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ロックされています  陽炎  名前: 邪宗院  日時: 2013/06/14 23:32    
      
初投稿。短編です。
更新速度はゆるやかに、マイペースになると思いますので、ゆうらりとお付き合いください。
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ロックされています   Re: 陽炎  名前:邪宗院  日時: 2013/06/14 23:35  No. 1    
       
1

 目に映る陽炎。熱気漂う八月の午後。
 何一つ――変わらない。
 この熱気も、この土手から見える景色も、吹き抜けてゆく風も。
 そして――自分も。
 英二は波打つ己の鼓動を感じながら、そう思った。

 とん、とん、とん。
 ほっ、ほっ、ほっ。
 ――そう、このリズム。
 とん、とん、とん。
 ほっ、ほっ、ほっ。
 幾度となく刻み続けてきた、このリズム。
 次第に高くなっていく鼓動に合わせ、英二の足の動きも早くなっていく。
 ――こんなに長く、速く走れるようになったのは、いつ頃からだったろうか。
 少なくとも、二年前――野球を始めたばかりの自分はこんなに走ることはできなかった。そんな自分が今は、こんなことを考えながら走ることができている。

 二年間――思えばあっという間にその時間は過ぎ去っていった。
 英二は高校に入ってから野球を始めたのだったが、始めて間もなくその頭角を現し、一年次の秋の大会ではレギュラーに抜擢された。ポジションは投手。つまり――エースピッチャーである。
 その大会では高校野球の洗礼を浴び、徹底的に打ち砕かれた。しかし、英二を起用した監督の目は節穴ではなかった。英二はその大会での悔しさをバネに練習に打ち込み、メキメキと成長を続けていった。二年次の夏、秋ともに地区大会での優勝は果たせなかったものの、地元の記者から取材を受け、次の大会こそは優勝間違いなしだと太鼓判を押された。

 そうだ――自分は変わったのだ。高校に入って――野球を始めて。
 しかし、今の自分は――。
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ロックされています   Re: 陽炎  名前:邪宗院  日時: 2013/06/14 23:37  No. 2    
       
「おい、英二。お前まだやってんのかよ」
 突然投げかけられた声に、英二はびくりと肩を震わせて立ち止まる。
 自分の世界に入り込んでいた――。ここ最近はずっとそうだ。あの日から、ずっと。

 滴り落ちる汗を拭って声のした方を見る。揺れる陽炎の向こうに人影が見えた。
「ずっと走ってるみたいだけど、もう俺たちも受験生だろ? 夏が勝負って言うじゃん。だ

からお前も受験勉強に――」
 受験勉強――。
 それを聞いて脳裏に浮かぶのは自分の部屋。そして毎日座っている自分の机。机の上に積

まれた参考書にはうっすらと埃が被さっている。

「――ああ、そうだな」
 気が付いたらそう言葉を発し、英二の脚は動き始めていた。
 とん、とん、とん。
 ほっ、ほっ、ほっ。
 再びいつものリズムを刻みながら、英二は走り続ける。
 ――今、彼とは何を話したのだったか。
 とん、とん、とん。
 ほっ、ほっ、ほっ。
 ――そもそも、あれは誰だったのだろうか。
 とん、とん、とん。
 ほっ、ほっ、ほっ。
 ――自分は本当に誰かと話をしていたのだろうか。

 揺らめく陽炎を見つめながら、英二は土手の上を走り続けていく。
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