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ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/06/23 06:37
皆さんに私から、重大な告知をしなければなりません。ついに私は決意しました。私が自分の家の印刷機で紙に刷っていた小説の第1章から第9章までを、可能な限り毎日、このズダダンに発表したいと思います!このパワプロファイターこと「タカハシユウジ」が! この小説、その名も「イーグルスの星」!
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Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/07 18:46
No. 117
第十四章 後編
秀行は回想していた。それは彼が小学5年生のころにさかのぼる。放課後、秀行と春生は一緒に下校しようとしていた。いつものように、たわいもないことをしゃべりながら帰り道を歩くのがいつもの日課の一つだ。二人は校門を出ようとしていた、その時、悲鳴にも似た大声が二人の耳に入った。二人は驚いた。
「秀行、何だろう? 今の」
「俺もわかんない。凄い悲鳴だったぞ?」
二人は不安な気持ちになり、おそるおそる聞こえた場所へと向かっていった。そして、そこに着いた途端、2人は声を失うほどに驚愕してしまった。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/07 18:48
No. 118
悲鳴を発したのは、秀行の友人だった。彼は、数人の男子に殴る蹴るを繰り返されていたのだ。それを見ただけでも秀行と春生は息を飲んだのに、さらなる信じられない光景を目の当たりにしてしまった。
そいつはリーダー格であった。彼はこんなことを言った。
「おい、てめぇ。これを飲めよ?」
すると周りの子分も「そうだそうだ!」とせせら笑いを浮かべながら同調する。いじめられている子は身震いするしかなかった。しかし、抵抗すると、また鉄拳を浴びせられる。従うしかなかった。彼は「泥水」を飲ませられたのだ。
秀行は、気が付いたら走り出していた。友人と、いじめグループのもとへと。やめろっ! 俺の友達に何するんだ! 秀行は叫んだ。
いじめグループは、秀行を見た途端に腰を引かせながら逃げて行った。野球部のエースで4番の秀行には喧嘩では太刀打ちできないからである。
秀行は、すぐに介抱して、職員室へと向かった。友人は泣きじゃくっていた。春生もついていく。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/07 18:50
No. 119
先生たちはまだ仕事をしていた。秀行と春生は「失礼します」とあいさつした後、担任のもとへ。いじめの報告を行い、秀行と春生に促され友人は、声を突っ返しながら経緯を説明した。しかし、当の担任教師は横柄な態度をとった。そして、とんでもない言葉を吐いたのだった。
「いじめられたお前が悪いんだよ、もう遅いから帰りなさい!」
その教師は、じつは府内でも名の通った「人権派・同和推進派教師」である。3人は放心するしかなかった。
秀行と春生、友人の3人で帰ることに。しかし、足取りは重い。当然口も重くなる。秀行は必死に励ましの言葉を探した。すると、友人は、重い口を開いた。
「部落って、最低だな」
秀行は凍りつく思いを抱いた。それ以降、秀行と彼は、一切言葉を交わさなくなった。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/07 18:52
No. 120
秀行は帰宅すると、母はすでに夕飯の支度をしていて、弟の正は本を読んでいた。
「ただいま……」
そう、力ない声でいうと、母は「お帰り。どうしたの? 元気ないわねぇ……」と心配そうに口にした。正もそのような感じだった。
「いや……、何も」
秀行はこらえるように返すと、ちょうど吉良が帰宅した。
「ただいま」
「お帰りなさい、あなた」
母は親しみを込めた言葉を送ったが、吉良はそっけない。秀行はそんな父をいつも許せない気持ちで見ていた。そして、開口一番言い放った。
「お父さん、今日はちゃんと『仕事』したの?」
