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ノベルズ=クリムゾン 第二部
名前:
スコットランド学派
日時: 2016/12/14 17:10 修正5回
このスレッドは,主に2017年・二月に執筆を開始する予定である「イーグルスの星・第二部」を投稿するためのスレッドです。
お楽しみに。
鍵を開きました。第二部が始まります。
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Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/02/05 19:52
No. 1
イーグルスの星・第二部,序章
秀行が一軍での西武戦でリベンジを果たしてから数週間後のことである。秋が深まった季節の夜のこと、秀行と藤原、原田は、寮の秀行の部屋にて日本シリーズをテレビ観戦していた。球場は楽天の本拠地であるクリネックススタジアム宮城。楽天と巨人の決戦である。その戦いは、いよいよ大詰めだ。
回は九回の表、ツーアウト、ランナーはなし。楽天イーグルスは今、悲願の日本一を目前にしている。マウンドに君臨しているのは、抑えとしてマウンドに上がっている楽天の絶対的エースである田中将大。あと一球で雌雄が決する。そして、田中は最後の球を投じた。切れ味の鋭いスプリット・フィンガー・ファーストボールに相手打者は強振するも、バットに当てることができず、三振。その瞬間、マウンドにいる田中は雄たけびを上げ、捕手の嶋と、内野手たちは喜びながら彼のもとに駆け寄り集まる。盛り上がる楽天側ベンチでは、星野監督がコーチたちと握手を交わすとすぐさまグラウンドに向かう。球場中のイーグルスファンからの熱い祝福の中、星野は宙に舞った。何度も、何度も。一方の巨人ベンチは、沈黙するのみ。
テレビの前で、秀行ら三人は、ただただかじりつくように画面を見ていた。原田は感動のあまり涙を流し、藤原ははしゃぎ、秀行は、黙って画面に集中する。その彼の眼には、最後の打者となって、巨人ベンチの中で涙を流し、コーチになぐさめられている秀行のライバル、横田真司の姿も映っていた。
「いつか、俺も……」
そう秀行がつぶやいたその刹那。
「おっと、今の言葉はイーグルスのリーグ優勝の時にも出たでありんすっ!」
ニヤニヤ顔の藤原である。
「しかたないよ〜、その言葉しか出ないくらい秀行くんは感極まっているんだから……」
ハンカチで涙をぬぐいながらの原田である。
秀行は、いったん深呼吸。落ち着く。
「……、藤原君、原田君」
「なんでありんすか?」
「なんだい?」
秀行は力強く言い放った。
「いつか俺たちも、日本一の選手になろう、イーグルスの一員として……」
そして一呼吸おいてから。
「そして横田、巨人も必ず勝ち上れよ、絶対に倒してやる!」
キラキラと輝く星たちのもとで、決意を新たにする秀行たちである。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/02/21 21:52
No. 2
第三十九章 「真上正とドラフト篇・その一」
誠城高校に設置された記者会見室は、今年もマスコミでにぎわっている。会見席に座っている、素直で賢そうな風貌の少年は、ジッとあたりを見回す。集まっているマスコミが、自分に釘付けだ。自明なことではあるが。この特設記者会見室には、去年、一つ年上の兄が注目を集めていた。今はイーグルスの有望株である真上秀行(まがみ・ひでゆき)である。彼の弟で、捕手である真上正(まがみ・まさし)が今この会見室の主役だ。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/02/21 21:55 修正2回
No. 3
正は、隣にいる監督にひそっと。
「監督、僕は去年ここにいた兄さんの気持ちが分かるような気がしますよ……」
「おっ、緊張しているのか?」
と、ニヤッとしながら監督。
「緊張しないほうが無理ですよ……、いくら楽天イーグルスからの一本釣りが確実と言われていても、最後までどうなるかわかりませんから……」
「よほど、兄さんと同じところに入りたいんだな」
と、またニヤリとする監督である。
「当然です、僕は兄さんの球を受けるために生きているようなもんですからっ!」
「わがままな弟さんだな」
監督の歯は白い。明らかに歯科医院でホワイトニングをしてもらっているだろう。
「わがままで結構です!」
「そんなことより正……」
「何ですか、監督?」
「何をきょとんとしているんだ、俺たちのひそひそ話、マスコミにバレバレだぞ」
