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ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/06/23 06:37
皆さんに私から、重大な告知をしなければなりません。ついに私は決意しました。私が自分の家の印刷機で紙に刷っていた小説の第1章から第9章までを、可能な限り毎日、このズダダンに発表したいと思います!このパワプロファイターこと「タカハシユウジ」が! この小説、その名も「イーグルスの星」!
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Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/09/24 21:01
No. 197
一方、沢玉大学のロッカー・ルームでは、同じく、日奈子が厳しい表情を浮かべながらスターティング・オーダーを選手達に言い渡すところ。
全員そろっているわね、じゃあ、今日のオーダーを言い渡すわ、一番・セカンド、田中太郎君、二番・ショート、山田博君、三番・キャッチャー、横山優太君……
いつも日奈子は堅苦しいと、野球部全体では当たり前に言われている。が、選手達が耳打ち、ひそひそと。
なぁ……、今日の監督、いつも以上にピリピリしているぜ……。
仕方ねぇよ、今日の相手はあの真上秀行だからな……。
アイツにはもう、監督はお株を奪われてしまったからよ、相当対抗心持つのは仕方ねぇべ……。
と、そんな彼らの話が地獄耳の日奈子には聞こえてしまった。
「そこのキミ達、ヒソヒソしない、シャキッとしなさい!」
ビックリする選手達。
「すみません!」
「……、まったく、緊張感がないんだから……」
そうこうして、日奈子は今日のスタメンを全て言い終わった。そして、一呼吸おいてから、再び話を。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/09/24 21:04 修正1回
No. 198
「皆、よ〜く聞きなさい、今まで沢玉大学は大学野球界最弱だと、世の中から辛辣に言われてきたけど、私が監督に就任してから、私の野球理論によって、プレーの意識も改革されて、ハングリー精神も芽生えて、ここまで必死に練習を重ねてきた。それがここ最近の練習試合の結果に現れてきたと思います」
続く。
「そしてついに、『私の全国的な評判』にも手伝われて、二軍ながらプロ球団と胸を突き合わせることになりましたね、しかも……」
ここから語気と怒気が徐々に。さらに続く。
「今日の相手の先発はアイツなんだから……、アイツのせいで私のフィーバーが……、う〜、許さん許さん許さ〜ん!」
ついに叫んでしまった。その一部始終を聞いていた沢玉の選手たちは、再び耳打ちヒソヒソ。
あ〜あ、ついに始まった、日奈子監督は負けず嫌いだからな〜……。
真上秀行に対抗心バリバリだね〜。
秀公を踏み台にして、俺たちをさらに強くするっつーわけね……。
まーだまだ、日奈子ちゃんは子どもだね……。
だが、日奈子の地獄耳にはしっかりと入ってくるのである。
「そこのアンタたち、な〜に話してんの〜!?」
一同、おびえる始末。
「ま〜た、悪口言ったら私のパパに言いつけるからね、私がアンタたちを強くしてあげるんだから、無駄口吐かない、いいわね!?」
はい!
選手たちは気合の入った声を。
「よし、みんな、今日は真上に一泡二泡吹かせてやるわよ、さぁ、締まっていこう!」
再び選手達から威勢のいい声が出された、特に日奈子の気合はビンビンなのであった。メガネをくいっと。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/09/24 21:06
No. 199
午後一時半近く。ウグイス嬢から両軍のオーダーが発表され、場内のボルテージが高く高く。そして、秀行の名前が出てきた途端、さらにさらに。
秀行は、岩村とキャッチボールを。その最中、岩村から一声が。
「秀行、正直お前が羨ましいよ、俺にもそんな時があったけどな……」
ちょっと岩村は苦笑い。
「岩村さん……、岩村さんもこれからきっと復活することを俺は信じています、今日は頑張りましょう!」
頼もしい声である。
「……、そうだな……、俺も、自分のバットでお前を援護するって約束したしな、よし、任せてくれ、ホームラン打ってやる!」
後攻めの楽天は、持ち場に散っていく。始球式が行われた、地元自治体の長がノーバウンドの投球を披露すると、場内から拍手喝采。
秀行が小走りでマウンドに登る。そしてあたりをこの目でグルっと。すると、内野席に目が留まった、春生がいた。目があった。彼女が自分に手を振っているところが見え、秀行には気合が。
最後の投球練習、新固コーチがついて、秀行を見守る、最後の言葉、「秀行、今日もばっちりだにゃ〜、頑張って初陣を飾るんだにゃ〜!」
「うっす、気合入れます!」
今の秀行、はつらつとしている。そして、18、44メートル先にしゃがむ運河のミットをじっと見つめた。打者がバッターボックスに入り、主審から「プレイボール」と甲高く。そんなときだった。
厚く暗い曇り空から、ぽつ、ぽつ、ぽつ……、と。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/09/24 21:08
No. 200
お読みいただき、ありがとうございました!
