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知らない男だ。 だが、スルーするわけにもいかない。「まぁな」と陽翔は答えた。 「やっぱりな〜俺は奥居和雄(おくいかずお)って言うんだ、よろしくな。」そう言って奥居は手を差し出してきた。 「おう、よろしく。」陽翔も手を握り返した。 「いやーおいら、岐阜から引っ越してきたものだからさ〜知り合いがいないんだよ。だから、顔知っている人に徹底的に話しかけようと思ってさ〜」 「ん?お前は俺を知っているのか?」 「ああ、中学二年の時に全中で見たんだ〜保志陽翔、別名野生児、有名だぜ?」 「ってことは、お前も野球やってたのか?」 「まぁな〜受験シーズンまっ最中に親父が転勤だっていうもんだから、あまり高校選べなかったんだ〜」 そうだったのか、と陽翔は呟いた。その声には驚きが入り混じっていた。 こいつを野球部に誘おう、と陽翔は思った。 全中で見た、というのならおそらくこいつは全中でプレーしていただろう。 ベンチ外だとしても、全中に出るような中学で練習していたのだとしたら、おそらく基礎はできている。 どうやって勧誘しよう?と思っていたその時だった。 「あっそうだ、お前きをつけろよ。」何か思い出したと言わんばかりに奥居が話しかけてきた。さっきまで浮かべていた人懐っこい笑顔は消え、奥居の目は真剣だった。 どうした?と陽翔は返した。物思いに深けている間に奥居の顔が人懐っこい笑顔から真面目な顔に早変わりしている(ように見えた)ものだから、陽翔は噴き出しそうになった。 「さっきの入学式の時にお前、寝てただろ?あれでいきなり生徒会長に目つけられたら大変だぜ?」 生徒会長に目をつけられたら何かあるのだろうか? 陽翔にはいまいち話の重大さが解らなかった。 だが次の瞬間、奥居和雄はとんでもないことを口にした。 ーーここだけの話、ここの生徒会長、ここら辺を牛耳るヤクザの娘なんだぜ。だから生徒会長に目付けられないようにしろって話。目付けられたら最悪、この学校からつまみ出されるぜ…… 話の後半は、陽翔の耳にも入ってこなかった。
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