正は、ハッとして辺りを見渡す。記者たちがニヤニヤしながらメモをしているのが目に見える。恥ずかしくなった。そして、監督の方を見やる。歯を見せながらの苦笑いだ。その歯はただ清潔すぎるだけではない。歯並びも不自然なまでに整っている。
「……、明らかに手入れしまくっている歯を見せつけながら笑わないでくださいっ!」
と、小声で正。
「いまさら何をいうんだ、飽き飽き分かっていることだろう……、と、正、テレビ画面を見ろ、そろそろお前の指名が始まるぞ」
正は再びハッとして正面にあるテレビの画面に顔を向ける。いつの間にか、楽天イーグルスの指名順になっていた。テレビに映るドラフト会議場のビジョンをよく見ると、今のところ、どの球団も正を指名していないようだ。やはり下馬評通りとなるのか。
アナウンスがなされた。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/02/21 21:58
No. 4
第一回選択希望選手、東北楽天、真上正、捕手、誠城高校。
正がいる記者会見室がワッと賑わう。ホッと胸をなでおろし、監督と目を合わせる。が、しかし。
第一回選択希望選手、福岡ソフトバンク、真上正、捕手、誠城高校。
更に。
第一回選択希望選手、広島東洋、真上正、捕手、誠城高校。
広島は向こうのリーグ、すなわち、セントラルリーグの球団である。結果、競合だ。
その旨がテレビに映し出された瞬間、会見室は凍り付いた。目を丸くする正。そして監督と目を合わせる。その監督、驚愕からだろうか、歯を見せていない。
「……、監督」
震え声で正。
「何だ?」
同じく震え声の監督である。
「僕、去年の兄さんの気持ちがまた改めて分かったような気がします……」
「幸運を祈ろう、正」
画面はくじ引きの様子を映し出した。今年の楽天は体格のいいオーナーが引くようである。ソフトバンクは新監督の初仕事として工藤が、広島は同じく新監督の緒方が引くみたいである。
三人のくじ引きがアッという間に終わった。そして、三人はくじを開く。さぁ!
ソフトバンクの工藤が握りこぶしをあげた。その瞬間、正の会見室は一瞬にしてお通夜状態に。正、我を失ったように、ぼう、とする。が。
画面が、ざわつくドラフト会場を映し出す。物言いが起こったようだ。ドラフトのスタッフが慌ただしく駆け込んで、何やら確認作業をしているようである。その直後のことであった。楽天のオーナーが喜びの声をあげたのである。どうやら、くじの見間違えがあったらしい。その映像が流れるや、誠城高校の会見室は大盛り上がり。我に返った正は思わず監督と抱き合う。正は、この時、正直なまでにうれし涙を流し、それが記者たちのカメラに収まり、翌日の各スポーツ新聞に載ることになるのは自明なことであった。
……、ついでに、しばらくしてから、秀行との共通の幼馴染である女の子、伊原春生から正のスマートフォンに祝福のメッセージが届き、秀行からも祝福の電話がかかってきたことも記しておくべきであろう。
ここから先は詳細に述べるまでもない。秀行と正による兄弟バッテリーの新たな戦いが始まるのである。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/02/21 22:10
No. 5
「正(まさし)篇」はまだまだ続きます。お読みいただきありがとうございました。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/02/24 20:46
No. 6
第四十章 「真上正とドラフト篇・その二」
カメラマンたちのフラッシュが瞬く間に光りだす。ただまぶしいのではない。まばゆさがあるともいえる。楽天にドラフト一位で入団することになった正。今日も記者会見場の席に座っている。……,ただし,この日は学校の会見室にいるのではない。東北楽天ゴールデンイーグルス球団事務所にある会見室にいるのである。何故ならば,今ここではイーグルスの新入団選手記者会見が行われているからだ。
正の会見が始まる。ドラフト一位なので初っ端だ。きりっとしつつも明るい表情を作る。そして,立ち上がって自己紹介を始めた。
「皆さん,初めまして。楽天球団にドラフト一位で入団させていただきます真上正と申します。僕の長所は,巧みなリードと強肩,守備範囲の広さ、そして打撃力です。それらの力でイーグルスの優勝,日本一になるための一助となりたいと思います。よろしくお願いいたします!」
カメラマンたちからのフラッシュが一斉に光りだす。その光の量は,目がくらむほどだ。正は思った,よし,掴みは上等だと。自分でもわかる。今の自分は,自信に満ちた笑顔を浮かべている,と。
正が席に座ると,記者たちからの質問が始まった。その記者は,肩幅の広い,少し肌焼けしている中年の男性である。
