Re: ショートショート、はじめました。 名前:ナナシ日時: 2013/02/19 21:59 修正2回 No. 2 |
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- とりあえずスレッド主として先陣を切らせていただきます。。。
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“おはなし”
ユウジはコーヒーをゆっくりすすった。渋い苦みが口の中を伝って、喉元へと一気に流れ込む。ファミレスのドリンクバーのものだが、それなりに味が深い。あっという間に頭が刺激されて、溜まった倦怠感を吹き飛ばした。そして目線をコーヒーカップから彼女へと向き直す。相変わらず口元をせわしく上下させていた。 「それでね、この後めっちゃ驚いたんだ」 つまらない。口や態度には出さないが、ユウジはイライラしていた。昨日見た夢の話をしているのだが、中々結末を言ってくれない。 まるでバラエティ番組みたいだ。終わり際にコマーシャルばかりを詰め込んで、視聴者をもてあそぶようにじらす。第一自分がそんなものに興味を示さないと分かってるはずなのに、どうしてこんなに話していられるのだろう。鬱陶しい。それでいて退屈。ふーんと言葉を漏らして、ユウジは小さく相槌を打った。 「死んだはずのお父さんが私の所にやってきたんだよ」 へぇ。そりゃすごい話だね。言葉とは裏腹に、そっけなく平坦なトーンで切り返す。そしてコーヒーを一口。苦みがもう一度広まっていく。飲みきった後、乾いた笑みで彼女に応える。もういいだろう。満足頂けただろう? もはや彼女に対する付き合いも、社交辞令のような感じで過ぎている気がする。
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Re: ショートショート、はじめました。 名前:ナナシ日時: 2013/02/19 22:03 修正5回 No. 3 |
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- 「ところで、この前の日本代表のサッカーの試合、見た?」
「えっ、見てなかったけど?」 やっと自分の話が出来る。ホッとして、思わず頬がほころんだ。彼女のつまらない話から解放されるだけで今はありがたい。彼女の話は、もう聞き飽きた。それからユウジはまくし立てるように彼女に語り始めた。 「ラトビアと試合したんだ。ラトビアってのはヨーロッパの国ね。それで先制点は岡崎のゴール。チョンとボールに触れただけだけど、彼らしい良いゴールだったよ」 「へえ」 「それで二点目はマンUの香川のパスから本田がダイレクトで押し込んだ。あの流れは綺麗だったねえ。ハイライトで何回も見たけど、本田の絶妙なタイミングで振り切った左足。すごい様になってたね。あれは凄かった。パスを出した香川との連携もバッチリで――」 「ねえ、ちょっといい?」 彼女が話の途中で口を開いた。何だよ一体。ユウジは水を差されて少しむっとしながらも、彼女のほうに耳を傾ける。 「正直言って、ユウ君の話つまらない。もう聞き飽きたわ」 彼女はばっさり言い放つと、軽い微笑みをこちらによこしてきた。しかし目は笑っていない。 突然背中から冷水をぶっかけられたような悪寒が走った。その後に続いた、おびただしく不気味な戦慄が、ユウジの体内をむしばんでいく。 急に世界が暗転したように見えて、何をすべきなのかすらも分からくなった。 自分が見えていた世界と、彼女が見えていた世界。 今まで優越感に浸っていたものが急に底冷えして、ユウジ目がけて一斉に冷ややかな光線を浴びせかけていた。 感情の一切が無いような笑みを浮かべる彼女。言葉を失う自分。 ユウジは凍りついたように、ファミレスの椅子の上で固まっていた。
おしまい。
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