個別記事閲覧 Re: 本気の実力データ 名前:nahato日時: 2013/03/29 10:30 No. 33
      
あの頃の俺はただ純粋に野球が好きだった。来る日も来る日も野球ばかりしていた。本当にあの頃の俺は輝いていたんだと思う。だからこそあんな事になってしまったんだと思っている……。

ー七年前のとある公園ー
?「光輔ー! 勝負だ! 今日こそ俺の魔球で三振を取ってやるぜ!」
光輔「だったら俺は新しい打法でホームランにしてやるぜ!」
小学校四年生の頃の俺は幼なじみの拓真のほかにかけがえのない親友がいた。
光輔「いつでもこいよ大地! ホームランを喰らわしてやるよ!」
大地「よーし!! いくぜぇ! 喰らえぇ! スーパーウルトラボーール!!!」
こんな感じで毎日二人で野球をしていた。とうぜん公園などで野球などのボール遊びは禁止だったのでよく近所のおばさんに
おばさん「こらあぁぁ!! あんたたち今日もやってるのね! いい加減にしないとお母さんに言いつけるわよ!!」
怒られたりもした。
 進級して五年生になると俺はますます野球の魅力に引き込まれていった。しかし大地は進級してすぐに地元の少年野球チームに入り休みの日に遊ぶことはメッキリ減ってしまった。そして進級して2ヶ月経ったある日、俺は拓真と大地から意外な誘いを受ける。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力データ 名前:nahato日時: 2013/03/29 19:57 No. 34
      
光輔「少年野球?」
 六月も半ばにさしかかり季節は春から梅雨に移り変わった。梅雨らしく雨が降り運動場も水浸しで教室での休み時間を余儀なくされた俺は拓真と大地というおなじみのメンツで野球の話に花を咲かせていたところ急に拓真が提案してきたのだ。少年野球に興味はないか? と。
大地「どうしたの拓真? 急に光輔を勧誘するなんてさ」
拓真「いや、なんとなく…なんだけどさ。どうだ光輔、野球に興味はないか?」
この頃から拓真は既に野球をやっていた。聞いたところには小学二年の時からやっていたらしい。大地と同じチームに所属しており最近何かと三人で遊ぶ機会もないから気を回してくれたんだろう…と、このときの俺は思っていた。実際のところは理由は全く違ったのだが。
光輔「そりゃあ興味はあるけどさ、父さんと母さんが許してくれるかどうか……」
俺の両親は今は海外に出稼ぎにいっているが小学校までは姉と一緒に四人で暮らしていた。そして両親は勉強にうるさかった。なので親がそんなものを許す分けないと思っていた。
拓真「大丈夫だよ! 俺と大地も説得しにいくからさ!」
大地「えぇ〜…」
その後なんとか大地を説得し放課後に俺の家に集まることが決定した

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/02 02:09 No. 35
      
母「駄目です」
母からの返答はやはり思っていたとおりの結果だった。
 放課後に光輔の家に集まった二人は早速家にいた母に少年野球のことを頼み込んだのだ。当然おれも必死に頼んだが答えは予想通りのものだった。
光輔「そこを何とか頼むよ母さん! 俺、本当に野球がしたいんだ!」
母「駄目です。それに野球なんて始めたらただでさえ悪い学校の成績が余計に下がってしまいます。そんなことになったら母さんはお父さんになんて言ったらいいの?」
ーーくそ! 学校の成績がなんだ!? そんなに俺が成績が下がるのが嫌なのかよ!? 父さんに怒られる自分が嫌なだけなくせして!
思わず心の中で毒づいてしまうが当然そんなことを言う勇気などあるわけがなく光輔はただその場でちぢこまることしかできなかった。
拓真「こいつの勉強のことが心配ならそれぐらい俺が教えます! だから……!」
大地「お、俺も拓真ほど頭はよくないけど…それでも少しなら教えることもできると思います! だから……!」
拓真・大地「だからお願いだから光輔が野球をするのを許してあげてください!」
光輔は胸の奥からこみ上げてくる感動を抑えきれなかった。
 ここで意外な人物が助け船を出してくた

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/02 02:36 No. 36
      
?「別にいいんじゃない? やりたいことやらしてあげたら」
光輔「あ、姉貴……!」
 部屋からでてきたのは長めの黒髪、整った顔立ち、170cm弱の身長、そして体幹前方上部のボリュームがとても14歳とは思えないパッと見はモデルにしか見えない光輔の姉、柏木渚である。
 拓真と大地は光輔の姉はこれが初見だったはずで顔を赤くしながら二人とも見とれていた。
渚「私はよく分かんないけど光輔は野球をおもしろいと思ってる。やりたいと思ってる。これ以上に必要なものは無いし、たとえ親でも…いや、親だからこそ我が子がやりたいと思ってることを否定し拒否する権利はないと思うわ。逆に親なら背中を押して応援するべきじゃないの? 母さん」
母「でも成績が……」
渚「それなら簡単に解決するじゃない。今ここで光輔と約束したらいいわ。きちんと勉強もするってね」
母「でもあの子がそんな約束を守るはず無いわ!」
 うんうん、と思わず光輔は心の中で頷いてしまう。
 確かに自分はそんな約束は守らないだろう。たぶん5日で忘れるはずだ。するとそんな心の声を読みとったのか渚は殺気の混じった微笑を顔に浮かばせながら恐ろしいことを言った。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/02 02:57 修正1回 No. 37
      
渚「そのときは私からたあっぷりときっつーいお仕置きをしてあげるから♪」
光輔は凍り付いた。理由としては以前に渚から受けたお仕置きの内容を思い出していたからだ。渚のお仕置きはお仕置きであってお仕置きのレベルを遙かに越えているのだ。それこそ命の危険を感じるほどの……。
母「渚がそこまで言うのなら仕方がありませんね。条件を飲みましょう」
ーー母上待ってくだされ! 勝手に人の命を危険にさらさないでえ!
母「では光輔。あなたが少年野球に入るのは承諾するかわりにかかさず勉強もすること。もし破ったら渚からのお仕置きという条件でいいのなら少年野球にはいることを許可します」
光輔は高速で土下座の体勢になり震えながら返答した。
光輔「お断りします……」
拓真と大地にどつかれた。
 その後拓真と大地に半ば強引に条件を呑まされ少年野球チームにはいることが決定した。

