個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2014/01/05 02:04 修正1回 No. 101
      
第101話〜レギュラー陣〜

時は程よく暑い5月から夏本番の7月に飛ぶ。
暑いが夏服になるため、男子高校生のとってはある意味至福の季節かもしれない。
紅がアメリカでリハビリを続けている最中、日本では夏の大会が始まろうとしていた。
今年の氷水高校は1回戦からの登場である。
また、レギュラーはこのようになった
1黒木
2吉村
3諸口
4橘
5蓮本
6池田
7稲本
8荻野
9松井

荻野は手渡されたレギュラー番号の8を見ると笑みが零れ出る。

「ちぇ、荻野先輩もレギュラーか〜まぁ俺も勝てなかったし仕方ねぇか。」
松井は安心しきってる荻野を現実に戻すかのような口調で言う

「ま、まぁ…君もレギュラーに選ばれたしいいじゃん。そこは…僕を蹴落とす気でいたのかい?」
荻野は少し言葉に詰まる

少し間を置いて松井は口を開く
「入部の時にイキってあんたに負けないって宣言しちまったからな。それに8番取られたのが悔しいっす。次こそは負けません。」
松井は自分のレギュラーポジションであるセンターを取られた悔しさを露わにする。

「うちらは2回戦からの出場だが"氷水"高校としての夏は今年で最後だぞ。来年度から比叡国際高校と名が変わるんだからな。で、オーダーは…今から伝えておくぞ、1番セカンド橘!2番センター荻野!3番ショート池田!4番キャッチャー吉村!5番ライト松井!6番サード蓮本!7番ファースト諸口!8番ピッチャー黒木!9番レフト稲本!基本的このオーダーで行くぞ、橘!荻野!お前たちの快足コンビを見せてみろ!」
大橋は檄を飛ばす。

そう、氷水高校は来春を持って学校名が変わる。元々留学制度はあるが、留学制度を格段と強化するために学校名そのものをかえるということらしい。

「すげーじゃん!ルナ!1年ながら4番ってさぁ!」
蓮本は目を輝かせるように吉村の肩を揺らす

「やめろ、トシ。別に自慢するほどのものでは…まぁ任されたからには期待には応えてみせるがここで、1年で4番だからって自分に自惚れないことだ。大体最近1年から4番とかエースとか騒がれた奴で大勢したやつなんて、あんまいないんだ。縁起のいいもんじゃねーし、自惚れたらそこまでだ。じゃあな、トシ」
吉村は4番に選ばれてもそこまで喜ばずに、練習が終わり下校時間になると蓮本と軽く会話して帰っていく。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2014/02/23 17:20 No. 102
      
第102話〜池田と荻野〜

金属音と金網に白球が当たる音が一定のタイミングで聞こえてくる。

「いいぞ、オギ!強く振れるようになってきたじゃないか。後は実践で結果を出せるかだけだな。」
池田は荻野にボールをトスしながらしゃべる

「…ありがとございます。まぁ実践で結果出てないんで、野球が甘くないのは、僕もわかっていますけどいい加減欲しいですからね。」
荻野は少し間を置いてから口を開きながらトスされた球を打つ。

「おいおい、お前にしては冷たい反応だな。まぁいいけど。」
池田は荻野の反応にやや呆れる

「…まぁあの時は軽く流すようにやってた自分が悪いし、ヘラヘラしてた僕が悪いんで怒られて当然ですけど、正直あの時はそこまで言うかって思いましたし、言っちゃあ悪いですけど頭には来ましたけど、結局のところ僕が悪いことには変わりないので、まぁ僕のタメを思って言ってくれたのはありがたいんですけど…。それに完全に嫌ってるなら、池田さんと練習後に2人でこうやって練習はしませんよ?」
荻野は池田のことをどう感じているかはっきりと言うが、自分のために言ってくれたということは理解してはいるようだ。

池田は舌打ちしそうなのを我慢しながら
「ずいぶんとはっきりと言うな…お前。まったく…。まぁいい、そりゃあ言いたくなるわ、持っているものはいいのに全然それを生かせてないし、生かす気もないからな。その上熱意というか執着心っていうものがないからな!
俺みたいな小粒な選手からしたらお前の能力が羨ましいよ。っと、そろそろ時間か。ボール片付けてラーメンでも食って帰るか。」
池田はフッと笑い散らばったボールをボールケースに片付け始める。

「『羨ましい…か。』そうですね。行きましょう!」
荻野はバットケースにバットをしまうとボールも片付け始める

片付け終えると駅の近くにある夜遅くまでやっているラーメン屋に行く。

「まぁいつものにするか、オギお前もそれでいいだろ?」
池田は荻野に確認を取る

「あっはい、それで。ところで、ここの野球部って何故かラーメン好き多いですよね。僕も好きですけど。」
荻野はふと疑問に思う。

「ん、そうだな…
ところでオギ、話結構変わるけど。お前は将来プロ目指さないのか?」
池田は荻野に聞く

「プロですか…?…正直まだ考えたことないですね。」
唐突に来た池田からの質問に荻野は驚く

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2014/02/28 18:58 No. 103
      
第103話〜池田と荻野〜

池田は荻野の一言を聞くとフゥーと息を吐く
「…そうか、だがまぁ正直に聞こう。お前将来何をやりたいか、考えたことあるか?」
池田は荻野に質問を続ける

「…まだ、僕はそういうのも考えたことないです、今の高校生活が楽しくてそれ以外はまだ、将来どういう仕事をやりたいかどうなりたいかとかはまだ…」
荻野は苦笑する

「フッ、そうか…わりぃな先生見たいな質問して。
でもまぁ…なにになりたいか?は考えておけよ…お前が今後どうするか知らんが2年次までにはある程度決めておいた方がいい。…俺は質問を受け付けるのが苦手だから聞かれる前に答えておこう、俺はここを卒業した後は就職するつもりだ、俺の頭では行ける大学なんてたかがしれている。ならば就職したほうがいいからな。」
池田が荻野と話していると注文したラーメンが運ばれてくる。

「そうですか、就活…大変でしょうけど頑張ってください。」
荻野はそう言いながら笑みを浮かべる

池田はフッと鼻で笑いながら
「男に満面の笑み浮かべられてもあまり嬉しくないが…お前やカズは笑顔がガキそのものだな…。まぁありがとよ…。
…オギ!明後日からの大会。勝ち進むぞ!だからお前たちの力も貸してもらうぞ!お前とカズで快足野球を魅せつけてやれ!」
池田は目に力を入れるように言う。普段はチームを引っ張りながら気合を見せているが、池田の口からここまで言うのは今回が初めてだろう

荻野はラーメンを食べる手を止め
「…はい!わかっています。その、実践であまり結果が出てないのが僕自身あれですけれど…とにかくヒットじゃあなくても塁に出て…僕とたっちーで掻き回せたら…」
荻野は照れくさそうに言う

「…何故照れくさそうにする?まぁいい。それと6月末からお前の練習に付き合ってあげたが、お前もわかってると思うが、俺もあの練習だけではすぐに効果が出るとは思えない、効果が出れば儲けモン。と俺は考えている。だから焦るなよ?焦ってフォーム崩したらそれこそ意味がなくなるからな…。結果は自ずとついてくる。だから結果が出なくても焦るな、お前ができることをしっかりとやればそれでいい。」
池田はそう言い終わるとラーメンを口に運ぶ

池田の荻野の未知なる才能開眼に対する期待は計り知れない。
そして池田の最後の夏がもうすぐ始まる…。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2014/03/12 11:51 No. 104
      
第104話〜苦しむツバメ〜

時期は6月下旬へと遡る。

「ハァハァ…」
1人の若手選手は大量の汗を書きながら苦しそうに練習メニューを消化してた。その選手はルーキー白瀬淳である。


若きツバメ達は苦しんでいた。
先発ローテーションが早々と崩壊し学徒動員状態が続くヤクルトスワローズ、その中に白瀬も駆りだされていた。

白瀬は甲子園未出場ながらヤクルトスワローズにドラフト1位で指名された逸材だ、故障した澤田の代役という声が大きいが実力は同等と考えたのだろう。

しかし、白瀬はここまで1軍で8試合投げて6度の先発、2度の敗戦処理を経験しているが結果は0勝7敗 防御率16.80と散々たる成績。
ファンやメディアからは高卒ルーキーを潰す気か!とヤクルトの首脳陣に批判が相次ぐ。

球団側も代わりがいるのならかえてやりたいのだろうがけが人が多い現状のヤクルトでは2軍に白瀬以上に勢いのあるボールが投げれる投手がいないのだから仕方ない、とはいえ、首脳陣も白瀬自身も辛く苦しい状況には変わりない。

「『…くそっ、どうして投げる球全てが打ち返され読まれているんだ?…なんでだよ…』」
白瀬は自問自答しながらショートダッシュを繰り返し、走り終えると苦しそうな顔をしながら青く光が照りつける空を見上げる

練習後白瀬は監督の古田に呼び出される。

監督室のドアをコンコンッと丁寧にノックする。

「ん、どうぞ。入ってくれ」
古田はドアを叩く音に気付き声をかける

「あ、はい…。失礼します。」
白瀬はやや緊張しながら入る

緊張した顔のまま監督に話しかける
「あの古田さ…古田監督、話とはなんでしょうか?」

「白瀬くん、君とは試合の時とは話してなかったね…。君の投げる球一つ一つはどれも素晴らしい、高卒とは思えないよ、君と組むのは正直楽しさを感じられる、将来どんな投手になるのかな?ってな」
古田は緊張している白瀬をほぐすためかいきなり白瀬を褒め称える

「は、はぁ…ありがとうございます。ですが…」
白瀬は照れながら言い方後古田が口を開く

「そう、しかしながら結果は出ていない、投壊しているチーム事情もあり結果が出てなくてもいてもらっているが…明日の巨人戦、結果次第では戸田に行ってもらうぞ!」
古田は強い口調で白瀬に言い放つ。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2014/03/12 15:17 No. 105
      
第105話〜白瀬対巨人打線〜

やや薄暗くなってきたがまだ日中のジメジメした暑さが残っている神宮球場、今日は巨人との1戦である。

「ピッチャー、白瀬淳背番号67」
ウグイス嬢が白瀬の名をコールする。

白瀬の名がコールされると失望するファンの声がちらほら聞こえてくる
「んだよ…またこいつかよ…いい加減落とせ古田ー!」 「外人獲ってこいよ!いい加減まともな投手をだな…」 「実力もなんもない無名をドラ1でとるからだ!」
やはり白瀬や首脳陣に向けた野次が多い

「『…やはりファンは手厳しいな…』」
白瀬はベンチ前で軽く身体を動かている白瀬の耳に野次は聞こえてくる

「淳、気にするな。結果は出てないのは事実だが…今野次ったファンを見返してやれ、な?」
宮本は白瀬の肩をポンと叩き白瀬を慰めるかのように言う。

試合は始まり、白瀬はマウンドに上がり巨人の先頭打者が打席に入るのを待つ

「1番レフト矢野」

「プレイ!」
球審が試合開始の合図をすると白瀬は米野のサインに頷き第1球目を放る。

しかし、スッポ抜けてしまう

「『甘いぞ、ルーキー』」
矢野は白瀬が投じた外角高めのボールを捉える。

打球はライトフェンスに直撃し宮出がもたつく間に矢野は2塁へ進塁する。

「2番セカンド仁志」

白瀬は米野のサインに頷き投球フォームに入り、仁志に対し第1球目を放る。
白瀬が投じた変化球はベースの前でバウンドし、当然仁志もこれでは振らない球だ。
仁志は白瀬の内角高めのボールを強引に打ちに行きセカンド正面へ飛ぶ。

「『矢野さんには3塁進まれるが、これでまずは…っ』」
白瀬が安心しかけるとセカンドを守る田中はボールをファンブルしてしまう。

「わ、わりぃ淳…」
田中は少し申し訳無さそうにしながら白瀬に言う

白瀬は完全に巨人のペースに飲み込まれつつある
「『こんな大声援プロ初登板の東京ドームでは聞こえなかったぞ、なんなんだ…この威圧感は…。』」

「3番センター高橋由伸」

「『苦しい局面だが頑張れ、淳。』」
米野は白瀬の心境を察しながら白瀬にサインを送る。

白瀬は米野のサイン通りに投げるが、第1球目は大きく外れまずはワンボールだ。続く2球目はシュート回転しながら入った甘い球を捉えられ打球は勢い良く飛び、特大ファールとなるが、白瀬に精神的大ダメージを与えるには十分だろう。

「タイム」

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2014/03/12 23:16 No. 106
      
第105話〜白瀬対巨人打線2〜

「タイム!」
米野が球審にいいタイムを取り白瀬の元へ内野陣とともに集まる

「ノーアウト3塁1塁か…厳しい局面だけど、踏ん張るんだ!淳!」
岩村は白瀬にロージンバッグを渡しながら言う

「…俺、怖いっす。何言ってるんだ?と思われるかもしれないですが…ここまでマウンドで怖いと思ったことはないです…。自分の実力が足りないことやここがプロってのも分かってます。それでも怖いっす…投げる球尽く弾き返されて…投げるのが…怖い。」
白瀬は珍しく弱気な発言をする。

白瀬の発言にマウンド上に集まっている選手は唖然とする。
真っ先に口を開いたのは米野だった。
「…淳、1軍でのマウンドや打席で結果が出なくて試合が怖い、試合に出たくないと思うのは多分結果でない人は誰もが思うことだと思う、俺もそうだった。その怖さに押しつぶされるか、その恐怖を乗り越えて前へ進むか…。打たれるのが怖いって思うなら…もう今は思いっきりがむしゃらに投げてこい!打たれたら俺が責任を取る、とにかくここは開き直って投げてこい!」
米野は軽く白瀬の胸を叩くと守備位置へと戻っていく。

「プレイ!」

「『開き直れ、か…確かに今はそれしか無いな…米さんありがとうございます。』」
白瀬はロージンを手につけ、米野のサインを見る。

「『だったら、今の俺のすべてがどこまで巨人に通用するか試してやる!』」
米野のサインに頷き豪快に投げ込む。

やや高めに浮くも高橋は見逃す。

「ットライーク!」

「『ようやくいい球が来たか…コントロールが暴れているが…打てない球ではない。』」
高橋は冷静に白瀬の球を分析する。

「『若い投手だから、荒々しく闘志剥き出しで来るだろうが…』」
高橋は白瀬が投げてくるのを冷静に待つ

白瀬の手からボールが離れ、高橋は読んだかのように直球を思いっきり振りぬく

高橋は打球を見ながらゆっくりと一塁方向へと歩き出す
「『だが、変化球が決まらない以上、直球に頼らざるを得ない…ならばこちらもそれに絞るだけ』」
高橋は喜びも最小限に抑え淡々とホームベースを踏む

白瀬の投球内容は6月らしい天候のようにスッキリしない投球内容だが、なんとかプロ入り最小の5失点に抑え、ラミレスの逆転満塁弾などで棚ぼたではあるがプロ入り初勝利を飾った。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2014/03/13 21:33 No. 107
      
第107話〜戸田へ〜

白瀬はウイニングボールを持ちながら初勝利のインタビューに答え遅れてロッカールームへと戻っていく

「ヘイ、淳!初勝利オメデトウ!」
ロッカールームに入ると今日の勝利のヒーローであるラミレスが白瀬のことを歓迎する。

「あ、ありがとうございます。ラミちゃ…ラミレス…さん。貴方のお陰ではい、なんとか勝てました。」
白瀬は照れながらお辞儀をする

「ふぅ、これでようやく連敗脱出か…ここから乗って行きたいな…」
岩村はフッと一息をつく。

「淳、着替え終わったか?古田監督が及びだぞ」
ロッカールームで着替え終わると同時にトレーナーは監督が呼んでいると白瀬に伝えに来た。
白瀬は「はい」と短い返事で監督室へと向かう。

白瀬は古田に呼び出された理由がわかっていた、いやそれ以外理由はないし、呼び出される材料がないのだ。

白瀬は監督室のドアを丁寧にノックする

「淳か?入ってくれ」
古田がそう言うと白瀬が入ってくるのを待つ

「来たか、淳。…まずはプロ入り初勝利おめでとう。高卒1年目で勝てたのは嬉しいよな!」
古田は一先ず白瀬のプロ入り初勝利を祝福する。

「ありがとうございます、監督。ですが…今回は野手の皆さんのお陰で…」
白瀬は嬉しさと悔しさが入り混じった顔をする。

「…そうだな、プロ入り初勝利とはいえど、野手陣のおかげだ。本題に入るが昨日、今日の投球内容次第では下に落とすと伝えたよな?結果は6回被安打8自責点5四死球2だったな、初勝利とはいえまだジメジメしていてピリッとしないピッチングだな…。残念だが、淳。今回君はここに残ることは出来ない、戸田へ行ってしっかりと自分を伸ばしてから帰ってきてくれ!…だが、5回の2塁3塁のピンチで李承Yを三振に討ち取ったスライダーのキレは良かったぞ、以上だ。」
古田は白瀬に戸田行き、つまり2軍行きを通告した。

「…はい、分かりました。次戻ってくるときは監督や首脳陣、ファンに応えられるようになって戻ってきます。」
白瀬は悔しさを顔に出さないように押し殺しながらお辞儀をして監督室を後にする。

白瀬にとっては覚悟していたとはいえ、辛く悔しい現実であった…。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2014/07/20 11:13 No. 108
      