そう言った途端、あたりの空気はどんより静まり返った。吉良は何も言い返さない。秀行は更に攻めた。
「まさか、今日も出張? どんな仕事したの?」
すると、頭に血が上った吉良は、血相を変えて言い放った。
「カラ出張の何が悪い!? 俺は自分の会社を経営するのに忙しいんだ!!」
秀行は信じられなかった。そして沸々と怒りがわいてくる。母は、そんな二人をなだめに仲介に入った。
「二人とも、よして! よして!」
吉良は、地方公務員を務めながら、建設会社を経営している。だから、どちらかというと自分の会社の経営の方が忙しく、大事なのだ。
秀行はその時、確信的に悟ったのだった。
このままでは部落はますます差別される……。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/07 18:54
No. 121
これで第14章は終わりです。皆さん、お読みいただきありがとうございました。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/21 16:21
No. 122
第十五章
藤原と原田は必死になって秀行に呼びかけていた。肩をゆすりながら。
「秀行くん、秀行くん」
「どうしたの〜? 秀行く〜ん」
秀行はハッと我に返った。
「……、二人とも、ごめん」
原田は「何で謝るの?」と、怪訝な表情で訊くと、秀行は「あ、いや、うん」とあいまいな返しをした。
「あまり引きずるのもいけないでありんす」
藤原は心配そうな表情だ。
「そうだよな……」
秀行は、その藤原の言葉で少し気分が楽になった。
次の日の朝のこと。三人は朝食をとりながら、何気ない話を咲かせている。すると、隣から、ヒソヒソ話が聞こえてきた。秀行たちは、何だろう? と思いながら聞き耳を立てた。
なぁ、岩村さんがよ〜、今年の戦力外の筆頭候補らしいぜ〜
えぇ!? 俺じゃないんだ。ヨカッタ〜
何のんきなこと言ってるんだお前はよ……
三人は、驚愕と不安に満ちた表情を浮かべざるを得なかった。
「聞いたでありんすか?」
「あぁ、聞いた」
「他の人たちは気付いていないようでありんすが」
「岩村さん、どうなっちゃうんだろう〜」
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/21 16:24 修正1回
No. 123
シート打撃の時間になった。今回も秀行は岩村と当たることになった。今日の秀行の相手の打者は、岡島、稲田、藤田、そして岩村である。秀行は、持前の制球力、ノビ抜群の直球、多彩な変化球で、三人をメッタ切りしてのけた。ベンチで見ている新固コーチと、木本監督はホクホクした顔をしている。そして、岩村と相対する。
「ウッス、岩村さん!」
「おう、秀行! 今日もよろしく頼むぞ!」
第一球、ゆったりとした球持ちのいいフォームから外角低めに直球を投げた。今日の秀行は、好調の極みである。いつにもまして、ストレートにスピンがきいている。打者の手元で勢いよく伸びてくるのだ。岩村は差し込まれてしまい、ショートへのポップフライを打ち上げた。
「あちゃ〜、やってしまったぜ!」
岩村は苦笑いしながら気を取り直す。
第二球は、伝家の宝刀、高速カーブだ。通常のカーブよりも10〜15キロぐらい速く、打者の手元での切れ味が鋭い。それは、外角のボールコースからストライクゾーンに切れ込んできた。岩村は待ってましたとばかりに、腰を最大に回転させてフルスイング。しかし、空振りした。
第三球はムービング・ファースト。微妙に変化をする特殊な直球である。打者の芯を外すのに有効な球だ。外角である。岩村はうまく対応しようと払うように軽打した。しかし、セカンドゴロ。
「秀行、今日もいいにゃ〜」
「ああそうだな。今日も順調なようだ」
木本と新固は機嫌よく話した。
第四球はツーシームだ。内角低めに投げ込んだ。この球もバットの芯を外すための直球である。小さくシンカー気味に変化する。岩村は思い切って引っ張ったが高いバウンドのファーストゴロ。
そして、第五球目はスライダー。秀行は外角高めに投げようとした。しかし……。
「あっ、しまった!」
秀行は思わず叫んだ。ど真ん中の失投である。
「もらっだぜ!」