 よくよく考えればこの時に意地でも入るのを断ればよかったのだろう。そうしていれば俺は大切な親友を失わずにすんだかもしれなかったのに、あの女に出会わずにすんだかもしれないのに……。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/02 21:23 修正1回 No. 38
      
光輔「試合!?」
 光輔が少年野球チーム、希望ヶ丘キッズに入団してから8日が経った日の解散前のグラウンドで大地から聞いたのである。三日後の土曜日に試合がある、と。
光輔「でも俺って入ったばっかだぜ? 試合には出ないだろ?」
大地「まあね。でもうちのチームは六年と五年合わせて10人しかいないから誰か一人でも休んだりしたら光輔がその穴に入らなきゃいけないんだよ?」
 さらりと恐ろしいことを言う親友に対して光輔は少しニヤリとした顔で親友の肩に手をおいて
光輔「そんときはそんときだよ。それにお前は絶対に休まないだろうしな、なにせ……あいつが応援にくるんだから」
 あいつと言う奴のことを大地は瞬時に理解したのか顔を真っ赤にしながら反論してきた。
大地「あ、飛鳥のことは関係ないだろ! そ、それに僕は飛鳥が応援に来ようと来まいと試合には絶対に来るしね!」
光輔「ほーう、へー、ふぅーん、なるほどねー」
 光輔は相変わらずニヤニヤしながら大地のことを見回していたが六年生キャプテンの永城さんがこちらに向かって
永城「おまえらー! いつまで喋ってんだぁ! 早く集まれぇぇ!!」
光輔「やっば!行くぞ大地!」
 俺たちは走り出した。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/03 01:35 No. 39
      
ーーどうしてこんなことになったんだろう……。
 光輔は七回の裏、つまり最終回の場面で打順が回ってきてしまったのだ。
ーーしかも2アウトでランナー2、3塁、得点は2対3のビハインド。1打サヨナラのチャンスかあ……。気が重いなあ……。
 そもそも光輔に打順が回ってくることじたいおかしいのだがこのようなことになったのは約一時間前に遡ることになる。

光輔「よかったあ……。誰も休んでないみたいだな……」
拓真「よかったじゃないか光輔、いきなりスタメンじゃなくて」
 拓真が少し顔をニヤつかせながらこちらに話しかけてきた。
光輔「ホントだよ……僕みたいな初心者がいきなり本番なんてことになったら緊張でチビリかねないしね」
 すると今度はストレッチを終えた様子の大地がこちらに近づいてきた。
大地「光輔も拓真もストレッチは終わったの? 特に拓真はちゃんとやっておいてよね。それと光輔も出番がこないと決まった訳じゃないんだからきちんとやっておきなよ」
 大地がここまでやる気なのは珍しい気もするがその理由は一重にあいつが応援に来ているからだろう。
 そう、あいつ。

 如月飛鳥が。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/06 01:32 No. 40
      
?「だーいち!」
 不意に後ろから声が聞こえ振り向くと一人の少女が光輔の隣にいた大地に向かってダッシュしてきている。
ーーあれ? 止まる気配なくね?
 と思った瞬間、少女は大地に飛びかかった。
 当然小学生では受け止められるわけもなく二人揃って芝生に倒れ込んだ。
大地「いだっ! な、何するんだよ飛鳥!」
飛鳥「へへーん」
ーー落ち着け…落ち着くんだ、俺。抑えろぉ……抑え……
光輔「こんのリア充があぁぁ!!」
 抑えられなかったようである。

その後なんとか光輔を落ち着けた後に飛鳥と別れ光輔たちは三人でベンチに向かった。

監督「集まったかい? それじゃあ早速今日対戦する夢ヶ丘ベースボールクラブのオーダーを発表するよ」

1番中 永城
  ………
5番捕 清水
  ………
7番投 筑波
  ………
監督「これでいこうと思うからね。それと柏木君も代打起用するかもしれないからね。それじゃあ……みんな! 絶対に勝とうね!!」
全員「オオォ!!」
運命の試合が始まった。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/06 17:58 No. 41
      
一回の表夢ヶ丘ベースボールクラブの攻撃

大地はマウンドでボールの感触を確かめていた。
 大地はまだこのチームにはいって二ヶ月だがエースナンバーを背負っている。理由としてはチームにろくな投手が居なかったからだが……。しかし大地は自分は兄には遠く及ばずとも多少は才能があると思っている。
ーーさて……今日は飛鳥が来てるし格好悪いとこは見せられないな……。
 プレイボール!!

 主審の声がグラウンドに響いた。試合開始だ。
ーー相手の1番は俊足だったはずだよな……。でもミートはあまりよくなかったはずだから……!
 まるで大地の心を読みとったかのように拓真が外角低めのカーブを要求する。大地は頷きセットポジションから投球した。小学生とは思えないきれいなフォーム。大地は確かな手ごたえを感じた。が、大地の手から放たれたボールはあろうことかど真ん中に向かっている。打者は少し笑みを浮かべながら甘くはいったボールを見逃さずフルスイングした。インパクトの瞬間にものすごい轟音がしたかと思うとボールはあっという間にレフト方向にに消えていった。
 1-0
 先頭打者ホームランでいきなり試合が動き出した。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/06 18:29 No. 42
      
ホームランを打った打者がチームメイトとハイタッチを交わすなか大地は意気消沈していた。初球からたたき込まれたのだ。
飛鳥「だいちーー!! もっと頑張ってよねー! これで負けたら承知しないからねーー!!」
 飛鳥がフェンス越しにこちらに向かって叫んできた。瞬間あちこちから殺気に満ちた視線を感じたが今は気にしてはいられない。
ーー承知しない、か……。じゃあ負けるわけにはいかないよな…。
 大地は飛鳥に向かって笑いながら親指をたてる。任せておけ、と。すると殺気はさらに増し舌打ちまで聞こえてきた。試合終わったら大変だろうなあ…、と思いつつ拓真を見る。拓真は何も言わず頷き腰を下ろした。二番打者がバッターボックスにはいる。
 プレイ!と主審の合図とともにバッターが構える。
 拓真はまず内角のストレートを要求する。頷き投げる。
スパン!と小気味いい音がしてボールは要求通りの場所に収まった。
ストライク!
 打者は驚愕している。それもそうだろう。大地のストレートは最速で126キロもでるのだ。とても小学生の球とは思えない。今のストレートは120キロはでているだろう。しかし大地の凄さはそこだけではない。
 拓真はサインを出した。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/06 19:05 修正1回 No. 43
      
