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記事閲覧  称号  名前: 投手  日時: 2016/04/28 21:42    
      
 小柄な投手、真城 直也(マシロ ナオヤ)。高校一年の夏。そこがすべてのはじまり……。
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記事閲覧   Re: 称号  名前:投手  日時: 2016/05/20 23:00  No. 1    
       
 加須清涼高校。 関東大会に顔を出すことは良くあったが、甲子園に出場経験はこれまでの歴史で一度しかなかった。
 しかし! 今年は秋の関東大会での大敗をきっかけに急成長。そして夏の甲子園の出場権を手にしたのだった!。
 そして俺、真城直也は一年生ながら背番号18を受け取り、ベンチ入りを果たした。
 俺は小柄だがストレートには絶対の自信がある。予選での登板はなかったが、甲子園では苦しい試合になれば俺にも出番がある筈だ!。
 とは言っても、三年生でエースの坂本 直也(サカモト ナオヤ)さんは147キロのストレートに切れ味抜群のスライダーを武器とした全国でもトップクラスの投手だ。加須清涼高校には他にも二年生でアンダースローの渡辺 慎之助(ワタナベ シンノスケ)さん、三年生、岡田 悠(オカダ ユウ)さん、同級生の佐藤 灯(サトウ アカリ)と、かなり選手層は厚い。
 だから、どんな投手を見ても大して脅威に感じることはほぼなかった。でも、この人は本当に別格だ。
 天海 陽介(アマミ ヨウスケ)MAX162キロのストレートに、大きく落ちるスライダー、150キロ台を記録するカットボール、スプリット。更にチェンジアップにシュート。他にもまだあるらしいが覚えていない。
 160キロの速球に多彩な変化球を正確にコントロールされてしまえば、付け入る隙など一切ない。
 こいつは天才なんてもんじゃない。怪物だ。永遠に追い付ける気がしない。
 それでも、今日だけは勝ちたい。初戦から当たってしまったのは不運だったが、舞空高校の天海が万全な状態なのと同じで、坂本さんも絶好調だ!。
 点をやらなければ負けない。点をやらないのはウチの投手陣なら出来ないことじゃない!。
 手始めに怪物を倒して、全国制覇だ!。

 突如、轟音が響いた。
 天海がブルペンで捕手を座らせていた。おそらくこの音は天海のボールだろう。
 次のボールを見て、この予想は確信へ変わった。速い、速過ぎる。しかも捕手はミットを全く動かさない。たぶん天海との対戦はこれまでにない体験になるのだろう。
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記事閲覧   Re: 称号  名前:投手  日時: 2016/11/12 21:58  No. 2    
       
「やっぱり怪物だな」
天海のボールを呆然と眺めていた俺の横で三年生の桐原 勝(きりはら まさる)さんが呟いた。
「打てますか?」
「絶対打つよ。そのために今日まで死に物狂いでやって来たんだ」
「アタリメーヨ! ボコボコにしてやる!」
この声は高橋さんだ。高橋アンドリュー拓也マニング。これがフルネーム、長い。
高橋さんの名前はともかく、この二人は打撃力のあるうちのチームのでも打撃トップツーの二人だ。
「秋は、あいつからヒット4本しか打てなかったからな、今日は二桁打つぐらいのつもりで行くぞ!」
桐原さんが、拳を強く握った。俺と高橋さんはそれに力強く返事した。

さあ、どんな試合になるか楽しみだ。

加須清涼高校は先行だった。先制して流れをもってこようと考えてのことだった。
『一番ショート桐原くん』
美しい声のアナウンスが聞こえた。桐原さんは左打席に入りどっしりしたフォームで構えた。
地区予選打率6割越え、ホームラン3本とプロからも注目される選手だ。
天海が投球動作に入った。187センチの長身であり、本格的なオーバースローから繰り出された初球はストレートだった。
右手を離れてから糸を引くように捕手の構えるミットにズドンッと決まった。
アウトローに決まるストライク、球速は148キロ。やはりいきなり全開で投げてくる訳ではないようだ。
二球目、同じコースだった。それに対してきりはらさんがスイングした。
(アウトロー投げときゃいいってか!? 舐めんな!)
快音が響いた。打球はライナーで左中間を抜け、桐原さんは悠々と二塁に到達し、二塁打となった。
「うおっしゃーーーー!!」
桐原さんは塁上で吠えた。それにより俺たちの闘志はさらに高まった。
「あー、いきなりやられちゃった」
天海がポツリとマウンド上で呟いた。加須清涼高校のベンチとは対照的な態度の天海だった。
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記事閲覧   Re: 称号  名前:投手  日時: 2016/11/14 21:11 修正1回 No. 3    
       