第108話〜紅き右腕〜


池田は監督である大橋と対戦相手を決める抽選会場にいた。

「なるべく、最初はなるべく強くない相手と戦いたいな…」
池田は順番待ちながらボソッと呟く

「東海大平沼高校。3日目第2試合保土ヶ谷球場」

会場中にアナウンスが響く

順番が進み池田がくじを引く番が回ってきた

『東海大平沼とは逆のブロックにいきたい、新横がまた引いてないが…出来ればあそこに…』
池田は対戦表を見ながら心の中で呟きながら引く

池田は係の人に紙を渡し元の位置へ戻ろうとする

「氷水高校、3日目第2試合…保土ヶ谷球場…東海大平沼高校戦」
会場にアナウンスされる、無情にも当たりたくなかった東海大平沼高校と当たってしまう

大橋は池田と会場を後にし、カラッと晴れた天気と正反対にどんよりとした曇のような表情を浮かべた池田を見ると
「…ああいうこと言うとこうなるんだよな、身から出た錆だと思え。それにいずれは当たらなければならん相手だぞ」
大橋は池田を慰めるわけではなく冷たく言い放つ

「…はい、ですが投手が…今はチーム離れてますがあそこを抑えられるのは」
池田は唇を噛み締めたあとボソボソとしゃべる

大橋はため息を付いて
「…去年の冬から少しずつ投げられるようになってきただけだ、もうその時点であいつは自身の最後の夏しか間に合わないからな。今いるメンバーでどうにかするしかないな」
大橋も池田と同じあの投手を思い浮かべる

〜ところかわりアメリカ〜

『日本ではもうそろそろ夏の大会か…。この夏は間に合わないな…むりに合わせて再び爆発したら選手生命絶たれるかもしれない、ならばチームには悪いが俺は最後の夏に間に合うように調整するまで』
紅は屋外ブルペンでキャッチャーを座らせて軽めに投げてる。

紅が投球練習しているととある日本人が紅の近くに行く
「優生、調子はどうだ?来週の大学の交流戦、そこでお前に中継ぎで投げてもらう、久々の登板だし不安もあるだろうから1イニング限定ね。なるべく楽な場面で投げさせたいけれどね。非公式戦だから君も特別にマウンドへ上がる許可をお願いしたんだ。君も実践で投げて確かめたいんでしょう?」
メガネの似合いそうな男は紅が留学している大学部の留学生担当のカウンセラーである。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2014/07/27 01:10 No. 109
      
第109話〜マウンド〜

アメリカの気候は湿気こそないが日本より暑い夏だ。
日本ならばこの時期甲子園をかけた全国地方予選が行われている頃だろう。

そんな中アメリカでは大学同士の交流戦が行われていた。
紅の留学しているパシフィク・ノーザンユニバーシティとフェニックスユニバーシティの交流試合と題した練習試合である。
紅は1週間ほど前に登板予定があることを伝えられている。

そのためなのか紅は珍しくこの1周間は落ち着きがなかった。

ウォーミングアップ前のロッカールームでもそうだった
「おい、ユウセイ、いつもクールなお前がそこまで落ち着かないって珍しいじゃあないか」
ややカタコトながら日本語を話す彼はパトリック・ダン、パシフィックの切り込み隊長でありムードメーカーでもある。

紅はペットボトルを手にしながら
「ダンか…そう見えるのか…?…正直マウンドに上がるってのは楽しみなんだよ非公式だろうがなんだろうが」
紅はフッと笑みを浮かべながら答える。

ダンは紅の雲ひとつ無いような明るいかを見ると笑みを浮かべ何も聞かずに笑みを浮かべた。

さて、試合は始まり紅はブルペンで自分の出番を待つ
『中継ぎなんてやったことないからどう待機していいか分かんねぇな』
紅は慣れない中継ぎ待機に戸惑いながら試合を見守る

なるべく楽な場面で投げさせたいと思ってた大学側の思いとは裏腹に膠着状態で試合は進み両チーム無得点のまま7回に紅の出番が回ってきた。

「Go!yusei!」
紅はポンとおしりを軽く叩かれるとブルペンが出て一歩一歩球場の雰囲気を噛み締めながら小走りにマウンドへと向かう
紅はマウンドへと上がるとマウンドの感触を確かめるようにしながら投球練習を行う。

6番打者のアイクと対戦を迎える
紅は投球フォームに入り負担のかかりにくいフォームからボールを放つ
初球はストレートから入るが狙いすましたかのように打たれ一二塁間を抜けいきなりランナーを背負う

続く7番のトムとの対戦2球連続で際どいコースを突くがボールと判定されピッチャー不利のカウントとなる
『以前の俺ならここから球数増えただろうが球数を少なくするには…』
紅は以前の自分と比較しながら第3球目を放る
ストレートに似たそれは紅の予想通りトムの当たりは詰まりピッチャーゴロゲッツーに仕留めた。
次の打者は初球打ちのサードゴロに抑える

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2014/12/22 17:34 No. 110
      
第110話〜対東海大平沼戦〜

セミが鳴き始め、夏の到来を感じる。
そして、夏の大会がこの季節に行われる。

49校の各都道府県の代表をかけた予選が今始まる。

氷水は3塁側のベンチ、つまり先攻となる。

「………東海大平沼…。」
吉村は相手チームのユニフォームを見るとボソッと呟く

橘は頭の後ろで手を組みながら吉村の発言に同調するかのように
「東海大平沼かぁ〜まさか初戦で当たりたくはなかったよね、ルナ」
橘は吉村に話しかけるが吉村は橘の声を無視する
橘は少しむすっとしながらぶつぶつ呟き続ける

「…おい、カズうるせーよ。相手がどこだろうが関係ねぇ、俺が抑えればいいだけの話だ、それに甲子園を目指すならばどこのチームとも戦わなければならねぇ。しょっぱなから諦めてる馬鹿野郎がどこにいるんだ。いいか、カズ。お前とオギの足はおそらく平沼でも厄介なほど足はある。ならば足でかき回してみろ。」
黒木はまるで紅のような言い回しでチームに喝を入れる

黒木の言葉でさっきまで動揺があった一部のメンバーから動揺が消える。
「…ルナ、てめぇと平沼に何があるか知らねぇけどよ、俺とお前のコンビで勝ちに行くぞ。…勝ちたいんだろ?お前が一番あそこに」
黒木は吉村に囁く

そして試合が始まる。
東海大平沼には2年生エースの大木がマウンドに上がる

「1番セカンド橘くん」

橘はアナウンスされると打席に入り一礼をする
『夏の大会、クロの言うことで目が覚めた…。でも僕は去年の夏の悔しさは忘れていない。』
橘は去年の唯一1年レギュラーとして抜擢されるも全く歯が立たなかった打撃を脳裏に浮かべる。

大木の手からボールが放たれる。

『その悔しさがあるかぎり僕はぁ!』
橘は大木が投げていたストレートを逆方向に弾き飛ばす。
打球は右中間を破り、橘は2塁を陥れる。

『くそ、油断した。』
大木は舌打ちをする

「2番センター荻野くん」

荻野は2番打者として打席に入る

『今のたっちーの打撃、凄い…。見下ろしてたわけじゃないけど僕より力がないと思ってたのに…いとも簡単に』
荻野は橘の打撃に驚きながら自分も続こうとしてた、
しかし、対照的に速球に苦しめられ進塁打にするのが精一杯だった。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/08/09 12:47 No. 111
      
第111話〜先取点〜

「3番ショート、池田君」

7月中旬セミが鳴き日中は動くと汗が出る気温の中、甲子園を向けた試合は行われていた。

池田は一礼してから打席に入る。

『2年生ながらプロ注目の大木…手ごわい相手だがこいつを倒さないと先には進めん、か…。』
池田は高橋を見つめながら心の中でつぶやく

高橋は投球モーションに入り、池田はボールが来るのを待つ。

「ボール!ワンボール!」

「ん?」
池田はふと何かを感じる。

2球目も大きく外れてボールになり、池田の疑問が確信へとかわる。

池田は高めに浮いた変化球をとらえ、見事に打ち返す。

ボールが転々とする中池田は一気に三塁を陥れ再びワンアウト3塁のチャンスを作る。

「4番キャッチャー、吉村くん」

アナウンスされ、吉村は打席に入る

『橘さんの時から感づいていたけどこいつ今日あまり調子よくないんだな…。点取れるうちに取っておかねぇと後がきついっての』
吉村はチャンスに気合を入れる。

『なぜ、高めに抜けるんだクソ…』
大木は池田の打たれた悔しさなのかいらだちを隠せない。

そして冷静になる前に投げ込んだのか大木はボールから手を離した瞬間にあっと声をあげそうになる

加須シニアでも4番として活躍してた吉村が失投を見逃すわけなく、豪快に振りぬく。

心地の良い音色に聞こえる金属音から放たれた打球は美しい青空を撃ち抜かんというばかりに大きく舞い上がりグングン奥へ奥へとのび、柵を越えたところにボールは落ちる

吉村は冷静に淡々とベースを一周する。

「ナイスバッティング!」
池田は笑顔で吉村を迎える。

吉村は照れ臭そうに笑みを浮かべ
「あざます。池田さん、あんたこそナイスタイムリーでしたよ。そのおかげで僕も打てたんで」
吉村も池田のタイムリーに感謝するかのように言いベンチへと戻っていく。

3番のタイムリー4番のホームランで効率よく先制した氷水高校。9回までははるか遠く相手が相手だけに油断は禁物だが、ともあれ大きな先取点である。

その後大木は立ち直り後続を打ち取る。

黒木は初回気合を入れてなんとか三者凡退に抑える。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:・スA・ス`・ス・ス日時: 2015/08/23 14:06 No. 112
      
第112話〜悪夢〜

氷水は不安定な大木を攻め続け4回までに8点差と大量リードを広げる。

「よっし、8点差!このままいくぞ!」
池田は満面の笑みでグラウンド向かう。これから始まる神の悪戯による悪夢の主役に選ばれているにも知らずに…

『まさか平沼相手に序盤で8点差をつけられるなんて、おれたちこのまま勝てるんじゃね?』
池田はショートの守備位置で点差を考えて心の中でニタニタしてる。

キィンと鈍い金属音が響く。

「ショート、打球行ったぞ!」
吉村はマスクをとり池田に指示する。

池田は吉村の声に気付きとっさに反応する
「…え?あっ。」
しかし池田は打球を見てなかったのか簡単な打球を後ろにそらしてしまう

荻野が慌ててバックアップし中継の橘にボールを返す。

橘は荻野から受け取ったボールを黒木に返しながら
『池田先輩らしくないな…どうしたんだ。』
橘はボールを返した後少し池田の方を見つめる。

吉村は黒木の投球をとりながら顔をしかめる
『くそ、球が浮いてきてる…。飛ばしすぎた黒木さん』

マウンド上の黒木は肩で息をしながら投球を続ける。
相手はセーフティー気味にバントをしかけるが強すぎて黒木の正面に転がる。

黒木は躊躇なく2塁に送球するが、池田がまたしても簡単な打球を弾いてしまい。ノーアウト2塁1塁となってしまう。

黒木は少しガクッとする。それもそうだろう。本来ならばツーアウトランナーなしのはずがこのザマなのだから。

『くそ、どうしてこんな…』
黒木は内心イラつく
『強豪、名門相手に一つのミスは命とりなのに…それも平沼相手なんかに…!」
吉村も黒木同様もはや平常心なんかではない。

こうなってしまえばもう待ってる未来は一つしかない…。
直後東海大平沼は気落ちした黒木をまるで嬲り殺しにするかのように連打連打で大量得点を重ね一気に逆転をする。
投手を一年の赤田にかえても荷が重く吉村のリードも精彩を欠き勢いを止められない。
池田の慢心と油断、そしてバッテリーの精神の弱さが招いた惨状。それは炎天下の中で招かれた地獄。

結果は8-21と東海大平沼に勝利し大勲章を上げるどころか東海大平沼の強さを逆に見せつける試合となってしまった。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/08/24 22:46 No. 113
      
第113話〜地獄の後に待ち構える氷の鬼〜

ホームベース前に両チームが並び、ありがとうございました。という挨拶とともに試合終了を知らせるサイレンが球場内に鳴り響く

勝利して当たり前と言わんばかり王者のような振る舞いをする東海大平沼と対極に出る涙も出なくなるほど悲惨な負け方をした氷水は応援に駆け付けてくれた生徒たちに謝るようにお辞儀をするしかなかった。

試合後学校に戻るも未だにあの地獄が忘れられないのかほぼ全員が放心状態に近い形だった。

大橋は部室で放心状態の部員を見渡して呆れたかのようにため息を一つつく
「…お疲れ様でした、と言いたいところだが。それはまず言えんな…。8対21…随分無様に負けたな。いくら東海大平沼相手とはいえ無様すぎるぞ。」
大橋は腕を組みながら厳しい言葉を使いながら残酷な現実を再び思い出させようと言わんばかりに8対21を強調する。

その大橋の言葉には誰も何も言えない。その時、静寂な部室に怒気の籠った大きな音が響く。
俯き加減だった部員はビクッと反応しながら音の発生源で前を向く。前には大橋がいて、大橋の前には教卓がある。音の発生源はそこしかない。

「おい池田!お前なんだ、あの腑抜けた2連続エラーは!あれが負けた原因なんだぞ!8点差つけたからって調子に乗っておろそかなプレーしてんじゃねぇよ!てめぇよ!おい!ふざけてんのか!それから黒木赤田。投手陣お前たちのランナー出してあたふたあたふたすんな腕をふれ腕を!相手にはい打ってくださいと言わんばかりの球投げんな!こら!そして吉村!お前加須シニアで4番正捕手だったとか1年だとか関係ねぇぞ。お前もお前で野球なめてんじゃないぞ。しっかり頭使え頭をよぉ!単調になりすぎなんだよ。」
大橋の怒鳴り声は部室の外にも聞こえるんじゃないかというほどの大声である。
「…だが、すぎたことは仕方ない。ミスもあった。それは覆すことができない事実。これが力の差意識の差だ。3年にとっては辛い最後の夏になってしまったな。この惨劇を招いたのは俺の指導不足でもある。それは申し訳ない。」
大橋はさっきまでとうってかわって追いついた口調で頭を下げる。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/08/24 23:05 No. 114
      
第114話〜次世代に託す思い〜

頭を下げる大橋に驚く部員たち。

「ちょ、ちょっとなんで頭下げるんすか。負けたのは俺たちの力不足で大橋監督のせいじゃ…」
池田は慌てふためく

大橋は頭を上げ、一息ついて
「3年の皆。悔しい最後だったと思うが一先ずはお疲れさまだ。これからどうするかはしっかりと考えてくれ。進路相談ならいつでも相談に乗るぞ。1,2年は秋の大会でこの悔しさを先輩たちの悔しい思いも晴らすような結果を出していこう。それから次のキャプテンは俺の中ではもう決まってる。だがそれは今この場にいない紅優生だ。とはいえいないやつをキャプテンにするわけにはいかない。荻野!お前が代理を務めろ。紅の連絡して情報を共有しながら代理を務めてくれ。明日は休養日だ、新チームの始動は明後日からだ!期待してるぞオギ。…話は以上だ。解散!」
大橋は話を終えると部室を後にする。

「くそっ、なんでだよ…」
吉村は俯き加減で出口に向かい、扉の近くを悔しさを表すかのように叩いてから部室の外に出る

荻野は椅子に座りながら驚いた表情を見せる
「ぼ、僕がキャプテン…?」
少し現実を受け止めてられないのかキャプテンという言葉を口に出す。

黒木は少しは吹っ切れたのか荻野にちょっかいを出すように左ひじを荻野の頭にのせながら
「つっても、まぁ代理だけどな。優生が復活するまでの。」
黒木は荻野をからかうような感じで言う。

「っし、負けて後味悪いけど。オギのキャプテン代理就任を祝ってオギのおごりで食べに行こうよ。」
橘も驚いてる荻野にちょっかいを出す

「あ、それ私もさんせーい。じゃあいこっ皆」
茜はスコアブックを鞄の中にしまい、部室の外へと向かう。

荻野はムスッとした顔をしながら
「ちょっと待ってよ、皆。僕奢るとも一言も言ってないんだけど!」
荻野は3人の後を追うかのように走っていく

池田は2年生組のやり取りを見ていてフッと笑う
「…まったく、大敗したとだというのに…仲がいいなあいつらは…。でも新チームは頼んだぜオギ。そして白瀬先輩や俺が叶えられたかった夢を叶えてくれ。」
池田も部活用かばんを背負い、部室の外に出て3年間お世話になったのを感謝するかのように一例をする。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/08/24 23:27 No. 115
      
第115話〜新チーム始動〜

2日後新チームが始動する。3年生が抜けただけでなにもかわりはない。
いや、一つ変わったのがあると言えばホワイトボードとロッカールームの上にある掲示板には2日前の悪夢のような東海大平沼戦のスコア写真が掲示されており、掲示板にはスコア写真の下に打倒東海大平沼!この悔しさを胸にわれらは栄冠へと続く道を歩み進んでいく。という言葉も飾られている。

この言葉を考えたのはマネージャーの神原茜(かんばら・あかね)である。

青空の下、砂の匂いとセミの大合唱が聞こえるそんな炎天下の中に部員は集まってた。

「練習を始める前にだ、オギ!前に来い!挨拶をしろ」
大橋は荻野を手招きする

荻野は一瞬えっと顔を引きつるが前へと出る
「…えっと、…おはようございます。」
まず荻野がそういうと他の部員もおはようございますと繰り返す
「代理ですが、新キャプテンに任命された荻野浩一です!え〜私たちの目標は甲子園優勝です。ですがそこには道は険しくまだまだ力も足りません。一回りも二回りも大きくならないといけません!しっかりと練習して今よりももっともっと力をつけましょう!よろしくお願いします。」
荻野は力いっぱい演説めいた挨拶をし一例をするとパチパチと拍手が起こる。

大橋は笑いながら
「威厳のねぇやつだなオギお前…まぁ挨拶は演説くさい言い方を置けば合格だな」
大橋は相変わらず部員をいじるのが好きなのか荻野にも軽くいじるような言い方をする。