拓真が大地に要求したサインはど真ん中のカーブ。バッターはこの球で振ると拓真は確信していた。なにせど真ん中の絶好球だ。
 大地は頷き投げる。
 案の定バッターは真ん中に変化してくるボールにフルスイングしてきたが甘い。
 大地のカーブはキレが抜群に良い。バットはボールの上の方を強く叩きすぎてしまい投手ゴロ。
 次の三・四番は空振り三振にとり一回の表の攻撃を終えた。
 一回の裏大鳥ベースボールクラブの攻撃。

拓真「永城さん! かっ飛ばしてくださいよ!」
永城「おうよ! こっちもホームラン打って同点にしてやるよ!」
 永城さんは俊足堅守で決してホームランをバカスカ打てるタイプでは無いがここ一番と言うときには必ず打ってくれる頼れるキャプテンなのだ。
 永城さんは期待通りにセンターオーバーの二塁打を放ち無死二塁となる。そして続く二番がレフト前ヒットで無死一・三塁といきなり同点のチャンスとなるも三番は三振、四番は三飛となり二死一・三塁という場面で拓真に打順が回ってきた。
光輔「頑張ってこいよー」
と、光輔が気の抜けた応援をしてきた。
拓真「おーう。任せとけー」
と、こちらも気の抜けた声で返しバッターボックスに向かう。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/06 22:19 No. 44
      
ーーさて……どうするか……。
 考えながら拓真はバッターボックスに立ちバットを構えた。
 プレイ!
 まず相手投手は真ん中低めのストレートを投げてきた。
 ストライク!
 次の球は内角低めのストレート
 ボール!
 三球目はこれまた内角低めのストレート
 ボール!
 四球目は外角低めのストレート
 ストライィク!
ーー低めに集めてる? それにストレートしか投げてない? いや投げれないのか? なら多分次の球は……!
 投手がボールを投げる。拓真の予想したとおり内角高めのストレート。拓真は迷わずフルスイングする。先頭打者本塁打のとき以上の轟音が轟いた。
 まさに弾丸ライナー。ボールは三遊間をあっと言う間に抜けレフトのフェンスに直撃。あまりの早さに守備も反応できておらずボールがフェンスに直撃した音でようやくボールを追いかけた。
 拓真は三塁に悠々セーフ。走者一掃の三塁打でいきなり逆転に成功した。しかし六番は遊ゴロに倒れ三死でチェンジとなった。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/06 22:45 No. 45
      
三回の表夢ヶ丘ベースボールクラブの攻撃。
 大地は多分今日一番のピンチを迎えていた。
 二回の攻撃は両チームとも三者凡退に倒れたのだが三回に入り八番からの攻撃が始まったのだが大地のはなったボールが思ったところに入らず四球、さらに続く九番にも四球をあたえてしまい無死一・二塁の場面でさきほど本塁打を打たれた一番にはセンター前ヒットを打たれ無死満塁という場面になってしまったのである。
ーー無死満塁……、長打を打たれたら一気に逆転……こうなりゃ奥の手を使うしか……!
 しかし今回拓真が要求してきたのは真ん中高めのストレート。思わず首を横に振る。次に要求してきたのが内角高めのカーブ。これも横に振る。このやりとりが十回以上続き、とうとう拓真が主審にタイムをとりこちらに走り寄ってきた。
拓真「おい…! 一体何なんだ!? なにを要求すれば納得するんだ!」
大地「拓真……、奥の手を使いたいんだけど……」
拓真「駄目に決まってるだろ!? あれは今使うには早すぎる!」
大地「お願いだよ! 練習もして完璧にマスターできたんだから!」
拓真「………この打者は俺のサイン通りに投げろ…。もし打たれたら奥の手でも何でも受け止めてやる」

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/06 23:02 No. 46
      
 言うと拓真は守備位置に戻っていった。
 どのみち抑えなければ失点するのだからここは拓真の意見を呑むことにした。これで抑えても奥の手で抑えても要は失点さえしなければいいのだ。
 拓真が主審に謝る素振りを見せ腰をおろした。
 プレイ!
 拓真が要求してきたのは真ん中高めのストレート。大地は頷き投げた。
 ストライィク!
 次のサインはど真ん中のカーブ。
ーー待て、それはまずくないか? 同じ打者に二度も同じことが通用するか?
 思わず首を横に振りそうになるがなんとか堪える。
 大地は頷き要望通りの場所に投げた。
 カキィィン!
 ボールはセンター前に落ち打者二人が生還。逆転されてしまった。またも失点してしまったわけだがこれで奥の手を使うことができる。
 拓真は一度胸をバン!と叩きどこにでもこい、と言った雰囲気でミットを構えた。
 これからは一本のヒットも許されないのだがこれから三死をとるにはクリーンナップをアウトにしなければならない。
ーーでもいける! 奥の手さえ使えば!
 三番がバッターボックスに入り構えた。
 プレイ!
 大地はボールを投げる。
 大地は第一球目から奥の手を使った。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/07 08:38 No. 47
      
 大地が投じたボールは通常のカーブ……では無かった。ボールは通常のカーブより変化がかなり大きくさらに鋭く曲がっている。
 ナックルカーブである。
 これが大地の奥の手……の一つである。
 ストライク! バッターアウト!!
 相手打者は大地の投げるカーブに全く反応できずに三者連続三振を喫した。
 掠られることすらなかったのにはさすがに驚いたがそれは当然なのかもしれない。ナックルカーブを小学生が投げるなど聞いたことがない。それどころか日本球界で投げられる選手すらいないと言われ、ナックルカーブが活躍しているのは海の向こうのメジャーリーグだからだ。
 相手ベンチはすっかり意気消沈と言った感じだ。それとは逆にこちらのベンチは逆転こそされたものの、大地の奥の手でクリーンナップを三者連続三振にしたことで明らかにムードが明るい。

 三回の裏大鳥ベースボールクラブの攻撃
大地「頑張れ永城さーーん!」
 一番永城さんからの攻撃だったが……。
永城「すまんかった……!」
 永城さんはヒットで出塁こそしたものの盗塁が失敗してしまいアウトになってしまったのだ。
大地「大丈夫ですよ! 俺がもう絶対に得点させないですから!」

