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うるせぇ、ちょっとは静かにしてろーー 保志陽翔(ほしはると)は願う、心の中で。 全国中学校軟式野球の決勝というだけあって、客の入りが多いのは陽翔にも容易に想像できた。 だが…… ここまで客が多いとは思わなかった。 陽翔にとっては予想外の出来事だった。 座席はすべて埋まっているのはもちろん、立ち見客も多い。 陽翔は、ギャラリー全般を毛嫌いしているのだ。 「ちょっとは落ちつけよ……」 捕手の小田切巧(おだぎりたくみ)が審判にタイムをかけ、こちらに歩み寄ってくる。 陽翔はようやく我に帰ることができた。 「そんなに俺、機嫌悪そうにしてたか?」 「おう、般若みたいになってたぞ。」巧はにやにやしている。 「プッ……」陽翔もそれを聞いて、吹き出さずにはいられなかった。 「般若ってあれか、あの、泣く子はいねぇーがーってやつか?」 「それはなまはげだよ、バーカ」 「はいはい、そうですかー」巧に学問では敵わない。適当にあしらっておくことにした。 「左腕の調子は?」巧は真顔に戻る。 「問題ないぜ。」 そう言いながらも、陽翔は今この瞬間まで、自分の利き腕が悲鳴を上げていることに気づかなかった。 だが…… 陽翔はこう思っていた。 ーー自分のチームのキャッチャーにマウンド引きずり降ろされてたまるかよ…… 事実、痛みも、違和感もなかったが、そんな事はどうでもよかった。 「あと三人、抑えようぜ。」巧はそう言って、キャッチャー・ボックスに戻って行った。 スコアは3-1、相手のパワフル中学校を一点リードしていて、この九回裏が終われば、陽翔達が所属する長曽根(ながそね)中学校の優勝が決まる。 だが、陽翔はその九回裏、相手の先頭打者にデッドボールをぶつけてしまった。 それで、小田切が歩み寄って来た訳だが、小田切が戻って行った後も、状況は好転しなかった。 その次の打者を歩かせてしまったのだ。 ストライクを一つも決めることができずに。 陽翔は間違いなく、不機嫌だった。 それこそ、顔が般若のようになっていたのかもしれない……
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