岩村はバットのヘッドをしならせてフルスイング。打球は右中間を鋭く破って行った。だが、岩村は浮かない顔をしたのだった。何故なら、今の球は「さく越えにするべき球」だったからだ。秀行は、ホッとするというよりも、岩村の衰えに心を痛めた。
この日の秀行と岩村の対戦は合計二十球。安打性の打球はたったの一球だけに終わった。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/21 16:27
No. 124
今日の練習メニューが終わり、しばらくして、のどが渇いた秀行は自販機のもとへ向かっていた。
すると、向かいに岩村がやってきた。秀行は思わず「あっ!」と声に。岩村も、少しばかり驚いて「おぉ〜」と。
秀行は今朝のヒソヒソ話を思いだした。もしかすると、岩村さんがいなくなるのかなぁ……。自然と浮かない顔をしてしまう。それに岩村が気付いた。
「どうしたんだ? 秀行」
秀行は気が動転した。
「あっ、いや、その……」
「なんなんだよ?」
岩村は苦笑した。
秀行は、何を話せばいいか思案した。
「なんだ? いつも歯切れがいいお前らしくないぞ? どうしたんだ?」
岩村は心配そうに見つめる。秀行は、思い切った。
「岩村さん……、行かないでください」
「え?」
「いなくならないでください!」
岩村は察した。そして、秀行の両肩にポンと手を乗せる。
「バカ野郎……。今のままで俺が終わるわけがないだろうが。まぁ見ていろ。もう一花咲かせてみせるぜ!」
秀行は、その言葉を聞いた瞬間、涙腺が崩壊した。岩村はそんな彼の頭をただただ撫でるしかなかった。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/21 16:29
No. 125
第十五章はこれで終わりです。ありがとうございました。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/29 21:37
No. 126
第十六章
久米島でのキャンプも残りわずかなったイーグルス。一軍、二軍とも紅白戦は計三回をこなし、選手達もだいぶ仕上がってきた。そして今日は北海道日本ハムファイターズとの練習試合である。とはいっても二軍同士の試合だが……。この試合は底良辺野野球場(そこらへんの・やきゅうじょう)ですることに。ちなみに今日の試合では秀行の先発予定はない。中継ぎで一イニング投げろ、と監督から言い渡されているのだ。この球場の近くには浜辺がある。南国特有の潮風が爽やかで、夏になると、澄んだスカイブルーの海を目当てに海水浴に来る観光客がぞろぞろとやってくるのだ。
さて、秀行たち二軍は日ハムより先に球場に着くと、準備体操をしてから早速ランニングを始める。選手たちのかけ声が球場全体に広がっていく。早くから席をとっていた観客がその一挙手一投足に注目していた。でも、今日の試合は二軍同士の試合なのに、なぜか内野の観客席と外野の芝生席が混んでいる。イーグルス一同は不思議に思っていた。
「ねぇねぇ、秀行君。キミ目当てと言っても、こんなに早くから混んでいるなんて不思議でありんすねぇ〜」
と、藤原は隣の秀行に疑問符を投げかける。
「それもそうだよな。今日の盛況ぶりは一軍並みだぞ?」
「緊張するよ〜。僕が登板することになったら……」
「それはねぇよ!」
緊張しておどおどしているそんな原田の肩にチョップしたのは三田である。
「育成選手で多汗・過敏症、しかも四球病のお前なんかに登板機会なんかあるわけないだろ」
「ひゃん! ごめんなさいです〜!」
すると、今度は木村が口を開いた。
「原田殿、恐れることはあってはならぬぞ! そなたには剛速球があるであろう」
至極正論だと秀行は思った。そうですね。原田君にも長所があるんですから、と原田をフォローした。その間、雪は四番を任されたことが嬉しくてルンルン気分で巨体を揺らしながら走り、岩尾は秀行たちの話には全然関心が無いようだったのである。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/29 21:40
No. 127