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/08 15:22 No. 48
      
 奪三振ショー。
 まさにその言葉通りのことがマウンドでおきていた。
 試合は三回以降はランナーこそでるものの得点まではいかずスコアは0の文字が続いていた。しかもランナーがでたのは全てこちらのチームで相手は大地の投げるボールに掠ることすら叶わずに次々と三振に倒れていった。のだが……。

七回の表夢ヶ丘ベースボールクラブの攻撃。
 とうとう相手チームから快音が聞こえた。
ーーまずいな……
 拓真はミットを構えながら考えていた。
 現在の状況は二死一塁なのだが…
ーー大地の息がかなりあがってるな……。しかも徐々に変化球のキレが落ちてきてタイミングを合わせられてる……。
 マウンド上の大地はすでに肩で息をしており疲労がピークに達しているのは明らかだ。しかもこの回になってボール球が増えバットにも当てられてきた。
ーーだから駄目だと言ったんだが……、明らかなスタミナ不足だな……。ここからは出来るだけナックルカーブは控えさせなきゃな……。
 思い拓真は外角低めのストレートを要求する。このコースなら打ち取ることができるし長打も出にくいだろうと思ったからだ。
 大地は頷き少し乱れたフォームで投じる。
 刹那
 快音が響いた

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/10 22:17 No. 49
      
拓真「センタアァァ!!」
 拓真はマスクを取り叫んだ。
 ボールはセンターオーバー確実。いや、フェンス直撃もありうる弾道だ。
 取れない。
 本能的にそう思った拓真は思わずマスクを地面に叩きつけた。
永城「うおぉぉぉ!!」
 永城さんは全力でボールを追いかけている。諦めていない。しかしボールはすでにフェンス前に落ちそうである。取るのは不可能である。
永城「うおおぉぉぉ!!」
 永城さんが飛んだ。しかし永城さんはフェンスに頭から直撃してしまい倒れてしまう。捕球が出来たか否かはまだ分からない。
永城「………!!!」
 永城さんが無言で左手を突き上げた。そのミットの中には確かに白球が収まっていた。
 アウトォォ!!!
拓真「うおぉぉぉ!!」
大地「は…はは……」
光輔「永城さんかっけええぇぇ!!」
ーーほんとに凄い人だな…永城さん!!
 失点は防いだ。あとは最終回で逆転するだけである。
拓真「永城さーん? 交代ですよー」
 永城さんが倒れたまま動かない。血の気が引いていく。今、顔をみたら拓真はきっと真っ青なのだろう。
拓真「永城さん!?」
 拓真はセンターに駆け出した。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/11 11:27 No. 50
      
キャプテン永城さんの負傷交代。プレー続行は不可能とみられ病院に連れていかれた。
 しかし病院に連れていかれる直前に光輔に言った言葉。
永城「あとは任せたからな!」
ーー任せるって何を?
監督「柏木君ちょっといいかな?」
光輔「なんすか監督?」
監督「永城君が途中交代になったから七回の裏から、と言っても最終回なんだけど。とにかく七回の裏から君を出すことにしたからね。ちゃんとバットを振っとくんだよ? 話はそれだけだから」
ーーえ……俺が一番打者? まだろくにボールを打つことも出来ないのに?
 待て、落ち着くんだ、と言った感じで状況を整理する。
 七回の裏の攻撃は六番からだ。もしこの内の二人がヒットを打った場合はゲッツーでも取られない限り確実に光輔に打順が回ってくる。
ーーやばくねえか…? いやいや! 誰かがホームランを打ってくれれば!
拓真「おい光輔! お前もこっちに来い!」
 見るとそこにはチームメイトたちが円陣を組んでいる。これに混ざれ、と言うことだろう。
 光輔は拓真と大地の間に入り肩を組む。
拓真「みんないいか! この試合、永城さんのためにも絶対に勝つぞ!!」
 オオゥ!!!
 最後の攻撃が始まった。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/11 16:46 No. 51
      
ーーどうしてこんなことになったんだろう……。
 七回の裏二死二・三塁。
ーー1打サヨナラのチャンスかあ……気が重いなあ……。
 などと言った逃避的な思考を巡らせていても周りから聞こえる声援は消えない。むしろどんどん音量が上がっているようにも聞こえる。
「頼んだぞ」
 の言葉が。
ーー別に俺に頼らなくてもいいじゃないか…。なんでこんなときに永城さんがいないんだよ!
 もちろん永城さんに非はない。むしろあの負傷は名誉の負傷とも呼べるだろう。
 プレイ!
 拓真から教えてもらったことは……
 相手投手が大地と比べたらあまりにも不格好なフォームでボールを投じる。
 光輔は振る。
 確かな手ごたえ。
 そして快音。
ーーこの投手は直球しか投げられない! 
 しかもいつも打とうとしている大地のボールと比べたら欠伸がでそうなほど遅い。もちろん相手が消耗しているのもあるが。
 ボールは徐々に左に切れていきファール。もう少し振るのが遅ければ確実にホームランだった。
 思わずバットで地面を殴ってしまったがそれと同時に
 いける。
 光輔は確かな自信を胸に宿し再び打席にたった。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/16 22:08 No. 52
      
思わず打席から離れる。何度かスイングしもう一度気持ちを整える。
現在の状況は二死二・三塁、2S1B。しかし既に球数は10球を越えている。
ーー球は見えてるのにタイミングがなぁ……。
 光輔は思いながら打席に立つ。
 光輔の打つ球はどうも流しすぎてしまう傾向があるようだ。しかしそれを修正しようとして早めに振ると今度は引っ張りすぎてしまう。どうも丁度良いタイミングに振ることが出来ずに6球連続ファールをしてしまった。
ーーどれもHR級のあたりだったし……、って!
 ボールが迫っていた。バットを振るが間に合わない、と思ったが辛うじてバッドが掠ったようで鈍い金属音が鳴り、
 ファーール
 サードの左側を転がっていった。
ーー危ねえ!! もう少し遅かったら確実に三振だった……!
 体中から変な汗が出てきている。ヌメヌメして気持ちが悪い。早く終わらせたいという気持ちが余計にバットを振るタイミングを早める。
 19球目、2S2B
 相手投手が投じたボールはど真ん中。もらった。光輔は迷うことなく全体重をかけフルスイングした。
 まるで爆弾が爆発したような音がしたかと思うとボールは既にセンターの遙か頭上を越えていた。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/18 21:14 No. 53
      
ーーあれ? あれってもしかして……
 ボールはセンターの遙か頭上にあり確実にホームランかと思われたが……
 アウトォォ!
 ボールはセンターのグラブの中に収まっていた。
 ゲームセット!


