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ロックされています  守護神はじめました  名前: リリカル兄貴  日時: 2015/05/18 00:52 修正25回   
      
◇あらすじ◇
リトルリーグ在籍の超スローボールを投げる、ミニマム女子クローザーの西宮奈々が織りなすドタバタ劇場な物語(現在、回想編)
「序章-抑えやってます-」
・小さな守護神
>>1-3
・アンダースロー投球
>>4-9
・コレが決め球
>>11-17
・あの約束…
>>18
「二章-投手な理由」
・あの紅白戦
>>19-21

【登場人物】紹介
>>10

●用語
1※インターミディエット………ひと試合7回制で参加出来る年齢は11歳〜13歳(※14歳)の試合形式。
※その年度内に年齢に達した場合でも出場可能。

記事修正  スレッド再開
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ロックされています   Re: 守護神はじめました 第2話  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/05/18 20:26 修正7回 No. 2    
       
ふと、これまで継投した投手が余りにも制球の酷さを思い返して確信した。
「あぁ、間違いない!」

更に、スコア係から決め手の一言が飛ぶ。
「監督そういえば、ライガースは今日先発した速球投手しか有力投手の噂を聞かないですね…公式戦記録もだ…」

このやり取りで、ファイターズベンチはこの劣勢は幻のように勝利の兆しに歓喜したが…

「お前ら、この回2番からの打順だ、うちの打線の恐ろしさ見せてこい!!」
この僅かな油断に間髪入れず鋭い眼光で監督の一声によって、ファイターズ一同の闘争心のボルテージは最高潮に達し、ベンチの空気が一変したのだった。

「…まさかのゴリラ女ってオチはないと思うけど…、これからメッタ打ちだからご愁傷様〜♪そういえば…守備変更のせいか、まだマウンドに上がってないな?」

ファイターズベンチから7回表の先頭打者、山本がバットを振り回し待ってましたとばかりに、バッターサークルへ向かった。

ライガースナインが各守備位置へ走りだしたのだったが、ふと他の選手よりも一際小柄な選手がマウンドへ小走りで駆ける。

「あのちっこいの…小学3、4年か?この試合
>>0
インターミディエット方式だよな…」

山本は、目を細めて凝視するのだった。
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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第3話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/05/20 22:39 修正1回 No. 3    
       

それもそのはずマウンドに立つ当人は、身長が130cm程度だから見間違えても当然の事だった。

久寿川ライガースの絶対たる守護神?
西宮奈々(にしのみや なな)はマウンドで怪訝な表情をして帽子を被り直した。
その容姿は、凛とした眼差しと、帽子を被るとショートカットと思わせる、手の込んだ編み込みカチューシャと、当然の如くおしゃれを気にする、11歳のお年頃女子だった。

「まあ、想像以上の可愛い女子も、度肝抜かれるが…打席の外からでも、この五郎丸って捕手の威圧感はパネェ…!!」

山本がそう思うにも彼の体格を見て意識しない者はいないだろう。
五郎丸渉(ごろうまる わたる)13歳にして170cmを超える長身で筋骨隆々の捕手がずっしりと構えているのだ。
その存在感からか、この試合ファイターズナインは本来の打撃が出来ていなかった。

「球審、投球練習はナシでお願いします。」

彼は後ろに振り返って、口数少なく球審に告げ、それに応じてゲーム再開させた。


お察しの通りで、小柄の女子投手と長身筋肉マン捕手という凸凹というか対極的なバッテリーに、ファイターズベンチも戸惑いと失笑が込み上げるのは隠せず、数少ないが観衆のざわつきが収まらない。

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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第4話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/05/21 20:49  No. 4    
       
何か球場の雰囲気いや、久寿川ライガースの空気なのか、この回はこれまでと何かが異なっていた。

「うん…?そういえばこの投手、ブルペンでも居なかった!前の回から投球練習してた形跡が無かったよな…?」

山本は不可解な疑問を浮かべながら左打席に付くのだが、打席からの光景を魔の渡りする事になった。

「なっなんだ!?この守備シフト…」

山本は、声を発しそうになるが食い止めたが、その違和感から背筋に一筋の汗が流れ落ちた。

それはライガースの守備にあった。
内野陣が1塁手、3塁手が各々の塁に張り付き、2塁手と遊撃手は各塁間のド真ん中に陣取り、外野は右翼と左翼がかなりの前進守備のシフトを引いていたのだ。

