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運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2018/05/14 03:52
パワプロ2018を買ったので久しぶりに掲示板を覗いたら書きたくなっちゃいましたw
よろしくお願いします♪
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Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2018/07/26 04:28
No. 1
ただなんとなく、野球を続けてきた。家族が野球好きだったから、俺もなんとなくやってきた。
なんとなくやってきたと言っても、もちろん野球が好きだから続けられてる。
ポジションはかっこいいからって理由でピッチャーをやってきた。エースではないんだけどね。
そんな俺に、本気で野球に取り組む理由ができた。
〜〜〜[ 水谷 愁@ ]〜〜〜
祖父が癌というのは、一年ほど前から知っていた。でもまさか、余命三カ月という宣告をされるほどまでひどくなっているとは考えもしなかった。
祖父はとても元気が良かった。今回入院する前日まで外でピンピンしていると思っていた。
それなに、これはあまりに衝撃的すぎる。
祖父には中学の頃よく練習に連れて行ってもらった。俺はシニアに所属していた。だから練習場まで距離があり、自力で行くには遠すぎた。
そこで両親同様野球好きの祖父が毎回連れて行ってくれていた。
野球にそこまでの熱がない俺がシニアにっと疑問を感じたのではないだろうか?。
そう、俺がシニアに入団したのは周囲の人の強い勧めによってだ。
よく言われてきた言葉がある。
「潜在能力は一級品」、「練習すれば伸びる」
そんな風な言葉をかけられ続けてきた。でも実際の俺はというと、シニアではチームの二番手、現在は神奈川県で三回戦レベルのチームで6番ファーストの二番手ピッチャーという冴えない選手だ。
でも、言われてきた言葉を信じて夏までの残りの期間、全力で練習しようと思っている。
最期、祖父に俺の勇姿を見せてやりたい。
夏の大会まで残り約三カ月。ギリギリだ。でも、祖父ならきっとそこまでは耐えてくれる。そう信じてる。
だから、俺史上最高の輝きを見せるから、必ず見てくれよ。
Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2018/07/26 05:16
No. 2
練習するとはいってもまず方向性を決めなければ何も進まない。だからまずこれまでの高校で残してきた成績などから自己分析をすることにした。
練習終わりに大体の部員が帰った後、スコアブックを借りて読み返し、自分の成績を書き出してみた。
投手としては防御率4.02、奪三振率9.92、与四死球率5.46、被打率.233。そしてこの前の試合で計測した球速はMAX127キロ。
球速の割には奪三振能力があるのはフォークの存在が大きいのだろう。夏までの課題としては球速を130キロ以上を出すのと制球力の向上だな。
打者としては打率.302、通算5本塁打。
3割に乗っていたのは意外だな。まあ、打撃は二の次だな。まずはエースになることを最優先だ。
「おー! 愁が練習後に残ってるじゃん。明日は台風だな。」
部室笑いながらそう言ってきたのは主将の島井 剛(しまい つよし)。
剛はノースリーブのアンダーシャツ姿でタオルを首にかけていた。
「うるさいなー、たまには俺だって残ることあるじゃん」
俺はスコアブックを閉じながらそう言った。その俺に剛は笑いながら答えた。
「残るっていっても誰かと遊びか遊びみたいなことしてるときだけじゃねーかよ、遊び以外で残ってる高校三年目にして初じゃねーの?」
「し、失礼な。俺だって居残り練習くらいしたこと……」
いや、今考えてみたけど確かにない。遊びみたいな野球するために残ったことはあったけど、意識高い系の居残り初めてだ。
剛はタオルを自分のバックに放り投げると、部室の入り口の近くにあったマスコットバットを手に取りながら言った。
「思い出してみたけどなかったんじゃないのか? 居残りの経験」