『二番セカンド、ジョーくん』
二年生のジョー=カラスコ、俺はジョーくんと呼んでいる。ジョーくんは右打席に入り、サインを確認するとすぐにバントの構えをとった。
ジョーくんと普段ほぼバントはしない。地区予選では一度もなかった。それもそうだ。ジョーくんは二番打者に座ってはいるが、地区予選では打率4割近く、ホームランも1本打っている。
そのジョーくんが、バントをするというのが、天海の実力を物語っている。
天海はセットポジションからクイックで投球した。投じられたのボールはベースの手前で横にクンッと曲がるスライダー、ジョーくんはバットを引いた。際どいが外に外れボールの判定。その判定に天海の表情はすこしムッとしていた。
ジョーくんは再びサインを確認する、それが終わると同時にもう一度バントの構えをとった。
二球目、天海のいつも通りのフォームから投じられたのはハーフスピードのストレート、それに対してジョーくんはバットを引いた。そしてコンパクトにスイングした。快音が響いた。
緩めの打球だが、 チャージをかけて来ていたファーストの左横を抜けた。一塁線を抜けて行く、ベースの後ろあたりでファーストベースのベースカバーに走っていたセカンドの鈴木 涼(すずき りょう)がボールに飛び付いた。
しかし、惜しくもグローブの先に当たりファールグランドをてんてんと転がった。急いで弾いたボールを拾ったものの、一塁も三塁もセーフ。
いきなり絶好のチャンスを得てしまった。正直な話驚きだ。
鈴木はボールを持ったままマウンドに駆け寄った。それに続き内野陣と捕手の田中もマウンドに集まった。
「なんか調子悪そうだな。陽介」
鈴木が天海にボールを手渡ししながらやや引き攣った顔で言った。
「うるせー、なんとかするよ。今日の審判辛いんだよ」
「だからって甘いボールを真ん中に投げんなよ!」
天海がそう文句を言うと少しイラっとした様子で田中が言った。
「はいはい、悪い悪い。ここからなんとかするってば! ほら、全員帰れ!」
天海がそう言った所で、ベンチが伝令を走らせて来た。それを見た天海が舌打ちした。
「ちっ、来るんならもっと早く来させろよ」
背番号17の西崎 仁(にしざき じん)はマウンド来た瞬間にこう言った。
「特に何も無いそうです。」
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記事閲覧   Re: 称号  名前:投手  日時: 2017/04/05 22:10  No. 4    
       
「じゃあ来るなよバカ、帰れ」
天海はそう言った後にロジンを拾い上げた。
「本当にバカ監督が、無駄な伝令寄越しやがって」
田中もこの謎の伝令には流石に頭にきている様子だ。
そのイラつくバッテリーと内野陣の様子を見た西崎が焦った様子で喋りはじめた。
「あ、たぶん監督はお前らなら特に作戦なしで大丈夫だ! 的なメッセージ込めてるんじゃないですかね!?」
その西崎を慰めるように田中がポンと西崎の肩に手を置いた。
「西崎、あいつは本当に訳わからない奴なんだ。一年のおまえはまだ良く分からないかもしれないが、あいつの采配は本当に酷い」
田中はそう言うとベンチの中の監督をジッと睨みつけた。
「よし、西崎さっさと戻れ。試合終了が遅くなる」
天海はロジンを地面に置きながらそう言った。そして自分の指先を見つめ、親指で中指、人差し指を擦った。
不機嫌な天海の様子を察した西崎はぺこりと一礼し、ベンチへ走って戻っていった。
「陽介、150キロを俺の構えた所に投げろ。そうすれば絶対打たれないから」
田中はそう言ってキャッチャーミットを天海の方に向けて開いた。
ほんの少し間が空いて、天海がコクリと頷いた。
内野陣と田中がマウンドから散って元のポジションへ戻った。
試合が再開した。
打席には右打者の三番深沢。地区大会打率.400割を越えている強打者だ。
しかし、天海にとってそれは全く問題ではない。この程度の打者。三球で抑えられる。万全な状態なら……。
天海の投じたボールは風を切る音を鳴らしながら田中の遥か頭上を越えていった。
暴投だった。
バックネットにボールが打ち付けられ、激しい音が鳴った。田中がそのボールを拾う間に桐原はホームインし、ジョーは二塁に到達した。
天海はマウンドから一歩も動いていなかった。
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