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ロックされています  未来への手紙  名前: 投手  日時: 2012/08/31 02:34 修正5回   
      
ちなみに青空に奇跡を願うのような展開にはなりません。
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/07/11 17:34 修正1回 No. 1    
       
〜〜〜「1話 3年間限定の夢」〜〜〜

高1の春、早くも俺は高校初登板した。
結果はボロボロの5イニングで7失点だった。だがなんと奇跡的に勝ち投手となった。
このとき思い出す、親父のあの言葉を。
「高校野球ってのは三年間限定で夢を見れるステージだ。挫折してもいい、試合に出れなくてもいい、でも、絶対にやめるな。高校卒業したら自由に過ごせないんだからよ!」
あのときの親父の言葉と笑顔は忘れられない。
三年間限定の夢か、まあ思いっきり満喫してやるか。
とりあえずこの高校だと試合に出れないことはないな。なんせ新設校で部員14人しかいねえしなww。

「隆希、初勝利おねでとう」
こいつは俺と同級生でポジションはショートの原澤 雄吾(はらさわ ゆうご)だ。
ちなみに俺はピッチャーで名前は渓本 隆希(たにもと ゆうき)。
投手不足のうちはもしかしたら春から登板できるかもしれない。
うれしい高校にきたぜ、やっぱり野球は楽しむものだよな!。
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/07/27 01:56  No. 2    
       
「あーまだ寒いな……」
柚槻 裕貴(ゆつき ひろたか)の姿を見るとマフラー、手袋、耳当て、ブレザーの上には三枚上着を着ている追加で何故かサングラス。
「そこまで寒い?」
聞き慣れた声、裕貴は顔だけ後ろを向かせるとそこには七海 悠希(ななみ ゆき)がいた。
「おうユキ、遅かったな。凍え死ぬかと思ったぜ」
確かに裕貴の声は震えているが今日の気温はそこまで低くない。ユキは裕貴を冷やかな目で見つめていた。
「そんなカッコだと目立つんだけど……特にサングラス」
「バカヤロウ、素顔晒した方が何倍も目立つだろうがよ。お前も隠すか?」
裕貴はユキにサングラスとニット帽、マスクを差し出した。
「うん、二年間付き合って来てここまであんたがナルシストだと思ったのははじめて」
ユキは裕貴の付けていたサングラスと差し出されていたサングラスを取り上げ地面に投げつけた。
周囲に黒い破片が飛び散る。このとき、丁度強い風か吹いた。
「ふむ、ピンクか」
裕貴は目を細めて右手を顎に当てて言った。
直後、ユキはスカートを押さえる。顔が真っ赤に紅潮してある。
「見たの……?」ユキの問いに裕貴は「いいや、見えた」と答える。
「コロス! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」
ユキは裕貴の首を締める。だがマフラーが邪魔で上手く締め付けることが出来ない。
「くっそ! こんなこのならあんたにこのマフラー作ってやらなきゃ良かった!」
裕貴は両手を腰に当てて笑った。
「まさに鉄壁!」裕貴がこう言った直後にユキが「うっさい!」と言ってボディーに蹴りを入れる。
「いい加減にしねえと遅刻すんぜ」
裕貴はそう言うとユキを抱え上げた。そして走り出す。
「ちょ! 降ろして! お姫様だっこはヤバイよ! ほら、周りが見てる!」
「ふははははははっ! この俺に逆らった罰だ! ざまあねえぜ!」
そして裕貴は走る速度を上げた。
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/07/27 02:30  No. 3    
       
裕貴が走りはじめて約1キロほど走っただろうか。裕貴はユキを降ろした。
裕貴の呼吸はかなり荒れている。
「おまえ重てえな。体重何キロだ?」
「女の子に言うことじゃないでしょ! それ! デリカシーゼロか! 変態!」
ユキは裕貴の右の頬を殴ろうとするが腕を掴まれたせいで腕が動かせない。
「まあまあ、この前はおまえ裸見せてくれたじゃん、今回は下着履いてたから別にどうでもよくね?」
「良くない! それにこの前はあんたが私がお風呂入ってるときに覗いたんでしょうが! 見せてないわよ!」
「つーかおまえの親父さんカッチカチ過ぎねえか? あんときもう中学卒業したから大人じゃん、大人の階段登っても良くね?」
「ば、ばか! あの後説教食らったんだから! あんたがいきなり押し倒すから勘違いされたんだよ!? 私は悪くないのに!」
「いや〜なんかムードがなー、しかもあんときおまえ喜んでたろ?」
裕貴はユキの腕を離すと肩に腕を回した。