 ありがとうございましたー!
 ありがとうございましたー……。
 この挨拶を聞くだけでどちらが勝者か敗者かはハッキリと分かるだろう。

光輔「俺は俺なりに頑張ったんだよう……あれは風がぁ……風が悪いんだよう……」
 必死に言うが監督すらも笑いながらからかってくる。
監督「うんうん、柏木君は頑張ったよね。あれは神風が吹いたんだから仕方がないよね」
拓真「監督監督! 神風ってこっちじゃなくて相手が使うべきでしょ!」
 周りが和やかな笑いに包まれるが光輔は全く和まない。なにせその「神風」の一番の被害者なのだから。
監督「それじゃあ僕は永城君の様子を見に病院に行くから解散ね。明日の練習は9時からだから遅れないようにね」


〜試合の帰り道〜
大地「ごめんよ光輔……。僕が三点も取られ……うおぉ!?」
 申し訳なさそうに喋る大地に何者かが背後から抱きついた。
?「だぁぁいち!! お疲れー!!」

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/20 14:04 No. 54
      
大地「飛鳥!? 帰ったんじゃなかったのか!?」
 大地が限界まで首を回し抱きついた張本人に問いかける。
飛鳥「今日頑張った大地を置いて先に帰るわけないじゃーん!」
 頑張った、という単語を聞き大地にまとっていた負のオーラが数段アップした気がする。
大地「僕は……頑張ってなんかないよ……。僕のせいでチームが負けたんだから……」
 それを聞き思わず反論してしまう。
光輔「そんなことねえよ! お前は何にも悪くない! 悪いのはあの場面で打てなかった俺なんだよ!」
飛鳥「そうだよ大地! 悪いのは全部この豚野郎のせいなんだからね! だから大地は何にも悪くないよ!」
ーーこちらに指を指して言っているってことはもしかして……俺が豚野郎?
 などと考えていると今まで大地の隣にいたはずの飛鳥が俺から10mほど離れたところでクラウチングスタートの姿勢をとっており……
飛鳥「聞いているんですか!? こんの豚やろぉぉぉ!!」
 腹に飛び蹴りをおみまいされた。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:nahato日時: 2013/04/21 17:34 No. 55
      
光輔は今、見渡す限りの草原n…(ry

光輔「あれ!? 三度目だからって人が生死の境にさまよってるのに扱いひどくね!?」
作者「うっさいw さっさと蘇生して物語の続きをしやがれ」
光輔「やっぱ扱いひどくね!? まあ……あんたがそう言う……」
作者「はい、再開!!」
ーーやっぱ扱いひでえ……。


光輔「……ん…う……ん……」
ーーあれ? さっきのって夢?
 重い瞼を少しばかり開けると夕日が眩しすぎてすぐに目を閉じてしまう。しかしすぐに聞き慣れた友人の声とともに体を揺さぶられる。
大地「あ! 光輔が目を覚ましたよ! ねえ光輔! 大丈夫!?」
 大地だな……と思い体を起こそうとするが体のあちこちが痛む。特に腹が。
拓真「おい大地、ちょっと代われ。こういうのは力ずくが一番効果的なんだぜ? まあ見てな」
 力ずく? やばくね? などと思い、
ーーあいつの力ずくはやばくね!?
 という結論にたどり着いたのだが。
 再び腹にものすごい衝撃が襲い、また意識が遠のいた。意識が無くなる直前に光輔はこう思った。
ーーもっとちゃんとした友達を作るんだった……。

個別記事閲覧 Re: 本気の実力 名前:れのん日時: 2013/04/24 02:52 修正1回 No. 56
      
あの出来事から一年……は経っておらず一時間後に目を覚ましたときに光輔は家のベットに横たわっていた。母が言うには、なんでもあの忌々しい三人が家まで担いできてくれたそうだ。特に感謝もしていないが。
 時計の針は17時4分を指している。リビングからテレビの音が聞こえる。きっと姉がニュースでも観ているのだろう。
 ひどく腹が痛む。腹筋に少し力を入れると指すような痛みが走る。思わずうめき声を漏らす。
「湿布でも貼っといたら治るだろ……」
 重い体を引きずるようにして部屋からリビングに向かう。はっきり言ってドアノブを回すことすら一種の試練のように感じられる。
 やっとこさリビングのドアを開けるとやはり姉はテレビを食い入るように観ていた。
「ててて……姉ちゃんなに観てんの?」
 どうやらこちらが声をかけるまでこちらの存在に気づいていなかったようで一瞬肩がぴくりと動いた。
「ああ……なんだ光輔か。ビックリさせないでよね……。もう寝てなくて大丈夫なの?」
 姉はまだ中学生のはずなのだがやけに言動が大人っぽい。いや、正確には身体の方も中学生とは思えないほど大人びているのだが。
ーーなんでこんな美人なのに彼氏がいないのかなぁ……

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/04/27 18:32 No. 57
      
すると姉は不意に立ち上がりこちらに向かって歩いてくる。そして膝を曲げこちらの顔をのぞき込む形になり顔を近づけてくる。もう少しでお互いのおでこが当たる距離まで顔を近づけると
「…………」
「…………」
 こちらの顔をひたすら見つめてきた。
ーーな、なんかすげえ気まずくねぇ!?
 この状態が1分ほど続きあまりの気まずさに耐えかねた光輔は目を逸らし口を開いた。
「な、なんだよ姉ちゃん……ずっとこっち見てさ……」
 すると姉はいつもの微笑を顔に浮かべこちらの頭を叩きながら
「何で私に彼氏居ないか不思議に思ってた?」
「は、はぁ!? な、なんでわか……あ……」
 うっかりと言うべきかあっさりと姉の誘導尋問にはまってしまった。こうなったら正直に話すまで離してはくれないだろう。今、頭に乗せている華奢な手がどれほど恐ろしいものかを光輔はイヤと言うほど知っていたので白状することにした。
「だ、だってそうだろ? 姉ちゃんってほかの女子に比べたら桁が違うぐらいかわいいし……。そ、その……スタイルもいいし……」
 最後のところは必死に声を小さくしたつもりだったが姉には聞こえたらしく一度苦笑された。
「そんなことない……けどね」

