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「またおまえの所為だぞ!」レギュラー捕手の阿南(あなみ)、俺の胸ぐらを掴んだ。 そして俺の目に映る山の先まで届くのではないかと思われるほどの声で怒鳴った。 「また一人相撲とりやがって! だからてめえは嫌いなんだよ! 頼むからいい加減俺たちの目の前から消えてくれよ。おまえさえいなけりゃ俺たちはもっと勝てるんだよ。……理事長の孫だからって特別扱いされて…どんな手抜きも許されてる。ふざけんな! こんなスコアボード何回目だよ! 5、6、7回で失点8オーバーの試合は!」 阿南はスコアラーからスコアブックを取り上げると今日の試合までのスコアを俺に見せた。 確かに、崩れてない試合はほとんどないな。 「でもよく見ろよ。崩壊の最初はエラーだぜ」 俺はニヤリ笑って言った。この笑いはさらに阿南の怒りに火を注ぐ、限界が来たのか阿南が殴りかかって来た。 でも、こいつは弱い。 俺はそのパンチを避けると阿南の横腹に蹴りを入れる。阿南は地面に膝を付いた。 「なんで…おまえみたいなやつに…才能が……あって…俺には無いんだよ……!」 阿南は咳き込みながらもそう言い切った。 俺は道端のゴミを踏むかのように阿南の頭を踏んだ。 「そーだよ、おまえが俺のスライダー捕れりゃこんなことにはなんねえんだよ! 敗因はてめえだ。二度と野球すんなよ。ヘボが」 阿南の目から力がなくなった。俺は阿南のその目が非常に愉快だった。つい口元が緩んでいた。 「岩沢、言い過ぎだろ!」 ついに周りのやつらがワーワー言い出した。だけど、悪いのはそこに跪いているポンコツのヘボだ。 俺は岩沢 隆希(いわさわ りゅうき)。MAX135キロ、制球力はやや不安、スタミナは無尽蔵だ。斜めに曲がるスライダーを保持している。 「隆希、起きてよー。高校入学して二日目なのに遅刻しちゃうよー」 俺の目には見慣れた少女が目に映る。華野 玲奈(かの れな)だ。 じゃあ、さっきのは……夢か? 嫌なこと思い出したな。忘れようと思って、わざわざ両親と祖父の反対押し切って東京来たのに……思い出しちまったよ。 「玲奈、何時なの?」 俺は目を擦りながら聞いた。 「7時42分」玲奈はぶっきらぼうに答えた。って7時40分? やばくね? 遅刻する。 俺は大至急制服に着替え始めた。すると玲奈が顔を赤くして目を背けた。
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