「ああ、全然ねーわ。困った野郎だな」
剛は「お前の事だけどな」っと軽く笑いながら言った後部室を出て素振りを始めた。
剛が手に取ったバットは一年生の時から剛が使い続けてきたため、ほぼ剛専用バットのようになってしまっているものだ。
剛は1日500スイング以上するなどしてこの高校で一番練習する。だから主将に選ばれた。残りの期間、俺は剛以上にやるぞ。使える時間は全部野球に使ってやる。
Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2018/11/12 10:05
No. 3
6月5日、夏の大会がどんどん迫っている。だが、思ったように力がついてくれていない。
本格的に始めた時に比べれば良くはなっているが、このペースではダメだ。俺の望んだ姿にはなれない。
今日も練習後にグラウンドに残り、ネットへ投げ込みをしていた。
ワインドアップのスリークォーターからストレートを投げ込んだ。
右手から放たれたボールは俺の狙った右打者のアウトローではなく、高めのボール球になるコースへ抜けていった。
「くそっ! 全然ダメだ!」
トレーニングにより、球速は130キロを計測することもあるようになった。だが、コントロールが全然良くならない。狙ったコースに一切行かない。それに加え最近は球速もあまり出ていない感じがする。
「愁、また残ってるのか」
後ろから声を掛けられたが、その声で剛だと分かった。
俺は剛の方を向かず、すぐ横に置いてあるカゴの中のボールを一球取り、再び投球動作に入りながら言った。
「時間がないからな」
その直後、剛が俺の肩を掴んだ。
「明らかなオーバーワークだ! 投げすぎで夏の前に壊れるぞ! 」
確かにここ二週間くらいは毎日のように200球以上投げている。
……でも、俺がここまでやってきていない分を考えたら、まだそれでも足りない。
「構わない。……夏までに仕上がらないくらいなら、壊れたほうがマシだ」
俺は後ろの剛を横目で見ながら言った。剛は他人の事だと言うのに何故か怒ったような表情をした後、顔を伏せた。
「ダメだ。お前はここで壊れちゃダメなんだ……」
最初の「ダメだ。」というところからは声が小さくて聞こえなかった。何を言ったのか聞こうとすると剛が顔を上げて言った。
「これから練習は俺とやるぞ! 明らかなオーバーワークならそこでストップさせる! でも、必要以上には止めたりしない……。どうせ止まらないんだろうからな」
この時、色々な可能性が頭を巡った。良い事から悪い事まで、しかし、剛とならば良い事の方がはるかに多かった。
剛ならば、信頼できる。
「剛、今更だが俺は甲子園を目指してる。今までサボってきて何言ってるんだって思うかも知れない。でも本気なんだ」
「今更なんてない。お前と俺ならやれるよ」
これが夏に神奈川県に旋風を巻き起こすコンビが誕生した瞬間だった。
Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2018/12/06 18:02 修正2回
No. 4
神奈川県にはMAX160キロを計測するスーパーエース、天野 優希(あまの ゆうき)がいる。
それに加え天野は切れ味抜群の変化球、精密なコントロールを兼ね揃えるまるで弱点のない投手だ。しかも天野の所属する湘世学園(しょうせいがくえん)は超名門であり、過去に春2回、夏に4回甲子園を優勝した実績がある。
俺の所属している陽谷高校(ようこくこうこう)が甲子園に行くにはこの超名門を倒さなければならない。
しかし、神奈川は湘世学園だけの地区ではない。他にも陽谷高校との戦力差が大き過ぎる強豪校はいくらでもある。
そのため、剛には出来るだけ強豪校とは当たらないブロックを引いてきて欲しかったのだが……、まあ仕方ないな。
初戦は問題さえ起きなければ勝てる相手だ。しかし、強豪校が順当に勝ち上がってきたと仮定したそれ以降の対戦相手を見てみると地獄のようなトーナメント表になっていた。
まあこればっかりは仕方がないな。湘世学園とは準々決勝でぶつかる事になる。そこまで勝ち進めればの話だがな。
ざわめく部員達に剛は冗談気味に謝っていた。
正直、強豪校と当たろうが大した問題じゃない。むしろ大歓迎だ。俺の力を示すことができる。普通のトーナメントより目立てる。