「ヒューヒュー、お二人さん、こんなとこでイチャイチャしちゃってーやけちゃ__」
バコンと大きな音がした。
裕貴とユキが同時にカバンで顔面を殴ったのだ。
「工事、てめえ死ぬか?」
裕貴はうつ伏せに倒れている堀土 工事(ほりつち こうじ)の胸ぐらを掴んだ。
「いやだ。てかこんなとこで痴話喧嘩してたらこうなってとうぜ__!」
裕貴は工事が言い切る前に顔面を膝で蹴り飛ばした。
そして「鼻の骨でも折ってな」と言って工事に向かって唾を吐いた。
「ちっ、あのくそたれは!」
裕貴は後頭部を掻きむしった。そのときユキが上着の裾を掴んだ。
「本当にこの学校で良かったの? 裕貴なら明峰に行けたんじゃないの?」
「ユキ、おまえも知ってるだろ。俺は強豪校が嫌いなんだ。ダークホースは好きだけど」

そんな話をしている間に裕貴とユキは学校に到着した。そして靴を履き替えるて一年の教室のある三階に歩いて上がると、
A組の裕貴とF組のユキの教室は反対方向のためここで離れる。
裕貴は「また昼休み屋上な」と言うとユキに背を向けて教室へ向かった。
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/07/27 03:03 修正1回 No. 4    
       
柚槻 裕貴。西暦2000年産まれ。
小学3年で名門の少年野球チームに入団、抜群野球センスで4年の夏、まだ六年が引退していないにも関わらずレギュラーに抜擢。
5年の夏、サボりぐせが出始める。だが、周りより能力は明らかにズ抜けていた。
六年になるとエースで4番として実力でチームを率い、全国大会を制覇する。
この大会で最速121キロをマークしたらしい。
中学では無名のシニアチームに入団する。
一年から先発投手として活躍する。
日本選手権の決勝リーグまで勝ち残るが全敗で、どの大会の参加権利も手にすることが出来なかった。
だがこの大会で一年生にして脅威の129キロを計測する。
二年にになると、決め球と呼べる変化球を習得し、無双した結果が続く。
完全試合1回、ノーヒットノーラン4回記録する。
そしてこの年、日本選手権、全国大会を制覇した。それもエースで4番として。
このときサボりぐせが再発する。
一人だけ髪の毛を伸ばすなどの自分勝手になり始めるが誰も文句は言えなかった。
そして三年として参加した。日本選手権全国大会、またもや制覇する。
さらに速球は最速140キロオーバーと中学レベルを超越した速球を神宮で轟かせ、観客を沸かせた。
プロのスカウトだけでなくメジャーのスカウトも注目した。柚槻裕貴はどの高校に行くのか。
そのなか、裕貴の選んだ高校は私立・成涼高校。
部員21名、前年度の成績は三回戦をコールドゲームで敗退。
弱小校だ。
おそらく裕貴は自分が見るのではなく見せるだろう。三年間限定の夢を。

1話END
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/07/29 02:36  No. 5    
       
〜〜〜「2話 技巧派」〜〜〜

俺は今ブルペンで投げ込みを行っている。
マウンドとキャッチャーの真上には天井がある。公立の割には立派な設備だろう。
グランドは両翼90m前後、センター110m十分な距離だ。
フェンスの奥のネットは高く、うちの高校にはあの距離、あの高さを越すこと出来る打者はいないだろう。
「隆希! さっさ投げろ!」
三年の橋本 光一さんだ。
俺は頷くとワインドアップからストレートを投球する。最速124キロ程度でとても強豪校に通用するとは思えない。
大会でキャプテンが勝った直後に第一シードと試合とかふざけたとこ引かなければいいけど。
チェンジアップ、カーブ、カットボール、縦のスライダー、ツーシームを自在に操ることが出来るが、強豪校にとっては打ちごろかもしれない。
まあサウスポーだから5キロプラスして129キロってことでいいか。
大分県ならこの程度でも十分通用するかな?。
「チェンジアップいきまーす」
俺の投げたボールは見事にボールの勢いが死んでいた。タイミングを外すには十分すぎる。
俺は橋本さんからの返球を受け取ると橋本さんに見えるように手首を2回、回転させた。
次はスライダーを投げると伝えている。
セットポジションから投球した。
右打者にとっての内角の真ん中に軌道をとっていたボールはフッと軌道を変えて低めに決まった。
「絶好調だな」
橋本さんがニヤニヤしながら返球してきた。俺も笑って「絶好調です!」と答えた。