無死走者なしの場面で、打者シフトにしても異常なもので、この山本という打ち分け出来る打者のシフトとして見当はずれ所ではなかった。

「…いつも通り、いつも通り」
山本は頭で念じながら静かに汗だくの手でバットを強く握り締めた。

一方、マウンドの奈々は怪訝な表情であった。
捕手の五郎丸とサインが合わず、3度とも首を横に振てっいた。

「いつものアレか…多用したくないが…」
根負けした五郎丸は、頭を掻きながらアレのサインを出した。
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ロックされています   Re: 守護神はじめました-5話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/05/22 22:09 修正2回 No. 5    
       
サインの直後、奈々は今まで怪訝で殺気立っていたのが嘘のように、ニコッと満面な愛嬌100倍の笑みを見せた。
それは可愛い天使が降臨した様相にも周囲は心を奪われそうになった。

ライガースナインはいつもの恒例行事のように平然と静観していた。

気分を良くした奈々は、スッと振りかぶってから、一気に地面スレスレの姿勢に移った。

「低い…!?アンダーかよ…!!」
山本が気をとられた一瞬の出来事だった。
ビシューッ。まるで鞭がしなるように奈々の右腕が高速で振り抜かれた。

「球…っ消えた!?」
山本はこの状況に打席で硬直した。

ヒュルヒュルッ〜ポスッン。キャッチャーミットにボールの軽い音が微かに響き、はっと山本は振り返った。

「ストライクッー!!」
ミットへボールが収まっており、球審が腕を高らかに振り上げた。

「…消える魔球?」
それが山本の脳裏に過ぎったが、何故か違和感が拭えなかった。
仮に、消える魔球を目にしたのなら、ファイターズベンチでざわつきはあるものの、このリアクションは異常な希薄さだった、何より球審も見えないはずの球の軌道を判定された事も不可解だった。

山本が憶測している間に、ボールはマウンドの奈々へ返球が済んでいた。

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ロックされています   Re: 守護神はじめました-6話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/05/24 00:49  No. 6    
       
奈々は、返球から早々と2球目の投球態勢を始めた。

「返球して、すぐにだとぉ!?」
この一連の動作に、山本は完全に不意を突かれたと言わんとばかりの表情を浮かべたが、時既に遅く、ビシューッとしなる右腕の音が響き、先程と同様に低い投球動作で投じられた。
「このぉーっ!!」
ダメを承知で強振する山本だったが、当然ながらブンッとバットは空を切り、ヒュルヒュルッ〜ポスッンと遅れてミット音が虚しく響くのだった。

山本には、マウンドの小柄な奈々の堂々とした振る舞いに、まるで大魔神と対峙しているような威圧感であった。

しかし、対象的に女房役の五郎丸は血相を変えた表情で、アタフタと、次の投球を促すように焦る返球をした。

「……?」愕然としていた山本でもその異変を汲み取れた。
「山本っー!!」
そこへ一声、次の打者である加藤の呼ぶ声が聞こえ、バッターサークルの方に振り向いた。

加藤は無言で空を指差し佇んでいたのだ。

これに、五郎丸はしまったとばかりに苦虫を噛んだ表情となった。

少し遅れて、はっと山本は加藤が意図する事を理解してコクッと頷いた。

先程と一転して、奈々が投じる球の正体を、完全に見切ったとばかりな余裕の笑みを浮かべた。

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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第7話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/05/25 00:01  No. 7    
       
マウンドの奈々は、今回はサイン確認をしてはいる。

まるで、1球目を投じる前に戻ったかのように、奈々は五郎丸の出すサインをことごとく拒否の一点張り、だが今回は五郎丸も一歩も引かない膠着状態となった。

打者の山本もしびれを切らしたが、マウンドの奈々はそれ以上だった。

「もぉーいいっー!!」
我慢の限界とばかり、甲高い声が響いた矢先に、奈々はスッと投球動作を始めた。

「あのっバカっ!!」
とは言うものの、こうなっては五郎丸も為す術がない。おそらく投じる球は同じと察していたからであった。

それはアレの秘密が分かった打者山本にも筒抜けの事態でもある。

例によって、奈々は低い姿勢からのアンダースローで投じた。
ビシューッ!!