「愁、いよいよだな」
「剛か、ああ。楽しげなとこ引いてきたな」
剛は最初は苦笑いしたが、すぐに表情は力強いものに変わった。
「おまえ、俺が引いてきたブロック内心嬉しいだろ」
見透かされているようだ。俺のことをよく分かってやがるな。
「どこでも一緒だよ。絶対俺たちが甲子園に行く。その結末はどこでも変わらないからな」
「おー! カッコいいじゃん!。よし、みんなで円陣組むか! 掛け声は愁ってことで!」
そして剛は俺の肩をバシッと叩いた。
「え、ウソだろ……」
「嘘じゃねーよ。全員、愁を囲んで集合だ!」
剛の号令に全員が集まり、やがて俺を中心に綺麗な輪ができた。……やるしかないな。
俺は両手を両膝に起き、中腰になった。
「えーっと、いよいよ夏大だな。この一年の集大成を見せてやろうぜ」
大きく息を吸い込んだ。
「行くぞ! 甲子園!!」
部員達の声が響く、いつもならうるさくて嫌になるが、今回の声はなぜか嫌では無かった。
Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2018/12/27 19:54 修正1回
No. 5
俺たちが盛り上がっている中、監督が現れた。部員たちから次々と威勢のいい挨拶が飛び交った。
「練習を始める前だが、夏の大会の背番号を配るぞ!」
その直後から部員たちには緊張が走った。空気が変わったのを肌で感じとった。
全部員32名が監督の前に一列に並んだ。
「夏の大会まで時間がない。今日からの練習はこれから呼ばれるメンバーたちを中心とした練習とする」
監督の本気さが伝わってくる。去年までと形式が違う。背番号を練習前に発表することはなかった。そして、もう少し発表する時期が遅かった気がする。
まあ自分でいうのもなんだが、今年は例年に比べてチームの出来がいい。おそらくだがここ数年では一番なのだろうと思っている。
あれこれ考えていると、発表が始まった。
「まずは背番号1、……」
少し間がある。まさか、、、。
「水谷!」
「!? はい!」
驚きを隠せなかった。まさか、背番号1を受け取ることになるとは、あまり予想できていなかった。
背番号を受け取った。その時、感じたことのない重みを味わった。
何気にエースナンバーをもらったのは初めてだ。鼓動が速くなる。これまでにない高揚感を覚えた。
なんだろう。どこまででも成長できる気がする。エースナンバー……カッコいいな。
自分が背番号1を背負っている姿を想像するとにやけそうになるからやめた。
そうして次々と背番号が発表されていった。
背番号2 島井 3年
背番号3 野口 3年
背番号4 高橋 3年
背番号5 大谷 3年
背番号6 羽田 3年
背番号7 寺島 3年
背番号8 枡 2年
背番号9 安達 3年
背番号10 安藤 3年
背番号11 日比野 2年
背番号12 山口 2年
・
背番号15 二村 1年
・
背番号17 北 3年
・
ベンチ入りメンバー20名が発表され終わるり、周りを見回すと悔しそうな表情の者。喜びをかくせない者。驚きを隠せない者など、様々だった。
Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2019/02/04 16:12 修正1回
No. 6
陽谷高校監督、幸田は水谷の急成長にようやくか、と感じていた。入学直後から時々衝撃的なボールを投げることや打撃を見せることがあった。
しかし、水谷の欠点は明らかなサボりぐせには手を焼かされていた。どんな練習メニューを用意してもうまくサボる。
ランメニューの直後などで水谷が限界を迎えている姿は見たことがなかった。しかし、最近は毎日限界な姿をみる。
なにがあったのかは分からないが、これはとても喜ばしいことだ。
それにしても、この短期間だけでここまでの成長とは、過去に見たことがない。
20年間監督をしてきたが、将来性も含めて間違いなく過去最高の選手。夏の大会はなんとしても勝ち進んで上のステージに進めてやりたいのだがな。
組み合わせが悪すぎる。おそらく今のベストの水谷なら強豪でも抑えるだろう。だがベストでならの話。
これだけ強敵が続くなら投球のクオリティも下がってしまうだろう。