「さて、本日から新チーム始動だが、チーム方針をかえるために練習内容も今までとかえるぞ。」
大橋は茜がバインダーに挟んである練習メニューを見てくれと言わんばかりに指をさす。

「詳しくは部室に貼ってあるのを見るのもいいだろう。大方見て分かったと思うが。守備練習中心だ」

「っと、それはなんでなんすか?」
黒木はポリポリと頭をかきながら大橋に問う

「まず吉村橘荻野のセンターライン3人の守備力は高水準で安定している。この間炎上したとはいえお前も赤田も守備の乱れさえなければそこそこ抑えられる力があるだろう。そして優生も帰ってくる。打撃練習の時間を守備練習の時間に大きく入れた方がこのチームのためだと判断した。それに守備が強固ならこの間みたいにならないだろう。それが理由だ」
大橋は黒木や部員全員の疑問にしっかりと答えるような説明をする。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/08/28 11:53 No. 116
      
第116話〜守備チーム〜

夏も終わりに近づき、暑さもやわらいできたある日の昼下がり、この日も氷水高校は守備連を中心に練習を行っていた。
練習場からはボールの転がる音とミットの音が聞こえてくるぐらいだ。

グラウンドを見渡してみるとダブルプレーの練習が行われているようだ、走者役は荻野、打者走者役は稲本だ。
打球は橘のもとへと転がる。しかし打球は早くしかもイレギュラーしたため橘は抜かれそうになるが小柄な体を精一杯伸ばして捕球すると即座にショートの蓮本にトスをする。
蓮本は2塁にスライディングしてくる荻野をよけながら正確に1塁へと送球し、打者走者役の稲本もアウトにとる。

荻野は体を起こしながら
「蓮本君、いい送球だよ!たっちーも流石だね、ナイスプレー」
荻野は蓮本をほめながら蓮本の腰をポンと叩くと蓮本は照れ臭そうにお辞儀をする。

「ありがと、代理君。…でもこんなんじゃあまだまだ僕は満足できない、しっかりと抜かれないようにして正面からトスしないと。バックトスでは相方を不安にさせてしまう」
橘は守備位置に戻りながら納得のいかない顔をする。

蓮本と橘の二遊間は最初は息が合わなかったがここにきて急激に息があってきた。2人の基礎守備能力の高さもあるのだろうか。蓮本は新チーム結成以後元のポジションであるショートに戻された影響でやや時間がかかっただけなのかもしれない。

その蓮本が抜けた三塁には2年の佐藤が入りファーストには1年の諸口が入る。佐藤は持ち味の強肩を生かし素早い送球を諸口に送る。
佐藤はもともとは外野手であるが外野からはじき出されてサードに回った形だ。

さて、その強肩の佐藤をもってしても弾きだされた外野は荻野、稲本、松島の3人である。全員佐藤と同じ2年生だ。佐藤からしたら悔しさが強いはずだ。
この3人は打力自体はそこまで期待できないと言いたいところだが荻野は夏の大会前から急激に打球の質が変わってきているため、継続できれば頼もしい存在になりうる。
しかし、この3人の共通した持ち味は瞬足強肩である。俊足を生かして打球を好捕する。恐らく外野の守備範囲の広さは神奈川県トップクラスなのかもしれない。

夏では屈辱を味わった氷水高校がチーム伝統の文字味である火力を大幅に下げてまでも守備走塁特価チームになりつつある。
秋の大会が楽しみだ。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/08/28 14:17 No. 117
      
第117話〜黒木隆之という男〜

最速143kmのストレートにカットボール、カーブ、シュートを中心に投球を特に特徴のない投手。それは今夏エースナンバーを背負った黒木隆之である。

黒木はある日の全体練習終了後1人学校に残りもくもくと練習を続けていた。
気が付くとあたりは真っ暗で唯一聞こえてくるのは虫の鳴き声、そして灯りは職員室からの灯りのみ。

大橋は通常業務を終えて休憩するためにかタバコをもって校庭の近くにある喫煙所へと向かいながら考え事をする。
『来夏には優生も使えるが、おそらくあいつの実力が絶大でも1人では県予選勝ち抜くのは不可能に近い。黒木が伸びてくれれば優生の負担も減るが…』
大橋がタバコを吸おうとすると黒木が偶然にも視界に入る。

「黒木、今日もやっていたのか。」
大橋はランニングしている黒木の近くに行き、黒木に声をかける。

黒木は声の主に気付き動きを止める
「…んあ、なんだ大橋監督っすか、っかれーっす。」
黒木は相変わらず砕けた言い方をする。

大橋はフッと笑い
「しかし、お前がそこまで練習好きだとは思わなかったぞ。しかし残って練習するならほかの連中も誘ってやったらいいんじゃないのか?ここ1年ずっと全体練習後、1人で残って練習しているじゃないか」
黒木に尋ねる

黒木は少し間をあけて
「…っすね、もうそんなになるんすか?全然意識してねぇ〜。まぁ別に練習なんて好きじゃねぇ。俺はドMでもなんでもないんで。でも日課になっちまったつーかなんつーかやらないと気が済まないってやつ?ってかあいつらもあいつらで自分でやるっしょ。こっちが誘っていやいや来ても効率が逆に下がるだけ。だったら俺1人でやった方がマシっす。」
黒木は大橋に何かを隠すかのように理由を述べる。

大橋は黒木が何か真意を隠しているのには気づいているがあえて問わなかった。
「…そうか、しかしお前もあいつみたいな考え方持っているんだな。流石は投手だな。」
大橋は黒木の後半部分の発言をある人物と重ね合わせる。

「今日はいい風が吹いてるな」
大橋は突然黒木に雑談を持ち掛ける
「…っすね、ちょーきもちいいっす。練習にはちょうどいいっす」
黒木は軽く笑みを浮かべる

「…邪魔して悪かったな。秋の大会、頼んだぞエース。」
大橋は気分が晴れたかのような顔をして職員室へと戻っていく。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/08/29 12:07 No. 118
      
第118話〜秋の神奈川県大会〜

朝、氷水高校は再びにぎやかになっていた。今日は夏休み明けの9月になり学校も始まる。だが彼らにとってはもう一つ始まるものがある。地区予選を勝ち抜き、神奈川県大会へとコマを進める。
地区予選とは違い、県予選は強豪揃いだ。

「もしもし?久しぶり。荻野だけど、そっちの調子はどう?今のチームは守備的チームになってるのと、僕たちの世代は君がキャプテンだ。あ、それと秋の地区予選なんとか勝ち進めて県予選まで進めたよ」
荻野は誰かと電話をしているようで少し楽しそうに話す

「…そうか、分かった。わざわざ連絡すまない。それと監督に伝えておいてくれ。帰れる日がはやまったと。」
荻野から電話を受けた相手は荻野からの情報に感謝しつつ荻野に伝言を伝える。

ある日の土曜日球場には懐かしい声が響く。この日は秋の県予選初日だ。
「整列!礼!」
「よろしくお願いします!」
あいさつが終わると守備位置へと散らばる氷水高校。

さて、県予選はどこまで勝ち進めるのだろうか。
やや暑さが残り、心地の良い風に秋独特のにおいのなか、試合は始まる。
生まれ変わった氷水高校の鉄壁な守備力の前に相手は得点できずに試合は進み、氷水はわずかな得点をとり逃げ切り順調に勝ち進む。

そして準決勝で山手聖学院高校とぶつかる。
山手は県内屈指の打力を持ち、氷水とはある意味相反するチームだ。

「打力のあるチーム?知らねぇよ。ンなもん。ヒット打たれても点を取られなきゃ打力があるだとか、そんなん関係ねぇよ。」
黒木は打力的チームに不安を抱く吉村を突き放すように言いながらも点は取られるはずはないと絶対的な自信が伝わってくる。

この日は氷水高校の打線が大爆発する。今大会好調の荻野はこの日は全打席出塁など大活躍し、後ろを打つ吉村はチャンスで打ちまくり、7回表で7−0と大差をつけ、裏の守備でも油断することなく簡単にツーアウトを取り、最後の打者を追い込む、しかし黒木と吉村はここにきてサインがあわないのか首を横に振りまくる。

吉村はなにかピンと来たのか顔色が変わる

『それだよ、気づくのっせーんだよ。』
黒木は投球モーションに入り右腕からボールを放る。

白球は遅く緩く甘い球。投げそこなったかのようなボール。
当然打者はしめた!と思い思いっきりふりに行く。
しかし、ボールはゆらゆら揺れながらストンと落ちる

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:・スA・ス`・ス・ス日時: 2015/08/29 12:32 No. 119
      
第119話〜因縁の東海大平沼戦〜

「まさかこんなにはやくリベンジする機会が来るだなんて。最高だぜ!前の試合で1球投げたが、俺にはアレがある。倒してやるよ。やつらを」
黒木はスタジアムに向かいながら少し笑みを浮かべる。

決勝の相手は夏に惨敗した東海大平沼戦だ。決勝の相手に唯一人を除いて悲観するものはいなかった。いや、悲観というより他の感情が出るものは。

気温も季節も完全に秋だ。天候は秋晴れ、スポーツにはちょうどのいい気温の中決勝戦が始まる。

「1回表、東海大平沼の攻撃。1番、センター原くん」

東海大平沼の1番打者原が打席に入ると同時に試合開始のサイレンが鳴り響く。

『夏にボコした雑魚…と言いたいが守備の綻びから狂ったようにも思えるから油断はできないが、雑魚は雑魚にかわりはねぇ。』
原は黒木を見ながら不敵な笑みを浮かべる。

黒木はノーワインドアップのフォームからこの試合の1球目を投じる。まずはインハイをつく直球だ。
原はボールだと思い見逃す、初球は原の予想通りボールだ。黒木はテンポよく2球目3球目と力で押す投球を続ける。

原は3球目を打つも打球はショートの蓮本が捕球し難なく1塁へと送球する。

『マジか、アレを難なくアウトにすんのかよ…ちっ。足には自信があるからセーフになると思ったんに』
原は悔しがりながらベンチに戻る。
黒木はこの試合も3回まで相手を完ぺきにねじ伏せる。

そして4回表再び原に打席が回る。原は黒木の球に対応できずに追い込まれる。そして、3球目もスイングし、空振りになるが。捕手の吉村は気を抜いたのかなんでもない投球を後ろにそらしてしまう。吉村がボールを取り1塁に放ろうとすると既に原は1塁を駆け抜けていた。その後黒木は吉村との息が合わず2番の中畑もフォアボールで歩かせてしまう

『へっ、雑魚は過去にやられたときに似た局面になると動揺すんだよ』
原は2塁で突如乱れ始めた黒木を貶すような目で見る。
3番の打者は1年の菅原、吉村は何故か意地になるようなリードをする。球数を使いながら追い込むがまたも同じ球を要求する。これで何球連続だろうか。黒木は吉村のサインを無視しシュートをひっかけさせる。打球は蓮本の前に転がり橘に転送し1塁の諸口へと送球し、ダブルプレーとなる。4番の高木はセカンドゴロに打ち取り切り抜ける

「ルナ、ちょっと来い」

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/08/29 13:42 No. 120
      
第120話〜4番センター〜

「ルナ、ちょっと来い。」
黒木はベンチに戻ると吉村を呼び出す。

「お前さっきの菅原に対するリードなんなんだ?ふざけてるのか?」
黒木はいつもでは見られない珍しく真面目な口調で吉村に問う

「それは俺が聞きたいです。あそこはカーブを続けるべきなのになぜ勝手にシュートを…!」
吉村も食い下がらず黒木に反論する。

一歩間違えればお互いに殴り合いかねないほどの緊張感が二人から伝わってくる。

黒木は苛立ちを隠しながら
「あぁ?野郎が少しずつ俺のカーブにタイミングあってきてただろうが。それにてめぇは試合考えずにあの打者だけとの勝負にこだわりやがって…!試合中は私情捨てろ。バカがっ。いいか試合に集中しろ。試合を考えた配球をしろ。」
黒木は表情こそ隠しているが口調からは明らかにイラつきを隠せてない。

グラウンドに見渡すと2人が口論していると橘が出塁して3番打者の蓮本が打席に入っていた。
吉村はこの試合5番に入ってるため急いで準備をする。
準備がなんとか蓮本が凡退するまでには間に合い、荻野が打席に向かうと同時に吉村もネクストバッターズサークルに向かう

「4番、センター荻野くん」
荻野は今大会の絶好調さを買われてこの試合からついに4番に昇格した。

『今大会打率5割を超えているやつか。厄介だな…』
大木は目で橘に牽制してから荻野に対し1球目を放る。しかし汗で滑ったのかふわりと浮いてしまう

『きた。』
荻野は来た球に素直に反応しボールを弾き返す。
鋭い金属音とともに打球はまるで銃弾のような低空ライナーでライトへと向かう。打球は失速せずにそのままスタンドへと突き刺さる。
荻野はうれしそうな顔でダイヤモンドを一周する。それもそのはず。この一発は荻野の野球人生初ホームランなのだから。

今の荻野は失投など見逃すはずがなく間違いなくスタンドに運ぶ。…という雰囲気が強く。本人も今はどの球でも見えるそんな自信に満ち溢れていた。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:・スA・ス`・ス・ス日時: 2015/09/05 02:16 No. 121
      
第121話〜破顔一笑〜

日に日に陽が短くなり気温が下がるにつれどこかさみしさを感じる季節になってくる10月、そんな中秋大会は行われいた。

その瞬間はスローモーションに見えたのだろうか…ふわりと浮いた球をとらえた瞬間、聞いたことのない音色とともに味わったことのない初めての感触が伝わってくる。
その感触を味わった男こそ秋大会打率5割男荻野浩一である。

失投を見逃さずに勢いよく振りぬくと打球は耳を劈くのではないかという金属音とともにまるで青い空を撃ち抜く銃弾のように伸びていく

打球は全く失速することなくフェンスの向こう側にある芝生に落ちる。

回りくどい言い方をしてしまったがつまりはホームランということになる。

作物の収穫時期から実りの秋と呼ばれる季節ではあるが、今の荻野の打撃もそうなのかもしれない。
年明けから取り組んでる新フォームがようやくモノになってきたのか今大会、荻野は打ちに打ちまくってる。しかしすべて単打であった。荻野にとっては今大会いや野球人生初の本塁打、というよりフェンス直撃以上の結果は初めてだ。

荻野がベースを一周する間大木は唇を噛みしめながら荻野に打たれたところをずっと睨むように悔しそうに見つめていた。

日本にはこんな四文字熟語がある。喜色満面、破顔一笑。どちらもうれしさを表す熟語だ。
いまの荻野はまさにこの言葉通りの笑顔を見せる。

吉村が打席に入る、夏の大会では大木はこの吉村に被弾した経験がある。大木は警戒しながら吉村に相対する。しかし、二球目をとらえられる。鋭い金属音とともに荻野とは異なり大きな放物線を描く打球はわずかに切れて、ファールとなる。

吉村は捉えそこなったのかバットで軽くヘルメットにコツンと叩く。
命拾いした大木はもう打たれるわけにはいかないと吉村をねじ伏せに行く。

大木に全く歯がたたず吉村は落胆した顔でベンチに戻る。
吉村は守備に備えてプロテクターをつけていると黒木が歩み寄る
「ルナ、次の回からアレを交える。ぜってぇ勝つぞこの試合はぁ!」
黒木は何かを吉村に告げるとマウンドへと先に向かう。
吉村も黒木が何を指しているのか瞬時に理解し顔色が変わる。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/09/05 02:37 No. 122
      
第122話〜解禁、魔球という名の変化球〜

やや肌寒い風が舞う。しかし今日は風が強い。

「5番、レフト二宮くん」

二宮はお辞儀してから打席に入り黒木と相対する
『ちっ、この試合も先制されたか…決してこいつらは弱くチームじゃねぇんけどよ。2試合続けてこいつらに先制されんのは洒落になんねぇぜ…!』
二宮は先制され追いかける展開を好ましく思わないようだ。

黒木はボールこそ荒れているがなんとか追い込む。

『黒木さん、ここで使いましょうよ』
吉村は二宮の方を一度見てからサインを送る

黒木は頷き一息おいてから投球動作に入る。
『いくぞ、この球はどこにいくかだなんて分かんねぇ、投げる俺もなぁ!』

『何を来る、くさいところならカットして甘い球をまつぜぇ』
二宮はグッとバットに力を入れる。

黒木から投じられたボールはふわりと浮く
二宮はしめたと思いその球に対してふりに行く、しかしボールには当たらず空を切る。

「ットライーク!バッターアウト!」
審判が三振をコールしスコアボードには赤いランプが一つ点灯する。

二宮は顔面蒼白に近い表情でベンチに戻る。

黒木が二宮に対して投じた勝負球、この球にスタンドはどよめく。東海大平沼側からはなぜ超スローボールで空振りを取られたのかと。

「6番サード、小笠原くん」

小笠原は左打席に入り黒木の投球を待つ。

黒木が足を上げると同時にスパイクについている砂が少し落ち、足を着地すると同時に右腕からボールが勢いよく放たれる。

小笠原は初球をフルスイングで捉えに行こうとする。しかしバットは二宮同様空を切る、そして思い切りがよすぎて小笠原は尻もちをつく。

恥ずかしそうに小笠原は立ち上がり打席に入り直し、黒木を見る
『間違いない、あの球は現代の魔球”ナックル”だ。ちっ、まさか生の目で見ることになるとはな…』
小笠原は謎のスローボールの正体を見破るが初見では難しいと言われるナックルの攻略法は瞬時に思いつかず、凡退してしまう。
ナックルを解禁した黒木はストレート主体の投球にナックルを完全に入り混ぜて東海大平沼を粘られるときはあるもののほぼ完璧に封じ込める。