なんと、マウンド方向を一切見ず、空を見上げていた。

「くっ、バレバレかっ!!」
しかめ面で五郎丸はぼやいた。

山本の視界に、弧を描くあまりに遅い速さで動くアレを捉えていた。
それは、ホームベース間近から軌道が地面へ降下を始めた。

「予想通り、超スローボール!!」
山本は待ってましたとばかりに渾身のフルスイング。

ブーンッ!!
ヒュルヒュルッ〜ポスッン。

だが捉えたと思った打球は、かすりもせず空を切り、捕球した軽い音だけが響いた。
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ロックされています   Re: 守護神はじめました-8話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/05/25 23:07 修正1回 No. 8    
       
「ストライークッバッターアウト!!」
力強く球審の右腕が上げられた。

「捉えたはず、どうして…!?」
山本は、呆然と打席でひざまづいた。

バットの軌道は完全にボールを捉えていたが、奈々の投げた球は無回転のあまりにも遅いスローボールが故に、空気の流れに大きく影響を受けやすかった為に、渾身のフルスイングをまるでボールが避けるように軌道が変化したのである。

「ふぅー」比較的に動じない五郎丸でも、分かっていたが安堵の溜め息が漏れる。

「審判、タイム!!」

次の打者を迎える手前、五郎丸はスッと立ち上がりマウンドへ静かに向かった。

「ぅん?」とばかりに、奈々はきょとんと五郎丸を見つめた。

ライガース内野陣は、ご愁傷様とばかりにマウンドへ合掌を軽くした。

マウンドで、2人が向かいあったと思った瞬間だった。

「あぎゃぁぁ〜〜○×っ△◆〜っ!!」

グランド全体に、途中から言葉にならない断末魔の叫びに覆われた。

五郎丸が背後から、奈々に対して両拳でこれでもかと言わんばかりの腕力で左右のこめかみにねじり込んだのであった。
(そう、某作品のジャガイモ頭の五歳児が母親にされているグリグリである)

「いつも、勝手ばかりするなと言っただろ…」

平静とした態度でこれでもかと、奈々のこめかみをこれでもかと言わんばかりに攻め続けた。

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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第9話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/05/27 23:07 修正2回 No. 9    
       
「なんなん!これぇ女子にする仕打ちなん?」

五郎丸の殺人的な一撃により、涙目の奈々は地の関西弁が全面に出していた。

「お前の場合は、その素行は常習だろ」
「あたしの球は、誰も打てへんも〜ん!!」
「お前、この試合負けたら監督との、あの約束があるんだろ!!」
「あっ…」

そうこう一悶着していたが、その一言で、ふと約束を思い出した奈々は、ゾッとして青ざめ、まるでこの世の終わりのような表情となり、遠目からでも、背中の25番が震えているのが伺えた。

その約束というのは追々に語る事になるが、とんでもない内容であったが、条件を呑んだ奈々もまた、そうであると言うしかない酷いモノであった。


そんな周囲は、そのやり取りを夫婦漫才かと思える様相だった。

一方、ファイターズの監督は帽子のツバを3回触り、打席を待つ加藤へとある指示を出していた。

マウンドから五郎丸が戻り、試合が再開されたての初球だった。

今までと一転して、じゃじゃ馬が忠犬に化けたかのように、一回のサインでコクリと頷いた。

「約束の内容は知らんが、どんな恐ろしい内容た…」五郎丸は、そんな事を脳裏に浮かべながらミットを構える。

奈々は低い体勢から素早く右腕を振り抜いた。

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ロックされています   Re: 守護神はじめました-人物紹介1-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/05/30 00:22  No. 10    
       
■登場人物■

【名前】西宮 奈々(にしのみや なな)
【年齢】11歳
【身長/体重】130p/乙女に、なに質問しとんの〜(怒)
【血液型】O型
【守備位置】投手
【背番号】25