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/10/29 21:54
No. 201
第二十七章
雨がにわかに降り始めたこの試合、下馬評では楽天が序盤で大量リードするものと思われていたが、意外と沢玉もやるものだな、と観客に思わせるほど拮抗したものであった。三回の表裏まで0−0、投手戦である。
そして、四回の表、楽天選手たちが守備位置に向かう際、マウンドの向かおうとしていた秀行に、藤原が近づいていて来てこう。
「日奈子ちゃんのチーム、意外とやるでありんすね、けれどもこれからが勝負でありんす、秀行くんも頑張れでありんす〜!」
秀行も、快活に。
「あぁ、ズバズバとキリキリ舞いにしてやるよ!」
それを聞いた藤原はニヤッとして、秀行とタッチを交わした後、センターの守備位置に走って行った、雨に当たって、ぴちゃぴちゃと音をたてながら。
試合開始直後から分厚い雲が降らせ始めたそれは、徐々に大粒になり、強くなっていた。秀行は、ちょっと回想を。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/10/29 21:57
No. 202
小学生五年生の頃、リトルリーグの強豪チームとの練習試合、それは初めて秀行が投手として試合に先発登板した日、雨が降っていた。それも、今と同じように徐々に強くなり、いったんは試合が中断するほど。だが、その試合、母と春生が応援に駆けつけていたので、燃えに燃えて、燃えて。正のミットめがけて腕を目いっぱい振ったら、完封勝利を収めてしまった。試合が終わって球場から引き揚げるとき、春生と母が駆けつけてきて、目いっぱい祝福されたこと、それは今もいい思い出である。特に母のあの笑顔、今はもう見ることができない、貴重な貴重な。
二つ目は、中学二年のころ、母の葬儀の日。しとしとと雨が降り始めていた時、喪服を着た親戚、知人などが、参列。秀行と正も悲壮な顔をしつつ。だが、悲しかった理由はそれだけではなかった。父、吉良が来なかった、いくら待っても、待っても。刻々と葬儀の時間が近くなってきて、秀行の心には悲しみから怒りの念が沸々と。怒りの涙。そんな秀行には、葬儀中ずっと、それが止まらなかった。雨は徐々に強くなり、そして、天から、雷鳴。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/11/07 23:00
No. 203
一方、沢玉のベンチで円陣が組まれていた。
日奈子は、周囲の沢玉ナイン言い聞かせるように講じた対策を伝えている。厳しい表情で。そのそのような彼女の話を、選手たちは真剣な面持ちで聴いた、そして最後に、体育会系らしい気合の入った声を出し、攻撃の準備を。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/11/07 23:02
No. 204
さて、ここまでの秀行のピッチングは、実に当たり前とも思われながらも、快調そのもの。女房役を務めている運河とのいきもばっちりそのものである。ここまでの沢玉打線は、秀行の変化球と直球に全然合わず、しかも、緩急をつけてくるので、なおさらクルクルとバットを振る始末。さらに、決め球のアウトローの直球にもお手上げ状態である。そんな相手に機嫌をよくした運河は、マウンド上の秀行に軽快な声を。
「秀行〜、今日も素晴らしいぞ〜、このままスムーズにいこうな〜!」
「ウッス、頑張りま〜す!」
秀行も、自分自身の投球に上機嫌だ。
数球の投球練習を終えた後、試合が再開。投手秀行、沢玉の打者は再び引き締まった顔に。運河は、カットボールのサインを、一方の秀行はサークルチェンジを。運河は即了承、右打者の内角低めに構えた。そして秀行、ゆったりながら、大きく振りかぶって第一球、投げた。ふわっとした球筋の変化をしたその球は、打者の内側に斜めに変化した、ギリギリのコースである、バッターは見送った、主審は自信を持ってすぐさジャッジ。
ストライク!