そして試合は0−2のまま動かず8回を迎える。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/09/05 03:05 No. 123
      
第123話〜魂の投球〜

白熱した秋の神奈川県大会決勝戦もいよいよ終盤だ。

順調にいけばあと6つのアウトで試合が終わる。

しかし野球というスポーツは思うほど簡単に終わるスポーツではない。相手が格上であるなら格上であるほど…。

「9番ピッチャー、大木くん」
黒木と投手戦を繰り広げる東海大平沼のエース大木が打席へと向かう。

黒木は吉村のサインに頷き投球動作に入る。オーソドックスなフォームから大木に対して第1球目を投じる。
しかし、狙ったコースからは逸れてしまう。2球目も逸れてしまった。

黒木は苦笑いを浮かべ、ロジンを手に付ける
『っべ、マジっべ〜握力が…ヤッベな…こいつわ』
黒木は顔を上げ軽く右腕を握ったり開いたりを繰り返す。

大木は黒木の入ってくる球をカットしながら甘い球を待つ。

『いい加減に打ち取られろよ!』
黒木は大木に対して9球目を投じる。

しかし甘く入り大木は失投を見逃さず振りぬく。打球は鋭い速さでフェンスに直撃する。荻野は打球に追いつくと素早く体を反転させてセカンドの橘へと送球し、大木をセカンドに進ませない。

返球を待つ間黒木は明らかに肩で息をしていた。明らかに疲れているのである。

『ルナ、気持ちはありがたい。だがナックルを封印してこいつらを抑えられるわきゃねぇだろうがよ…』
黒木は少し笑みを浮かべる

しかしヘロヘロの黒木には抑えるすべなど残ってない。原には3球目を思いっきり引っ張ったたかれ一塁の横を破っていくライトの松島が捕球するとセカンドの橘に送球し、橘も思いっきり送球する。
橘の送球に驚いた大木は無理をせずに三塁で止まる

『畜生、なぜ打たれるんだよっていうかなんで思い通り球がいかない…いやもうこれ以上は打たせない。こいつらには負けるわけにはいかねぇんだよ!』
黒木は吉村にマウンドに来るなという仕草をして打者が打席に入るのを待つ

黒木は中畑が打席に入るのを待つ。

黒木は頷き肩からセカンドランナーを見てから中畑に対し投げ、簡単に追い込む
『くそ、投げる球は力が落ちてるのになぜうてん…』
中畑は顔を曇らせる。

黒木は投資を全面にだし、腕よ千切れよと言わんばかりに思い切り腕を振り続ける。8回はピンチをしのぐと自然とガッツポーズが出てしまった。最大のピンチを凌ぎ、最後は高橋を打ち取ると黒木はマウンドで笑みを浮かべた。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/09/13 18:35 No. 124
      
第124話〜神奈川の頂点、そして力の差〜

黒木にもはや力など残ってなどいない。なのにボールは力強く。ガン以上の速さを感じる。東海大平沼の各打者は黒木の球に差し込まれる。

何を黒木を奮い立たせているのかそれは謎だ。ただ一つだけ言えるのは黒木が負けず嫌いで勝ちたいという気持ちはチームで一番強いことだ。

ハァハァと肩で息しながら吉村の出すサインに頷く。

一息つき、黒木はゆっくりと足を上げると同時に打者もグッと構えに入る。

足をつき、右腕を思いっきり鞭のように振ると同時に白球は砲丸のように放たれる。
高橋は待ってましたかと言わんばかりに黒木の投じたラストボールにジャストタイミングで振りにいく。

次の瞬間聞こえるはずの金属音は奏でられることはなかった。かわりに聞こえてきたのはパァンという革の音とバットが空を切った音だけだった。

タイミング狙いはあっていた。しかし黒木の投じた渾身の1球に完璧に振らされてしまった。黒木の最後の球は高橋のバットから逃げるかのようにホップするかのように吉村のミットに収まった。
黒木は試合が終わると少し笑みを浮かべる。黒木だけではない、氷水ナインは全員笑みを浮かべていた。それもそのはず。秋大会とはいえ関東大会に進めたのだからいや優勝したからだ。


氷水は神奈川1位東海大平沼は神奈川2位で関東大会に進むことになった。
10月下旬、肌寒くなってきた季節、この時期に関東大会は行われる。この年の会場は千葉県である。

第1回戦は山梨1位通過の大月総合だ。チームの特色としては氷水同様守り勝つ野球が持ち味。

さて、試合会場はプロ野球球団千葉ロッテマリーンズの本拠地でもある千葉マリンスタジアムだ。会場の中に入ると氷水ナインは目を輝かせるかのように球場内を見渡してた。
季節柄そして風も強く実際の気温より寒く感じる中試合が始まる。黒木はこの試合力を発揮する。黒木の緩い変化球は風の恩恵も受け、いつもより変化を増していた。

7回表、黒木の失投は真ん中に入り相手の4番打者はそれを見逃さずにスタンドまでいとも簡単に運んだ。

黒木は悔しそうに下唇を噛みしめながら新しいボールを受け取る

その後もめげずに必死に好投を続ける黒木。しかし神奈川という壁を乗り越えたが関東という壁にはるかに厚かった。
氷水は接戦の末僅かの差、一発の差で大月総合に敗退した。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/09/20 00:57 No. 125
      
第124話〜紅と黒〜

出る人そして来る人はたまた帰ってくる人とあらゆる乗客を乗せる飛行機。
愛着のある風景を噛みしめながら飛行機に乗るものもいれば懐かしき風景を楽しみにしながら降りるものもいる。もっとも飛行機に限ったことではないが…

ある男は空港で手続きを終えると在来線ホーム方向へと歩く。
電車に乗ると男はすぐに目を閉じる。

「京急久里浜〜京急久里浜〜」
男は間延びした車内アナウンスに気付くと荷物を持ち、電車を降りる。

電車を降りると赤い電車は「ファソラシドレミファソー」と音を鳴らしながら発車していった。
本来特に気にすることのない音だが、よほど懐かしいのか最後の音程まで聞いてから男はホームを後にする。

駅前に立つと大きな駅ビルや駅前に広がる雰囲気を美しい秋空と懐かしいように楽しむように足を止める。

男は駅を後にすると20分弱道を歩き、高台へと出る。目の前から見渡す景色は絶景である。きれいな海と富士山が見える。

いつ見ても見飽きないそんな美しい景色だ。
男は大きな家の前で足を止める。その表札には「紅」と書かれていた。
表札から察する通りこの男の名前は紅優生(くれないゆうせい)だ。

シニアでも抜群な成績を残し数多くの強豪名門校から誘いを受けたにも関わらず、本人はその誘いに嫌気を感じたのか全て断り学力で評価してくれた氷水を選択した過去を持つ右腕だ。しかし、1年の夏に肘を壊しチームを離れ系列校に留学扱いでずっと治療していていた。

「ちきしょぉ!油断した、くそっ。」
黒木は真っ赤にした顔で俯きながら悔しがる。

紅が帰国した同刻、千葉マリンスタジアムでは関東大会が行われいた。試合は0-1で惜敗。守備型チーム通しの試合ではあったが。わずかにそうほんのわずかに相手の守備力が上回っていた。その紙一重の差が大きな差だった。打たれたのも秋風に乗った一撃のみ、失投もその一つだけとなると黒木が悔しがるのも無理もない。

「…黒木くん、僕たちにはまだ一回だけチャンスが残ってる。3年の夏は…3年の夏こそ行こう。力をつければ絶対に行けるから」
荻野もショックだったのか試合が終わった直後は一言も発しなかったがようやく黒木を励ますような一言を述べる。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/10/16 22:07 No. 126
      
第125話〜エースの帰還〜

休日練習の真っ只中野球部専用グラウンドからは熱気の籠った練習風景が垣間見える。

「しゃあ!おらぁ、次カットいくぞ!ルナァ!」
黒木は気合入れて吉村相手に投げ込みを続ける。

その球は先の試合で惜敗した悔しさをぶつけるような感じだ。

「あー、練習中すまない、一度全員集合だ。」
大橋は手をパンパンと二回叩き部員を集める。大橋の隣には一人見覚えのある大柄な少年が立っている

「2年は知っている人はいると思うが本日より一時チーム離れて入れたいた紅優生が復帰する。」
大橋は手短に用件を伝える

「……自己紹介は苦手だ。だがおそらく1年生は俺のことを知らないと思うから改めて自己紹介しておこう。知らない顔の2年部員も増えたようだしな。
…紅優生。2年1組。右投げ左打ち。ポジションは投手。以上だ。」
紅はいつもの冷たいトーンでごく短く自己紹介を済ませ軽くお辞儀を済ませると部員のいる方にゆっくりと歩いていく。

1年部員は紅の短すぎる自己紹介に拍子抜けしながらも拍手を送る。

練習再開前吉村は紅のもとにかけよる。
「紅、さん。あんたってあの紅優生さんだよな。同姓同名の別人じゃねぇよな!?」
吉村は目をキラキラさせながら紅に問う。

紅は鼻でフッと笑い
「だったら、どうする。くだらん。名も名のならずに質問するな。気が散るとっとと練習へ戻れ」
紅は冷たく鋭い目つきで吉村に言い返す。

吉村は肩を落とし引き続き黒木のボールを受け続ける。

『……あのバカが。こんないい球投げるとは……いや、雰囲気がかわったと言った方がいいか。こいつも昔から投手やってるしそこそこのモノはあるのだろうな…まだまぐれとしか思えん。だが。』
紅は隣で投げる黒木を一定の評価をしながらもまだ低評価を下す。

「紅先輩っ!いつでもどうぞっす」
吉村と同じ1年捕手の片桐が紅に声をかける

『…まぐれとしか思えんが、この俺がこっちで今どれだけのボールを投げられるかそれもまだ不明だ。』
紅はゆったりとした独特のフォームに入り右腕からボールを放つ―――

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/10/16 22:27 No. 127
      
第127話〜紅の苦難〜

「…やはりか。」
紅はボールの軌道を自分に呆れるように見ながら発言する

紅から放たれたボールはストライクゾーンに入り威力はあったが片桐の構えた場所からズレる。

「ナイスボー!」

「試合じゃあ使えないがな。『…大体は想定していたがここまで弱まっているとは…。疎かにはしていなが坂がない分か』」
紅は冷静に自己分析をしながらボールを受け取る

紅の隣で投球練習を続ける黒木は面白いようにボールを投げ続けるが紅は自分の投球に集中しようとするがある球に目が留まる。

次の日紅はシートバッティングで紅優生の現在の弱点が露呈する。

「…いくぞ」
紅はそういうと独特なフォームから橘相手にボールを投げ込む。

橘は反応できずにミットから鋭い音が聞こえてくる。
その音にゾクッとしながら橘は2球目を待つ。
2球目もミットから快音は聞かれるがボールは外れる。

橘は3球目を打つが紅のパワーボールの前にあえなく力負けする。

「次、荻野!」
大橋が荻野の名前を呼ぶと荻野が打席に入る

「………久しぶりだな、オギ。俺がいない間の情報を俺に伝えてくれたのは感謝しよう。だが今は別だ。本気でお前を潰す気で行くぞ」
紅は鋭く荻野を睨みつける。その視線は捕食者が獲物を見つけたかのような鋭い視線だ。

荻野は紅から放たれた初球をいとも簡単に弾き返す

紅は顔にこそ出さないが自分に対して新たな疑念が浮かび上がる。

紅はその後投げ続けるが右打者は完璧に封じ込めるものの左打者には悉く弾き返される。

『おそらく、今の俺のフォームはオギや松島みたいな左打者からしたら絶好のカモなのだろう…。その原因は恐らく…』
紅は自分がなぜ左に打たれるのか考えながら荻野の2回目の打席に投げる

荻野はその様子を見ながら
『優生君、すごい投手だよボールに力がある。でも今の君のフォームだと僕たち左打者からしたら最高のカモなんだよ、いくらボールに力があってもさ。』
荻野は紅と同様の分析をしながら2回目の打席でも紅の球を完璧に弾き返す

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/10/20 22:45 No. 128
      
第128話〜浩一と美歩〜

ある日曜日、この日は久々に練習がなく荻野は家でくつろいでいた。

自室で雑誌を読んでると。隣部屋荻野の義理の姉である美歩の部屋から楽しそうな声が聞こえてくる

「…ふふっ。もう。…ところで、そっちはどうなの?調子はどう?…ん、そう。私も元気。そうね。再来週とかどう?ん。おっけじゃあその日に…」
荻野は聞き耳を立てるわけではないが思わず聞いてしまった。
正直聞きたくなかったが聞いてしまった。

荻野はその後部屋を出てリビングに向かおうとするとばったり美歩と出くわす。

美歩は荻野を見ると優しく微笑む
「あ、おはよ。こうくん。何か飲む?」
美歩は部屋から出てきた荻野に話しかける

「お姉ちゃん。おはよ。あーうん。チョコレートドリンク。」
荻野は美歩の笑顔を見ると子供みたいな笑顔で答える。

荻野が美歩とリビングでお茶をしながら久しぶりに話す。

「ねぇ。こうくん。最近部活動どう?」
美歩はティーカップを持ちながら荻野に話しかける。

荻野は少し間をおいて
「最近…夏大前から練習が毎日ハードだよ…。帰ってきたらお姉ちゃんはお風呂か寝てるかだしたまに僕が休みだとお出かけしてたからこうやってゆっくり話すのって久しぶりだね。」
荻野は言い終わると美歩が作ってくれたチョコレートドリンクを飲む。

「うーん。うん。確かにそうかも。こうくんも随分体つきよくなったんじゃない?それだけ練習がハードってことじゃないかな?がんばれよ野球少年。応援してるぞ。」
美歩は荻野の体を見渡した後に荻野にエールを送る。

荻野は照れ隠しをするようにチョコレートドリンクを一気飲みしようとする。荻野はチョコレートドリンクを飲みながら美歩との楽しい時間が続けばいいのになと思っていた。美歩に男がいてもおかしくない年齢。というか恐らくいるのも覚悟している。でも何故かそう思うと嫉妬してしまう。荻野からすれば自分以外の人間が姉に甘えてほしくないという感じなのだろうか。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/10/25 11:00 修正1回 No. 129
      
第129話〜冬場の猛練習〜

冬、練習試合が禁止となり実戦練習や筋トレメインの練習となる。

「そっちの方は頼んだ。」
紅は部室の前で荻野に声をかけるとジャージ姿で学校外の方へとランニングしながら向かう。

「待てよ、ゆーせー。どこいくんだよっ」
黒木もジャージ姿で紅にメンチを切るような言い方をする。

紅は黒木の声に気付き振り向く
「走ってくる。校内じゃあ狭すぎる。」
紅は手短に言うとすぐにランニングを再開する。

「あぁ?てめぇ一人で走らせっかよ。んな理由で学校外走るなら俺もついていく。ちょうど俺も走ろうとしていたところだかんな。」
黒木はそう言うと紅についていくように走りだす。

「勝手にしろ。」
紅は黒木に差を縮められないように先行する。

橘はその二人の姿を見ながら呆気を取られる。
「クレが戻ってきてからのタカまたさらにすごい気迫だよね。あそこまで熱い奴だったっけ」
橘はチャラチャラしていた時の黒木を頭に思い浮かべているのかギャップに驚いているようだ。

「それは、僕も思うけれど。彼らに負けてられないな…。じゃあこっちも練習始めよう!」
荻野は紅と黒木のやり取りに燃えたのかいつもに増して気合を入れた声で言う。

そのころ2年投手コンビは学校の外をランニングしてた。

『優生の野郎…あいつ先に行きやがって…。』
黒木は紅に追いつくようにペースを上げる。

みるみるうちに差が縮まり紅に追いつく

「…追いついたのか。まぁ俺に合わせるか自分のペースで行くのかは勝手だが今みたいな加速はやめろ。体力切れ引き起こす」
紅は追いついた黒木に少し驚くと同時に黒木に忠告する。

「っせえ!つーかなんでてめーはオギ達と筋トレ選ばなかったんだよ。教えろや!」
紅にメンチを切るように問いただす

紅はため息を一つつき
「俺についてきたお前がそれを言うな。そして後で答えてやるから黙れ。余計疲れる」
突き放すように言うと目的地まで沈黙が続く

とある小さい山のところまで来る。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/10/25 11:25 No. 130
      
第130話〜投手コンビ〜

2人は足を止めると息をはぁはぁと苦しそうにする。

「黒木、体力ねぇなお前。」
紅は死にそうな顔になってる黒木の顔を見る。

「あぁ?そういうお前も俺がいるのか知らねぇけどよ闘争心燃やしやがって。クールぶりやがって。闘争心ぐつぐつじゃねぇか。案外」
黒木は少し笑みを浮かべながら問いただす。

「うるさい。ほらよ。」
紅は自販機で二つ同じ飲み物を買い一つを黒木に投げる。

「お、おう。サンキュー。」
紅が本来そういうことするはずがないと思っていたのか驚愕する。

本来なら冷たく凍えるような真冬の風が走って火照った体には気持ちよく感じる。

「…黒木。走ってる時にお前俺に聞いてきたな。何故学校外を走るのか、と。」
珍しく紅から口を開く。

「学校内が狭いのは事実だ。だがまぁ今日は流石に走りすぎたが。それに確かにお前も含めて筋トレという手もあった。だが、今の俺にはそれ以前に根本的な欠陥があった。黒木、同じ投手なら分かるだろうが。今どう見える。」
紅はスポーツドリンクを片手に持ちながら黒木に問う。