「東北毎日新報(とうほくまいにちしんぽう)の新田です。真上正選手,ドラフト一位での楽天入団おめでとうございます……,さっそくですが,率直にお尋ねいたします。正選手は,お兄さんと同じ球団で戦うことができること……,秀行投手の球を受けることができるだろうことに喜びを感じますか?」
ドスがきいた声である。正は少し緊張感を覚えながらも,深呼吸。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/02/24 20:48 修正1回
No. 7
「……,非常にわくわくしています。これが正直な気持ちです! プロの舞台でまた,兄さんの球を受けることができる。子供の頃からずっと兄の球を受けてきた捕手である弟として光栄に感じます。兄さんと共に黄金のバッテリーと呼ばれるようになって,楽天の勝利に貢献したいです!」
思うことを詰め込んで言い切った。正はキリッとして質問をふった記者の目を見つめる。そして、記者が口を開いた。
「……、大変頼もしい限りです。期待しちゃっていいんですね!? では、真上兄弟の黄金バッテリーが楽天の大黒柱になることを期待しています!」
再び一斉にフラッシュが舞う。ばっちりだ! 正はそう思った。それにしても,いくら何でもまぶしい。
それからしばらくして正と記者たちのやり取りは終わった。達成感のある晴れ晴れした表情の正である。次は,ドラフト二位の選手の番である。正の隣に座っている彼は,正から見れば、根暗に見えるほどの貧相な顔立ちに見える。色は白い。さて,その彼がよろよろと立ち上がり,自己紹介を始めた。
「……,こんにちは、一応大学ナンバーワン遊撃手と言われている高田優人(たかだ・ゆうと)ですぅ……」
これを聞いただけで正はこう思わざるを得なかった。あぁ,やっぱり本当に根暗だ,楽天に根暗が入ってきた、と。自分の顔も……,否,会見場全体の空気もつられるように暗くなっていくのが手に取るように分かる。だが,そのようなことはお構いなしに高田は話を続ける。
「……,何から話せばいいか分かりませんが……,プロ野球選手に選ばれて〜……,辛いです,正直辛いです……! 自信がありません,お願いです,誰か,誰か,助けてくださいぃ〜……」
正は正直な気持ちとして、高田を今自分が持っているハンカチで涙を拭いてあげながら、励ましてあげたかった。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/02/24 20:50 修正4回
No. 8
さて,これ以降の高田の会見の一部始終は割愛とさせていただこう。
次は高田の隣に座るドラフト三位の投手の番である。小麦色の肌をしていて長身である。正は感心しながら小声でつぶやいた。……、大きくてかっこいいなぁ。
さて、彼の自己紹介だ。きりっとした顔つきでゆっくりと立ち上がる。
「皆さん、初めまして。剛力ボビーと申します。SB高校出身の投手です。母はアメリカ人で、父が日本人です。私の長所はジャイロ回転する剛速球だと思っております。ちなみに隣に座っておりますのが私の双子の弟であり、捕手のサムといいます。私と兄弟バッテリーを組んでおります。兄弟ともども、イーグルスの勝利の一助となるよう奮励努力する所存。これからよろしくお願いします」
正は感嘆した表情を浮かべながらまた思わずつぶやいた。……,剛力ボビー君,ありがとう……!
事実、高田にぶち壊された場の空気に活気が戻ったのである。快活で真面目な剛力ボビーだ。記者たちからの質問にも誠実に答え続けるその彼には,正はいい印象を持った。ちなみにSB高校のSBとは「ストロングベースボール」の略称であり、SB高校は甲子園大会の常連である。さて、次はそのボビーの弟さんの番である。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/03/29 16:33
No. 9
正は,その彼の方に向く。どうやら兄と同様に肌は小麦色ではあるものの,背丈は兄よりは少々低めであるようだ。そのボビーの弟が立ちあがり,口を開く。
「初めまして,私がボビーの弟でキャッチャーの剛力サムです。私のアピールポイントは長打力とキャッチング,そして守備範囲の広さです」
ここまではごく普通の自己紹介である。正はそう思った。
「捕手として肩の強さには自信がありませんが……,ん,あっ!?」
正他一同,そのサムの大声に驚いた。サムは前方の記者席の床に何かを見つけたようで,大発見をしたかのような表情に思える。その刹那である。
「百円っ!!」
サムは叫んでその場から身を乗り出すと,そのまま前方に飛び込む。が,しかし,足を引っかけて勢いよくすっ転んでしまった。