観客からは拍手喝采、ナイスコントロールと、多くの声が。だが。
「ん?」
秀行は疑問の声を思わず。それに気づいた運河は、心配そうに声をかけた。
「おい、どうした〜?」
「……、いや〜、何でもないです、気にしないでください!」
「……、そうか……、よし、どんどんこい!」
運河は内角高めのカットボールを要求、少し緩急をつける配球である。秀行は、納得して首を縦に振り、腕を鋭く振って第二球を投げた。精密機械のような秀行のコントロールにより、内角高めギリギリのコースに収まったカットボールは、今日も切れ味抜群、しかし、主審は首を横に振りながらジャッジした。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/11/07 23:04 修正1回
No. 205
秀行の一球一球に、観客席に座るすべての人々は興奮するばかり。しかし、秀行はまた首をかしげた。
「あれ……、なんだろうな……?」
また思わず口に出す。すると今度は運河も同じく疑うような表情で、打者をちらっと見た。当の沢玉のバッターは何事もなかったかのような面持ちである。考えてもキリがない、今度は同じコースにスライダーを投げた、絶妙に決まり、ストライク。しかし、秀行、運河にはだんだん不安が顔に。秀行はタイムを要求し、運河をマウンドに呼んだ。
「運河さん……、なんだか気味が悪いっすね……」
「あぁ、俺もそう思う……」
二人の声には歯切れ良さがなくなってきた。
「秀行よ、どうする、俺は配球を変えた方がいいと思うんだが……、しかし、どうすっかな……」
「決め球……、変えたいです、高速カーブをビシッと……」
「確かに、その方が打たれる心配はないな、しかし……、指と肘のスタミナ、それが心配だ、それを多投することになるからな、ただでさえ変化球を多く放っているのに……」
「運河さん、こんなことを言っちゃあ相手に失礼ですが、無名の沢玉相手に一点も取られたくありませんので、それで行きたいです!」
「……、そうか、分かった、締まっていくぞ!」
運河は右手で秀行の肩をポンッと叩き、18、44メートル先に戻って行った。そして、主審が甲高く「プレイボール!」と叫んだあと、外角低めのクサイところにミットを。サインは無論、高速カーブである。秀行は、首を縦に振り、目いっぱいに腕をしならせ、投げ込んだ。が、しかし。
ポコーン、という打球音が響き、流し方向に打球が飛んだ。初めてまともにとらえられた格好である。楽天ナイン、監督コーチ一同、観客は驚愕し、ボールの行方を追う、ライト方向に飛んだライナー性の打球は、切れるか切れないか、微妙。右翼手は懸命に追う。右翼線ギリギリに球は落ちた、一塁塁審は、すぐさま判定した。
ファール!
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/11/07 23:07
No. 206
観衆は、「おぉ〜……」と胸をなでおろすような声を。この状況を重く見た運河はマウンドへ。そして、重々しく口を開いた。
「秀行……、変化球、合わされてきているな……」
「えぇ〜……、そうですね、しかも、相手は追い込まれてからファールで粘りに粘って……」
「あぁ、最後はな……」
「はい……」
秀行は確信した顔つきで言った。
「直球に的を絞っているかもしれない……、読まれているかもですね」
「うん、更に、肘と指のスタミナを減らして、最終的には、な」
「この勝負、沢玉……、侮れませんね」
その頃、沢玉ベンチの日奈子は、「よし、動揺してる、動揺してるわね〜……」とつぶやき、ふふっと不敵な笑みを浮かべはじめていた。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/11/24 21:43
No. 207
この回、秀行は捕まった。運河は彼の肘、指のスタミナを案じて、直球を中心とした配球に変えたが、虎視眈々と狙っていた沢玉打線はそれを逃さないわけがない、基本に忠実にセンター返しを連打し、二点を先制。しかし、秀行だからこそ、「二点で済んだ」と言ってもいいかもしれない。彼の直球には伸びがあり、しかも制球力が抜群。弱小の沢玉打線では、いくら狙いを絞っていてもビッグイニングにはできないのだ。
だが、スリーアウト・チェンジとなり、マウンドから降りゆく秀行の顔には悔しさが満ち溢れていて、ベンチに帰った直後、グラブを床に、バシーン! と。ベンチを温めていた嫌名を除いた楽天ベンチには彼に近づきがたい雰囲気が、ジワジワ、ジワジワ、と。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/11/24 21:48
No. 208
そして、その裏、イーグルスの攻撃。打てない、打てない。沢玉のエースピッチャーの投球術に翻弄されていた。その投手の直球とスプリットを織り交ぜた配球に四苦八苦。しかも、低めのコントロールがめっぽういい。まるで、かつて楽天のエースとして君臨し、太平洋の向こう側、大リーガーたちの間で、「なぜか彼のスプリットは芯でとらえられない」「催眠術師のようだ」と恐れられている、あの「岩隈久志」のよう。日奈子は、短期間でこのような投手を育ててしまったのである。イーグルスの選手、首脳たちは、最初は楽観視していたが、徐々に焦りが場の空気を支配しつつあった。しかも、それに拍車をかけたのが、「秀行に負けをつけさせるわけにはいかない」という強迫観念そのものという。雨はその間、徐々に強くなっていった。