そうこうして、午後に。野手は打撃練習、投手は投球練習の時間になった。日ハムの選手たちはちょうど、バスから降りて、球場入りしたところだ。すると突然、観客たちが大きな歓声。狂喜乱舞。楽天の選手達は何事かと振り向くと、ファイターズの選手の中に「あのスター選手」が混じっているではないか。その名も、「伊東健(いとう・けん)・二十六歳」一軍で一番を任されている看板選手だ。ただでさえハンサムな顔をしているのにセミロングの黒髪がなびく様子は、女性ファンの心を射抜くのである。観客席からは、「ケンく〜ん! けんく〜ん!」と黄色い声援が響いてくるが、当の本人はいたって気にしていない模様。クールな性格である。
「お客さんの目当ては伊東さんだったでありんすか……。それだけでも負けるでありんす〜」
藤原はしょげてうつむいてしまった。しかし、木村は闘志を燃やし、雪は伊東を憧れるように見つめ、岩尾は淡々と打撃練習を。それから二時間後、主審が試合開始を告げた。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/29 21:46 修正2回
No. 128
試合は進んで、六回の表、最終回。ファイターズの攻撃。現在、楽天1−7日ハム。敗色濃厚である。イーグルス先発の永井(というのも、不振が続いていたので二軍調整を命じられたのだ)が、運河捕手の不手際なリードのせいもあって、三投球回で六失点という大乱調。中継ぎの無名な投手もソロホームランを一本打たれて首脳陣にアピールできず。唯一光っていたのが秀行であった。五回の表に登板し、三者連続奪三振という離れ業。球場を沸かせた。しかし、観客をいちばん盛り上がらせたのは伊東。三番に座った彼は、スリーランホームラン二本という化け物みたいな成績を残した。現在二死満塁。相手打者は、よりにもよって伊東である。打撃コーチの七転はあきらめて死んだ目つき。守備走塁コーチの太腹は腹が煮えくり返って今にも叫びそうだ。新固コーチは何度も首を横に振り、木本監督は厳しい表情を浮かべるしかなかった。しかも、悪いことは起こるときには連続するもの。ベンチ、ブルペンに待機していた投手たちが、今になって食あたりでダウンしてしまったではないか。腹をおさえながら楽天二軍投手たちは球場から次々と姿を消してゆく。残った投手は、彼しかいなかった。
「ええい! 原田、お前行ってこい!!」
怒髪天を突いた木本監督はヤケクソになって、原田の尻を蹴り、マウンドに行くように促した。原田は驚いて悲鳴をあげる。
タイム! ピッチャー原田!
普段温厚な木本が怒鳴り散らすように主審に告げた。原田は腰が引けたテケテケ走りでマウンドに向かう。この回からマスクをかぶった河田はそんな彼の姿にうんざり顔だ。
「よっよろしくお願……」
「しっかりしろや! ボケがーーー!!!」
つい河田は怒鳴ってしまった。その様子を見ていた運河は、「わかるわかる。でもな……」と苦笑しながらつぶやくのみ。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/29 21:49 修正2回
No. 129
投球練習が始まった。
「おい、原田。お前球種は何持ってるんだ?」
河田は定位置から訊いた。
「ええと……、ストレートだけです……」
「んだとぉ!」
河田は信じられないような顔をして、大声を出してしまった。
「まぁいいや。全力でこい!」
投球練習が終わり、河田はキャッチャーミットを拳で突く。原田はびくつきながら大きくうなずくと、試合が再開された。だが、女房役がどんなに投手に気合を入れようが、それで済むならば野球は難しくない。何せ、今マウンド上にいる投手は「ノミの心臓」極まりないのだから。一方、左打席にいる伊東はこの大チャンスなのにもかかわらず、いたってクールな顔をしている。しかし、数ある投手は口をそろえて言う。彼の冷めたハンサム顔からは変な威圧感を極度に感じる、と。
原田は、ガチガチになりながら振りかぶって投げた。しかし、ボールをミットに置きにいくような投げ方である。威力のないストレートだ。伊東は、不敵な笑みを一瞬浮かべながらフルスイング。強烈で見事に乾いた打球音がライト方向に伸びていった。が、運よくポールの右にそれていった。大歓声を上げた観客たちは一瞬のうちに静まり返った。河田は原田に向かって何度もミットを拳で突いた。しかし、まったく効果がない。気が動転した原田はますますコントロールを乱し、スリーボールワンストライクになった。すると、伊東はそんな原田をしり目に、思いついたような表情を浮かべた。そしてつぶやく。