「俺から見た今のてめぇってか。アメリカから故障していたエース様が帰ってきてよボールには威力あるし初めてお前と会った時と変わってないように思えた。だがそれは右打者んと気だけだ。俺は右打ちだからよ打席からどうみえっかなんて分かるわけねぇけどよ。投げてっ時に後ろから見たらよ左からは見やすく感じるしよ…それに」
黒木はスポーツドリンクを飲んで一息おいてから口を開くも途中で紅に静止される。

「ああ。今の俺は対左に弱い。この間の練習試合のように弱いチームの左なら気にせずに圧勝できる。さらに今の俺は下半身が弱っていてフォームに一定の安定感がない。流石になめていた。それが理由だ。逆に問おう。なぜついてきた」
紅は黒木の疑問に答えると逆に質問する。

黒木は間抜けな顔をするがすぐに元に戻り
「負けたくねぇんだよ。夏と関東大会で屈辱味わって自分にいろいろ足りてねぇからレベルアップしてぇんだよ。…それにてめぇにもよ。簡単にエースナンバーを奪われてたまるか。」
黒木は空のペットボトルを力強く握りしめる。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/10/30 22:30 No. 131
      
第131話〜思いは同じ〜

黒木が紅に向かって負けたくないと発言した後沈黙が続く

「…俺に?」
決してバカにしているわけではないが何言ってるんだ?というトーンで口を開く

黒木は一瞬キッと紅を睨む
「ああ、誰にも負けねぇ。どこにも負けたくねぇ。例え相手がてめぇみたいな化け物でもな。」
語気を強める

寒空の中冷たい風が吹き抜ける

「…化け物扱いはやめろ。確かに俺はそう呼ばれていた。だがそれは故障前。いや故障関係なくとも過去の産物だ。称号とは結果を出せなければ過去の栄光にすぎない。それを維持したければ結果を維持しなければならん。だがそこで妥協しては成長などできやしない。俺はさらなる高みへと進む。…とはいえ今の俺にとっては過去の栄光に縋る立場だろう。さらなる高みへは俺でも果てしなく遠い。……負けたくない、か。お前とは考え方も価値観もすべてあわないと思っていたがそのスタンスはどうやら同じみたいだな。だが言うだけは簡単。その負けたくないという覚悟、答えを俺に見せてみろ。黒木。」
紅は過去の栄光を拒絶しさらなる高みを目指してることを口にする

「けっ、やけにおしゃべりじゃねぇか優生ちゃん。ああ見せてやるよ。俺の力をよ。夏の大会はベンチで出番待ってろよこの凋落エース。校外走るならいつでもついていくぜぇ。」
黒木はビシッと決めるように紅の方に指さす

「…ふん。勝手について来い。…戻るぞ。」
紅はベンチから立ち上がるとゴミ箱にペットボトルを捨て黒木を待てずに先へと進む。

『…見てくれのスピードと直球の勢いは少しずつ戻ってきているが、まだまだ程遠い。変化球もまだイマイチ。一先ず下半身を完成させないと意味がない。……己に対する課題はたくさんある。そしてそれを夏前までにすべて克服しなければならない。』
夕陽に照らされる坂を下りながら紅は改めて己に対する課題を認識しそれを克服するつもりでいる。

『まーーた先に行きやがってあの野郎。いっつも俺の先を行きやがって。ぜってぇに追い越してやるからな畜生!』
黒木は紅の後方を走りながらいつまでたっても追いつけない紅の背中を睨む。

この2人が肩を並べられる日は来るのだろうか。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/02 22:40 修正1回 No. 132
      
第132話〜地獄ノック〜

紅と黒木が外を走ってる間野手陣がグラウンドで練習をしていた。

「あの2人どこまで行ったんだろうね。オギ」
橘の話す口から寒さの影響で白い息が出る。

「さぁ、でもクレに付き合うってことは相当長い距離だと思うよ。」
荻野は寒がりの為、ユニフォームの下に厚めのアンダーシャツを着込み、ネックウォーマーで口元まで覆ってる。

パシィンと荻野の投げたボールが橘のグラブに響く。

「って〜。でもいいボールじゃん。コントロールよくなってきた?」
橘は一瞬痛みで顔をしかめるがすぐに荻野に返球する

荻野はムスッとしながら橘のボールを受け取る
「外野にコンバートされてからはコントロールはいい方だよ。」
荻野は思わず力強く投げてしまう

「そろそろ体があったまってきた頃合いだろう。野手陣、集合だ。」
大橋がグラウンドに残ってる野手陣を呼び寄せる。

大橋は一つため息をつく
「優生と隆之が外に走りにいってしまい残ってる投手は赤田だけだが、赤田も含め。本日はノックを行う。…だが今日のノックは地獄だぞ?」
大橋はニヤリと笑う

残ってる部員は大橋のニヤリとした笑顔にゾワッとする。

「まずは内野ノックからやるぞ。正規ポジションのものは自分の守備位置につけ。それ以外のものは好きな位置入れ。ただし荻野赤田。お前たちはファースト固定だ。」
大橋はノックバットで素振りしながら言う

まずはサードからだ。

佐藤の元へ打球が飛ぶ。しかし打球の速度から佐藤は目をつむり逸らしてしまう

「なにやってんだサードぉ!目ぇ瞑ってんじゃねぇ!体で止めるぐらいの勇気見せろや!おらぁもういっちょいくぞ!」
佐藤の行動に激怒する大橋。

だが、佐藤が取れないのも無理もない。ノックという次元の打球速度ではないからだ。
「は、はい。すいません!」
大橋の鬼の形相を見るや否や涙目になる佐藤。
その後佐藤は恐れながらも捕球し送球する。他のメンバーも苦戦しながらもなんとか捕球し送球する。

『ノックとかそういう次元のスピードじゃないけど僕なら一発で』
橘は他のポジションのノックを見ながら自分の守備能力と照らし合わせそう感じた。

「次、セカンド行くぞ!」
大橋は次はセカンド方向に打つことを明言する。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/02 23:06 No. 133
      
第133話〜守備難一塁荻野〜

「『来る!』お願いしまーす!」
橘の元気な声が響き渡る。

大橋がバットに当てセカンド方向に飛ぶ。
橘が取りにいこうとした刹那打球はイレギュラーバウンドを起こし、橘派逆をつかれ必死に手を伸ばすが取れずに打球は外野方向に抜けていく。

予測していた打球と違う打球が来て愕然としている紅を無視するかのように大橋は次の打球を橘にめがけて放つ

2球目は捕球する
『回転が変に…』
橘は一塁に送球しようとするも変な回転がかかったグラブにしっかりと収まっておらずファンブルしてしまう。

「橘ぁ〜おめぇよぉ。サードとショートと同じ打球が来ると思って油断したろ。予め予測のできる打球はある程度簡単さ。だが試合ではありとあらゆる打球が飛んでくるんだぞ、守備が上手いからって調子に乗るんじゃねぇぞ。もう一本いくぞ」
大橋は入部当初から橘に対してだけは異様に厳しい。その結果伸びてきているのもあるが…

橘は3球目をなんとか捕球し一塁に送球する。

次は一塁だ。荻野はなんとかとり二塁に送球しようとするがものの見事に送球が大きく逸れてしまう

「オギ、だからなんでっ近い距離がダメなんだよ。」
セカンドの橘は荻野の送球を取ろうとめいいっぱいジャンプするが届かず外野へと飛ぶ。

「しっかり送球しろや!オギ!」
大橋からも怒号が飛ぶ。

荻野はその後送球を意識し始めたのか打球をしっかりと確保できなくなる。

『くそ、送球を意識すれば今度は捕球が…内野ってこんなに難しいんだ。』
荻野は自分のファーストの下手さに呆れながら6球目を待つ。

6球目を何とか捕球し、送球もわずかに逸れるが情けで赤田に回る。

赤田は通常ノックだけではなく。ベースカバーの練習も行う。

一二塁間を抜けそうな打球を橘が捕球し、マウンドに一時的にたった赤田がベースカバーに向かわなければならないのに赤田はボサッとしてベースカバーを怠る。

その光景を見ていた周りは覚悟を決める。鬼の前で緩慢なプレーをしたのだから。

「赤田、俺なんて言った?言えよ。俺がお前に対してなんていった?ついさっきだぞ。」
大橋はドスの効いたトーンで赤田に問い詰める。

「…ベースカバーに入れと」
赤田は小さくぼそぼそと答える。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/03 11:46 No. 134
      
第134話〜鬼軍曹・大橋徹〜

「分かってるじゃん。じゃあなぜ入らなかった。投手失格だぞ。野球なめんのもいい加減しろ!気ぃ抜くのがお前の悪い癖だぞ、赤田ぁ。もう一本行くぞ!」
大橋は再度一二塁間に強い打球を放つ

橘は快足を飛ばし打球になんとか追いつき、体をうまく反転させて送球する。
『ちょ、さっきより強烈…僕に当たるなよ。監督』

しかし赤田はタイミングを合わせられずしっかり確保できない。

橘はそその後赤田と息が合うまで左右に走らされる。
その後全員ノック受け終わると息を切らしてグラウンドに座り込む部員たち

「『…まずいな、ファーストが一番の穴だ。いくら守備特化にしてもファーストが穴ならば何の意味もない。新入生に期待するかそれとも一塁の諸口にこのまま期待するか。だが奴の守備センスでは鍛えてどうこうなる問題ではない』少し休憩の後は次は外やノックだ。冬場の練習がこれからこの練習がメインになることを覚悟しておけ。」
大橋は部員に言うとタバコ吸いに一度離れる

部員たちは大橋のほぼ毎日ノック練習宣言にブーイングをしたいがもはやそれをする気力がないぐらいに疲れ切ってた。

「あのおっさん、うれしそうにノック打ちやがって。ドSかよあのおっさん…」
松島はグラウンドでくつろぐように足を延ばす

「大橋の野郎は人一倍守備には厳しい。特にカズ、お前がそれを一番知っているはずだ。」
稲本は肩で息をしながら橘に話しかける

橘はなんのことか理解できずに首をかしげる。

「お前がわからなくてどーすんだよっ。たく…俺の親父と大橋は大学時代同じチームだから聞いたことある。もともと打撃が課題なんでな、生き残るために死ぬ気で守備を磨きに磨いた。そしてチームに欠かせない選手にまで成長した。だからこそ守備練には人一倍厳しいんだよ。それにあの人の現役時代のポジションはカズ、お前と同じサードセカンドだ。だからお前には他の誰よりも厳しくされてんだよ。」
稲本は親から聞いた話をそのまま橘に話す。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/07 00:50 No. 135
      
第135話〜橘と荻野〜

気が付くとあたりはすでに暗くなっており、時計も21:00を指していた。大橋から練習終了と言われるとへとへとになりながら部室に向かう部員たち。しかしユニホームや顔は泥だらけ、相当大橋にいじめられたというのが目に見えて分かる汚れ具合だ。

「オギ、この後暇?」
橘はユニホームを脱ぎアンダーシャツ姿で荻野に話しかける

荻野はYシャツを着た後携帯画面で髪型をいじりながら橘の声に気付く
「暇だけど、なに?」
荻野は返答しながら携帯をブレザーにしまう。

「よっしゃ、じゃあごはん食べにいこーよー。駅前に新しい店できたんだ。」
橘はニコニコしながら言う

荻野は暫く考えたのち橘の方を向く
「えっと…あの店、か…。僕も行きたいと思っていたし。いいよ」
荻野も橘が行きたい店がわかるのかあっさりと肯定する。

練習が終わったというのにきつい坂を下り、長い道を下るのはさすがに気が遠くなる。でもくだらなければ帰れない。そんな僻地にある学校だ。それが運動部の強い証拠なのかもしれない。

「寒っ」
部室の外に出ると思わず声に出てしまう。

練習中は気が付かなくても練習が終わり帰る頃になると冬の寒さに改めて気づかされる。

何分か歩きようやく駅前に出ると、つい最近開店した店に橘と入る。

荻野たちは店員に案内され、空いてる席に座り、メニューを注文すると運ばれるのを待ちながら話しこむ。

「…別にいいんだけどさ、練習が長いと茜ちゃんと帰れないのがちょっと不満だな。」
荻野は急に何を言いだすかと思えば茜のことだった。橘といるときはいつもこういう話をしているのか何の戸惑いもなく橘にボソリと言う

橘は一瞬真顔になった後以前の顔に戻る
「オギってば。僕といると絶対に1回は神原さんのことぶちこんでくるよね、でも仕方ないだろ。練習長いと終バス終わるし、そもそも距離遠いし、僕たちと歩いても内心不安だと思うしね。街灯の少ない通りだし…」
橘は橘でいつも通りなのか荻野に素早くツッコミいれる。
「でも、オギ。僕が君を呼んだのはいつも通りのこういう話をするためじゃない。前から疑問だけど外野からはいい送球するのになんで内野だと送球が大きく乱れるんだ?」
橘は真剣な顔で荻野に問い詰める。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/07 01:10 No. 136
      
第136話〜投手荻野〜

荻野は言いたくないからか言い訳の手段を何通りか瞬時に考えようとするが真剣な顔で問いただしてる橘から逃げきれないと悟りあきらめて口を開く。

「…元々投手やってたって言ったよね?」
荻野は暫く沈黙した後にようやく口を開く

橘は聞いたことあるよと肯定するように頷く
「…うん、途中で外野に回されたというのも、まぁその時点で投手として失格なのは分かるけどでも、それが僕の聞きたいことと何の関係が?」
今度は首をかしげる。

「関係あるさ、その投手失格になったのは制球難なんだ、まぁそれでもその時は近距離の送球ができていた。ただ中学2年の大会でさ、いつも通りストライクが入らなかった。まぁそれはいいんだけど…よくないけどね?ただその試合でさバントされたんだ、僕の目の前にその打球を処理した際に送球エラー。試合展開的には痛恨のエラーだったさ。あのエラーがなかったら僕たちの中学校が勝ってた。で、その送球の逸れたボールが打ったバッターの後頭部に直撃しちゃって…なんともなかったとはいえその後暫く動けなかったんだ。で、もうその後はストライクがさらに入らなくなったし…それに送球が恐くなったんだ。また送球エラーして負けたらどうしよって…そう考え始めたら送球がめちゃくちゃになってさ…何言ってるのか分からないかもしれないけれど近距離の投げ方を忘れたし今でも投げ方がわからないんだ。外野からなら距離遠い分ぶん回しの送球はできるけれど…」
余程思い出したくないトラウマだったのか荻野は話してるうちにだんだん涙目になっていった。

「うわ相変わらずメンタル弱ぇ〜。でも教えてくれてありがと。それっていわゆるイップスじゃないの?知らないけど。でも内野に入ってる時はしっかり送球してくれないとこっちが困るっての。僕相手ならぶつけてもいいそう言う覚悟で明日から送球してみてよ、大丈夫、安心しろよ。この橘様なら体に当たりそうな送球はなんなく捕球してあげるから、さ。」
橘は涙目になってる荻野を半ば慰める言い方をしつつしっかりと指導するところは指導するそんなスタンスで荻野に言う。
荻野も橘も高校生としては幼い顔たち雰囲気のためはたから見れば仲のいい中学生同士が慰めあってる光景に見えるだろう。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/07 11:25 修正1回 No. 137
      
第137話〜紅兄弟〜

練習が終わり、帰宅する時でさえも紅はジャージ姿で走って家に帰る。学校から紅の地元まで10km以上あるのだから周囲も唖然とするしかないストイックさと練習好きさである。

紅は家に帰ると自分の部屋に戻りフゥーと息を吐く
しかしゆっくりする間もなくコンコンとドアを叩く音が聞こえる。

「兄さん、お疲れさま。あのさ…受験勉強で分からないところがあるから教えてほしんだけど」
ドアを叩いたのは紅の実弟の祐樹だ。

「…祐樹か、いいだろう。お前の部屋に今行く」
紅は机にいれてある筆箱とノートを取り出し、祐樹の部屋へと向かう

紅は祐樹の部屋に入ると少し言葉を失う
「…祐樹、毎度言ってるが少しは部屋をきれいにしろ。汚すぎる。…まぁそれはいい。で、どこがわからない?」
部屋をきれいに使う兄・紅優生からすれば弟の部屋が汚いのは頭にきたような怒気が若干籠った声になる。

「あ、うんここなんだけど…」
祐樹は問題集のページを指さす。

紅は問題集をのぞき込むように見て
「…ここか。古文できないとうちには入るのはまず厳しい。…だが、祐樹お前はなぜスポーツ特待生のないうちを選んだ。お前のシニアの実績なら横須賀松陰あたりぐらいからは推薦来るだろ。」
紅は俺の得意分野だと言わんばかりの顔をした後に何故自分と同じ高校を受けるのか問う

祐樹は頭をポリポリした後
「確かに俺は兄さんと違って頭よくないしというか頭悪い方だし、確かに中堅クラスの横須賀松陰や秦野、京都の嵐山から推薦は来た。でも、俺一度も兄さん。あんたと同じチームで野球をしたことがない。最後に1回ぐらい、兄さんと同じ高校で同じチームで野球をしたいんだ!」
祐樹は自分の思いを兄にぶつけるかのように紅を見つめる。推薦を蹴ってまでも苦労して勉強してでも兄と野球がやりたい。その気持ち、熱さは本物だ。

「そうか、甘ったれた動機だな。
それにお前の学力じゃあ死に物狂いで勉強しないと入るのは確実に不可能だ。だが甘ったれた動機ではあるがそこまで言うなら兄としてそして4月から先輩となるかもしれない存在としてサポートしてやる。
前も言ったが俺が教えている途中で弱音吐いたら許さん」
紅は実の弟に対しても冷たく突き放しながらもなんだかんだ言いながらサポートすると一定の優しさを祐樹に見せる。
その優しさは野球部は誰も知りやしない優しさである

