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ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/06/23 06:37
皆さんに私から、重大な告知をしなければなりません。ついに私は決意しました。私が自分の家の印刷機で紙に刷っていた小説の第1章から第9章までを、可能な限り毎日、このズダダンに発表したいと思います!このパワプロファイターこと「タカハシユウジ」が! この小説、その名も「イーグルスの星」!
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Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/02/08 21:45 修正1回
No. 237
それからしばらくして始まった試合は、投手戦の様相を見せ、試合はこう着状態そのものであったが、二人の投手、真上秀行と白馬王子の快投は、熱気を帯び、バックネット裏のスカウト陣を唸らせ、報道陣の目をくぎ付けに。
楽天の攻撃陣は、王子の変幻自在の投球に三振の山、一方の白馬の打者たちは、秀行の決め球である「高速カーブ」に手も足も出ず、同じくバットが空を切り続ける始末。
楽天も白馬も、何か打つ手はないものか、監督・コーチ陣・選手一同は、イライラを募らせていた。
そして、六回の裏、白馬コンツェルンの攻撃。
秀行は、ゆっくりと肩を回しながらマウンドに向かい、そして投球練習に入った。球のキレはいまだ衰えていない。まだいける。見つめる先の運河捕手は、威勢よく「ナイスボール、いい球来ているぞ、その調子で頑張れ〜!」と、秀行を鼓舞。
「ウッス、ありがとうございます!」
秀行の声も軽快である。
間もなく球審から「プレイボール!」と高らかに声が上げられ、試合が再開された。ここまで、秀行は、白馬に対して出塁すら許していない。自信と誇りに満ちた表情で、バッターボックスに向かう七番打者を見やる。向こうの打者の目は死んでいない。
「いい心意気だ、抑えてやる!」
そうつぶやいで、第一球を投げた。放たれたそのボールは、直球とほぼ変わらない球速だ。しかし、そのボールは打者の手元で小さく切れ込む。カットボールである。しかも、その切れ味は鋭い。バットをへし折った。ピッチャーゴロ。秀行は難なく打球を処理すると、一塁手の雪のミットにボールを投げた。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/02/08 21:47
No. 238
アウト!
塁審の高い声に、楽天のベンチは沸き、白馬は沈黙。次の八番は、三振に倒れ、そして、九番の投手が右打席に入る。彼、白馬王子である。
「……、白馬王子、よし、また抑えてやろう」
運河捕手がバンバンとミットを拳で叩き、秀行を盛り立てる。秀行は、再び兜の緒を締めた。
サインを交換する。運河がうなずいたあと、秀行もうんと、首を振る。そして、第一球。球筋のいい直球。内角の低め、ギリギリ。白馬王子、この試合で、この球に手が出ていない。しかし。
何だと!? と、秀行は思わず叫んだ。ちょっと鈍い音を響かせた打球は、ふらふらと、ライト線に流され、島内が懸命に追いつかんとダッシュする。島内は決死のダイビングキャッチを試みる。
「島内さん!」
秀行は、祈るように右翼手・島内を見つめる。しかし、ボールは転々と、後ろに転がって行ってしまった。三塁打。ユニフォームを土で汚した白馬は、快い顔を浮かべ、右手を握りしめる。
「……、まさか、王子がここまでバットコントロールが良いとは……」
秀行は思わず、ぽつりとそう。
二死三塁の状況になり、内野陣が集まった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/08/06 20:06
No. 239
秀行は張り詰め顔つきで、ただ、口をつぐんでいる。右手に持つ、つい先ほど送られてきたボールを見つめるのみ。集まった捕手の運河、一塁手の雪、二塁手の木村、ショートの西田、声をかけようにもかけられず。これぞ、気まず空気というものである。
だが、しばらくしてから、この男が口を開いた。
「秀行……、なんだかいい表情しているな〜」
「岩村さん……!?」
秀行は、目の前にいるニヤッとした顔つきをした岩村に少々驚きを隠せない。だがしかし、話の続きを聞くことにする。
「秀行、お前はいつもピンチを迎えるとな〜、人一番張り詰めた顔をするが、やっぱりピッチャーの本能なんだろうな、サードの俺も、ひしひしと感じるよ、野球人としての本能なのかな?」