俺が次のボールを投げようと振りかぶったとき、金網を乗り越えて誰かがブルペンに入ってきた。
「ビックニュ〜ス、土曜日成涼と練習試合決定した。明後日だな」
キャプテンの高山 尚(たかやま たかし)さんだ。
尚さんはそれだけ言うと再び金網を乗り越えてブルペンを出た。
「尚ー! 今度は普通に入り口から入って来いよー!」
橋本さんの言葉に尚さんはこっちを見て「了解!」と言い親指を立てた。
それを見て俺は微笑むと一塁側ベンチの上を眺める。そこには「大鳳(おおとり)高校専用グランド」と書かれた横断幕が緑色のネットに吊るされている。
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/07/29 15:51  No. 6    
       
「練習試合ですか?」
裕貴はスイングをやめてキャプテンの佐谷 太郎(さたに たろう)に質問した。
「ああ、大鳳高校とな」
大鳳って確か隆希が行った高校だよな。……行ってみるか。

裕貴は地面に置いていたヘルメットをかぶり、ゲージの中に入った。
「おねがいしやーす」と言って打席に入った。
なんの変哲もないスクエアスタンスのフォームからはかなり変哲ある打球を飛ばす。
ピッチングマシンの設定は125キロ前後、速くないとはいえ一年でこのレベルはおそらくほぼいない。
鋭い打球音が響くたびにグランド内の皆が注目する。
逆方向へ狙ってのホームラン、一年生にして驚異の完成度を誇る裕貴。
投げても最速145キロを表示させる、さらに打席に立つとその球速以上の体感速度。
成涼高校の全員が共通で思っているのが「もうおまえプロ行けよ」である。
今行っても防御率3点台くらいにはには収まるだろう。
「どうもでした」
裕貴が打席を出た。そしてゲージの外に置いていた帽子とヘルメットを交換し、スパイクを履き替え、両足にはおもりを付けた。
軽く体操すると帽子を反対にかぶり「んじゃ、ロード行ってきます」と言って走り始めた。

裕貴の向かっている場所は大鳳高校、軽く挨拶して来ようとの考えである。
だが大鳳高校までの道のりは軽く20キロを越えている。
だが往復で40キロも走る必要はなくなった。
裕貴が10キロから12キロほど走ったところで隆希と遭遇したのだ。
「裕貴?」



「尚さんひどくねえか? なんだよ。成涼に挨拶して来いって……片道20キロ以上あるんだぞーーーーー!!!」
俺は少し走る速度を上げた。7キロくらいは走ったはずだ。「よし! タクシー使おう!」と決断を下した時、俺はあいつに再会した。
「裕貴?」
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/07/31 02:25  No. 7    
       