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/08 16:31 No. 138
      
第138話〜女子たち〜

冬休み最初の日曜日、この日は練習がオフのため荻野は家でだらだらしながら携帯をいじり、誰かに電話をかける

「それでさ〜。…あ、ごめん。電話。…あ、また浩一君からだ。」
電話の相手は茜だ。茜は携帯電話に表示される相手の名前を見ると一瞬嫌な顔をする

「また荻野くんから?最近ちょっとしつこいんじゃない?」
茜の友達である甘奈は茜の嫌な顔を見るや否や声をかける。

「うん…。あ、浩一君?電話なんてどうしたの?え、今日暇?ごめんね、今日ちょっともう予定があるんだ。ごめん。また誘ってね。うん、それじゃ、また明日。…ふぅ」
茜は電話を切ると一つ息をつく

「相変わらず異性と話す時は甘い声で話すわね…茜ちゃんって。」
甘奈と茜がいるということはこの子もいるのは当然である恵理は少し苦笑を浮かべる。

甘奈は茜の顔を見ながら
「ねぇ、荻野君ってさ絶対茜に気があるでしょ。」
甘奈はバッサリと茜に聞きにくる

「うん、そう思う。たまにチラチラ見られてるし。想い上手く隠しているつもりだけどバレバレなんだよね。…悪い子じゃないけど、ちょっとしつこいし、私はただ昔思いきっり優しくしたらそこから…。」
女の勘というのは怖いもので男が好意を隠しているつもりでも女にはお見通しされてるケースが多い。

本来度が過ぎれば急に関係は悪くなるが茜は野球部のマネージャーであり、元の性格が優しすぎるため拒絶はせずいつも通りに接してはいるが内心は複雑であろう

「ちょっとぉ〜もぅ私も話に入れてよぉ!野球部関係の人間なら黒木君ってさ格好良くない?バカでチャラいけど。」
恵理はいつも通り膨れっ面になった後に話しに急に加わってくる

茜と甘奈は急に何言ってるんだろうという顔で恵理を見た後口を開く

「分かる、最初あったころはこいつ留年して辞めるんだろうなと思ってたら急に真面目になって、学校もしっかり来てるし」
甘奈は恵理の話を広げさせようと当たり障りのない標準的な会話をしようとする。

「まぁ紅君が故障してからだけれどね、真面目になったの。なんで急にそうなったのかは知らないけどすごく泥臭いけど執念を感じるよ。うちの野球部で一番執念強い人間なんじゃないかな?」
茜はマネージャーとして見える視点から二人に語る

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/08 17:34 No. 139
      
第139話〜紅の頼み〜

12月31日、大晦日。この日も当然のごとく練習はあるが、いつもと違い17時で練習は終わりだ。

「次、紅!」
大橋は赤田の次に紅をシート打撃の投手に指名し紅は久しぶりにマウンドへと上がる。

紅は投げる前に肩を2,3回軽く回す。

11月半ば以来の久方ぶりの紅優生の投球。走りこみの効果はどこまで効果があるのだろうか。それは一緒に付き合った黒木も楽しみであろうが、それ以上に効果を確かめたいのは紅自身だ。

ゆったりと投球モーションに入り、右腕からボールを投げる。

紅から放たれたボールは糸を引くようにスーッとコースギリギリに決まる。

『こいつ…一体なんなんだ。なんなんだよぉ。』
黒木は紅の投球を見るとゾクッとする、だがそれは恐怖ではない。同じ投手としての実力の差や凄さを感じた瞬間だ。

2球目3球目とあっさりとバットが出せず先頭打者の荻野を見逃し三振に切り落とす。

『一球も打てる球が来なかった。…この前と大違いだ』
荻野は紅の投球術に驚きながら打席を後にする。

発射台が安定したことで制球力が向上し荻野のヒットコースにボールがこなかったとも言えるがそれでも見逃しの三球三振は打者としては屈辱に過ぎない。

紅は所定の打者に投球を終えると黒木に代わる。
黒木の投球を後ろから腕くみしながら見てると黒木のある球に目が留まる。

紅の目が付けたボールは左打者の荻野稲本蓮本が苦戦する。

「黒木。」
紅は投球を終えゆっくりしてる黒木に声をかける。

「紅か、ぁんだよ。なんか用でもあんのか。」
黒木は紅の顔を見ると少し嫌そうな声で紅に言う

紅は一切顔色を変えずに黒木の方を見る
「ああ、教えてほしいことがある。お前の投げる。カットボールの投げ方を教えてくれ。俺は対左対策のボールを所持してはいない。」
紅は真顔で黒木に教えを乞う。

時間が止まったかのように2人は何もしゃべらない。流れるのは時間と風だけ。

悩む悩みに悩んだ末黒木はようやく口を開く
「カットボールだろ?いいよ、教えてやんよ。」
カットボールとは黒木の投球スタイルからすれば核となるボール。
それを紅に教えるということは仲間とはいえエースを争う敵に自分の核を相手にあげるようなものだ。
それでも黒木は先ほどのゾクッとした感じを忘れられずさらに凄い紅を見たい。ただそれだけが気持ちを動かした。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/11 23:32 No. 140
      
第140話〜怠らぬ努力〜

「フッフッ」

新年1月1日。朝3時50分。外がまだ暗い中紅は走りこみをしていた。
外の気温は5度を下回り、北風も強い。

口から出る息は白く、耳も赤い、寒さの証明だ。

なぜ新年早々紅は走りこんでいるのか。それは久々に投球してもイマイチ不満があったからだ。当然投げ込みも必要だが下半身を徹底的にいじめつけてから投球練習をする紅にとっては走りこみは必須項目だ。

納得がいかなかった。己に納得したくなかった。年末最後の練習で投手を務め、被安打0に抑えたものの己のボールに納得はできなかった。力のある強打者ならいとも簡単に弾き返されたであろう。まだその程度の甘さだ。球威がほとんどなくコントロールのいい球はそこに来ると詠まれたら一巻の終わりだ。と紅は考える。

『いいところまではきた。だがまだまだ不足はしている。怪我をしてチームに迷惑をかけた。先輩方を甲子園に導くことはおろか奴らとも全然試合ができてなかった。最後の1年。夏だけでも俺はチームを導き、頂点に輝く。俺の力で。そのためには鍛錬が必要。失った時間を取り戻しそれ以上のパフォーマンスを発揮するには…そして二度とあんな記事は書かせはしない。…いいや、書かれたのは構わん。現状事実だ。だが夏には、いやそれ前に俺が頂点に立ってやる。必ず…』
紅は平静を保ちつつも脳裏にある記事が浮かんでくる。

それは弟である祐樹が購読している野球雑誌のある記事だ。

そこにはこう書かれていた。故障により輝きを失い新平成の怪物紅優生の時代は終わりを告げ、時代は影野成瀬の2トップに移り変わったともいえよう。という見出しとともに白黒写真ではあるが地区大会で優勝を納めマウンドでガッツポーズをする会田高校の影野と土佐高校の成瀬が移りだされていた。

過去にこだわらず今現在将来しか興味ない紅とっては過去の栄光などどうでもいいことではあるが怪我を理由に時代を終わったことにされるのは紅にとって屈辱以外なにものでもない。怒りはない。現状の自分が物が立ってる。だが時代は終わってもいなければ始まってもいない。新たな高校野球の時代を作るのは誰になるのか。

ようやく夜が明けたのか日が昇ってくる。初日の出だ。坂を上る紅の後ろに紅く輝く初日の出。

初日の出に照らされる男はいつもにまして輝かしく見えた。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/15 19:58 No. 141
      
第141話〜遠征・練習試合〜

年が明け厳しい冬の練習を乗り越え3月を迎え、ついに練習試合解禁となる。

「全員集合。以前も話したと思うが今度の練習試合は遠方で行うと話したが。対戦相手が決まった。高知県の土佐高校との試合になる。日時は来週の土曜日。場所は高知県で行う。」
大橋は全体練習が始まる前に今後の日程を伝える。

対戦相手を聞くと部員たちはざわざわし始め、あまり感情を出さない紅もピクリと軽く目を一瞬大きく見開く。

それもそのはずだ。土佐高校は2回戦で惜しくも敗退したものの今年の選抜に出場していた高校だからだ。

「来週の金曜にバスで高知に移動し、その日は軽めに練習。次の日に練習試合を行った後軽めの合同練習を行う予定か2試合行うことになっているが…先発は当…」
大橋は先発はまだ決めておらず、当日決める予定であったが大橋の言葉を遮り聞こえてくる言葉があった。

「監督、俺にやらせてください。先発は俺が。」
発言の主は紅優生であった。

大橋は腕を組み言葉を続けようとするが紅の目を見て言葉を続けるのを辞める

「…ふん、いいだろう、優生。お前が先発だ。」
大橋が紅に改めて先発を明言するとまわりから拍手が巻き起こる

練習が終了し部員は部室でユニホームから制服に着替えながら話す。

「しっかし優生よ〜。お前が強気なのは前から分かってけどよ。んで先発志願すんだよ。大橋ん事だから当日に決めるのが普通じゃねーか。」
黒木はYシャツ前開きのだらしない姿で紅に話しかける

「黒木同じ投手のお前なら分かるはずだ。」
紅は1人着替えを終えると先に帰る。

黒木はまだ話したいことがあるのか紅を呼び留めようとするが紅はすでに学校から出ようとしていた。
「わっけ分かんねぇよ…やっぱわけわかんねぇ…んで俺があいつの理由をわからなきゃいけねーんだ。つーかあっこの破壊力に成瀬だろ?俺や今の優生じゃあ敵うわきゃ…っ!そりゃ志願するわ。ずるいぜ、優生ちゃん。」
黒木は紅に対して不満をたらたら言ううちに自分で理由を発見しハッとする。

黒木が理解した時は分かりやすく、頭の上に!マークが浮かぶようなリアクションを取る。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/17 21:22 No. 142
      
第141話〜クソ兄貴〜

紅を除く新3年生組は軽めの練習を終え、自由行動を言い渡されるや否や土佐を観光していた。

「いい街だろ、土佐って。久々に帰ってきたけどいい街だぜ。やっぱし。湘南出身のおめーらにゃわからねーだろうけどよ。」
黒木は他の3人に自慢するように言う。

「ねぇ君かわいいね。名前なんつうの?」
「え、わ、私?」

街を歩いていると少し不潔な風貌の男が茜に話しかける
黒木の顔はその男の顔を見るとさっきまで明るかった顔が激しく憎悪した顔を浮かべる

「おい、相変わらず手あたり次第JKにナンパかよ。このクソ兄貴。てんめぇろくに働きもしねぇくせにだらだらしやがって、親父にぶっ倒れて働けなくなっても働かずに母さんに追い出されてどこにいるかの思ったから今度は爺さんに寄生してんのかよてめぇ!つーか俺の女に手ェ出してんじゃねぇ!」
黒木は本来ふざけたチャラい口調や時に紅のような冷たい口調をするがここまで激昂した口調は初めてだ。
まるで何かが噴火したかのようだ。そして黒木は実の兄を軽蔑するかのような目で見下す。

黒木の兄は居ても立っても居られなくなったのかしどろもどろしながらその場から逃げ去る。
「28になっても無職してんじゃねぇ、とっとと仕事見つけろよクソ兄貴。…って神原…す、すまん。あ、あの野郎は俺に弱いか、からよ…ああいうこと言えばにげんだよ。」
黒木は逃げ去る兄を憎悪の目で背中をさすように睨み、兄が見えなくなると茜の方を向き頭を下げる

茜は黒木の声に気付きクスリと笑う
「え、あー。ううん。ありがと。助けてくれて格好良かったよ。…正直、怖かったのもあるけどタッキーのお兄さん、ちょっと臭かった。『へぇ恵理のいうこと少し分かったかも。でもチャラい事いう癖に私に謝ってどもるなんてちょっとかわいいところあるかも…てかあの2人じゃあ厄介なことになってたかも』」
黒木の行動に感謝しありがとと言いながら頭を下げる

黒木がいなかったから厄介なことになってたかもと心の中で言われた1人の橘はやりとりに嫉妬するように見ているであろうダメンズの片割れの荻野の胸に軽く肘でどつく。橘の予想はあたり荻野は嫉妬するようにやりとりを見ていた。


新3年組で唯一や度に残った紅は1人テレビで明日の土佐高校の予習をしていた。
『見れば見るほど厄介な相手だ。流石はセンバツ出場校』

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/18 19:54 No. 143
      
第142話〜新ユニ〜

学校名の正式変更は新年度4月からだが運動部には新校名のユニホームが配られ、公式戦にでている部はまだ旧ユニのままであるが、練習試合等では新ユニを着用する部もあり、野球部もその一つだ。
旧ユニは無地に学校名が入ったシンプルな作りであったが、新ユニは無地にピンストライプ。学校名はローマ字で「HIEI」と書かれており、アンダーシャツは青に、帽子は黒でツバの部分が青と大幅にユニホームがかわった。

「旧ユニ、買い直すの待ってよかったね。しかも身長的にはまだ伸びるんでしょ?後さ新ユニ格好いいよねピンストライプだしさぁ!」
橘はニコニコ笑顔で紅に話しかける

「…ああ、まだ年齢的にな。だが俺もここまで、10cmも背が伸びるとは思わなかった。…野球はユニホームの格好良さで競う競技ではない。どんなユニホームだろうが勝つだけだ。」

紅は入部時、当時の身長としてはやや大きめのユニホームをオーダーしたが、とうとう小さくなってしまっていたのだ。それもそのはず入学時180cmあったが、今は190cmと3年間で10cmも伸びたことになる。しかもまだ伸びる可能性があるためどこまで背が大きくなるのかは誰にも分かりやしない。

ユニホームに着替え終え両チーム試合前のアップ、練習も終えベース前に整列する。

『こいつら…間近でみるとさらにでけぇ。いろいろと。』
『ぜってぇやる競技間違ってんだろ…アメフトやれよ。』
黒木と吉村は心の中で土佐高校の選手達の大きさに驚愕しやる競技間違えていると思うほどだ。
ガタイは高校球児とは思えない程よく、身長も紅より大きい選手は流石にいないが近い大きさの選手は何人かいるようだ。

「「よろしくお願いします」」

試合前の挨拶が終わると守備位置に散る土佐。先攻のためベンチに戻る比叡国際。

橘は空を見上げながら笑みを浮かべる
「予報では曇りだったけど晴れてくれたいい天気〜。やっぱ野球は青空の下でやらないとね。」

予報では曇り。夕方からは一時雨の予報であったが見事に外れ心地よい春晴れになり、寒くもなく暑すぎることもなく春らしいちょうどいい気温。
試合がなければお花見もいいのでは?と思うほどだ。

『成瀬竜海…お前の力、センバツに導いた力がどれほどのものか見させてもらおう。』

紅の視線の先にはマウンドに上がる土佐のエース成瀬竜海が映っていた。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/18 23:15 No. 144
      
第143話〜試合開始〜

『成瀬くんってセンバツで151km計測したんだっけ…うわぁいやだなぁ…速球派とか大嫌いなんすけど…』
橘は口を三角にしながら打席に向かう

だがそれも今だけ打席から見える空、フェンス、外野の芝の色にむせかえる土のいい匂い。そしてまだ誰にも踏まれてない綺麗なバッターボックスがやる気にさせる。

橘はグッとバットを一度投手側に向けてから元の位置へと戻す。

審判から試合開始の合図がかかり、成瀬は捕手島原のサインに頷き足を上げ投球動作に入る、上げた足が着地し成瀬の右腕からボールが放たれる
橘は反応できずに見送る。

「あいつ初球からはえーな。俺等以上に出ているんじゃねぇか?」
「…ああ、今の俺の最速は145km、お前は144km。どちらにしろ今俺たちの球ではあいつよりは遅い、だが投手はスピードだけがすべてではない。特に問題ではない。『とはいえ、俺の大の問題でもある。高1の時から球速がかわっていないことだ。』」
いつもは会話が噛み合わない2人の会話が珍しく噛み合う。

成瀬は2球目もストレートで橘を抑えに行く。橘は意地を見せつけるのかのように外角の直球を弾き返し打球は一二塁間を破る。

そう思った矢先突如打球の行方が何者かに遮られる。一二塁間を破るかと思われた打球を捕球したのはファーストを守る西宮だ。

「ナイス、ヒデ!」
「タツ!お前もその調子で抑えて行け!まずはワンナウトだ!」
成瀬は西宮と軽く話しながら返球をもらう。

打った瞬間手がしびれたのか手をパタパタさせながらベンチに戻ってくる。速球がバットの先端に当たればそうなる。

「って〜痺れた〜。めっちゃ速いよ。150越えってこんなに速いっけ」
ヘルメットを外しながらぼやく橘
2番の稲本が打席に入る。しかし直球で押してくる成瀬にどう見ても負けている。練習で黒木や紅にすら振り遅れている打者が成瀬を捉えられるわけなく三振になる。

3番に入った強打者の吉村ですら成瀬に手玉に取られるかのように呆気なく凡退する

『シニア最速右腕怪物紅…なぜそのお前が推薦を蹴ってまで中堅校に進んだ?高1の時に右肘を怪我しつい最近復帰したと聞いた。今度は俺がお前の投球を…今のお前の実力を見せてもらうぜ』
マウンドに上がる紅をベンチから見つめる。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/18 23:17 No. 145
      
第144話〜紅対土佐打線〜

スパイクでマウンドをならしてからマウンドの感触を確かめるかのように投球練習を行う紅

「あいつシニア時代雑誌に載ってた。紅じゃん。あれ、でもフォームが昔と違う。昔はアーム式だったような。」
土佐の5番打者夏目が紅の投球練習を見ながら過去とフォームが違うことに気付く

「フォームを肘の負担がかからないようなフォームしたら制球がガタガタになってその後ひじの負担を軽減するのを意識しつつさらに改良したらしい。」
3番を打つ古賀は即座に夏目の疑問に答える。