秀行は、ただ、ぽかんとするのみ。けれども、それでも続きが気になる。
「秀行よ、それだけ、お前は野球に対して真摯で、誠実で、真面目だということだ。だがな、少々打たれようが、失敗しようが、それを乗り越えられれば、本当に誠実だということだぞ、分かるな?」
その刹那、運河が口を開いた。
「なぁ、秀行、この際な〜、一点ぐらいは仕方ねぇよ。アウトをな、一つ一つ取っていくぞ、な?」
そして、次々と。
「それもそうでござる、秀行殿、バックには拙者たちついているでござる。思いっきり投げるでござる!」
と、快活に木村。
「そうだよ、木村の言うとおりだ。俺も、しっかり守るからよっ!」
と、頼もしげに西田。
「秀行く〜ん、ワタシの守備をなめちゃいけないわよっ」
と、ファースト・ミットを秀行の方に軽く叩き、雪。
秀行は、少しだけ力が抜けたように感じた。ちょっと、ふふっ、と笑みがこぼれる。
「……、よしっ、一人ずつ、いや、残りアウト一つ、取っていきましょう、ありがとうございました!」
この秀行の声は力強かった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/08/06 20:08
No. 240
皆が持ち場に戻り、プレーが再開。相手は、白馬の切り込み隊長である。左打席に入った。オリックス時代のイチロー選手を彷彿とさせるような振り子打法である。秀行は、内角低めのカットボールとサインした。引っ張らせて詰まらせる。一球で仕留めようという算段だ。運河は了承インローに構えた。そして、秀行、渾身の一球。しかし。
すっかりと狙い済ましていたかのように、その一番打者は、柔らかいバットさばきでカットボールを救い上げ、センターにはじき返した。低弾道の、鋭い打球である。藤原は、必死に取らんが為に、もうダッシュ。そして、ダイビング。すれすれだ。球際だ。秀行ほか、場内の皆は固唾をのむ。さぁ……。
直後、藤原は、慌てて後ろにテンテンと転がる球を追いかけていく。もちろん、三塁ランナーの王子はホームイン。打者走者は、二塁に到達。白馬ナインは、狂喜乱舞。そして、まず、この初老の執事が打席に入る。瀬馬洲茶養老(せばすちゃん・ようろう)である。
現在、スコアは1-0と、白馬コンツェルンのリード。二死二塁。右打席にたつ養老からは、温厚そうな顔つきからは想像もできないほどの闘志がみなぎっているように、秀行には感じられた。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/08/17 22:42
No. 241
秀行は、思わずちらっと白馬コンツェルンのベンチを見やる。豪打の猛者である猪瀬が、腕組みをしながら、でん、と座っている。そんな彼から放たれる威圧感は、波動の様に周りに座る白馬の選手達にも緊張感を与えているようにも感じられる。実際に、秀行には、猪瀬の周りの選手達の顔つきがガチガチになっているように見えている。秀行の額に、タラリ、と冷汗。その刹那であった。
バンバンバンッ! というミットを叩く音がした。運河が必死そうに気合を入れているようだ。秀行は、あぁ、と小さく呟いて我に返る。目の前の打者を一人ずつ抑えなければならない。猪瀬のことは、まだ早い。
秀行はセット・ポジションになり、養老を見やったあと、運河捕手のサインを確認する。内角低めに入るカットボールを投げろ、ということだ。秀行の制球力をとても信頼しているという証である。秀行、ちょっとにやりと。そして、うなずく、珍しくも。そして、一応二塁走者を見やる。その彼、確かに足は速いが、三塁を陥れることができるほどではない。つまり、盗塁は無い、と秀行は判断。それから少し、息をふぅ、と吐いた後、クイックをほどほどに、バランスの良いきれいなフォームで投げた。しかし。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/08/17 22:45 修正1回
No. 242
走者が、走った。養老が、打った。三塁線に痛烈なラインドライブ。
秀行は、三塁を守る岩村の方に思わず振り向く。祈るように。岩村は、必死の横っ飛びを。だが、それをあざ笑うように、その速い打球はレフトのフェアゾーンに入って行った。白馬にもう一点が追加され、二塁上にヘッドスライディングで到達した養老は、手を叩き、笑む。