この作品のヒロイン(主人公)。天真爛漫で感情の起伏が激しく、高ぶった時に関西弁を発する。
興味多感でおしゃれに関して一切妥協はしない。監督と、ある約束をしているが他のメンバーはその内容を知らない。
抑えの成功率が100%でチームから奈々様と崇拝されている。
アンダースローから超スローボールを投げる変則な投手である。

【名前】五郎丸 渉(ごろうまる わたる)
【年齢】13歳
【身長/体重】174p/66s
【血液型】A型
【守備位置】捕手※投手
【背番号】2

チームの4番であり、正捕手でもある。安定したリードと強肩に、打撃の勝負強さと突出した長打力は、チームの攻守の要的な存在。
長身の筋骨隆々で運動神経が良いため、格闘技などからスカウトもあった経緯がある。
元々は投手であったがある理由で、現在はチームの専属捕手を務める。
未だに奈々を最初から最後までリード出来た事がないらしいが、その都度マウンドで一悶着が暫し起こる。
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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第10話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/05/30 00:24  No. 11    
       
ヒュルヒュルッ〜ポスッン。
ヒュルヒュルッ〜ポスッン。

打席の加藤はぴくりとも動かない、たった2球でツーストライクと追い込まれた。
ただ、手も足も出ない見逃し方には見えない、何かを狙っている意図の目つきであった。

五郎丸が返球するタイミングで加藤は小言を漏らした。
「あのピッチャー、大してスタミナが無いな…」

それなりに、地区大会上位チームとは分かっていたが、奈々の弱点を5球で感づかれたのは、奈々の暴走があったとはいえ、五郎丸には大誤算の展開を向かえていた。

そして、奈々は加藤への3球目を投じるが、相変わらずの超スローボールを投げた。

弧を描いてヒュルヒュルッ〜とミットへ吸い込まれるが、
ガキーン!!

しかし、前に飛ばなかった。そうでなくとも、こういった球をプロ・アマを問わず、どこのチームも当然していないものであり、慣れても容易に打てるものでなかった。
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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第11話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/05/31 00:12  No. 12    
       
「さすがに、簡単に仕留められないか…」

加藤は、理解しているかのように呟いた。

五郎丸は、奈々に対してサインを出すが、奈々は何かしら意図がある事は承知しているが、表情は冴えないけれども、了承して頷く。

そして毎度の事ながら、低い身長で低姿勢の地面スレスレから右腕を振り抜くのだった。

ヒュルヒュルッ〜カッン!!

相変わらず、弧を描く超スローボールが打席の加藤に迫るが、金属バットのぶつかる音が響き、ことごとくカットされた。
ヒュルヒュルッ〜カッツ!!
ヒュルヒュルッ〜ガキィーン!!

奈々と五郎丸のバッテリーは、更に2球続けて超スローボールを投じた。
当然ではあるが、加藤もタイミングが合ってきて、前にファールボールが飛び始めた。


「あの特殊な球をタイミングは違っても、全球をほぼ同じ所に投げきれるのか!?」
選球眼の良い加藤は、奈々のあまりの制球力に驚愕していた。

それを横目に、五郎丸は当然といった顔つきで加藤の様子をうかがっていた。

そして、このままでは打たれるのも時間の問題と考えてここは勝負と、あるサインを奈々に出した。

奈々は、おやっとした顔つきであるが、二つ返事で頷いた。

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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第12話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/06/01 22:01  No. 13    
       

奈々は、これまでと同様に右腕が地面に今にもつきそうな位置から投じられた。
加藤も、これまで同様に視界を上空へロックオンしたのだが、見えないままだが…その刹那だった。
スパーン!!

ボールがミットに収まる乾いた音が響き渡った。

「ストライークバッターアウッ!!」
続けて、審判の大きなコールが響く。

五郎丸は、奈々の暴走もあるが、全球超スローボールしか投じてない事を逆手に取り、まんまと加藤を出し抜いたのであった。

「あそこで、ド真ん中の低めの70q程度のストレートを投げさせるとは、あの捕手はとんだ勝負師か?」
ベンチのファイターズ監督は、敵ながら賞賛に値する思いっきりの良さに度肝を抜かれた。

それでも、不可解なのはライガース監督の行動の無さであった。
これまで、7回の守備変更までは要所で、サインなど指示が少なくとも出していたが、マウンドに奈々が立ってからは、大仏のようにピクリと動かない。