会場一同はどよめく。仕方のないことだ。正は思わず転んだサムの方を見やる。
「うわ……」
正は呆れた。サムは気絶しているようだから。ちなみに,その場にあったのは百円ではなかった。おそらく誰かが落としたレプリカのどこかの国の銀貨であろう。そして正はボビーの方を見やる。呆れ顔で恥ずかしさのあまり泣きそうになっているようだ。正はその時悟った。楽天にイロモノが沢山入ってくると。それを証左する材料は高田やサムだけではない。横向こうを見てみると、少なくともあと二人は変な奴だということを推察できる。ここから先の記者会見の詳しい模様は割愛することになる。何故ならば,以下のことを簡単に言えばわかることだから。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/03/29 16:36 修正1回
No. 10
サムが医務室に運ばれた後に続いた記者会見では,ドラフト五位の左打ちである外野手で,大卒社会人出身の「万田均(まんだ・きん)」は,自己紹介をするどころか,ズーズー弁で刺身の話を延々とし続け,途中で司会者から止められる始末。育成一位で大学卒の「藤村悟(ふじむら・さとる)」は,ぼんやり顔からの「こんにちは,初めまして,ぼくがぁ〜,藤村悟ですかぁ〜?」という意味不明な発言で周囲の度肝を抜いたと思ったら,「僕は,スライダーがぁ……,得意ですかぁ〜?」と言いながら何故か持っていた軟式球をあむ,あむとかじり,そのあとは人差し指でくるくるとそれを回し始めたではないか。ちなみに彼はサウスポーである。後で知ることになるが藤村は本当にスライダーの名手らしく,ストレートの最速は145`らしい。ドラフト六位で指名され,「神のシュートを持つ男」という二つ名を持っている高卒の「神野修人(かみの・しゅうと)」という右投げの投手はサバサバしていて明るい性格がスピーチに顕れていて,剛力ボビーと同様にまともな人間であると分かったことが正にとって安心材料となった。捕手であるから,投手であるボビーと神野とのコミュニケーションが大切になるから。ただし,藤村は知らない。第四十章はこれで締めとする。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/05/05 13:14
No. 11
第四十一章
話はドラフト会議の日の翌日までにさかのぼる。
秀行は午前中に軽いジョギングを終えた後、寮で藤原、原田と一緒に昼食を済ませて、それからは自分の部屋で休んでいた。ぼんやりとテレビを観る。すると、あるCMが流れた。どうやらどこかのエステサロンの宣伝である。
「……、ん?」
秀行はその時あることを思い出した。立ち上がり、机の引き出しからあるものを取りだす。そう、田野コーチからもらった、彼が経営するエステサロンの一か月優待券である。
「……、これはちょっとやべぇな……」
秀行は少し焦る。何故なら、それをもらったあの日からすでに三週間ぐらいは過ぎていたからである。一回だけでも、あいさつ程度でもいいから利用しておかないとこの優待券が無意味なものとなってしまうからだ。さらには、申し訳ないことにもなろう。
場所は田野からは教えてもらっている。道には困らないであろう。秀行は支度をして、そのサロンへと向かった。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/08/03 16:44
No. 12
……,さて,仙台駅からバスを乗り継いで、市郊外の国見ケ丘についた。午後は3時を過ぎたところ。秀行はあたりを見回す。辺りは自然が豊かで閑静なところだ。紅葉がきれいである。しばらく秀行は目的地まで歩く,歩く,歩く。長く続く並木から落ち葉が散らばる静かな住宅街の道を抜けると,ファミリーレストランも数件,点在している。
「田野さんのエステサロンは……,そこのレストランの角を右折して,距離1キロメートルほどを歩くと……」
さぁ,しばらく歩くと,それらしい建物が見えてきた。見える看板には「エステサロンTAYA」と書いてある。
「あぁ,あれかな?」
少し早歩きする。そして,目的地に着いた……,その刹那である。なにやら見覚えのある人もちょうどそこに着いていたようだ。その人は……。
「あっ、あぁ〜!?」
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/08/03 16:47
No. 13
「おぉ〜、真上くん、奇遇だね〜」
驚いた秀行の目の前には,「でも、そんなに驚かなくてもいいだろう?」と諭すように言葉を足した川又がいる。
「川又さん,なんでこんなところにいるんですか!?」