それからの三番には、粘られた上、痛恨の四球。そしてついに、猪瀬が、ネクスト・バッターズ・サークルで、ゆったりと最後の素振りを終えた後、のそりのそりと、右打席に向かって来た。一方の秀行はというと、頭に血が上っているかのような形相であった。そして、つぶやく。「猪瀬と五番を三振でぶった切ってやる……」
その直後であった。木本、ゆっくりと立ち上がり、審判に何かを告げる。秀行は、もしや、と思い、運河の方を振り向く。運河は、うなだれるように首をよこに振っていた。それから、内野陣が集まり、新固コーチからねぎらわれた後、歯ぎしりをしながら秀行はマウンドを降り、ベンチに帰った途端、グラブを叩きつけた。そう、屈辱だ。しかも、そんな彼に更に襲い掛かるように、教育リーグ試合の時に言われた河田捕手のあの言葉が脳裏に過る……。
少しは人の話に耳を傾けることも重要なんだ。自分だけが正しいと思うな。
秀行、目頭が熱くなるのみであった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/08/17 22:47 修正3回
No. 243
第三十章・後篇
それから数日が経った後のことである。一軍の楽天イーグルスはというと、頑張っているのは、新人王候補の川又宗助と、その他、松井稼頭央、そして、正捕手の嶋、新外国人のジョーンズ、マギーなどで、二位を伺い、首位争いに入れるか、というところまで来ていたが、ここにきて、問題が発生していた。星野監督は、監督室の椅子に座りながら、ただ、悩みに暮れて、ぶつぶつと。
「まさか、こんな大事な時に……、塩見と、更に美馬まで肩肘を痛めてしまうとは……、とんだ災難や……」
星野仙一は、頭を抱えたまま、椅子から立ち上がり、うろうろし始める。
「誰か、ローテの谷間のやつとか、それとも、二軍で誰か、生きのいいやつはおらんのか……」
星野は、カレンダーを見やる。あと二日後、二位の西武と相対する。場所は西武ドームだ。
「西武の打線は強力や……、ウチの今の投手力で勝ち目はあるやろか……」
それもそうである。「おかわりくん」と呼ばれて恐れられているホームランバッターの中村剛也とか、勝負強い浅村栄斗、そして更に、チームリーダであり、精神的支柱でもある、ベテランスラッガー、坂本亮(さかもと・りょう)三十六歳などで、強力打線が敷かれているのだ。そんな西武にたいして、危機的な状況にある投手陣を抱える楽天に勝ち目はあるだろうか……。星野は思案に暮れざるを得ない。そんな時であった。ドアがノックされた。失礼しますと声が聞こえる。佐藤投手コーチだ。
「どうぞ」
と星野。
「失礼します」
と佐藤。
「要件はなんや?」
「監督、一応報告ですが……」
「なんや、藪から棒に、はっきりとせいっ!」
「真上秀行、が、ですね……」
「秀行に何かあったんか!?」
思わず星野は、目を丸くする。
「先のイースタンリーグでの、横浜DeNA戦で、三回無失点の快投をいたしまして」
「よし、決まった!」
大声で、星野。佐藤はのけぞった。
「秀行を、二日後の西武戦にぶつけるっ!」
佐藤は、仰天した後、いさめようとしたが、星野の意思は固かった。その後にその報せを聞いた秀行にとっては、実に晴天の霹靂なことであったが、気合が一段と入った出来事でもあったという。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/08/17 22:50
No. 244
第三十章終了はこれで終わりです。
お読みいただき、ありがとうございました。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/10/27 16:03
No. 245
第三十一章
秀行の記念すべき一軍での初登板が終わった後の深夜の空からは、しとしとと雨は降り始めていた。それもそうである。何せ、梅雨なのだから。しかも、関東は埼玉の梅雨は、夜とはいえども蒸されるほどの暑さである。
ところで、秀行は、所沢のとあるホテルの一室のベッドで寝ていた。……、いや、厳密に言えば、うなされていたといっても過言ではあるまい。枕は、涙で濡れている。これはこれは、よほど泣いたということだ。……、そうこうしているうちに、秀行はハッと目を覚ました。バッと勢いよく体を起こすと、すぐさまベッドから降りる。そばにあるテーブルまで向かい、ソファにのっそりと座り込む。それから、テーブルの隣に置いていたバッグから、ごそごそとノートとシャープペンを取り出し、何やら書き始めた。そして、つぶやく。
「今日の日を、二度と忘れたくない……」