これまでの試合中の素行を見ても、指示を出さないのは、目に見えて逸脱している事は明白だった。

これは、(※第9話参照)前述した奈々が監督との約束で登板中には、一切の指示を出さないルールも影響していたのだった。

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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第13話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/06/02 23:56 修正1回 No. 14    
       

打席についた4番千原は、確信をついた一言を放った。

「あの女投手、持ち球2つだけか、…だからあのリードね……」
ピクッと反応するも、五郎丸は返す言葉もなく無言であったが、内心はサインを出すにも手詰まりでカウントを取る球種が見当たらなかった。
簡単にアウトを取らせてもらえないのはわかっている、打ち取るならゴロか?いや、力負けして長打が目に見える、やはりフライか?それも長打は確実だ。
かといって、空振りを狙えると思えない。
それでも、しぶしぶサインを出す五郎丸であった。

奈々が千原に対しての1球目だった。
相変わらず、独特の低い体勢から振り抜かれる右腕がむちの様にビシュッとしなる。
「ストレートだが、低い!!」
千原は、すぐさまバットスイングを止めた。
スパーン!!
「ストライーク!!」
地面スレスレから投じられたら球が一直線に構えたミットへ吸い込まれるようだった。

「ド真ん中の低めギリギリ!?」

審判にしても、一瞬は判定に困る程のコースへ決まった。

「ハァッ、ハァーッ…」
ただ、投げ終わった後の奈々の様子が、今までと明らかに違い、肩で息をはじめていた。
そう、超スローボール多用による体力消耗が顕著に出始めたのだった。

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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第14話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/06/04 22:11  No. 15    
       
いつもの半分超えた程度なのに、なんでわたしヘトヘトなの、そういえば超スローボールは10球以上投げるなとか、連続で投げるなって、監督か誰か言ってたっけ?と奈々の脳裏を駆け巡っていた。

疲れが伺える奈々は、千原に対して2球目を投じたのはストレートだが、ガキィーンと金属音が響き、三塁線のわずか20cm外側へ切れてライナーが飛んだ。

明らかに、これまでのストレートと違いノビが無くなり、ホーム手前で失速したように沈み込んだ。

間髪一髪と、奈々は額から流れた汗をひと拭きしたが、険しい表情が尚も続いた。

五郎丸は、サイン確認で少しでも時間を稼ぎたいと思うが、いつもと異なり忠犬と化していた奈々は、どのサインでも二つ返事であった。

それが災いして、超スローボール、ストレートまた超スローボールと、投じたが今までと打って変わってカウントが取れない状況に陥り、気がつけばフルカウントになっていた。

既に、奈々以外の投手は降板したこの深刻な状況で、奈々がライガースに入団した時のある事を思い出し、五郎丸は思い切った采配に打って出ようと、今まで実戦で使ったことのないサインを出したのであった。

ここまで、二つ返事の奈々も今にも舌打ちが聞こえそうな渋い顔で、かなり間が空いたもののイヤイヤながらサインを了解した。

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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第15話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/06/07 19:44  No. 16    
       

奈々はロジンバッグを手に付けながら、このタイミングであんなの要求するって嫌がらせなの、しかも実戦でも、いやいやこれまで数回しか投げたことないアレを…と内心思いながら、顔がほのかに赤みがかっていた。

奈々にとっては、何か曰わくつきの球種であるのは、間違いないのだろう。

決心して、奈々は大きく振りかぶったのだが、今までと大きく異なりアンダースローではなかった。

「ぅん?」と打者の千原でも、それにすぐさま気がつくぐらいだった。

これまでと違い一瞬、オーバースローいや、スリークォーターと思ったが普通投手のそれとは、動作が明らかに違うというより、おかしかった。
間髪なく、ビシュッと奈々の右腕から投じられた。

「女の子投げ!?」

そのまさかであった、五郎丸が要求したのは肘と肩が下がって球を押し出すように投げるコレであった。

これには、ファイターズ一同や、観衆はどよめいたが、それだけのどよめきでなかった。

ギュルルンと、上空高々上がり、超スローボールの弧を描いた軌道でバッターボックスへ迫る。

千原は、投げ方が違っても超スローボールと判断して、渾身のスイングの構えでバットを始動させたブーンッと振り抜いた。

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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第16話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/06/10 22:16  No. 17    
       