すると,川又は笑いながら言葉を返す。
「なんだよ,真上くん,あの時の話を忘れたのかい……,ほら,あのシーズン最終戦の時の話さ!」
秀行は,少し考え込んだあと,ハッとした。
「……,あぁ〜,なるほど,あの時の西武戦での話ですか……」
「そうだよ,僕もここを訪れてみたかったんだよ〜……,それにしても,国見ケ丘ってところは静かな街並みで,きれいでいいところだね〜」
いつみてもさわやかな顔の川又である。
「近くにアウトレットパークもあるみたいですよ」
と,秀行。
「そうそう,いつかそこにも行ってみたいよね」
と,快活でニコニコ顔の川又である。
「そうですね……,では,サロンに入りましょうか」
そして,二人はドアを開けた……,その途端。
「あらぁ〜,二人ともいらっしゃぁ〜い!!」
いきなり田野が出迎えてきた。秀行は度肝を抜かれる。
「おぉ〜,これは田野さん,ご機嫌そうで何よりです!」
川又は対照的。
秀行は思わず胸を撫でる。
「田野さん,心臓が止まるじゃないですか……,こんな出迎えは少々困るん……」
そう言いかけた刹那だ。
「さ,さ,お二人さん,早く準備してベッドに横になって私のマッサージでリラックスして頂戴っ!」
田野はそう言いながら二人を奥にあるマッサージルームと更衣室があるところに連れていき……,しばらくしてマッサージが始まり……,二人ともすべっすべのつるっつるになって店を出た。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/08/03 16:51 修正1回
No. 14
「ありがとうございました,田野さん……,もう,何もかもが気持ちよかったとです!」
そう言った秀行は満面の笑みである。
「そうだよ,田野さんのマッサージのお陰で来シーズンもすべっすべの大活躍が出来そうさっ!」
川又はいつも以上にハンサムな顔で満足気。
そんな二人に田野も嬉しそうである。
「あらやだ,二人とも,ありがとうねっ……,あ,そうだわ」
「何ですか,田野さん?」
と,秀行。
「秀行君にとっていい話になるかもしれないの,聞いてくれる?」
「はい……」
「私の友達にね,阪神タイガースの投手で変化球マニアの『山田高志』っていう人がいるの」
「えっ、あの山田さんですか!?」
「そうなのよぉ〜……,でね,その山田くんはね,副業でたこ焼きの行商をやっているんだけど,毎年秋キャンプが終わってからになると,期間限定で仙台の勾当台界隈まで出張しにくるのよ」
「あぁ〜,それなら僕も聞いたことがある。プロ野球選手のみならず,ファンたちの間でも有名な話だよ」
と、川又。
「はい,俺も聞いたことがありますね……,で,そのことに俺と何の関係が?」
秀行は不思議そうにそう訊く。田野はうんとうなずいてから口を開いた。
「その山田くんがね,せっかくだから秀行くんに紹介して欲しいと私は頼まれてね,しかも,山田くんはきみと一度一緒にご飯を食べに行きたいと言っているのよぉ〜!」
「えっ,俺とメシですか!?」
驚く秀行である。
「そうなの。でね,この際だから,きみと同じ変化球投手である大先輩の話を聞くいい機会だと思うの。だから一度ね,『できるだけ早い時期に』彼の店に顔を出して一緒にご飯を食べるのはどう,これはきっといい話よ?」
すると川又は秀行の方を向いてきた。
「さぁ,どうする?」
秀行は即答した。
「是非行ってみたいです,田野さん,いい話ありがとうございます!」
さぁ,山田高志とはどのような人間なのだろう。秀行が今の時点で分かっていることは,秀行と同じく関西の人で,阪神タイガースの名物中継ぎエースだということである。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/08/03 16:57
No. 15
これで第四十一章は終わりです。
お読みいただきありがとうございました。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/09/09 19:54
No. 16
第四十二章
秋季練習の期間が終わった。その翌日のことである。秀行は午前中にジョギングを済ませる。寮に戻るとシャワーを浴びて小休止。それからは昼食だ。いつものように藤原,原田と三人で食べる。秀行は好物である大盛の鉄火丼を食べる……,のではなく,簡単に軽食で済ませるつもりだ。
「あれ,今日は軽く済ませるのかい?」
「いつものように大盛の鉄火丼を食べないとは,なんかあるんでありんすか?」
藤原と原田は不思議そうに訊いてくる。
秀行は,サラダにゴマドレッシングを少しばかりかける。そして口を開く。