「さぁ、いっちょ狙ってみようか……」
バットの先端をセンター方向に突き付けた。そんな伊東に河田は頭に血が上った。さらに、バンバンバンッとミットを鳴らす。しかし、原田は失禁しそうな情けない表情である。すると、三塁を守っている岩村が、独断でマウンドへ。
「原田!」
「い、岩村さん!」
岩村は、背中を押すようにこう言ってのけた。
「原田よ、打たれてもいい。持前の剛速球を伊東に見せつけてやれ!!」
原田は、ハッとした表情を浮かべたのだった。そして、次第に「決意」に溢れた締まった顔つきになってくる。そんな彼に河田もほっとした顔だ。
原田はただキャッチャーミットだけを見つめた。ど真ん中に構えられてある。そして、やってのけたのだ。ボールを伊東に向かって突き付けた。そう、直球宣言。大きく振りかぶり、力強く、腕を振った。渦を巻くような剛球だ。結果は……。
Re: ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/10/29 21:51
No. 130
伊東はゆっくりと一塁に向かって歩いていく。三塁ランナーは、ホームイン。そのままベンチに向かい、チームメイトとハイタッチ。それからというものの、原田は落胆し、力が出せなくなり、この回は計五十球を投げ、六点を失ったのだった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2012/11/16 19:48 修正1回
No. 131
第十七章
内野グラウンドの中央で、選手会長の嶋が威勢よく言い放った。
優勝するぞー!!
円陣を組んでいた一軍、二軍の選手たちはそれに呼応して、気合が入った声を出す。これで、春季キャンプの全日程が終わったのである。これからは、一軍はオープン戦、二軍は春季教育リーグで、開幕一軍を目指してしのぎを削ることになるのだ。楽天イーグルスは、これからホームグランドである日本製紙クリネックス・スタジアム宮城がある宮城県・仙台市へ移動することになる。選手たちは、バスに乗り、久米島空港から飛行機に乗って、キャンプ地からサヨナラということだ。プレーヤーたちの中には、充実感に浸る者、まだ腑に落ちないでいる者、これからのシーズン開幕に向かっていく中で緊張する者、さまざまである。その中で秀行は、相当な決意を持ちながら、旅客機の窓から外の景色を眺めていた。
「今雲の上でありんす。一軍に上がったりすれば、こんな景色を何度も見られるんでありんすかねぇ〜」
窓側にいる藤原は、窓の外を興味津々に見つめてから、隣の秀行に振り向いて話しかけた。
「そうだな。でもな……」
秀行は神妙な顔つきである。
「これからが俺たち二軍選手の本当の戦いだ。そんなこと思っている暇があったらとにかく練習だろ」
「あ……、そうでありんすね。ごめんでありんす……」
藤原は気まずい思いをしながら、前を向いた。
木本監督からは、川又を除いた新人たち全員が二軍スタートを告げられている。じっくり育成する方針なのだ。秀行は今、心の中で誓っていた。近い将来、絶対一軍に上がって巨人を倒し、見返して見せる、と。彼の目は熱い闘志で燃え上がっている。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2012/11/16 21:54 修正1回
No. 132
一方、セルラー・スタジアム那覇の巨人軍は……。
ジャイアンツの選手たちは、背中で手を組んでグラウンドで円陣を組み、シーズンに向けて決意を込めてキャンプの締めをしているのである。「セルラー・スタジアム那覇」は、竣工は1960年。沖縄返還の12年も前である。そして2006年に、もともとあった球場の改築工事が始まり、2010年にオープン。新しく生まれ変わった。両翼は100メートル、センターは122メートルと、とても広い球場だ。黒土で占められている内野は、ハッスル・プレーをする野球選手たちのユニフォームを黒く染めるのに十分である。外野は天然芝だ。バックスクリーンもかなり大きく、電光掲示板は迫力満点。近代的な球場である。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2012/11/16 21:56
No. 133
選手会長の高橋由伸は、心の底から声を発した。
今年こそ優勝するぞー!