「よう、技巧派」
裕貴は立ち止まると近くの電柱に体重をかけた。
「なにしてんの? こんなとこで」
俺も立ち止まり呼吸を整えた。
「ちょっち待て、メール入ってるわ」
裕貴はスマホをいじり始めた。しばらくすると「ヤバッ!」と短く叫び、誰かに電話をかけた。
「玲華? ごめん、今日は図書室行くの無理だった。明日は行くからさ。……ああ、悪かったな。じゃ、また」
電話を切ったと思うと再び誰かに電話をかける裕貴に俺はうんざりしてしまう。
「ユキ、あのさ、今学校居るよな? いるんなら図書室で玲華手伝ってやってくんねえ? おう、頼むな」
裕貴は電話を切ると大きなため息をついた。
「なあ、ユキって二年前お前ん家の隣に引っ越してきた子?」
「そうだけど?」そう言った裕貴に俺は「二股?」っとたずねた。
すると裕貴はニッコリと笑う、笑っているが正直悪魔の笑みにしか見えない。
左手の骨をバキバキっと鳴らした。目は俺を睨みつけている、だが口元は笑っている。
実はこういうのが一番怖い。
「ユキと俺が付き合うわけねえだろが、どこ見たらそうなんだ? エロ渓が!」
この怒号とともに拳が俺に振り下ろされる。
辛うじてよけて言い返した。
「どの角度から見ても付き合ってるだろうがあぁぁあぁぁ! ! パツキンヤローがあぁ!!」
俺は右ストレートを放つが鮮やかに空振り。その隙に裕貴の蹴りが俺のボディーに決まった。
「アイツは俺の好みじゃねえんだよおぉぉおおぉ!!」
「じゃあ玲華ってのはかわいいのかあぁ!? 見せてみろよおぉ!」
「おめえマジでビビるぞーー!」
裕貴は再びスマホをいじりはじめる。そして玲華、いや、見た瞬間から玲華ちゃんになった。
「な……んだ……と? ……バカな……この世にこんなかわいい子が存在したのか?」
その画像は本に集中していたところを横から裕貴か他のやつか知らないがその光景をとったのだろう。
なにはともあれ、素晴らしい画像だ……!。
「裕貴、いや裕貴先輩大佐。その画像を俺__」
「断る!!!」
俺が言い切る前に……! なんて反応の速さだ……!。だが、諦めれん!。
「てめえ! お前なら女なんていつでも手に入るだろ! この子は俺によこせ!」
「フッ」
鼻で笑われたあああぁぁぁぁ!!! こいつ腹立つ! 殺す! いつか殺してやらぁ!!。
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/08/02 01:18  No. 8    
       
「じゃあ何かでおめえに勝ったらその画像よこせや!」
今俺はどんな顔をしているのだろう?。
裕貴は今口は笑っている。だが表情を全体的に観察するとどう見ても恐怖しか感じない。
「まあいいぜ、玲華の画像は絶対に渡さねえよ。それに、おまえ一度でも何かで俺に勝ったことあるか?」
そうだ……。俺、すっかり忘れてた。こんな形で思い出すのか?。
俺ってやっぱり……バカだなあ。
忘れようとしたのに、もう考えたくなかったのに…………スマブラの246連敗……。
俺は裕貴を睨みつけ、全速力で走り始めた。
「この一直線の道抜けるまで競争じゃ〜ーーー!!!」
ここから直線の道が200mほど続く、かなりのフライングをした俺は負けるのはありえないと、思い込んでいた。
裕貴は50mに満たない距離で俺を抜き去った。さらに加速を続ける裕貴を見て、俺の二倍の速さがあるんじゃないかとまで思ってしまった。
ゴールするのに、何m差をつけられたのだろう?。ここまで差が出来ていたのか? こんなはずじゃ……。
速すぎるし、息もあまり上がっていない。この……化け物が。
「隆希、俺はおまえにこう伝えたかった。俺を一打席でも抑えるか、俺から一本でも打ってみろよ。打てたらこの画像やるよ」
裕貴はニヤニヤした顔で玲華ちゃんの画像を俺の目の前でチラつかせた。
練習試合、玲華ちゃんの画像は関係なしに戦ってやる。もちろん手に入れるためでもあるけど。
だけど今は、画像よりも勝ちたいの気持ちの方が上回っている。
勝つ、必ず、そして玲華ちゃんの__じゃなくて裕貴に俺を認めさせる!。
「あっ! タクシー!」
裕貴はタクシーを拾うとタクシーに乗り込んだ。そして閉まったタクシーのドアの窓から、俺を遥か上から見下ろすような目で見ていた。
負けるかよ。たとえ、力の差が天と地ほど離れていても!。

2話 END
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/08/04 19:20  No. 9    
       
〜〜〜「3話 変則投球」〜〜〜

俺は後からやってきた裕貴への怒りをどこにぶつけたらいいか分からず。
グランドのバックネットを蹴り続けている。気がつけば俺の隣に橋本さんがいた。
「大丈夫か隆希? 頭でも打ったか?」
橋本さんは手のひらで2回、軽く俺の頭を叩くと笑って500MLのポカリを俺の頭の上に置いた。
「思うんですけど日曜から大会なのに土曜に練習試合組むとか狂気の沙汰ですよね?」
俺は頭の上のポカリを取るとキャップを外し一口飲んだ。
「まあお互いこの大会でいくら頑張ってもシード権は手に入らないからな」
俺は自分の左手の指先を見た。そして決意した。
まずは試さないと、あいつの、裕貴の度肝を抜いてやる。
「橋本さん、明後日の試合で試したいことがあるんです」
「なんだ? 言ってみな」
「変則投球を…試したいんです」
覚悟は決まった。あとは結果が残せるかどうかだ。