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/04/27 18:49 修正2回 No. 58
      
「まあでも、確かに毎日靴箱にラブレター入ってたり、なぜか男子からチョコもらったり、学校行くとき男子が鞄持ってくれたりはするけどね」
ーーも、モテモテじゃねえか……。
 謎の敗北感に襲われたがすぐに姉が口を開き
「でも私は彼氏を作らない理由があるからね」
 理由なんてのはもちろん初めて聞いた。そもそもこんなにモテていることすら初めって知ったぐらいだ。
 一つだけ異変があった。
 姉の顔から微笑が消えていた。悲しげな雰囲気を漂わせており、どこか遠くを見るような目をしている。こんな顔の姉を見るのは生まれて初めてだ。直感で聞いてはいけない、と悟った。しかし口が勝手に動きだし
「な……んで……なの?」
 聞いてしまった。開けてはいけない宝箱を開けてしまった気分になる。しかし姉はただ何も言わずにこちらを凝視している。まるで何かを試すかのように。そしてようやく姉の口から言葉が発せられた。
「教えてほしい?」
「え……? い、いいの?」
 意外だった。目を丸くしてしまう。姉にはいつもの微笑が浮かんでいるように見えたが光輔には分かった。いつもの微笑とは明らかに違うことを。涙も流れてはいなかったが確実に
 姉の目は泣いていた。

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/04/28 15:17 No. 59
      
「………うん。教えてほしい」
 姉の表情から再び微笑が消えた、がすぐに小悪魔めいた笑みを浮かべながら
「絶対教えてあげないよーーだ」
ーーじ、じゃあなんで聞いたんだぁぁぁ!!
「そんなの決まってんじゃん。光輔の反応がおもしろそうだったから」
「も、弄ばれたのか……弄ばれたのか俺は!? って! なんで読めたの!? ……あ」
「なんでって……。あんた普通に声出して言ってたじゃん」
 姉の口から笑みがこぼれる。ようやくいつもの姉に戻ったようだ。先ほどまで感じていた哀愁感は全く感じられない。
「代わりにいいこと教えてあげる!」
 不意に姉が立ち上がりソファにドカッと座り込み自分の右側をチョンチョンと指さす。つまりは私の隣に座れ……座らなかったらお仕置きよ♪……という意味だろう。お仕置きは勘弁!!と思いすぐさま立ち上がり姉の隣に座る。
「んじゃあ、いいこと教えてあげるね」
 姉はなぜかこちらの肩に腕を回し自分の方に引き寄せる。こちらを向いてニヒヒ、と笑ってから口を開いた

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/04/29 09:18 No. 60
      
「あんたってさ……好きな人いる?」
 穏やかな口調で喋りだした姉は質問を投げかけてきた。
「いない……けど」
「んじゃあ親友は? 絶対に失いたくない親友」
 親友か……少し考えるがどうしてもある二人の顔がこびりついて離れない。
「いる……二人」
「拓くんと大ちゃんか……よろしい」
 アッサリバレてるなー……などと耽っていると
「じゃあその二人の内どちらか一人を失うことになったらどっちを取る?」
 この質問は卑怯だ。どんなに憎らしくてもあの二人の内どちらか一人を選べなんてとても自分には出来ないことだ。
「選べない。だから俺はもしその選択を迫られても二人ともと一緒にいられる方法を全力で探す」
 これが今の自分の精一杯の答えだ。はっきり言ってこれ以上の言葉が見つからない。すると姉はクスッと笑みをこぼしながら言った。
「あんたにしてはいい答えだね。でもさ……どんな人ともいずれ別れは来るんだよ……。どんなに抗っても絶対に逃げることは出来ないし、絶対に打ち勝つことも出来ないってことを……」
 いくらバカな光輔にもこの言葉の意味は容易に分かる。つまり姉は死について語っているのだ。

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/04/29 09:30 No. 61
      
「でもね!」
 さっきとはうって変わって明るい声で喋りだした姉はソファから立ち上がり窓を開けベランダに出た。光輔も何となくその後についていき再び姉の横に並んだ。
「でも…ね! もしその人がこの大空の下にいるなら! その人を忘れないであげて欲しいの……。だってこの無限に続いている空の下でその人も光輔のことを思っているはずだから。どんなにその人と辛いことがあって、その人との間に亀裂ができても! その人は心の奥底では自分のことを思っているってことを忘れないで! その人も光輔が見ている空を見ているってことを忘れないで! この空に制限なんてないんだから……」

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/04/30 00:17 No. 62
      
「この空に制限なんて無い……ね」
 試合中にこんなことを考えるなんてなんとものんきなもんだ、と思う。それも六年の卒業試合に。
 この言葉を聞いたのはもう一年も前のことだが今でもその時の姉の声はいっさいのノイズもなく鮮明に覚えている。
 そろそろ気持ちを切り替えなければ、と思いバットを二度、三度振る。
 今日の俺の成績は三打数二安打一打点。なかなか好調だ。スコアボードにはそれぞれのチームの点数が書き込んであり、相手のチームには0の文字が続いている。大地がノーノーをやらかしそうな勢いだ。逆にこちらには合計して3点が入っている。内一点は俺、二点は拓真のツーベースで入ったものだ。そしていまは七回の表、こちらの攻撃だ。打席には四番の拓真が相手投手を睨みつけている。
「あの眼は犯罪者の眼だよなぁ」
 うっかり本音がこぼれたがベンチにいる全員がうんうんと頷いている。おまいらはホントにチームメイトか? と笑い付きで疑問したがもちろん誰も応じない。
 乾いた打撃音が響いた。
「おいおい……マジかよ……」
 打球はライトの遙か彼方へ消えていた。
「きもいなぁ……」
 再びベンチ全員が頷く。
ーーこいつらってチームメイトだよな?