秀行は、日記をつける癖などはない。ただ、日々の練習やプレーで感じたことや、学んだことをノートに記することはよくある。ただ、今という日はあまりにもショックだったので、無我夢中でシャワーを浴びたあと、すぐにベッドに横になったから、今日のことを記録することを忘れてしまったのだ。だが……、秀行の目は充血していて、顔も赤い。このような精神状態ではまともな内容を書けるはずはあるまい。実際、秀行本人は、後日談として次の様に語っているのだから。
「あのメモは……、まぁ、感情に流されたままのただの殴り書きですよ(笑)。何にも内容なんて、あったもんじゃない。ただ……、あの時は、よほど悔しかった……」
秀行は、ガリガリとノートに書き込みながら、頭の中では、この日の試合の出来事が、走馬灯のようにめぐっていた。ぽたぽたと涙を流しながら。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/11/16 15:32 修正1回
No. 246
この日の試合はナイトゲームであった。夕時に、秀行も乗ったイーグルス一軍を乗せたバスが西武ドームに着くと、待ち伏せてい沢山のファンによって選手たちがもみくちゃにされたのだが、ファン達の目当ては無論、秀行に他ならない。いつも、ファンの視線を多く集めていた田中将大投手や、大活躍している「魔性の男」で大卒ルーキー三塁手の川又宗助は、この日だけは影に隠れざるを得なかったのだ。
イーグルスがシートノックの時間に入ると、秀行はブルペンで投球練習を。キャッチャーは、嶋だ。秀行はいつも通りにキレのある球をビュンビュ放り、嶋は「ナイスボール!」と威勢のいい声をかける。四十球くらい投げ終えると、秀行は休憩に入り、ブルペンを後にしようとする。そこへ。「なぁ、秀行!」
「何ですか、嶋さん?」
嶋は、気さくに訊きだした。
「秀行はいつも自分だけで投球を組み立てているみたいだけどさ、今日はどうする? 俺のサインに従うのか、それとお前が中心になって組み立てるのか」
秀行は即答した。
「投球の組み立ては俺に任せてください!」
確固たる自信である。
「……、そうか、じゃあ、そうしよう。ただし、よほど切羽詰まった状況になったら俺もサインを出すからな!」
嶋も、楽天の扇のかなめとしての責任を負っている。これくらいは強く言わなければいけないのだ。
「……、そうですか、わかりました。じゃあ、今日の試合、完璧に投げて見せます!」
「威勢がいいな、じゃ、頑張れよ!」
秀行と嶋は、固く握手。
そして、直後、自分のスマートフォンに春生からメールが来ていることに気付く。たった一言、「ファイトッ!」とだけ、つづられていた。秀行、心が燃えないわけがない。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/11/16 15:35 修正1回
No. 247
それから数時間後の午後六時に、試合が始まった。西武の先発投手は野上である。一回の表、楽天は、一番の松井稼頭央がシングルヒットで出塁するも、あとが続かずに三人で攻撃が終了、電光掲示板に0が灯った。そして、西武の攻撃。秀行の出番である。
秀行は右肩を回しながら、ゆっくりとマウンドへ向かう。今日の西武ドームはいつもよりも客が多い。秀行目当ての人々が多数を占めていることを示している。秀行は、なおさら燃えた。
秀行は、一番、二番を内野ゴロ、三番の浅村をサードゴロに仕留める。その打球は、やや強く、三塁線へ抜けそうだったが、川又の好守備が際立ち、秀行と川又はハイタッチ。
「川又さん、ありがとうございます!」
「いやぁ、何、神様が真上君を助けただけさ」
いつも通り、不思議な川又である。
二回の表の楽天の攻撃は、四番のジョーンズ、五番のマギーにまわり、期待されたが、野上の緩急自在の投球で、あえなく二者連続三振となり、続く六番の指名打者である銀次もファーストゴロに仕留められた。
そして二回の裏の西武の攻撃。あの男の打席。
「四番、ファースト、坂本亮。背番号、35」
このウグイス嬢のアナウンスが終わると、場内のライオンズファンが、狂喜乱舞し、「坂本コール」が場内に響き渡る。秀行は、その彼がゆっくりと左打席に向かってくる様を見やる。そして、目が合った。鋭い視線だ。それからくる威圧感も波動のよう。武者震いがした。しかし、秀行も負けじとジッと見やる。
坂本亮が打席に入り、プレーが再開。女房役の嶋が、バンバンとミットを鳴らし、秀行を盛り立てる。サインが決まり、秀行、第一球。球筋が良く、回転のいい直球が、外角の低めに決まった。ストライクとなる。嶋は、ナイスボールと声をかける。そして、第二球を投げた。内角に切れ込むカットボールだ。これも切れがいい。しかし!