ギュルルーン!!ズバッーンと打者に襲いかかるような唸りをあげてミットへ吸い込まれた。

「ストライークバッターアウト!!」

千原の渾身のフルスイングは、完全に振り遅れて空を切った。

超スローボールと思った球は、全くの別物で、縦スピンがかかった高速ボレー回転の球であった。

打者の千原も、あの投球フォームから物凄い球が投じられるとは想像もしておらず、呆然とするだけであった。

試合終了と同時に、奈々は一目散と五郎丸の所へ駆け寄って歓喜の包容というわけでもなく、これでもかとグローブで何度も思いっきり殴るのだった。

「五郎丸のアホ〜!!あたしにあんな恥ずかしい投げ方させるなぁ〜!!」

五郎丸は、やっと一息つけるといわんばかりに、「はい、はい…」と生返事で聞き流した。


「そういえば、皆は知らないが約束って、どんな事だったんだ?」

試合後の帰路で五郎丸は、奈々が監督と交わした約束の内容を勝利してご機嫌の奈々に訪ねた。

「あれね、あたしの名前は奈々でしょ、だから今度試合で0に抑えたら、背番号7(なな)に変えてってお願いしたの〜♪」

奈々はにこやかに、とんでもないひと事をさらりと答えた。

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ロックされています   Re: 守護神はじめました-第17話-  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/06/18 20:24 修正1回 No. 18    
       

まさかの一言で五郎丸は呆然とするが、それにお構いなしに奈々は淡々と話し続けた。

「…だから、正左翼手の大石に、あたしの背番号と交換するの納得させるの大変だったんよ。プロでクリンナップ打ってるすごい外野手が多いって、思いつきで言ったら上手くいったよ〜♪」

あながち言った事は間違ってはないが、聞けば聞くほど素直に納得した大石を哀れむしかない五郎丸の心境だった。

「それで、監督が問題だったんよ!!」

奈々は、お構いなしで不機嫌に監督との約束を話し続ける。

「背番号の条件で、試合で負けたら野球を辞めろだよ、まったく何を考えるかな…あのパパは、あたしのする事に、ちょっかいいれるし…」
「おぃっ…あの監督ってお前の親父か!?」
五郎丸は、約束よりも監督と奈々を親子とは知らず慌てふためいた。

「え、言ってなかったっけ?五郎丸はチームに入って長いから知ってると思ってた。」

確かに、奈々と監督の名字は同じだったが、練習や試合の時ですら、親子らしいやり取りはあんまり感じなかったと五郎丸は振り返った。

「あれで、普段は親バカでベタベタしてくるから困るのよねぇ〜。」

奈々は、怪訝な顔で監督改め父親の事を語った。
そして、ハァーとため息をついた。

「五郎丸、あんたがちゃんとリードしないから汗でベタベタだし、頭グリグリするから髪型崩れちゃっでしょ!!」

そんなこんな好き勝手な発言をする奈々だが、この後に五郎丸のグリグリが待っているのは言うまでもなかった。

「あぎゃぁぁ〜〜○×っ△◆〜っ!!」

日の暮れ始めた河川敷に、今日は二度目の奇声が響き渡った。

こうして、奈々のクローザー8試合連続の成功と背番号7を勝ち取ったのであった。
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ロックされています   Re: 第二章-投手な理由 第18話  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/06/25 22:07  No. 19    
       
ある日の練習中


「そういえばさあ、奈々様って打撃とか守備練習をほとんどしてないけど、上手いのか?まあ、ボクみたいに華麗な打撃と守備は無理と思うけどね。」
「お前も相変わらずだよな…そういえば俺も見た事ないな、ほとんどが投球練習だけだよな。」

練習が一段落した走攻守に三拍子あるが自信過剰な遊撃手の御影 俊介(みかげしゅんすけ)と、守備の名手である二塁手の今津 聡一郎(いまづそういちろう)は休憩中に些細な話で盛り上がった所へ、奈々が投げ込みを終えて戻ってきた。
「二人で、なに盛り上がってんの〜?」
珍しく、練習後でも機嫌の良い奈々が自分の事と知らずに、話の輪に割って入った。
その話を聞いて、少し変な間が空いた後に、奈々はたどたどしく言いはなった。
「二人とも、あたしが投手以外で出来るポジション言ってみなさいよ…」