土佐の先頭打者・司馬が打席に入る。

『こいつ、背どのくらいあんだ?高校野球で秀忠よりデカイやつ初めてみたぞ。故障して終わったと雑誌に書かれていたがかつては全国区だったんだ、油断はできん』
司馬は油断したら痛い目にあうと自分に言い聞かせながら紅が投げてくるのを待つ。

『左か…新球を試すいい機会だ。だが練習試合とて手は抜きはせん。テストにこだわりすぎて自滅する腑抜けたことはしない。』

投球動作に入り、長身をいかしたフォームからボールが投げおろされる。

初球は新球・カットボールを投げ入れる。司馬は思わずバットを出すがボールに当たらずバットは空を切る

『優生、てめぇ…俺が苦労して習得した決め球をお前に教えたらお前はこうも意図も簡単に…』
黒木は悔しさからか力強く拳を握り締める。

しかし人によって投げやすい変化球投げにくい変化球がある、紅にとってはたまたまカットボールが投げやすい変化球だったのかもやしれない。
2球目3球目とコースから外れボール先行のカウントになる。

司馬はじっくりと球を見極め、4球目を引っ張る
『なるほどな、成瀬程じゃないがそこそこ出てるな。流石だが…甘いんだよ。』
司馬は捉えた打球に強くライト前に抜けようとするが橘は小柄な体を精一杯伸ばしながら打球に飛びつきそのまま一塁に送球し、アウトをもぎ取る。
捉えたはずの打球が捕球されアウトにされた。司馬は橘の守備力に驚きながらベンチに戻る。ベンチに戻る司馬の背中を見ながらどや顔を浮かべる橘。まるで先ほど好捕された悔しさを司馬にぶつけるかのように
2番の涌井はサードゴロに打ち取るが、3番の古賀にセンター前ヒットを許し、プロ注目の4番打者・西宮秀忠が打席へと向かう。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/22 22:55 No. 146
      
第145話〜紅対西宮〜

ネクストバッターズサークルでビュンビュンと音を立てながら素振りを2回3回してから打席に向かう土佐の4番西宮秀忠(にしみやひでただ)打席に向かう際には金属バットに持ち替えたが素振りは木製バットで行っていた

『全国制覇、シニア最速右腕。陥落した怪物・怪物紅優生…シニア時代お前と闘えなかったのが心残りだったが、今のお前はどうなんだ?元怪物など関係ない、今の実力を見せてもらおう。』
打席に入る西宮の目には紅以外映っておらず体からはまるでオーラが発せられているかのように独特な雰囲気を醸し出していた。それも大柄揃いの土佐の中でも大柄だからではない、他の選手には絶対にない雰囲気を纏っていた。

紅の視線にも打席に向かう西宮が映っていた
『西宮秀忠…おそらく今年のドラフトで指名確実の怪物だ。現にセンバツでは土佐の中で一番活躍した打者。今の俺が西宮相手にどれだけ通用するかしないかでこの試合の行く末が大きくかわる。また甲子園を体験したやつを抑えなければ夏は進めない。』
紅はポンとロジンをマウンドに投げる

紅は投球フォームに入り腕をしっかり振り投げ下す。初球は外角低めにチェンジアップを選択した。ボールはちょうどよい高さから変化し始める、しかし落ち切る前に振り抜かれる。
打球は鋭い金属音とともに見たことのない打球速度でぐんぐん外野方向に伸びていくが僅かに切れファールになる。
2球目もしっかりと投げるが今度は逆方向に弾き返されこれもファールになるが今度は今度は場外まで飛ばされる。

『ちっ、2球ともホームランボールだと思ったが入らないか』
『…詰まらせたつもりの俺のボールを2球とも完璧に捉えられるとは流石は怪物スラッガーと言ったところか』
顔には出さないが悔しがる西宮と驚く紅。

3球目を僅かに外すがしっかりと見逃す西宮、紅は振らせるために投げたため見逃されたのは予想外かもしれない。

『紅、お前は終わった怪物ではなかった。むしろ力が上がってきている。けどよ…』
西宮は紅の投じた4球目を待ちながらふと感じた。

先ほどよりも早く鋭くそして力強く振りぬかれる金属バット、鋭い金属音とともに直線状に恐ろしい速さで伸びる打球。
しかし紅は顔色一つ変えずにグラブを出し、打球を抑え西宮をピッチャーライナーに打ち取る。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:・スA・ス`・ス・ス日時: 2015/11/23 16:54 No. 147
      
第146話〜超重量打線〜

『全て捉えたつもりだった、だが一つとてスタンドに行かなかった。これが奴の今の力なのか?面白れぇじゃねぇか』
西宮はベンチに戻り、帽子を被りなおしファーストミットを取り守備位置に向かう

『あの打球の強さ、速さ…上に上がってれば行かれてた。いや、グラブを出してなければフェンスまで到達していた。』
紅はグラブを外すと捕球したところと思われる手の部位を見つめながら軽く右手で左手を揉む。捕球した時の打球の強さのおかげで手でも痺れたのだろうか。

ふと何かを思い出したかのように紅は口を開く
「神原、昨日のミーティングでも聞いたが今一度土佐高校の情報を教えてくれ、特に奴4番の西宮秀忠について教えてほしい。」
紅は顔だけ茜の方に向けて話す。

「あ、はい。ちょっと待ってて…えっと。土佐高校はチーム平均の背筋力が180kgを軽く超える超重量型打線。で特に4番の西宮君については、昨日のミーティングでは話していなかったけれど。背筋力は210kg。そしてスイングスピードは156km。それを特徴するのが春の甲子園大会の1回戦、福岡代表の小倉北高校戦の第3打席で小倉北の2番手川本君から試合を決める140mの超特大アーチを放っているの。」
茜は珍しく紅から話しかけられ驚き敬語になりつつもノートに書きまとめ情報を再度読み上げる。

「やっぱ、ぜってぇやるスポーツ間違えてんだろ土佐の連中…。ルナ、お前の背筋力とスイングスピードいくつだっけか」
「背筋力は170kg、スイングスピードは149kmです。」
吉村は力の違いに絶望したのか声のトーンを落とす。黒木は吉村の数字を聞くと露骨に分かるような落胆をする。

紅は成瀬に視線を向けた後一塁を守る西宮に向ける
『西宮は次元が違う。シニアの時に一度対戦すれば対策法はある程度は分かる。うちは守備重視とはいえ上を行かれたら鉄壁の守備でも無駄だ防ぎようがない。逆方向にも弾き返すことができ選球眼もある。…だが、高みに行くために打たせはせん。今の俺の全ての力をぶつけてみせよう。』
紅はこの試合は絶対に西宮には絶対に打たせない。と自分に言い聞かせる。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/23 21:48 No. 148
      
第146話〜荻野対成瀬〜

荻野はゆっくりと左打席へと向かい、打席に入る前に審判にお辞儀し

打席に入ると成瀬の方を見渡しながらグラウンドを見渡す。
『打席からの景色はやっぱりいいや…なんて呑気なこと言ってる場合じゃないけれど…秋の大会で高打率を叩きだした僕の力をぶつけてやる!』
荻野はキッとし成瀬に相対する。

成瀬は初回に続きこの回も力で押すのかストレートから入る。荻野は辛うじてバットを出しキィンと弱弱しい金属音、打球はファールゾーンに転がる

『さっきより速い…完璧に油断してた。でも…』
荻野はバットを成瀬の方向に向けてから元のポイントに戻して構える。

島原はマスク越しに荻野を見つめる
『成瀬のストレートに振り遅れている、が。こいつは去年の秋チーム単独トップの打率.480を記録したし、打順的にも油断ならん。気を引き締めていくぞ』
成瀬にサインを送った後ミットを軽くパシィンと叩いてからミットを構える。

風を切るような音が聞こえながら成瀬のストレートは島原の構えているミットへと向かう。荻野はめいいっぱい体を使うように思い切り振りぬく。
打球は切れてファールになるがライトスタンドの奥の方まで飛ぶ

『ストレートについてきた?でもこれだけ続けりゃ当然か。とはいえ…真っ直ぐには強そうだなあいつ。』
成瀬は首を横に2度振ってから頷く

『なんだ…なにがくる…?』
荻野はギュッとバットを強く握りしめる。

ゆっくりと足を上げ、上げた足を前に動かしながら体重も前の方に移動させ、左足が着地すると同時に成瀬の腕からボールが放たれる。

『来た、甘いストレートもらった!』
荻野は真ん中やや低めに来たボールをしっかりと打ちにいく、瞬間ボールは消える。
「…っぁ!」
力を込めて振りに行ったもののバットに当たらず行き場を失ったパワーのまま振ったがために腰砕けのスイングになり荻野は変な声を出しながら片膝をついてしまう。
『さ、三球三振…そんな。というかボールが消えた…まさかそんなことが…』
荻野は茫然自失しながらベンチへと戻る。

『おそらくあれはチェンジアップ。俺のと同等。いやそれ以上の変化だ。初見で打つのはほぼ厳しい、が。この世に絶対に打たれない球など存在しない。』
紅はベンチでバッティンググローブをつけながら成瀬が荻野に最後に投げた球を脳裏に浮かべる。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/24 23:20 No. 149
      
第148話〜紅対成瀬〜

トボトボとベンチに戻ってきた荻野を見るや否や橘は荻野の首に手を回す
「あれ、オギ〜何落ち込んでるの?三振したのがそんなにショックだったの?」
橘は荻野の首を軽くチョークで締めながら前後に揺らす。

荻野がジェスチャーで苦しいとすると橘は荻野にかけていた軽いチョークスリーパーを解く

「ケホッ…結構入った…。いや、三振がショック…じゃないわけじゃないけれど。最近三振少ないの誇ってたし。ただ、違う。」
荻野は話す前に咳き込む。そして打席で見えた光景を橘に話す。

荻野の消えた発言に驚愕するベンチ
ネクストバッターズサークルで紅は慌てふためきそうなベンチに対して何時ものように冷静にグラウンドを見つめていた
『消えたのではない、そう見えるだけだ。消えるように見せるのも俺達投手の腕の見せ所でもある。だが、あの角度からのあの落差。ストレート一本に絞っていれば消えたように感じるのも仕方のないことだ。』
考え事してる間に5番の蓮本が凡退し、紅は打席に向かう。

紅は成瀬の初球を簡単に見逃す。
『ストレートか…予想以上に速い』
顔にこそは出しやしないが紅も成瀬の速さに驚く。

『次はこいつだ。』
成瀬は投球フォームに入り紅に対し2球目を投げる。
両チームのエース対決はすぐに決着がついた。

紅は成瀬の投げた球を変化しきる前にバットに当て打球は鋭いゴロで三遊間を破り鮮やかにレフト前へと運ぶ。
難しい球を打ったというのに感情一つもこぼさず一塁に留まる紅優生。
彼には感情なんてあるのだろうか。

『少し甘かったとはいえ初見で俺のチェンジアップを打ち返すなんて。流石に予想外だぜ』
『完全に変化しきる前に叩けばさほど驚異的ではない。だがどちらつかずの対応、ストレート一本に絞ってれば打てはしない。そもそも狙うべき球ではない。だが…』
紅は淡々と次の打席からチェンジアップを捨てようとするが捨てきれないという表情を浮かべる。

ウグイスのホーホケキョという鳴き声が静寂の球場に聴こえてくる。
しかし誰1人とウグイスの鳴き声に気づかない程度に試合に集中している。
先取点を先に取るのはどちらなのか。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/11/28 01:41 No. 150
      
第149話〜屈辱の一撃〜

紅はヒットを打たれながらも持ち前の粘りの投球で相手を次々と抑えて行く。
3回裏に先頭の古賀にレフト前ヒットを許し、西宮が打席に向かう。

『西宮秀忠…お前には打たせはせん。うちの勝ち目は投手戦のみだ。』
『へっ、さっきは打ち取られたけどよ。今度はそうはいかないぜ紅!』
紅と西宮はお互い目が合うとお互いに絶対にこいつには勝つという雰囲気が全編的に漂っていた。

紅は目で古賀を牽制し、投球フォームに入る。
『悪いが一球で仕留めさせてもらう。』
第1球目に選択したのは対左対策で黒木から教えてもらったカットボールを投げる。
紅のカットボールは風もろとも西宮も切るのではないかという勢いで内角をえぐりに来る。
しかし風を切るなら切り返せばいいというのが聞こえてきそうな西宮の鋭いスイングは痛烈でレフトに痛烈なファールを放つ。

紅は審判から新しいボールをもらい捕球するとロジンを手に付けながら少し考える
『まさか今のも弾き返すとは…アレを久々に投げるか。』
紅はこの試合でまだ唯一使ってないある変化球を西宮に対して投げることを決める。

2度、3度、そして4度と首を振り、西宮になんだ?と疑問を持たせようとし、そして5度目でようやく頷く。
足を上げ、スパイクに付着している砂が少し落ちる。上げた足をしっかりと前面に押し出すように踏み込み、紅の鞭のようにしなった右腕からボールが放たれる。

『この変化球は…シンカー。あいつまだ隠し持っていたのか。』
西宮は頭にない変化球を投げ込まれ戸惑うが振り遅れながらもまたもファールにして打ち返す。

紅は頷き西宮に対して3球目を投じる。
変化球が通じないと悟り再び直球に切り替える。

バットは白球を捉えると今まで以上に大きな金属音を奏で、打球は鋭い勢いで飛ぶ。白い雲を打ち破らんというほど伸びる。
打球の勢いは衰えずレフトスタンド後方にある防球フェンスに直撃し、ガシャンという強い音が聞こえると紅は音のなった方へと顔を向け目を大きく見開く。
『奴のバットに捉えられた瞬間、悟ったがあそこまで飛ばされただと…。』
流石の紅のショックが隠せないのか西宮がベースを一周する間ずっと打たれた箇所を見つめていた。

ピンポン玉のごとくいとも簡単に弾き返された紅の白球。ダメージは失点以上のものなのかもしれない

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/12/18 20:18 No. 151
      
第150話〜痛烈〜

投手である以上打たれることは宿命だ。
試合は3回、先制したのは土佐高校4番西宮の痛烈な一撃から生まれたものである。
ホームランでとれる最大点は4。タイムリータイムリーの連打で結果的に大量失点5失点以上になるよりはマシな時もあるがそれは正直ほぼ皆無だ。
今回西宮に打たれたのはツーラン。僅か2点である
そうたったの2点だ。試合はまだ序盤であるが相手投手の出来や比叡の貧打では点差以上に厚い点差ではあるがスコア的にはそこまで離されてはいない。

「ヒデ!ナイスホームランじゃないか!それにしても相変わらずすごい距離飛ばすよなお前。」
「俺は俺なりの仕事をしただけだ、今の紅は故障明けでそこまで力はないがそれでも持っているものは素晴らしいものだ、癒える夏にあいつは凄まじくなる。お前たちも元怪物と言われているレッテルに惑わされるな!あいつん中の怪物は死んではいない」
西宮と成瀬は笑みを浮かべグータッチを交わす。

しかしそれは野手的な考えである。ホームランというものは点差以上にダメージを与えたり流れを一気に変える要素もある最大の一撃だ。

紅は顔にこそは出さないがショックではないわけがない。あそこまで飛ばされると逆に気持ちよさもあるがやはり屈辱でもある

動揺したのか紅は後続の打者に対しボール先行になり流れもなんとか抑えマウンドを降りる

『まさかストレートをあそこまで飛ばされたとは…防球フェンス、あれがなければ俺の球はどこまで飛ばされたのだろうか。流石はセンバツで140m弾を打った男だ。』
マウンドを降りる紅は先ほど打たれた一撃が脳裏に焼き付いているのか何度も思いだす。いや紅だけではない比叡陣営土佐陣営両方そうだろう。
それほど素晴らしい打球であった。

「派手にやられちゃったな優生ちゃん。ってもよぉどうやったらあんだけパワーだせんだよ。」
黒木は帽子を取り汗をぬぐう紅にちょっかいを出す。そもそも紅にちょっかいだせるのはこの男だけなのだが

打たれた瞬間それと分かる特大アーチ、西宮の強靭な肉体と驚異的なスイングスピード、そしてどの球がくるか完璧に読み生まれた特大弾。
どれか一つかけたらあのような特大弾は生まれはしなかった。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2015/12/29 01:06 No. 152
      
第151話〜紅対西宮第四打席〜

西宮の一発の後試合は膠着し紅は相手に痛打を食らわないような投球を続け、その後西宮のセンター前ヒットを許した以外ノーヒットになんとか抑え続け8回裏、紅は再び西宮と相対する

おそらくこの対決がこの試合最後の直接対決だろうとお互い確信づいていた

紅は吉村のサインに頷き淡々と投げ込むが西宮はいとも簡単にファールを打つ

「まじーな…優生の野郎…」
「まずいって…どういうこと?」
茜は何もわからないというキョトンとした顔で黒木に問う
黒木は一つ息を吐いてから口を開く
「俺達投手ってのは痛恨のヒット打たれんのも精神的にきちーけどよ、空振りすら奪えねぇってのはもっときつい、それがファールだとしても、だ。それにあいつはこの試合西宮の野郎から空振り一つすら取ってねぇ」
黒木はしかめっ面でグラウンドを見渡す

『試合通じて今の俺に不足しているものが分かって来た、しかし西宮はどうやって抑える…?考えなければ対策方法を』
紅は吉村から返球を受け取りながら頭をフル回転させ対策法を必死に考える、一つ策が浮かぶがそれはあまりにも非現実的であり、紅自身も不可能だとすぐにその可能性を打ち消す
『理想ではどの打者にも当てることすらできない球、だがそんなものは存在などはしない、そして存在しても俺のスタイル的にそれは不可能だ…だが、中途半端に変化球で行くよりストレートで押したほうがいいかもしれん、打たれればさっきみたいに飛ばされるだけだ』
紅は首を2度振りストレート勝負するつもりなのか2球目にストレートを投げ込む
鈍い金属音が響く、やはり当てられた。だが何か確信めいたものが紅の中に浮かぶ
頷き、ゆったりとモーションに入り力を込めるかのように全力で右腕を振り抜く
放たれた球は今までのストレートと比べ物にならないぐらい早く明らかに質も違うストレートがミットに向かって直進して行く
西宮も振りに行くがバットにかすることすらなく吉村のミットにボールが収まる

『くっ、あのストレート…この試合奴が投げた中で最も速かった…なにがあったんだ?』
西宮は悔しさを噛み殺しながらベンチへと戻る

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2016/02/09 19:59 No. 153
      
第152話〜成瀬の弱点〜

『…今のノビ、かかり具合…どうやった?』
ベンチに戻り、腰かけるとボールを握り投げる動作を繰り返し、西宮に投げた最後の1球の感覚を掴もうとしていた。

成瀬は2点リードのマウンドに上がり、マウンドをならす

西宮は一塁の守備位置に着く前にマウンドで足を止め成瀬と軽く会話する
「ピシャリと抑えて勝つぞ!」
「ああ、お前がくれたリードを守り切って見せるぜ!」
気合を入れる成瀬は投球練習からも気迫が伝わってくる

「なんとしてでも、意地を見せる!」
橘は打席に入り成瀬の投球を待つ

「こいつ…疲れてないのか!?」
9回になってもなおノビのある直球を投げ込む成瀬、しかしやや球は上ずっては来ている。

3球目、チョコんと出したバットにボールが当たり弱弱しくも一塁後方にポトリと落ち、ヒットが生まれる。
橘は快足を生かし一気に2塁を狙う、しかし西宮も暴走気味の橘を刺そうと送球するも間一髪セーフになる

「『チッ、厄介なランナーが…だがタツの弱点克服のためにもいい機会になるかもしれないランナーだ』ドンマイ、ドンマイ!次抑えよう!」
西宮は橘の見てから成瀬にボールを返球する

「この試合初の得点圏だ!俺が2ラン打てば追いつくぜ!」
どや顔で稲本は打席に入る

『成瀬、得点圏での投球を見せてもらうぞ』
ベンチで腕を組みながら成瀬の方を見つめる、どうやらチームが追いつくことよりも成瀬の得点圏での投球を気にしているようだ。

ボール!ボールツー!