しかも、最近の練習試合をみてもスタミナに難がありそうだ。大会をすべて投げ切るなんて不可能だ。過去にサボってきたのが影響だな。
水谷を含めた三人の投手をうまく回す以外には勝進めないな。
幸田がタバコに火を付けようとしたとき、部屋がノックされた。タバコに火を付けるのをやめ、部屋のドアを開けた。
「島井か、どうした?」
「失礼します! 大会について相談があってきました」
「入れ」と一言言って島井を監督室の中に入れた。
椅子を二つし、二人とも腰をかけた。そこで島井が口を開いた。
「水谷なんですが、監督も気付いていると思うんですが、スタミナがありません。正直全力投球だと5.6イニングが限界です。大会を勝ち進めるにはその弱点をうまく隠す必要があると思います」
「そうだな、俺もそれは丁度考えていた。なにか考えがあって来たんだろ? 話してみろ」
「はい! まず一回戦なんですが……」
二人の話し合いは一時間に及んだ。幸田は神奈川を制すなら今年以外あり得ない。そう感じたのだった。
こうして、夏の大会を迎える。
Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2019/04/22 10:36
No. 7
試合開始は9時、第一試合だ。暑くなる前で助かった。俺は暑いのが嫌いだからな。 それにしても、もう始まってしまうとは早いものだな。
既にスターティングオーダーは発表され、試合前の円陣を組んでいる最中だ。剛がなんだかいい話をしている風な感じがする。
それにしても六番ピッチャーか、気に入らねえな。
「おい愁! おまえ聞いてないだろ!」
ばれてしまったようだ。
「いやいや、聞いてるよ。初戦だからがんばろーね。だろ?」
「そんなことは言ってねーから、まあその感じだと緊張して炎上するなんてことはなさそうだな。安心したよ」
「当たり前だ。初戦から躓いてられるかよ」
この言葉を聞いて剛は安心したような表情をし、いつもの掛け声をかけて円陣を解いた。そしてすぐにベンチに座ろうとする俺に声を掛けてきた。
「いいな、さっきブルペンで話した通りだからな」
念を押すように言ってくる。そんなに重要とも感じないんだがな。
「分かってるよ。ストレートは七割くらいの力で、コントロール、変化球重視のピッチングだろ? さっき何回言われたと思ってんだよ」
「愁だったらすぐ首振ってきそうだから念を押してんだよ」
「そんな問題児じゃねーよ。それに今日の相手ならそんな想定外のことなけりゃ余裕だろ。行こうぜ、もう始まる」
審判が出てきていた。まもなく始まる。俺たちはベンチの前に並び、審判の声と同時に両チーム整列した。
挨拶を終え、後攻の俺たちは守備についた。
綺麗な荒らされていないマウンドを踏む。やっぱり気持ちいいな。投球練習でマウンドの感覚を確かめる。
いい、ボールも走っている。今日は打たれないな。
七球の投球練習を終え、いよいよプレイボールだ。初球、カーブのサインが出る。それに首を振る。違うだろ。初球はそれじゃない。そう、当然それだろ。
なんだか剛から呆れたようなオーラが出たが、初球だけだから許してくれ。
ゆったりとノーワインドアップの動作に入るとサイレンが響きはじめた。
力むな、力を入れるのはリリースの瞬間だけ!。
この大会の運命を占う第一歩を投じた。
ストレート全力投球。剛の構えるアウトローからはズレて真ん中低めあたりにいってしまったが、打者は反応できていない様子だった。
Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2019/05/13 23:10
No. 8
二球目は剛のサインに従った。アウトローへのスライダーだ。
まあアウトローとか指定されてもそんなにコントロール出来ないんだけどな。一応サイン通りに投げる努力はした。
しかし、狙いとはズレて真ん中外あたりにいってしまった。ストライクにはなったが、相変わらずコントロールが荒れ気味だ。
だがどうやらストレートに反応できてなさそうな雰囲気を見ると、要求から大きく外れたボールでなく、失投しなければ致命傷にはならないだろう。
そう考え、剛の要求通りに初回は投げた。結果として三振二つを含む三者凡退。球数は15球。まあ上々の立ち上がりではないだろうか。と考えていたが、剛には初球のことで小言を言われてしまった。