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/05/02 18:51 No. 63
      
拓真に手荒い祝福をした後にヘルメットとバットを持ちネクストバッターサークルに向かう。五番は同学年の佐治、そこそこのパワーがあるのだがミートは止まっているボールを打つのがやっとのレベルの典型的な当たれば飛ぶバッターである。
 結果は期待を裏切らない見事な空振り三振。しかし当の本人はさして落ち込む様子もなく笑いながらベンチに戻っていった。「全く……」と呟き、すれ違いざまに背中を思い切り叩く。佐治は恨めしげにこちらを睨んでからベンチに戻っていった。
 「さて……と一発放り込みますか……」
 この一年で光輔は野球が劇的に上達した。もとから才能があったのもそうだろうがなによりの理由は勉強を捨てて野球に打ち込んだからだろう。そのおかげで光輔の成績は違う意味で劇的な変化を遂げてしまった。ハッキリ言って「もう戻れねえ」と言うのが正直な本音だ。

 光輔は後にこの行動についてこう語る。
「やめとけばよかったのにねぇ……。マジで精神科医に行った方がいいですよね。ハハハ!」

 光輔は左手でバットを持ち上げバックスクリーンにバットの先端を向ける。
 ホームラン予告である。

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/05/03 19:12 No. 64
      
相手投手の眼に再び闘志が宿ったのを光輔は如実に感じ取った。相手はなめるなといった感じでこちらを睨みつける。俺は一度ニヤリと笑みを浮かべバットを構える。
ーーなんだその挑発的な目は……? その目を一瞬で絶望の色に変えてやるぜ!
 相手投手からボールがリリースされる。決して速い球でもなく打てない球でもないが……、恥ずかしいほど大きな空気を切る音をたて空振りした。
 途端に相手選手がゲラゲラと笑い出す。あまりにも見事な空振りだった。しかも味方からも笑われていることを感じる。
「くっそぉぉお!! お前らいまに見てろよ!? 俺の特大アーチに腰抜かすんじゃねえぞ!?」


「…………。もういいよぅ……。調子乗って悪かったよう……」
 あの後光輔は佐治と同じ道を辿った。いや、これは佐治よりダサい。予告ホームランかましときながら、空振りの三振。ボールに掠ることすら出来なかったのだから(笑)

「てんめクソ作者! なに(笑)つけてんだよ!?」
 ノリです(笑)

 試合にこそ勝利はしたが光輔にとってはなんとも後味の悪い試合になってしまった。
 今回のヒーローはなんといっても大地だろう。まさかのノーノーをやらかしました、はい。

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん@pcから久々の更新日時: 2013/05/18 17:16 No. 65
      
ーーこの状況から脱する術を誰か教えてくれないか?
 光輔は教室で両手をついて倒れている。ここまではいい、しかしまずいのはここか

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん@pcから久々の更新日時: 2013/06/09 13:30 No. 66
      

――この状況から脱する術を誰か教えてくれないか?
 光輔は教室で両手をついて倒れている。ここまではいい。しかしまずいのはここからだ。
 今の俺の姿勢は簡単に言うなら四つん這いだ。なので俺と床との間には多少の間があり、人一人が仰向け、又はうつ伏せで入れるぐらいの隙間もある。 もう分りました? 分かったよな? 分からない? 分かれよな!!
 ならば簡潔に言おう。俺は今、少女に覆い被さるようにして四つん這いで倒れていて、(ここからは常時変態主人公光輔の妄想です)  少女が涙目で「優しく…してね?」なんて言ってくれる、どこぞのエ○ゲーさながらのシチュエーションと同じ状況に立たされているのである。
 しかし覆い被さっている相手が最悪だ。なにせその相手はリア充大地の恋人の飛鳥なのだから。
「早くその腐った体を退けてください、この豚野郎…」
 どことなくいつものオラオラ感が感じられないような…。なにやら頬も紅い気もするし…。
「は、早くその体を退けろと言っているでしょう!!」
「お、おい! いきなり動くと…うお!」
 飛鳥が急に動いたせいか、俺が早く退かなかったせいか、俺はバランスを崩し完璧に飛鳥に倒れこみ、飛鳥は俺を受けとめようとしたのか、なぜか俺の背中に手をまわして抱きしめる形になっている。
――今この状況見られたら確実に俺が襲いかかったみたいに見られるんだろうなぁ…。畜生! なんだこの良い匂いは! めちゃくちゃいい匂いじゃねえか!! お前はお前で恥ずかしげに顔を逸らすんじゃねえ!!
 不意に背後で何かを落とす音が聞こえた。反射的に顔を向けるとそこには口をぽっかりとあけ、信じられないというような、眼でこちらを見つめている。
「だい…ち…。違うんだ…。これには訳が…」
 ここまで言ったところで大地が狂ったように笑い出した。
「違うって何が? この状況のどこをどう見たら違うって言えるんだよ!!!!」
 大地はこちらまで大股で近づいてきて俺を飛鳥から引き剥がした。大地は俺を床にたたきつけそのまま馬乗りになり俺を殴り始めた。
 俺は特になにも抵抗せずただ当然のように大地の拳を受け止めていた。
 大地は相変わらず笑いながら俺を殴り続ける。
 飛鳥は泣きながら大地を引き剥がそうとしている。
 俺はただ思っていた。
――俺はとんでもない大馬鹿野郎だ……

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/06/29 15:18 修正1回 No. 67
      
暴力魔、不良、最低の男…、あの日から大地にそんなレッテルが貼られた。
 あの後、飛鳥が泣きじゃくりながらクラブの監督を連れてきた。監督は教室の光景を見たとたんに大地を俺から引き剥がした。
 あの時の光景だけ見れば、大地が無抵抗の俺に殴りかかっているように見えたのだろう。
 しかし実際は違う。俺が悪かったんだ…。
――俺が…俺…が…悪かった……んだ…俺が…俺が…!!!
「…俺が……」
「どうしたの? 光輔君、顔色悪いよ?」
あれ以来、俺は拓真に殴られた悲劇の人扱いだ。
 同情か興味本意か、今まで喋ったこともなかった奴が俺の周りに集まってきた。正直めんどくさいし、大地は何も悪くないのに目の前で悪口を言われても腹が立つ。
「何回も言うけど、大地は何にも悪くないんだよ? だから俺なんかに構わず、大地と仲良くしてあげてよ」
 今、自分が出来る最大限の笑みを無理やり顔に張り付けて言ったのだが、前にいる女子は
「またそれ? 無理しなくてもいいよ? どうせあいつになにか言われてるんでしょ?」
――お前に何が分かる!? 何も知らなくせして、好き勝手言いやがって!!
 しかし、こんなことを言っても相手には何も通じないだろう。
 大地はあれ以来、1度学校に来て以降、2週間学校を休み続けている。
――今日も行かなきゃ…。