「あっ!!」
御影と今津は阿吽の呼吸のように声が揃った。そして過去のあの出来事を回想した。

それは以前に、奈々がライガースに入団した時期に、ポジション決めの紅白戦が一度だけ行われた事があった。

試合当初、奈々はレフトの守備についていたのだが、率直に結果を言えば奈々のチームが大敗をした。
それは、球団始まって以来の記録尽くしの紅白戦になったのであった。
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ロックされています   Re: 第二章-投手な理由 第19話  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/07/01 20:47  No. 20    
       
-回想-
この日の紅白戦は今年度の主力メンバーを決める試合であった。
無論、奈々や他の選手もこれがどれほど重要かは、語る必要がない位に各々がレギュラーアピールする一行事となっていた。

なぜ争いが激しくなるのも訳があり、レギュラー23人は年間で一定数の試合出場や練習の優遇を受けれるが、補欠の場合は試合出場するにも各試合毎に、レギュラー以外に空いた残り3枠(※主力に故障者が出ると枠は増える)を主力選手との兼ね合いで監督が起用選手を抜擢するという、困難な条件とグランド整備や用具の手入れなどの雑務もこなさないならないハードな内容なのだ。

とはいえ、レギュラー10人程の枠はほぼ確定している為に、実際は準レギュラー枠争いの意味合いが強い試合なのであった。

この紅白戦に、当時補欠の奈々は赤組の8番左翼手で出場したのだった。
同じチームに、4番捕手の五郎丸、そして3番遊撃の御影と6番二塁の今津、他の主力も合わせてレギュラーが計6人揃っていた。
奈々達、赤組の先行で試合は始まった。1回から猛攻が展開された。
1アウト1塁で3番御影が、チャンスを広げて1、3塁として4番の五郎丸がセンター方向への本塁打と容易に3点を奪った。

この五郎丸の一発で、白組の投手はストライクが全く入らず、5番から7番に3者連続四球と、1アウトながら満塁と絶好の機会で、初回ながら8番の奈々に打席が回ったのだった。

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ロックされています   Re: 第二章-投手な理由 第20話  名前:リリカル兄貴  日時: 2015/07/05 21:48  No. 21    
       
奈々はサイズが合ってないのか、ヘルメットを気にしながら左打席についたと思ったら、いきなりバットの先端を空高々と向けた。

「予告ホームラン!?」

今まで男子だけのチームに、女子が加入するだけでも、注目の的であるのに、この宣戦布告には、グランドにいた全員が大きくどよめいた。
とはいえ、当の本人は「…確か、こう構えると目立つ言ってたっけ?」とライガース監督こと、父の話を真に受けての事とは、今の行動をにこやかに親指を立ててグッジョブと言わんばかりの監督だけであった。

この後先を考えない奈々の行動が、白組に火を付けたのは当然であった。

殺気立った中、プレイが再開されたのだが、打席の奈々に全員が何か違和感を感じていたが、赤組の一人が
「あっ、バット握りが逆だ!!」
そう、いわゆるテニス持ちでどう考えてもボールを遠くに飛ばせるものではなかった。

「うるさーぃ!!コレで打てるのっ!!」

顔を真っ赤にしながら、周囲の野次をかき消す高音の声が響きわたった。

それでも意地なのか、バットの握りは一切変えなかった。

色々とゴタゴタはあったものの、試合は再開された。

「ちっこいから、今までと違って、投げにくい…」白組の投手、西灘は小柄と分かっていたが、改めて奈々への投球しにくさを痛感した。

そして、ワインドアップから奈々に対して第1球が投じられた。

珍しく、今まで制球出来ていなかったストレートがズバッンとド真ん中に入った。

しかし、奈々はぴくりとも動かずに見送り、1ストライクとなった。

「ヤバかった…」西灘は打ちごろの絶好球を投じた事にヒヤヒヤした。だが、初球とはいえ全く反応しなかった奈々に、不気味さを感じた。
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