紅が考え事にふけってる間成瀬はこの試合で始めてボール先行カウントになる
『成瀬…これがお前の弱点か、そこが攻略のポイントか…。だが』
ボール先行に成瀬の異変に真っ先に見抜く紅、そして何かを言おうとした矢先に金属音が響く

捉えた打球は鋭いゴロで一二塁間を抜けようとする刹那まるで肉食動物が捕食者である草食動物に食い掛かるかのように一塁手・西宮がボールに飛びつき、打球を止める
「タツ!」
西宮は半身の体制になりながら一塁に走る成瀬に送球する、ベースを踏んだのはほぼ同時、しかし同時はアウトというように稲本は
もう少しというところでアウトとなってしまう

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2016/02/09 20:17 No. 154
      
第153話〜決着〜

橘はゴロの間に三塁へと進む

「油断するな、稲本。連中は打撃超特化型とはいえ守備がないわけではない、抜けると思ってお前最初抜いたろ」
落胆した様子で戻ってくる稲本に冷たく突き放す言葉をぶつける紅

しかし紅は稲本の方を見ずもせずジッとグラウンドを見つめていた

3番の吉村がフォアボールで出塁しワンナウト1塁3塁で荻野に打席が回る

「このチャンス、一気に攻めるよ。」
荻野は相手が疲れていると思いこむ

『一点ぐらいならどうってことはないが荻野も足もあるし三塁の橘はこいつ以上の瞬足だ、下手すりゃ内野安打で1失点でなおもピンチか…』
プランと腕を不意に下げる成瀬
「タイ…」
それに察知した捕手・島原はタイムをかけようとするが遅かった、ボークが宣告され3塁ランナー橘はホーム帰り1点を返し、吉村は2塁へと進む

『いける』
しかし、荻野は油断からか大振りになり甘く入ったストレートを空振りしてしまう

成瀬は頷き荻野に対し2球目を投げる。
得意球・チェンジアップにキレは健在でまたしても消えたように大きい落差で落ちる、しかしランナーを返せないと意識しすぎたのか叩きつけてしまう
しかしチェンジアップと呼んでいた荻野もワンバンしたボールを振ってしまう、ボールが後ろに逸れる隙に吉村は3塁に進む。

やってしまったと顔に浮かべる成瀬、一呼吸を置き荻野に3球目を放る
荻野はボールを見逃しあることに気付く
『チェンジアップとストレートの時で投げ方代わっている…?』
疑問が生じる。

成瀬が4球目を投じる
『きた、ストレートだ!』
荻野は力よく振りにいくがやや振り遅れ叩きつけた打球になってしまう。成瀬が落ち着いて捕球する
しかしゴロゴーがかかっていたのか吉村がすでに本塁近くに来ているためにホーム送球を諦め、一塁へと落ち着いて送球する

その後後続の蓮本が打ち取られ、裏の土佐の攻撃は紅が凌ぎこの試合は引き分けで終わる
しかし、互いに解決すべき課題が浮き彫りになったいい練習試合になったのかもしれない

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2016/02/13 20:16 No. 155
      
第154話〜試合後〜

夜、やはり土曜日ということもあり繁華街は混んでいる、土佐の繁華街にあるこじんまりとした個人経営と思われる居酒屋で監督達は飲みに出かけていた

「蘇我さん、改めて今日はお疲れ様です」
「いえ、そちらこそ…お疲れ様です。わざわざ土佐まで来ていただいて」
お互いに挨拶を交わす

ガヤガヤとした店内で注文したビールが運び込まれ、大橋と蘇我は乾杯をしてからビールを呑む

フゥーと息をつき大橋が口を開く
「成瀬君と西宮君でしたっけ?センバツでも活躍していましたが、敵にして見るとやはり手強いですね、しかもあの状態でまだ大会の疲労抜け切れていないんじゃないですか?」
大橋は口だけニヤけながら聞く

「ええ、彼等は土佐の看板選手です。しかしそちらの紅君、シニア時代から注目されていただけあっていい投手ですな、しかし抑えられたとはいえど故障明け長いブランク明けなのか終始苦し紛れの投球でしたが」
表情を一切変えずに問う蘇我

「そこは本人も自覚していて一番もがいている、だが本日の試合はお互いに課題が浮き彫りになった試合だ」
「ああ、うちは成瀬のランナー置いた時の課題、そしてそちらは分けたとはいえほぼノーチャンス、得点も成瀬の自滅のみ、鉄壁な守備は見事ですが得点できないことには勝ち目はないぞ」
枝豆を手に取りながら大橋と会話する。

大橋は肯定するように頷く
「この半年間、うちが最短期間である程度勝てるように守備を徹底的に鍛えた、小柄な橘や荻野では長打力を鍛えるのは難しいからな」
大橋はフッと笑う

お酒で少し赤くなっている大橋とは対照的にいくら飲んでも未だに赤くならない蘇我はフッと鼻で笑う
「いや、それは言っては失礼だが貴方の指導法にも問題がある」
黙って聞く大橋
「俺の指導方針でチームの平均背筋力は180を越えている、チームってのは俺たち監督の方針で左右される。ここまでの背筋力は無理だろうがエンドランやバスターの小技を鍛えたりすることぐらいできるだろうが、元・横須賀海英大学付属、そして追濱モーターの恐怖の2番打者としてチームを支え、アキレス腱断裂で引退後、相手を分析に参謀として活躍したお前ならな」
県は違うとはいえ敵将にアドバイスを送る、蘇我。
見落としていたかのようにハッとする大橋

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:・スA・ス`・ス・ス日時: 2016/02/13 20:48 No. 156
      
第155話〜私立土佐高校〜

次の日は土佐高校での合同練習および、試合を行うことになり、比叡は土佐高へと移動する

土佐につくやいなや学校の広さに驚愕する

「おはようございます、大橋さん。本日もよろしくお願いします」
大橋が声をかける前に曽我から声をかける
曽我の後ろにはこちら同様部員が付いてきてた

大橋は被っていた帽子を取り深々とお辞儀をする
「おはようございます、こちらこそよろしくお願いします。ところでこの大きな山は学校の私有地ですか?」
大橋は目の前に広がる山を疑問に思い尋ねる

曽我は首を縦に振り肯定するように頷く
「ええ、学校の私有地であり、我が野球部の練習の一つです。」
『なるほど、この山を…通りであの無尽蔵なスタミナなわけだ』
紅は曽我の説明を聞きながら昨日の疑問を解決する
「このメニューうちの部でも完走したのは成瀬だけです、せっかくですから希望者のみでこの山道でのトレーニングをしてみませんか?」
提案する曽我、しかし挙手したのは成瀬のみ

「…俺もやります。いいでしょうか?」
成瀬に呼応するかのように手を上げる紅。
他に挙手するものはいないか呼びかけるがこの2人からは増えず

山登りをする2人以外は専用グラウンドに移動し練習を始める

「紅!俺はこのメニューなれているがお前は初めてだ。けどよ、油断はしないぜ」
「当然だ。」
練習前に紅に声をかけあおうとするが冷たくあしらう紅

その後二人は軽く準備運動をしてから飲み物の入ったリュックを背負い、練習を開始する。
得意気に先行する成瀬、後追いになる紅
『…学校の私有地と聞いていたから道はある程度整備されていると思ったがゴツゴツしているのか、計算外だ。だが…』
紅の予想と裏腹にゴツゴツとした山道であり、難易度がさらに跳ね上がる。

「どうした!きついか?」
「成瀬よ、ランニング中、よもや山登りの時に喋るな、余計疲弊するぞ」
暫くしても先行成瀬後方紅の立ち位置はかわらず、成瀬は紅に声をかける
紅は成瀬に反論した後にノビるように成瀬の隣に並ぶ

『そういや、こいつ苦しそうな顔どころか未だに息一つ切らしちゃいねぇ。それに急にペースあがやがってこいつ…ヘッ案外負けず嫌いなんじゃないか?』
少しずつペースを上げていく成瀬に応じるように紅もペースを上げる

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2016/04/08 22:50 No. 157
      
成瀬と紅

上に行くにつれ少しずつきつくなっていく山登りでトレーニングする両エース

最初は後方につけていた紅は途中で飛ばすかのように走り成瀬の隣にまで達する。

『こいつ、冷たくてドライな奴だと思ってたけど…案外熱くて負けず嫌いなとこもあるんだな…さすが投手だぜ』
成瀬はフッと笑う

『…成瀬、お前の強靭な下半身と無尽蔵なスタミナはやはりここから生まれたようだな』
紅は成瀬の無尽蔵なスタミナが山登りによってついたものだと感心した。

山頂と思われるところに着くと紅は膝に手を着く
「…ここか?ゴールは…」
息を切らしながら喋る

「ああ、久々に走破するとやっぱきついぜ。てか紅、お前よくついてこれたな」
成瀬は初見で完走した紅を褒める

紅は顔を上げフッーと一息する
「…この山程きつくはないが、俺とて投手。体を作り直すために神奈川県特有のアップダウンの激しい坂で鍛えた。それに加え家から学校までトレーニングついでにな。そのおかげでか長距離走は慣れてる」
紅は完走できた理由を述べる
「家から学校まで?何キロ離れてるんだ?」
「大体12kmぐらいだな」
紅はサラリという距離に成瀬は驚愕する。

会話が途切れると今度は紅が口を開ける
「…成瀬、昨日の練習試合。結果自体は引き分けだが、中身としては俺の完敗だ。…この敗戦は夏の甲子園でリベンジだ。それまでに俺も高みに踏み入れよう。150の世界に到達してやる。」
「へっ、よく喋るじゃねぇか。いいぜ!だが俺も夏には今よりパワーアップしてるし返り討ちにしてやるよ!」
紅にとっては昨日の試合は実質敗戦と決めつけ、成瀬にリベンジを誓い、成瀬もそれに応じ、次も負けないと言いきる。

2人は下りも山の入り口まで走って練習しながら戻る

「紅、多分今日も練習試合やってるだろうがうちの2番手は手強いぜ」
「それはうちとて同じ、2番手は優秀だ。球威はないから撃たれ始めると止まらないが」
手短に黒木に対する評価を下し、野球部専用グラウンドにつくと試合はやっており、試合はとんでもない展開であった

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:アチャ日時: 2016/05/02 23:30 No. 158
      
第158話〜重量打線〜

ザッザッとシューズで土を踏む音が響く

2人が向かう先は練習試合が行われている野球部専用グラウンドだ

手書きのスコアボードに驚愕する

「…3回途中で0-8、か。この回急に乱れたようだな」
淡々とした表情でマウンドに目を向ける

帽子に汗が滲み、肩で息をする苦しいマウンド。

状況はと紅はランナーを見た後に電子表示のカウントを見る

「ノーアウト2塁1塁、カウントスリーボールノーストライク、ゆうせ…紅、お前んところの2番手の投球苦しい内容だな」
馴れ馴れしく下の名前でつい言いかけてしまう。

だが、紅優生という名前を考えた時、苗字より名前の方が呼びやすい。ほとんどの人がそう思う名前だ

一度成瀬の方に顔を向けてからマウンドに顔を戻す
「…呼び方など好きにすればいい、さっきも言ったがあいつは球威がない、ぽんぽん打たれる。だが…被弾を前提とした被安打に対し得点が少なく見えるが」
負けているとはいえ疑問に感じたことがあり、質問する


「え、ああ。お前も昨日投げていて分かったかもしれないけどよ、確かにうちの打線は超重量打線さ、でも皆、いやチーム的に機動力が低くて走塁意識が低いんだ」
「…一発で大量得点出来るから後回しにしたツケに見える言い分だな…」

2人で話していると2番の涌井に対し叩きつけるようなボールを投げフォアボールとなる

「ちぇ、俺も打ちたかった〜」
涌井は悔しそうな顔をしつつも1塁へと向かう

満塁で古賀西宮夏目の強力クリーンナップに回る

「へっ、センバツで負けた憂さ晴らしじゃないけどここまで点が入るのは気持ちがいいぜ」
古賀はニヤリ、とした笑みを浮かべ打席に入る

吉村は苦しいリードを展開しつつ黒木にスライダーのサインを送る。

頷き、力を込めて投げる。

狙いは古賀のインコース

ボールも変化をし始めるが狙ったコースにはいかず、吸い込まれるかのようにど真ん中にボールが行く。
甘く入ったボールを見逃さずに古賀は斬るように打ち抜く

一閃。バットをカランと転がすように置く音とともにゆっくりと走りだす古賀。

比叡のナインも打球を追わずに見送る。

次第にガシャンという音が聞こえてきた。

痛烈な打球、0-8という状況に4点加点され、0-12に差が広がる。
笑みを浮かべて喜ぶ土佐ベンチとマウンドで両ひざに手をつき、俯く黒木。

個別記事閲覧 Re: プロを目指せ 名前:・スA・ス`・ス・ス日時: 2016/07/02 01:26 No. 159
      
第159話〜力の差〜

「吉村。」
ボソリ、紅はつぶやく

成瀬はふと疑問に思い首を傾げる

「…一度、吉村がマウンドに行くべきだったな。」
言葉は冷たく、呆れを通り越した何かに聞こえる口ぶりだ。

今日の黒木の出来を考えた場合、吉村がマウンドに行こうが行くまいがおそらく結果はかわりやしない、同じ結果に終わる。
しかし、投手に与える安心感は行くのと行かないのでは大違いだ。

ふらふらながらも後続を抑え比叡の攻撃へと移る。
先頭の打者は4番の荻野からだ。

土佐高校の背番号10をつけた投手、大須賀は大量援護もあり心地よく投げている。

『昨日の成瀬君もそうだけど、この子もボールが速いっ…これが全国レベルなの?』
初球に全く反応できずに真ん中高めの速球をあっけなく見逃す。

「大須賀智道、新3年生。俺たちと同級生さ、最速147kmの速球にスライダーシュートを織り交ぜて投げる土佐の2番手投手さ」
成瀬は紅にも分かるように手短にマウンドにいる投手について紹介する。

荻野は秋の大会、ストレートに対し.685と驚異的な数字を残したが、142kmを超えるとこれが.115まで激減するなど速球を苦手としている。
辛うじてバットに当てるが乾いた金属音が小さくなるだけで打球はサードの古賀の真正面に転がる。

荻野の完全なる力負けだ、速球に対応できる新フォームに模索しているとはいえどこの遠征では全くいい結果が出せていない。

紅は大須賀を何も言わずに投げる姿を見守る、何か感じるものがあったのか食い入るように見続ける。

ずるずると点差を広げられ2試合目は0-26という大敗に終わり、個人としてチームとして力不足を痛感した2試合を終えた。

「…西宮、そして成瀬にはさっきも言ったがこの2試合の借りは夏の甲子園で返してやる。俺もチームも万全に仕上がり、試合を制す。」
言い終わると紅はバスに乗りこむ

ニコリと余裕のある笑みを浮かべバスに乗りこむ紅を呼び止める
「お前から一撃放ったとはいえお前は病み上がりだし、まだフォームが固まってねぇ。リリポもバラバラ、完璧な紅優生が仕上がったときは怪物の復活の時だ、だがそれでも俺は抑えられねぇ!」
自信に満ち溢れた言葉を挑発するかのようにぶつけつつも復調をさらなる成長を目指す紅に激励の言葉を送る西宮。夏の大会で激突する時、日本を震撼させるそんな予感がした。