「うん,藤原君と原田君には言ってはいなかったね。実は今日これから,阪神で投手をやっている山田さんからメシに誘われているんだよ。今の時期は仙台にたこ焼きの行商に来ることは二人とも知っているだろ?」
藤原と原田は驚きの表情を見せた。
「えっ,あの阪神の名物中継ぎ投手で『変化球のたっちゃん』という二つ名がある山田高志さんからでありんすか!?」
「うわぁ〜,秀行君,羨ましいなぁ〜,ぼくも会ってみたいよ〜!」
「……,いやぁ……,あいにく俺だけが誘われているんだから,さすがに原田くんを連れて行くのはまずいと思うんだよなぁ……。それに,この話は田野さんからの言伝であるわけだしね……,それは無理だと思う。なぁ、藤原君?」
秀行は諭すように原田の肩をポンっと叩いて藤原の方を向く。しかし。
「秀行君,ぜひともおいらも連れてってほしいでありんす。サインをもらいに行きたいでありんすよ!」
これである。
「……、そうだよ,秀行君,ぼくもサインが欲しいよ〜!」
原田もこれだ。秀行はやれやれという気持ちになる。
「……、仕方ないなぁ〜,じゃあ,帰りに山田さんに頼んで書いてもらおうと思うよ。きっと快く応じてくれる方だと思うから,主人を待ちわびる犬のように首を長くして待っていろよ」
上手く皮肉を交える秀行である。
「ありがとうでありんす!」
「首を長くして待っているよぉ〜!」
嬉しそうな二人だ。
そうこうするうちに,三人はランチを終えた。それから少し時間が経ったあと,秀行は寮を出た。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/10/19 17:56
No. 17
秀行は勾当台公園へと足を運ぶ。仙台の街は今日も多くの人でいっぱいになっている。秋が深まっている。それ故,街を吹き抜ける風は少し冷たい。体も震える。吐く息は白い。けれども,大丈夫。少しばかり厚着をしているから。
勾当台公園に着いた。周りの木々の葉っぱは美しく赤色に染まっているようである。美しい。秀行はきょろきょろとあたりを見渡す。そして,もうしばらく歩を進めてみる。すると,何やら香ばしい匂いがしてきた。どうやら山田のたこ焼き屋がすぐそこで開かれているのだろう。秀行は歩を早める。
「あっ、あれだな」
秀行は思わず小声を出した。白い大きめの移動販売車らしきものが止まっている。その中で,ジュージューと音を立てながらたこ焼きを焼いている男性がいる。山田に違いない。頭に阪神柄のタオルを巻いている。ところで,客の行列はそんなに長くはないようだ。今日の今のところの売れ行きは芳しくないと見た。
「さて、並ぶか」
秀行はあえて行儀よく列の最後尾に並ぶ。大丈夫。一応変装は済ませてあるのでそんなにばれやしない。グラサンをかけた程度だけれども。秀行は,おもむろに、調理している彼の方に顔を向ける。すると,目が合った。たこ焼きを焼く山田はすぐに秀行であると気が付いたようだ。何せ、くるくると生地を回しながらニヤッと表情を崩したからだ。なので、秀行もニヤッとしながら小さく会釈をする。たこ焼きを一パック,八個を買った。
Re: ファイターの小説・第二部
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2017/10/19 17:59
No. 18
さて,数時間ほど過ぎた。夕時である。秀行と山田は仙台駅の地下にある和食レストランのある座敷の席で向かい合っている。二人はメニューを眺めているところだ。
「いやぁ〜、山田さんにすぐに気づかれるとは思いませんでしたよ」
秀行は少々ニヤ付きながらコップの水を一口飲む。
「何を言うとんねん,真上くん。あんたみたいな有名人にワイが気づかん訳あらへんがなっ!」
山田高志は酒が入る前から饒舌である。
山田は店員を呼び,決まった料理を注文する。秀行は海鮮丼。山田は牛タン定食を堪能するようである。それと,ビール,中ジョッキ。
「ところで,真上くん」
山田の表情は柔和に見える。
「何ですか」
秀行もいい表情で返事をする。
「真上くん〜……,魚とか,海鮮モノとかが,好きなんか?」
「えぇ,そりゃもう大好きですよ!」
即答する秀行。続ける。
「生ものの魚とか,ウニとかって,重くないじゃないですか。いっぱい食べても胃もたれしないように思うんですよ。それに,海鮮モノ特有の食感も私は大好きなんです」
「……,じゃあ,肉はどうなんや,嫌いなんかいな?」
不思議そうな顔を山田は見せる。秀行はすぐに答える。
「俺は肉は嫌いじゃないし,あてがわれたら食べますけれど。でも,肉って,重くて,すっきりしないんですよね,俺にとっては。魚の方が断然好きです……」
そう言いかけた刹那である。
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