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2012/11/16 22:00
No. 134
巨人選手一同は大声を発し、日本一奪還を胸に秘めて春季キャンプを締めくくった。報道陣からのフラッシュが瞬くまにまかれる。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2012/11/16 22:16
No. 135
巨人選手一同は大きな声を発し、日本一奪還を胸に秘めて春季キャンプを締めくくった。報道陣からのフラッシュが瞬くまにまかれる。他球団と比べれば注目度が違う。恒例のオフの大型補強は全くしなかった。育成に全面的に力を入れる方針。なので、若手選手たちは目を輝かせながら練習に取り組んだので、充実感にあふれた表情だ。その中で、横田真司は、巨人の将来の四番として、原監督から熱い「ジャイアンツ愛」を注入されたので、一皮むけたような、はつらつとした表情である。選手たちが、球場から引き揚げる際には、マスコミは真っ先に横田に突撃。その中にはかの有名な「ジャイアンツ親父」もいた。真司は彼に気付くと、自ら歩み寄り、「取材お疲れ様です」とさわやかな笑顔で言ってのけた。すると、彼は感動のあまりに泣きそうになりながら、「巨人を、球界を引っ張っいく選手になってください!」と言い、両手で握手してしまったではないか。そんな彼に真司は困惑する様子もなく、「頑張ります!」と、力強く言い放った。真司は一軍帯同を原監督に言い渡され、数日後に始まるオープン戦で起用されることが決まっている。彼は至ってクールを装いながら、内心目を輝かせながらバスに乗り込んだ。巨人の一軍は東京ドームで一日練習したあと、札幌に向かい、札幌ドームでの北海道日本ハムファイターズ戦に臨む。強行日程である。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2012/11/16 22:18 修正1回
No. 136
翌日、東京ドームにて。
今野手陣は打撃練習、守備練習をしている。村田修一、坂本勇人、長野久義と、名だたる主力選手たちが快音を響かせる中、横田真司は、快音をドームいっぱいに響かせながらボールをスタンドに叩きこんでいた。はっきり言ってどの選手よりも目立っている。報道陣は鋭い打球が放たれる度に「おおー」と大きな声を発したり、フラッシュを放ったりしていた。しかし、それをよく思わない選手が一人だけ……。
ブルペンいっぱいに、強烈なキャッチャーミットの音が響き渡った。捕手の阿部慎之助は「ナイスボール!! 球来てるよー!!」と、18・44メートル先の左腕投手に声を上げる。その投手は、セミロングの茶髪に切れ長の目、彫の深い顔。アイドル顔の典型である。笑えば間違いなく女性は虜になるだろうが、あいにく今は機嫌が悪いようだ。チッと舌を鳴らしながら、投げ始める。決め台詞を発しながら。
「行くぜ!! トルネード・キャノン!!」
大きく振りかぶって右足を大きく突き上げてから、思いっきり腕を振られ、指で押し込まれて投げられたストレートは強烈に渦を巻き、打者の手元で伸びあがるようにホップした。しゃれた名前に恥じない強烈な直球である。
「フッ。俺のトルネード・キャノンは世界一だぜ!」
「でもなぁ、井本よ、この時期からあんまり飛ばすんじゃないぞ?」
「うるせーよ、阿部ちゃん! 俺はむしゃくしゃしてんだよ!」
彼、井本大助はぶっきらぼうに言葉を返すと、「今日は終わりだっ!」と吐き捨ててズカズカとブルペンから後にする。阿部は「言葉に気をつけろっ!」と、負けず劣らずに言い返すのだった。
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