これはまあ、、、仕方ないかな。
気を取り直して攻撃だ。打順が六番ということで、初回から回ってくるかは微妙だが、準備はしておこう。
投球練習を見たところ、ストレートは120キロ前後ってところで変化球も特別良くない。狙いをしっかり絞っておけば初回からノックアウトさせることもできるだろう。
その予測通り、打線は初回から猛威を奮った。一点返し、二死、一塁二塁で俺の打席を迎えた。
右打席に入るとゆったりと構える。狙いはもちろんストレート。どんなピッチャーでもストレートは投げてくるものだ。
初球、カーブ見逃しストライク。二球目、スライダー見逃しボール。三球目、スライダー空振りストライク。そして四球目、ついに待っていたストレートが来た。目一杯フルスイングしたバットは虚しく空を切り、空振り三振。普通に見ればコースは高めに外れていた。
これはやらかした、、、。まあ、ピッチングが俺にはある。そこで取り返せばいい。
そう考えた甲斐もあったのか、俺はその後六回まで0をスコアボードに並べ続けた。
六回を投げて85球、無失点。被安打2、与四死球2、奪三振9のほぼ完璧といえる内容だ。
そして、六回裏に待望の初安打、それも三塁打を放ち、投打共に順調だ。
そう考えながら迎えた七回表の投球で異変が生じた。
Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2019/06/02 05:01
No. 9
おかしいな。さっきまで絶好調だったのにな。
ゆっくり周囲を見渡す。一塁、二塁、三塁、すべての塁がランナーで埋まっていた。
体が重い。まさかスタミナ切れ? いや、違う。そんな訳がない。前のイニングまで全く問題なかった。
おそらくさっきの三塁打の激走だ。全力疾走直後で少し感覚が狂ってるだけだ。
剛がタイムを掛けて、マウンドに駆け寄ってくる。それに合わせ内野手全員がマウンドへ向かってきた。
最初に口を開いたのはショートの羽田 圭(はねだ けい)だった。
「もうバテたのかよ。気持ちよくコールドで終わりそうだったのにフォアボール連発しやがって」
こいつ、相変わらず小さいくせに態度はデカイな。
「うるさい、バテてない。ここから三者連続三振で終わるんだよ」
「スピード落ちてるストレートとストライク入らない変化球でどうやって抑えるんだよバカ」
「これは演技だ。いまから本気出すんだよアホ」
「んな訳ねーだろ! 最近の練習試合でも七回くらいで毎回へばってんだろーが!」
「まあまあ落ち着け二人共! 点差はたっぷりあるし、地に足付けてやれば問題ないだろ」
どんどん喧嘩腰になっていく俺たちを慌てて剛が仲介に入った。
「この先もピンチになるたびにこんな風に喧嘩するのかよ。元々愁はノーコンなんだからこうなることもこれからは計算しとこうな。圭の守備は頼りにしてるんだから頼むぞ。愁もここからもう一回引き締めるぞ!」
ごもっともだ。なんか少しディスられたけど。
「そーだな。まあ仕方ないから俺のスーパープレーで助けてやるから打たせろ」
圭は両手を腰に当てて下から睨み上げてきた。
「誰が打たせるか、ここから全員三振でコールドで終わりだ」
「だからー!」
「喧嘩するなって! とにかく! 少々の失点は割り切って守るぞ! 内野は定位置でセカンドゲッツー狙いだ!」
なんとか剛が話をまとめると内野手全員は守備位置に戻り始めた。が、剛だけはすぐには戻らなかった。
「呼吸整えて投げろって言っただろ。まあ、一人目のフォアボールの時に間を取るべきだったな。俺のミスでもある。これでだいぶ整ったろ」
「あー、確かにちょっと体軽くなった気がしなくもないかも」
「よし! ここからはビシッと頼むぞ!」
そう言うと剛も戻ろうとした。そこを俺は一旦引き止めた。
Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2019/06/22 09:42 修正1回
No. 10
俺が声を発するより先に、剛が話し始めた。
「これ、一回戦だよな。こんなとこでバタバタしてたら、湘世に勝とうなんて笑い話だ」
思わず笑みが浮かんだ。
「さすが、分かってるじゃん。この場面、当然無失点だよな!」
「ま、行動で見せろって感じかな」
