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第139話〜紅の頼み〜 12月31日、大晦日。この日も当然のごとく練習はあるが、いつもと違い17時で練習は終わりだ。 「次、紅!」 大橋は赤田の次に紅をシート打撃の投手に指名し紅は久しぶりにマウンドへと上がる。 紅は投げる前に肩を2,3回軽く回す。 11月半ば以来の久方ぶりの紅優生の投球。走りこみの効果はどこまで効果があるのだろうか。それは一緒に付き合った黒木も楽しみであろうが、それ以上に効果を確かめたいのは紅自身だ。 ゆったりと投球モーションに入り、右腕からボールを投げる。 紅から放たれたボールは糸を引くようにスーッとコースギリギリに決まる。 『こいつ…一体なんなんだ。なんなんだよぉ。』 黒木は紅の投球を見るとゾクッとする、だがそれは恐怖ではない。同じ投手としての実力の差や凄さを感じた瞬間だ。 2球目3球目とあっさりとバットが出せず先頭打者の荻野を見逃し三振に切り落とす。 『一球も打てる球が来なかった。…この前と大違いだ』 荻野は紅の投球術に驚きながら打席を後にする。 発射台が安定したことで制球力が向上し荻野のヒットコースにボールがこなかったとも言えるがそれでも見逃しの三球三振は打者としては屈辱に過ぎない。 紅は所定の打者に投球を終えると黒木に代わる。 黒木の投球を後ろから腕くみしながら見てると黒木のある球に目が留まる。 紅の目が付けたボールは左打者の荻野稲本蓮本が苦戦する。 「黒木。」 紅は投球を終えゆっくりしてる黒木に声をかける。 「紅か、ぁんだよ。なんか用でもあんのか。」 黒木は紅の顔を見ると少し嫌そうな声で紅に言う 紅は一切顔色を変えずに黒木の方を見る 「ああ、教えてほしいことがある。お前の投げる。カットボールの投げ方を教えてくれ。俺は対左対策のボールを所持してはいない。」 紅は真顔で黒木に教えを乞う。 時間が止まったかのように2人は何もしゃべらない。流れるのは時間と風だけ。 悩む悩みに悩んだ末黒木はようやく口を開く 「カットボールだろ?いいよ、教えてやんよ。」 カットボールとは黒木の投球スタイルからすれば核となるボール。 それを紅に教えるということは仲間とはいえエースを争う敵に自分の核を相手にあげるようなものだ。 それでも黒木は先ほどのゾクッとした感じを忘れられずさらに凄い紅を見たい。ただそれだけが気持ちを動かした。
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