そして迎える。対成涼高校戦。
試合は1試合。午前10時試合開始の予定だ。アップは向こうで済ませて来ると言っていたらしいので、来るのはたぶん9時半頃だろう。
現在は9時10分頃、もうちょいしたら来るかな?。
ちなみにウチの先発投手は三年生の山本さん。
ストレートは130キロ出ないが制球力と多彩な変化球を武器とする投手だ。
俺達で裕貴から何点取れるだろうか? 良くて2点くらいだろう。
ということは、投手陣は出来ることなら相手を0に抑え込んでおかなければならない。
相手の打線はそこまで強力ではないはずだ。なんとかなるか?。
丁寧に低めに投げていれば簡単に点は取られない筈だ。そう、筈だった。
試合がはじまり俺たちは気がつく。俺たちは、弱者だと。
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/08/06 14:54  No. 10    
       
成涼高校の38人がグランドに入ってくる。その中で一人だけオーラが違う存在があった。
裕貴だ。明らかに俺達とは次元が違う。日常的には普通の人なんだけど……いやちょっと浮いてんな。
金髪のくせに地毛とかまじないな。母親イタリア人だったっけ?。
「渓本くん?」
不意打ちのように声を掛けられて正直ビックリした。
そこにはマネージャーの広田 早咲(ひろた さき)がいた。
「なに睨みつけてたの?」
広田も成涼の選手たちを見る。
「もしかしてあの金髪の人?」
「おまえすげえな」
広田は10秒経たぬうちに裕貴を指差した。こいつまじですげえな。
「彼あのメンバーのなかで存在感が一人だけ抜けてるね」
「じゃあ俺の存在感は?」
俺は自分を指差して言った。すると広田は笑って答えてくれた。
「このチームじゃ一番すごいかな。……でもあの金髪の人の足元にも届いてないよ」
「これはこれはズバッと言ってくれるね。まあ、裕貴負かしてやるか」
俺は拳でグローブの芯を叩いた。周囲にはパンと心地良い音が走った。


「あの〜どうもです。今日はよろしくおねがいします」
成涼高校主将の岩田寛人(いわた ひろと)は尚さんい小さく頭を下げた。
それに対して尚さんも頭を下げる。
「いえいえ、明日から大会なのに無理して来てもらってすいません」
両者へりくだり過ぎだ。しょうがない。尚さんに加勢しよう。
「尚さん」「寛人さん」
俺が尚さんの名前を呼んで一歩後ろに立ったのとほぼ同じ動作を相手の主将に行った者がいた。裕貴だ。
「金髪色ボケ野郎が……! サングラス帽子に掛けてんじゃねえ!」
「あ? チビには分からねえよ。太陽が眩しいんだから仕方がねえだろ」
裕貴はサングラスをきちんと装着する。
「チビじゃねえ! 168センチはチビじゃねえぞ! それに公式戦じゃサングラス使えねえんだぞ!」
「バーカ、公式戦は帽子に掛けるんだよ。それより戻りましょうよ寛人さん」
裕貴は自軍のベンチのほうへ振り返り、歩き出した。
「あの、今日はヒロを投げさせますんで頑張ってください。では」
岩田は頭を下げるとベンチへ戻って行った。
尚さんは拳を固く握りしめていた。
「頑張ってください? 舐めやがって……隆希、予定変更だ。あれ使え」
この尚さんの言葉に俺は頷きブルペンへ向かった。
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/08/06 18:46 修正2回 No. 11    
       