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2015/11/16 15:41 修正3回
No. 248
坂本の打球は、これを捉え、ライトへグングンと伸びてゆく。秀行は思わず「まずいっ!」と叫んだ。ライトスタンドに陣取るライオンズ応援団は、「ワァ〜!」と声をあげ、イーグルの選手たちは、ごくりと唾を飲む。果たして。
ライトを守る牧田が、フェンスギリギリ、モーニングゾーンで両手を上げて、打球をキャッチ。大飛球は、ライトフライとなった。秀行、ほっと胸を撫で下ろし、ベンチに戻る際に牧田とハイタッチ。
「ありがとうございますっ!」
「いやぁ、何、とにかく腕を振って投げろよ!」
威勢がよい牧田のかけ声だった。
それから、後続の二人も内野ゴロに仕留め、その後はこの試合、投手戦が繰り広げられ、一点が重くのしかかるような展開に。そのような調子で、八回を終えて、0-0のまま、九回を迎えた。
この回の表で楽天が点を取れば、秀行に完封勝利のチャンスが訪れる。楽天応援団の期待も大きかった……、のだが。西武の中継ぎ投手である十亀の威力ある直球に押され、楽天はまたしても点を取れず。そのまま九回の裏へ。楽天ベンチの空気は重くなるばかり。秀行に更なる重いプレッシャーがのしかかる。何せ、ゴールデンルーキーの初陣である。野手陣にはただでさえズシッとした重圧があるのに、点が取れないとなると、申し訳ない雰囲気がベンチに広がる。秀行自身も、この試合を粋に感じながらも、期待を込める世間の視線もあり、そし春生からもメールで声援を送られているのだ。当然重圧がある。ただ、秀行は、そのような自分に気合をいれ、九回裏のマウンドへ向かう。西武に回る打順は、二番、三番、そして四番「坂本亮」だ。
「二番、レフト、栗山巧。背番号1」
ウグイス嬢が、二番打者の名前をコールした。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2016/02/05 20:57
No. 249
第三十二章
秀行は,ゆっくりと素振りをしながら左打席に立った栗山をじっと見やる。彼からは相当の闘志があると,秀行はそう感じ,自らも気を引き締める。その直後,球審は「プレイッ!」と宣告し,試合が再開された。
キャッチャーの嶋は外角にミットを構え,直球を要求。秀行はカットボールのサインを出す。しかし,嶋は尚直球のサインを出した。そんな嶋に秀行はうん,とうなずき,大きく振りかぶって第一球を投じた。見事なほどに球筋のきれいなストレートが外角に正確に決まる。「ストライクッ!」という叫び声が審判から発せられた。秀行,自信をのぞかせる笑みを浮かべる。嶋は,「ナイスボールッ!」と秀行を褒め,再び外角に構え,直球を要求。嶋という捕手は,外角攻めを好み,得意としていることで有名だ。そんな彼らしい配球だと言える。無論,秀行もそれを知っている。うなずいた。第二球,これまたスピンの効いた直球だ。栗山は手を出した。彼の絶妙なバット・コントールにより流された打球は,レフト線を飛ぶ。しかし,ファールとなった。追い込んだ。そして,勝負はこれから長いものに。秀行と嶋のバッテリーによる容赦ない外角直球攻めに対し,果敢に粘る栗山。何球もカットされ,ボールも選ばれ,ついに十五球目もバットに当てられ,ファールにされた。スリーボールツーストライク。それでも嶋は,外角のストレートを要求。自分のやり方を貫く楽天の女房役である。しかし。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2016/02/05 20:59
No. 250
秀行,ついにしびれを切らしてしまった。内角のカットボールを要求し出した。そのコースにこのボールを投げることは,秀行ほどの制球力をもつ投手であれば,大丈夫かもしれないが,それでも四死球のリスクは高い。嶋は,首をかしげる。数秒の間であったが,その時間は誰にも長く感じたであろう。しかし,嶋は秀行の意思を尊重。内角にミットを構え,カットボールのサインを。秀行,うなずいた。そして,投げた。そのボールはコントロールよく栗山の内角をえぐるようにグイッと変化してゆく。が,栗山はそれを待っていたようであった。狙い済ましたように,見事なピッチャー返しを。強烈なライナーが,秀行の右肩にぶつかった。
