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『――――――ピンチヒッター、七瀬。背番号――24』 ウグイス嬢が僕の名をコールすると、ライト側から耳をつんざくような大歓声が起こる。流石はファンが日本一熱狂的な京阪ロビンスと言ったところか。 ウェイティングサークルからゆっくりと左のバッターボックスに向かうと、僕はメットを少し押さえてマウンドを一瞥する。 ……今日の敵、東都ソルジャースの中江さんは右のリリーバーで3年目。速球で押していくタイプで、ゆくゆくは先発で売り出していきたい選手だろう。8回の裏ワンナウト2,3塁の場面を任されていることから首脳陣の彼への期待の大きさがうかがえる。 だが―――― 期待されているのは僕、七瀬雄大だって同じことだ。 高卒ドラフト1位でロビンスに入団してまだ1年目ながら、1点ビハインドのこのチャンスで代打に起用されている。 いつこの期待に答えるのか? ――――今でしょ! 「プレイ!」 主審が大きな声でそう叫ぶと、僕の心の中でスイッチが入る。 ソルジャースの捕手の坂田さんが僕を見上げたが、顔を強張らせてサインを出し始めた。 『こいつは油断ならない』とでも感じてくれたなら嬉しいんだけど。まあいいや。 中江さんがセットポジションから、1球目を投じてくる。 最初からガンガン振って行くタイプではない僕は、ファーストストライクが入るまで見るに徹することにした。 「ストライク!」 3球目になって、ようやくファーストストライク。今のところ球種はストレートとカウントを稼ぐ曲りの小さなスライダーの2つだけしか投げていない。 ツーボール、ワンストライクのバッティングカウントで、次に外してしまえばスリーボールになってしまうし、逸らすわけにはいかないから、大きな変化球は投げづらい筈だ。 加えて中江さんは前述したとおり、速球派の投手。 坂田さんのサインに2度ほど首を振る彼が投げたがる球種…… 中江さんが投じた今までで1番力のこもったボールは、やはり。 ――――ストレートだった。 待ってました。 内角よりの真ん中に入って来たストレートを躊躇いなくフルスイングして、引っ張った。 その刹那、スタンド全体からどよめきが起こる。僕が放った打球はぐんぐんと伸びて―――― ロビンスファンで埋め尽くされたライトスタンドに、呑みこまれていった。
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