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「楽しそうな話をしているところ悪いが」 そう強引に話を打ち切ってきたのは――二軍の打撃コーチである。 「矢部、代打のしておけ」 「は、はい!……でやんす」 お。 「やったじゃないか。矢部。……お前が代打に選ばれるなんて。やっぱりお前、代打に起用されるくらいだし、自分をたいしたことないなんていうのは、やっぱり自己分析がなってないんじゃあ……」 「嫌味でやんすか?……どーせ起用されても打てないでやんすよ」 しかしそういう矢部の顔は、どこか嬉しそうに見えた。無理もないだろう。ひさしぶりに試合に出られるんだから。 二軍は選手育成のためだけにある、とはよく聞く言い回しだが、そこで試合に出ることができないとはどういうことなのか。プロ野球の支配下選手は約70人いる。その中で一軍に上がることができるのはたったの28人だけ。そしてさらに育成選手も各チーム10人ほどいるので、二軍の公式戦で試合に出られるようになるのは一軍より難しい―――ということになる。 まぁ、ルーキーの頃は大体皆チャンスをもらえるものだが、二年目以降はだんだんそれが減ってくる。ましてや、それが4年目ともなると――― 「ピンチヒッター矢部。背番号48」 そうウグイス嬢がコールすると、矢部は何を思ってか、バッターボックスに立つ前に2,3回素振りをした。バットが風を切る音が、あたりに響き渡る。矢部は確かによく打つタイプのバッターではない。むしろ打てるか打てないかでいったら、全く打てない方である。 ……しかし、俺は知っている。矢部が実は、ホームランを打てるパワーがあるということを。
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