苦しそうな顔を浮かべ,崩れこむ秀行の周りに,嶋他,内野陣が集まる。二塁手の藤田が,「大丈夫か!?」と声を掛け,一塁を守るマギー他,川又,松井,そして捕手の嶋も不安げな表情。その直後,秀行はいったん,トレーナーと共に,ベンチ裏に。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2016/02/05 21:02
No. 251
応急措置を受けながらも秀行は,投げる気持ちが満々であった。トレーナーは,心配そうな顔を浮かべている。
「秀行,何もそんなに気を張って投げようと思わなくてもいいのに……」
しかし,秀行は自制を促すそんな彼に対して,作り笑いを浮かべながらこう。
「心配いりませんよ,この試合,俺が投げ切って勝利に導きますよ!」
しかし,一向に腫れは引かず,秀行のやせ我慢は見てとるように分かるのだった。再びトレーナーは彼をいさめる。ただ,秀行という男,一度投げると言ったら聞かない。何せ,緊急なので,ブルペンで用意しているリリーフ投手はいない状態だ。いや,今先ほど小山と青山がいそいそと準備に入った所で,投手交代が現実味を帯びてきているところ。それでも秀行は……。
しばらく経って,秀行がマウンド上に戻ってきた。球場内の観客たちから拍手喝采。秀行は右肩をぐるぐる回してアピールする。佐藤投手コーチ同伴で確認のための投球練習を二,三度。その後,プレイが再開。三番の浅村が右打席に入った。だが,秀行の右肩はいまだにジンジンと痛んでいたのだった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2016/02/06 22:01 修正1回
No. 252
第三十三章
第一球目から,コントロールと球の質が落ちていることは明らかであった。投げたその球はツーシーム。威力も切れも乏しいそれは,真ん中内よりに入ってくる。強打者である浅村にとって,当然のこと打ちやすい球である。シャープなスイングで打ち返されたそのボールは,センターを超え,二塁打に。場内の観客はどよめき,西武ベンチは歓喜に沸き,楽天方は,守りについている選手達や,ベンチにいる選手,コーチたちも重苦しい空気に支配され始めた。特に,投げている方の秀行は尚更。厳しい表情だ。冷汗が額に流れる。そして,秀行は西武ベンチからゆっくりと素振りをしながら左打席に入った坂本亮に目を向ける。彼から発せられる威圧的なオーラは,まるで波動のように秀行には感じた。それも,最近プロアマ交流戦で相対した白馬コンツェルンの猪瀬のそれを,はるかにしのぐように思えるほど,鳥肌がたつ程に。だが,投げると言ったのは自分だ。責任を取らないといけない。まず,目の前にいる坂本,そし後続を抑え,延長線に持っていかなければならない。チームのために。及び腰になるのは秀行の矜持に反する。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2016/02/06 22:03 修正3回
No. 253
嶋のサインを確認する。外角の直球だ。ボール気味に構えられている。秀行は首を縦に振った。そして,セットポジションから第一球。棒球に近い。それもややストライクゾーンに入ってきた。打ち頃である。坂本は豪快に打ち返した。が,少しタイミングが早かったからだろうか,ライトポールの右にわずかに切れ込んでファールに。ざわめく観客たち。秀行と嶋は束の間にホッとする。
第二球目は,これも外角で,ややストライクゾーンに入るか入らないかのコースに投げるサークルチェンジのサインだ。秀行は,うん,とうなずき,投げる。ややボールに外れ気味に。坂本は見送った。判定は勿論ボール。第三球目は外角に逃げるツーシームを投げ,坂本は流し方向にファールを打ち,ワンボール・ツーストライクに。秀行が追い込んだ形に。嶋はここで,外角のサークルチェンジをストライクゾーンぎりぎりの外角に構えた。緩急をつけて空振りを誘おうという訳だ。しかし。秀行はそれに納得しなかった。
秀行は,高速カーブのサインを。明らかに秀行は頭に血が上っている様で,冷静さに欠けているのは明らか。秀行の一番の武器で三振を取りたいという気持ちが表情から分かるが,肩の状態もある。もしすっぽ抜けて真ん中に入ったらいっかんの終わりである。嶋は間を嫌うようにマウンドに駆け寄った。