 ようやく今日の学校が終わった。最近は無駄に学校が長く感じるし授業も頭に入ってこない。
――飛鳥にもきちんと謝らなきゃな……
 机を拭き終わった雑巾を洗いに手洗い場に行こうとすると、
「飛鳥?」
 そこにはどこか暗い雰囲気を漂わせている飛鳥がいる。
「少し付き合ってもらいますので、掃除が終わったら、裏門のベンチに来なさい。来なかったら、タダじゃおきませんよ」
 それじゃあ、と言い踵を返されてしまう。
――あれ? 俺が行くこと決定事項?
 久しぶりに苦笑が口からこぼれた。
「行かなきゃな…謝らなきゃ……な」

「んで、なんで俺まで付いていくことになってんだ?」
「い、いやさ、もしかしたら、飛鳥の奴が俺を引っ叩くために呼び出したかもしれないじゃん? そしたらさ、そこで拓真が飛鳥をババーン、と」
「お前は人間のクズか。そもそも、俺は無害な奴に手は挙げん」
「え? 俺はよくぶたれてる気が…」
「俺にとっては十分有害だ」
――ここで膝をついてしまった俺は、負け組なのか!?
「まあ、当たって砕けてこいよ。…骨は拾ってやるから」
「なんで死ぬ前提だよ!!!」
「いいからいいから、行ってこいよ」
「おう…!」

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/08/08 15:12 No. 68
      
飛鳥は既にベンチの前で待機していた。なにやら飛鳥の周りから不可視のオーラが見えている気がするのは俺だけなのだろうか。一言ですますなら「なんか近寄りがたい」である。
ーー俺の本能が言っている…! いま近づくのは危険だと……!
 30秒ほど木のかげからチラチラ飛鳥を見ていると不意に
「いい加減出てきたらどうです? さっきから視線がキモイんですけど」
ーー痛あぁ!! キモイが想像以上に堪えたんですけど!!
「や、やあ」
 観念した俺に出来たのは引き吊った笑みを浮かべることだけだった。

「………」
「………」
「………」
 ・・・・・・・
 二人してベンチに座ったのはいいものの、あれ以来口すら聞いていなかった二人に……と言うより普段から顔をあわすと言い合いになっていた二人に話題など生まれるわけもなかった。そもそもなんでここにいるのかも分からなくなってきている。
ーーあれ? 俺ってなにしにここに来たんだっけ?
 ・・・・・・・
ーー痛あ! 沈黙痛あ!
 ・・・・・・・
ーーこ、これならビンタされた方がマシだったんじゃないか?
 ・・・・・・・
「私から話していいんですね」
 沈黙を破ったのは飛鳥の凛と響いた声だった

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/08/11 00:29 No. 69
      
「まず言います。これ以降大地に会おうとするのはやめてください」
 半秒ほどかけてようやく意味を理解した。しかしなぜ? この疑問が浮かぶ。
「なんでだよ……? おれはただ大地に謝ろうと……」
「それが大地を苦しめているということをあなたはまだ理解していないんですか!?」
 飛んできたのはこれまで聞いたことのない飛鳥の声……いや、叫びだった。怒りに満ちた声。その中には悲しみの色も感じられた。
「あなたはいつもそうだ! 自分の中で正当化したものを相手に押しつける! それが相手を傷つけることがあるとも知らずに! それがどれだけ苦痛かも知らずに!!」
「ちが……俺はそんなつもりじゃ……」
「じゃあどういうつもりですか!? その行いが自分への償いとでも言うんですか!? そんなものは償いなんかじゃない!! 自分への甘えって言うんだ!!!」
「そ……んな……」
「それにそんなことで大地の傷を癒せるなら大地はとっくにあなたの前に顔を出しているはずだ!! あなたが!! お前が大地の傷を広げているんだ!!」
 飛鳥の目には涙が溢れんばかりに溜まっていた。既に数滴の涙が飛鳥の頬を伝ったあとがある。

ほい。続く。

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:黷ん日時: 2013/08/11 00:45 No. 70
      
ーーおれはこんなに二人を……いや、みんなを傷つけてたのか? おれがやってきたことは全部間違いだったのか?
 とうとう飛鳥の目に溜まっていた涙が溢れ、止まらなくなった。俺も心のどこかが痛み涙が溢れだした。堪えようともせず、ただ泣いた。
「あなたは……おおバカ…野郎です……」
 そんな声が聞こえた。前によく聞いた飛鳥の声だった。泣いていたせいか詰まってはいたが穏やかな声だった。
 どれだけ泣いたか分からない。しかし気づいたら二人とも泣きやみ、再び沈黙が続いていた。
「ごめん…。ホントにごめん……」
 自然と口から出た言葉は驚くほど小さかったが飛鳥は聞き逃さなかったようで一度にっこりと笑い
「いいんですよ……。私も感情的になってしまい、つい本音が……」
「はは…。なかなかキツイ本音だったけどね…」
「でも光輔は光輔のままでいてください…。時にその性格が人を助けることもありますから」
「うん、分かった。とは言いにくいなぁ…。あんなこと言われた後だし…」
「だからそれは謝ってるじゃないですか…」
 そこで久しぶりに朗らかな笑いが二人からこぼれた。

ほい。再び続く。

個別記事閲覧 Re: THE SKY IS THE LIMIT  名前:れのん日時: 2013/08/11 01:03 No. 71
      
「……大地のご両親はいまの大地の学校での状況をあまり好ましく思ってないみたいです……」
 そんな言葉が三度、訪れていた沈黙を破った。
「そりゃあ…そうだよね……。誤解とは言えあんな状況じゃ親も黙ってないか…」
 一度貼られたレッテルをはがすのがそう簡単ではないことは光輔でも容易に想像ができた。それに、もうじき四人は中学生である。このままではいまの待遇が中学でも続くかもしれない。
「だから大地のご両親は本格的に転校を考えているらしくて…」
「大地のお兄さんが通ってる中学らしいです」
 大地の兄のことはよく知らない。通ってる学校の名前もよく知らないが全寮制で野球の超名門ということだけは知っている。
「そんな…! 事実を言えば納得してもらえるんじゃ!」
「あなたを殴ったという事実はどうやっても消せないと私は思います…。それに今の大地にはこれがベストかと思いますし…」
「そんな…!」
 思考が回らない。
 世界が回りだした。
 視界が点滅する。
 手足の感覚がなくなった。
 次の瞬間
 世界が暗転した

第二話END