったんだ! あと一人で勝利と言う時にエースの肩が悲鳴をあげ、野球というスポーツの道を諦めざるを得なくなった。だから! お前をアイツの二の舞にさせたくない!」
工藤はこの言葉を聞き思った。投げられるだけでも幸せなことだと。そして工藤は降板を選んだ。
「大引さん、俺が間違ってました。肩が回復したら、この試合の分を自分の最高のピッチングで取り戻します!」
そういって工藤はベンチに戻った。

広島東洋カープ 選手の交代をお知らせいたします 
ピッチャー 工藤に代わりまして 神庭 背番号24

「よっしゃあ―――! ワシの出番ですのー!」
ベンチから威勢よく神庭が飛び出してきた。
「な、なにぃ!? あ、あいつピッチャーも出来たのか!?」
神庭はなんと世にも珍しい二刀流だったのだ。さらに、しっかりと変化球も習得していた。
「驚きましたよ監督。代打の切り札である神庭がピッチャーも出来るなんて」
投手コーチの健太が苦笑いしながらつぶやく。
「あいつは金の話になるとどこでも志願するからな・・・」

個別記事閲覧 Re: プロ野球・鯉の陣!U 名前:広さん日時: 2013/03/02 19:48 修正2回 No. 40
      
神庭はマウンド上で慣れた手付きでロージンの粉を手に付け、息を吹きかけた。
そして腕を軽く何回か回すと、ボールを背中の後ろへ持っていき構えた。まさに本格派投手の様だ。
そして第一球目。うなりを上げてなかなかの速球がストライクゾーンを通過する。
スピードガンでは141キロだが、神庭の球は手元に来てからホップするかのように伸びる。相手打者にとってはかなり打ちにくい球だった。

ストライク!

第二球目、神庭は容赦なくストライクを取った。キレのいいカミソリの如き速球。カウントは2ボール2ストライク。
神庭はマウンド上で手首を回すと、大きなフォームから第三球目を投じた。
しかし、この球は1,2球目の球と違いまぎれもなく遅い。しかし、打者の手元から不規則な変化になった。ナックルだ。
しかし神庭のナックルは一味違った。変化量が普通のナックルに比べて大きい。パームとナックルの中間だ。
6番打者の井上は、タイミングを大きく崩された。しかし、バットコントロールには定評がある井上は、辛うじてバットの先端へ当てると、
隆浩の守るライト方向への犠牲フライを打ち上げた。
「隆浩―――ッ! バックホ―――ム!」
大引が叫ぶ。隆浩はその言葉をはっきりと聞きとると、振りをつけるために後方へ3歩下がり、前に走りながらキャッチングした。
3塁走者阪田はすかさずタッチアップ。隆浩も自分の力を出し切ってホームへ返した。
「行けぇ―――――ッ!!」

ビシュッ!!

隆浩の気合いを込めた送球は弓のような軌道を描いた。大引はその送球をベース上で捕球し、思い切りタッチした。
とてもきわどいクロスプレーだ。セーフと言ってもアウトと言ってもおかしくない。本当に微妙なタイミングだ。そんな中出た判定は・・・

アウト! アウトォ――――!

隆浩は刺した。ベンチからはまるで優勝したかのようにチームメイト達が飛び出て来た。
(やったな隆浩・・・もうお前は立派な1軍のレギュラーだ)
清水が心の中で言うと、微笑みながら大声で言い放った。

「ナイスプレー隆浩!」