「秀行,気は確かなのか!?」
開口一番にそのようなことを言わざるを得ないのは仕方のないことだ。だが,秀行のことである。
「嶋さん,俺は大丈夫ですので。俺の高速カーブの方が空振りをとる確率が高いんです」
「しかし,秀行,肩の方はどうなんだよ?」
「投げているうちに痛みはだんだん引いてきましたから,問題はありません」
嶋は,しばらく無言で悩み考え込んだ。
「……,そうか,分かった。しっかりと腕を振るんだぞ」
そういった後,嶋は持ち場に戻り,内角に高速カーブのサインを出した。ニヤリとする秀行。セットポジションから腕を目いっぱい振って,投げた。しかし,その球はやはり,いつものキレには程遠く,変化も小さかった。坂本には,簡単すぎる球に。そして……。
試合直後,秀行は案の定,監督から二軍行きを命じられた。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2016/02/07 14:03 修正1回
No. 254
第三十四章
秀行が坂本亮にサヨナラホームランを打たれ,負けてしまったあの日以後のことである。今の秀行の気分は,まるで体全体に大きな岩がズシッとのしかかっているかのようなもの。スポーツ新聞各紙には,「お粗末」となじられ,星野監督をはじめ,一軍の首脳陣からは大変不評を買われた。そう,特に星野からは「お前の投球はワンマンが過ぎる。下の方でしばらく考えてこい」とのこと。だが,秀行を本当に苛んでいたのは,別にある。河田捕手の「自分だけが正しいと思うな」という言葉である。それが,秀行に胸をえぐるかのような痛みに似た苦しみを与えていた。
秀行はあの日以来,誰とも会いたくはないと思いながら,日々を過ごすことに。二軍の全体練習の時以外の時間は一人でいることが多くなり,一人しくしくと泣くことがあれば,物に当たることもしばしばあった。藤原や原田たちとも会って話をすることも避けるように。春生からのメールにさえも,返信できずじまいに。そして,この日の練習が終わった後も,夜に寮の自分の部屋でぽつねんと。ベッドで泣き寝入るように。そのような時のことであった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2016/02/07 14:06 修正1回
No. 255
コンコンコン
誰かがノックをした。
「どなたですか?」
秀行は死んだ目をしながら振り向き,尋ねる。
「俺だ,岩村だ」
「岩村さん!?」
秀行は少し驚き,慌ててドアを開けた。岩村が入ってくる。
「秀行,ちょっとお前と話がしたくなってな」
岩村は,いつも踊り柔和な表情を浮かべながらテーブルの前の座布団にあぐらをかく。
「それと,お前,最近悩んでいるようだから,相談に乗っても良いぞ」
「岩村さん……」
秀行は,岩村に面と向かって,ここ最近思っていること,悩んでいることを目いっぱいに話し続けた。それらに誠実に自分の考えを交ながら励まし続ける岩村だ。あっという間に二時間が過ぎようとしていた。もう深夜である。
「岩村さん,こんなに相談に乗っていただきありがとうございました……」
秀行は泣きながら感謝を。
「いやいや,秀行,俺は先輩としての仕事をしたまでさ」
秀行の両肩をポンポンと叩く。だが,岩村はここで急に,心を決めたような固い表情を浮かべた。しばらく,無言の状態に。
「どうしたんですか,岩村さん……」
心配し始める秀行である。
「秀行,俺な……」
重い口を,ついに開いた。
「古巣に,戻ることになったんだ……,東京ヤクルトスワローズに」
秀行,絶句せざるを得ず,ただただ茫然と。我が耳を疑う。しかし,翌日のこと。スポーツ紙には,一面で大きく「岩村,古巣ヤクルトにトレード!」との見出しが。秀行の目からぽたぽたと涙が落ちるのみであった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2016/02/07 14:13
No. 256
三日連続で投稿をいたしました。
お読みいただきありがとうございました。
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