剛は背を向けて走り始めた。俺も振り返りロジンを拾う。軽く指先に付けて顔だけで本塁を見た。 剛が守備位置の指示をする。二塁ゲッツー狙いのシフト。
さっきのやり取りがあった。その上で無死満塁でこのシフトを敷く。
俺なりの解釈ではあるが、「三振を奪え」そういう意味だろう。
よく見ておけ。羽田も、剛も、そしてどれくらいいるか知らないがこの球場にいる他校の奴らも、水谷愁のストレートをしっかりと目に焼き付けとけ!。
サイン交換をし、セットポジションに入る。クイックは必要ない。ゆったりと動作を進めた。脱力されたフォームから、一気に解き放つ。
右腕から放たれた白球は剛の構えたミットに鈍いと音を立てて収まった。
Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2019/07/01 03:27
No. 11
球審の右手が挙がる。この球場にスピードガンが無いため何キロ出たのか分からないが、間違いなく自己最速、正真正銘のベストピッチであった確信がある。
右打席に立つ打者が一度振り返りベンチを見た。サインを確認するため、ベンチを見た。
その後、打者はタイムを取り靴紐を結び直し始めた。そのタイミングでようやく剛が返球してきた。
しばらくして打者が打席に戻る。表情が弱々しい。
剛のサインを確認する。スライダー? バカが、あり得ない。ストレートゴリ押しで問題ないだろ。そう思い、首を振る。
……ん? 待てよ。そういえば何か試合前に何か言われてたような気がしてきた。まあいいか。
剛が一瞬下を向いた。そしてストレートのサインを出してきた。コースの指定特にされず、剛もストレートを投げるだけで問題ないと分かっているようだ。
投球動作に入った。その時、ふと頭をよぎる試合前の会話。
あー、全力投球しないほうがいいんだった。
もう遅かった。俺の指先から放たれた白球は俺のベストピッチを更に更新する。
打者はど真ん中のボールにも関わらずスイングしなかった。これでツーストライク。
次は剛のサインに従い、フォークを投じる。打者のバットは空を切り、ベースの後ろでワンバウンドする理想に近いボールだった。
ランナーが三塁にいる状態であるにも関わらず、フォークを要求するのは流石だ。普段こういう強気の配球をするから今日の配球に不満があったのだが、二回くらいから試合前に言われてたことを完全に忘れてた。ごめんよ剛。大体サインには従ってたから許してくれ。
続く打者も右打者。ストレートのサイン。なんか剛に諦められた説が出てきた。でも好都合かもな。
インコースに3つ。ストレートを投げ込み三振を奪った。ストライクにも関わらず軽く仰け反るようなシーンもあった。
これだ。俺が投手をやりたかったのはこの回のような投球がしたかったからだ。
三人目。何も考える必要はない。ただ腕を振り、ストライクを投げるだけで相手は手も足も出ないようだ。
三者連続三振で最後を締め、8-0の七回コールドで試合終了となった。
7回無失点、被安打3、与四死球5、奪三振12。4打数1安打、1打点。悪くない結果だ。
Re: 運命の打球音-season2-
名前:
MDO
日時: 2019/10/12 09:56
No. 12
これ程までに成長しているとは想像していなかった。秋の大会で対戦した時、彼のボールに違和感を感じたが、やはり間違いではなかった。
数年後、彼の名前は出てくる。そう思っていたが、僅か数ヶ月で僕の脅威に成り得る力を付けてくるとは予想できなかった。
あの時彼はリリーフで出てきて、コールドで試合を決めてしまったため、二打席しか勝負できなかったが、決め球に投げてきたあのストレートは頭から離れなかった。僕とは違う、純粋で、それでいて暴力的なストレート。
総合的に見ると、強豪校ではベンチ入りすることすら厳しそうな投手だった。そんな投手からまさか、僕と同じ匂いがしてくるなんて、これだからやめられない。
練習を遅刻してまで見に来る価値があって良かった。必ず戦おう。僕等までの道のりは厳しそうだけど、今の君であれば突破し得る実力がある。
湘世学園エース。天野祐希は席を立ち上がり、球場を後にした。
「予選レベルで久し振りに少し楽しみかも」
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