やがて10時を迎え試合が開始する。俺は開始早々ブルペンへ直行。
俺たちは先功だ。まっさらなマウンドに裕貴が立つ。
裕貴を攻略するには無論ストレートを打つことが必須だが、あいつにはあの球もある。
投球練習を終えた。捕手の松井 武が掛け声をかけると全員が反応する。
裕貴は指先にロジンの粉を付ける。そして親指と中指を擦り合わせる。
裕貴は松井のサインを確認する。松井の出すサインに一度首を振ったが二度目のサインには頷いた。
振りかぶる。フォームには特に大きな特徴はないが、投げる球の精度には目を見張るものがある。
初球が投じられた。右打席に立つ石田さんの腕はピクリとも動かなかった。
球審の右腕が上がった。
石田さんの表情は冴えない。今の一体何キロ出てたんだよ。


完璧だ。今日は一本も打たれる気がしない。絶好調だ。ここまで出来がいい日はなかなかないぞ。
裕貴は松井の返球を捕球するとすぐに松井のサインを確認して投球動作に入った。
裕貴の投じた二球目はまたストレート。石田もスイングした。
鈍い打球音だがバットに当てた。ボールは一塁側ベンチの上にふらふらと飛んだ。
ファール。裕貴は石田をツーナッシングと追い込んだ。
石田の表情には迷いが見える、恐らく一球遊んでくるか三球勝負でくるかだろう。
生憎今日の俺は絶好調だ。遊び球はいらない。
三球目、再びストレート。石田は「舐めるな!」とでも言いたげな表情でボールを睨みつけている。
その次の瞬間、聞こえたのは極めて小さな金属音と大きな捕球音だった。
石田は悔しそうな表情を浮かべるが、これは当然の結果なのだ。
二番打者は…高山か。

「打ってくるぜ!」
そう言った尚さんだったが、わずか三球で帰って来てしまった。
俺心の中で何度もつぶやいた「尚さんカッコ悪」と。
三番の中田さんはショートゴロに倒れた。
山本さんはネクストバッターサークルから立ちあがり、一年の雑用係に打撃道具一式を任せ、深く帽子を被るとマウンドへ向かった。
頼みますよ。山本さん。
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ロックされています   Re: 未来への手紙  名前:投手  日時: 2013/08/07 17:57  No. 13    
       
俺は、山本さんを信じ過ぎていたのか? いや、違う。相手が悪かったんだ。
俺の目に映るのは、ダイヤモンドをゆっくりと回る裕貴の姿だった。
三塁を回った、このときファーストの尚さんが俺を見ていた。
言葉にはしていないが、おそらく意味は合っている。
俺はブルペンを出た。大丈夫。絶対なんとかなる。
裕貴がホームインすると、投手交代が告げられた。山本さんはレフトに入り、俺がマウンドに上がる形になる。
俺がマウンドに到着すると内野陣が集まって山本さんを慰めていた。
「隆希、悪いな。こんなに早く崩れちまって……」
山本さんが力のない目で俺にボールを渡した。
五連打で五失点。それに加え一年の裕貴には特大のスリーラン。
ショックだろうな。ここまでボロボロにやられるなんてな。
俺もやられるかもしれないな。まあなんとか凌いで行こう。
山本さんからボールを受け取る。
それを確認した内野陣は各守備位置に戻った。
裕貴、見せてやる。これが俺の投球スタイルだ。


「ヒロー、今日はずいぶんと気合入ってんな。一昨日は9番がいいって言ってたやつが今日はなんだ? お? なんだ?」
「黙れ松井」
裕貴は松井の頭を一発叩いた。
「あ、わかった! 女だろ!」
なおも口を止めない松井、眠らせようと判断した裕貴は松井の股間を蹴った。
声にならない悲鳴を上げた松井は地面にへたり込み呪文のように呻き声を上げる。
「まったく」
裕貴はベンチに座ったとき、飲み物をバッグに置いてきたことを思い出し、ベンチ裏に取りに行った。

バッグのもとへ行くと2リットルのアクエリアスがバッグの外に出ていた。正確には裕貴がそこに出していた。
アクエリアスを持ってベンチに戻ろうとすると後ろから声をかけられた。
「柚槻くん? だよね?」
裕貴は顔だけ声の聞こえたほうを見た。そこには今日自分がこのグランドに呼んだ河村 玲華がいた。
「玲華、来たんだ」
「試合はじまってるんでしょ? またあとでね」
玲華は裕貴に小さく手を振ってバックネット裏のベンチへ歩いた。
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