大粒のそれが、グラウンドを激しく濡らし続けるさなか、秀行は五回の表のマウンドに向かう。女房役の運河でさえもうまく声をかけることができない、そんな今の大物ルーキー投手に。マウンドに上がり、黙々と投球練習を。まだ、球威は衰えていない。が、打たれた自分がふがいない、怒りを抑えきれず、制球はバラつき、いつもの秀行ではない。そのような中、球審が「プレイボール!」と雨天の空に響かんがばかり、声高々に告げた。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/11/24 21:51 修正1回
No. 209
案の定、ノーアウトからランナーが出た。結果はセンター前ヒット。運河は即、球審に「タイム」と告げ、内野陣も秀行の周りに集まった。重い口を、まずは運河が開いた。
「秀行……、交代してもらうか? そんなら、俺から新固コーチと監督さんに伝えに行くぞ、どうする?」
すると、秀行、目を丸く、驚いたような顔を。それから屈辱を耐えしのぶような表情を浮かべはじめた。なおさら、空気は重くなる。その直後だった。岩村が神妙な顔で切り出した。
「おい、秀行……」
「なんすか、岩村さん」
すると、岩村、柔和な顔を浮かべて続けた。
「自分を信じて、精一杯投げてみな?」
「え?」
「秀行、お前は将来が豊かな選手だ、いくらこの試合で結果が出せなくても、また次にチャンスが巡ってくるよ」
さらに続ける。
「いいかい、秀行、お前はスーパースターなんだろ、だったら……、それらしく堂々としていれば良いんじゃないか?」
それを聞いた秀行、ハッとした顔を。思わず、下を向く。その直後だった。
「な〜に下向いてんのよう、秀行っ!」
雪ちゃんが笑顔で声をかけてきた。思わず秀行は振り向く。
「ユキちゃん……」
「なんだか違う意味で恥じている顔になってるわよっ、まったく、まだ19歳の坊やね、可愛いんだからっ!」
それを聞いた秀行、吹いてしまった。そして、そのまま笑い出し、周りの木村、岩村、雪、運河が笑い出し、そしてしかも、あろうことか岩尾もちょっと表情を崩した。笑い声が響き始めて、緊迫した空気が一気に変わり、まるでパァ〜ッと開けるように明るいムードが。
秀行に、キリッとした顔が戻った。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/12/31 12:43
No. 210
まさに、「ズババン!」と形容するに相応しい。ギアチェンジしたのだ、コースの隅々に全力ピッチ。もう難しいことは考えない、自信を持ってキレ抜群の球を放れば打たれないのだ。その秀行の投球に沢玉打線は一気に沈黙、三者連続空振り三振、決め球は内角低めに切れ込む高速カーブ、まさに圧巻! 秀行は軽快に駆け足でマウンドから降り行く。二塁を守る武士の末裔木村が彼の肩にグラブをポンッと。
「秀行殿、快い投球でござった、絶対に援護するでござる!」
「ありがとうございます、期待していますよ、木村さん!」
快活な秀行である。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/12/31 12:45
No. 211
五回の裏、楽天の攻撃。円陣を。木本監督はきりっとした顔で口を開いた。
「皆、よく聞いてくれ。七転コーチと話し合い、対策を立てたぞ。とにかく、直球に的を絞って好球必打するんだ、あの投手の落ちる球は確かにすばらしいが、ストレートの球威は平凡そのもの、そう、それだけを待つんだ」
そして、新固コーチも。
「おみゃ〜ら、相手投手はスプリットを多投しているからそろそろ肘のスタミナが切れてきているはずだにゃ〜、今が絶好の機会にゃ〜、頑張って反撃するんだにゃ〜!」
「そうだど〜ん、僕もそう思うんだど〜ん」
七転コーチも自信ありげな表情。
「そうだぞこの野郎共、しかも俺が見た限りでは、沢玉の守備力はあまりレベルが高くないんだこの野郎、とにかく、強い打球を打つこと心がけて塁にランナーをためて、動揺を誘うんだぞ野郎共!」
太腹コーチは興奮気味だ。
「よし、締まっていくぞ!」
その木本監督のかけ声で、イーグルスの選手たちは力強く声を。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/12/31 12:47 修正1回
No. 212
一方、観客席にいる三人、場内スタッフから配られたカッパを身にまとい固唾をのんで試合を見守っていた。
「ねぇ、朋子、それにしても……、沢玉は善戦しているわね、正直驚いていわ……!」
「そうだね、育美、でも、秀行さんたちもこれからでしょ、さっきの圧巻の奪三振ショー観たでしょ、ね!」
「そうね……、春生はどう思う?」
興奮気味の二人は春生に目を向ける。春生は「う〜ん……」と少し考えた後、口を。
「……、大丈夫、秀行が投げているんだもん、絶対勝つよ、間違いない!」
その彼女の表情は穏やかながらも、確信に溢れていた。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/12/31 12:49
No. 213
お読みいただきありがとうございました!
これで第二十七章は終わりです、皆さん、良いお年を!
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/01/26 21:35 修正1回
No. 214
第二十八章
この回の楽天の先頭打者は雪正男。彼は、ネクスト・バッターズ・サークルで一回、二回とバットを振り、そして打席に向かう。乙女な雪だが、今この時、鋭い眼光を放っていた。その雰囲気は、相手投手にも伝わっているようだった。さらに疲労を増大させられるような感覚に襲われている沢玉の先発投手。場内の誰もが、息を飲み、見守る。そして、雪は、打席に入った。主審の甲高いコールが響き渡った。
沢玉のスプリット使い、初球を。ストレートの軌道から、小さく縦に変化。スプリットだ。しかし、キレがなくなってきていた。棒球に近い。フリー・フル・スインガーの雪は、打ちたいとの衝動から、バットが出かかりそうだった、だが、監督からの指示がある、理性が働いた。内角低めに球が収まり、判定は。
ボール!
振らないで正解だった。手を出していたら、間違いなく雪の場合、サードゴロが関の山。彼は、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
ストレート狙い……、ストレート狙い、なんだから!
気を取り直し、再びマウンド上の敵に相対する。次は何が来るか。投手は大きく振りかぶって、二球目を投げた。これもスプリッターだ、再び見送る、判定は。
ストラーイク!
主審の声、更に声高く。マウンド上の投手は、しばらく肘を動かした。そして、再び雪の方に顔を向け、サインに頷く。雪にも緊張感が支配。そして、場内の雰囲気も徐々に変わってきている、誰もがそう感じている。そのような中、第三球が放られた。それは……、スプリットよりも、若干速かった。雪、思わず声を大きく。
「来た〜〜!!」
荒々しきフルスイング、バットの芯で捉えた、猛々しい打球音が、スタジアムに響き渡った。
センターへ、弾丸ライナー。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/01/26 21:37
No. 215
沢玉の守備は、太腹コーチの言うとおり、お世辞にもうまいとは言えなかった。センターのフェンスにぶつかった打球がクッション・ボールになったが、中堅手が深追いしすぎて、その処理に手間どう。テンテンテン……、跳ね返ったボールが転がっていく。脚の遅い雪だが、彼は、シメタ! と言わんばかりの表情で巨体を揺らしながら全力疾走。その足で二塁に到達。スライディング後、ぴょんぴょん跳ねた。それがまことに雪らしい。そして、ウグイス嬢から、次の打者がコールされた。
六番、サード、岩村明憲、背番号1。
場内には、大歓声が巻き起こった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/02/09 23:10
No. 216
沢玉の内野手と捕手がマウンド上に集まり、監督の日奈子も駆け足で向かった。そして、投手に何か言い聞かせている。岩村の目から見ても、相手、特に日奈子が切羽詰まっている様子が見てとれる。投手の交代はない。岩村はつぶやく。
「まともな投手はアイツしかいないのかな……、よし、打ち崩してやる!」
そしてまもなく、プレーが再開。
相手投手は、ものすごく疲労感を顔に表している。汗はダラダラ、肩で息を。捕手は、まるで「思いっきって目いっぱい投げろ」と言わんばかりにバンバンとミットを叩くが、その音の間隔は、とても短い。扇のかなめがそんな調子だから、守備陣のおどおどしている様子も、打席の岩村には十分感じ取れていた。
そして間もなく、投手はうん、と、うなずき、第一球を投げた。しかし、なんと指にボールがかからずにすっぽ抜けてしまった。高めに大きく外れた。岩村は目でボールを追い、捕手が捕れず、慌てふためいて転がるボールを追いかけるのを確認、すぐさま二塁の雪に向かってぐるぐる腕を回した。
「走れ、走れ〜!」
雪はドスドスと、懸命に三塁までいちもくさんに走った。びちゃびちゃとグラウンドの水をはじきながら。一方、キャッチャーは、ようやく捕球して三塁へ全力送球。まるで矢のようだ。交錯。ギリギリのタイミングだ。判定は。
セーフ、セーフ!
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