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ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/06/23 06:37
皆さんに私から、重大な告知をしなければなりません。ついに私は決意しました。私が自分の家の印刷機で紙に刷っていた小説の第1章から第9章までを、可能な限り毎日、このズダダンに発表したいと思います!このパワプロファイターこと「タカハシユウジ」が! この小説、その名も「イーグルスの星」!
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Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/02/12 23:55 修正1回
No. 157
鵜久森は長打力が自慢ではあるが、なかなかその才能が開花しないよくいる伸び悩む若手である。なので、どうしてもアピールしなければと必死だ。
「なにどいつもこいつも必死になってやがる……。とっととあきらめやがれよ……!」
井本はブツブツと愚痴を吐いきながら、阿部のサインを見やる。内角のスライダーだ。右打者の鵜久森の内角をえぐるつもりである。しかし、井本は首を横に振った。直球を要求。阿部は仕方ない顔を浮かべて内角高めにミットを構えた。
サイン交換が終わると、井本は感情に任せてセット・ポジションから思いっきり腕を振り下した。しかし……。
「しまった!!」
井本は思わず叫んでしまった。ど真ん中の失投である。鵜久森は思いっきりバットをしならせてフルスイング。痛烈な打球はセンター松本哲也の前に落ちた。
札幌ドーム観衆の大部分を占めるファイターズファンのボルテージが急激に高まり、それに乗せられるように日ハムナインのムードが徐々に良くなってきている。
一方の巨人ナインは、絶対的に優勢であるにも関わらずに沈滞ムードが漂う。井本のメンタルが再び不安定になってきたからだ。
巨人内野陣と捕手がマウンドに集まる。ボウカ―は仕方なさげな顔を浮かべながら井本の方をポンポンと叩き、大累は「気楽にいきましょうよ!」と必死に励ましている。しかし、井本の精神状態は悪化の一途だ。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/02/12 23:57 修正1回
No. 158
阿部は一言声をかけた。
「……、井本、いけるか?」
「全然大丈夫じゃねぇ、クソ!」
強くグラブを叩きつけた。それを見た大累は倦怠し、ボウカーはしれっと。坂本と村田はため息をつく。しかし、阿部は違った。次第にピリピリと怒りが込み上げがってくる。そしてついに、堪忍袋の緒が切れた。井本の胸倉に掴みかかる。
「おい、井本、いい加減にしろ。嫌なら替ってもらってもいいんだぞ!」
場内は一気にざわざわとし始めた。これこそまさに殺伐。井本は一瞬驚いたが、なめた目つきである。
「おぉ〜、俺に掴みかかるとはな〜。これで何回目だ?」
阿部が井本にくってかかるのは、実はこれが初めてではない。ここ数年でも5〜6回ぐらいである。阿部は負けずに畳み掛ける。
「お前はなぁ、もう何年も前からいつもワンマンプレーやって……、まるで暴君だ! そんなんだったら野球なんてやめちまえ!」
「なんだと!?」
井本は驚いた。阿部にさえもここまで言われるのは初めてである。
「……、わかった。落ち着くわ。だがな……」
「なんだ?」
「ここからが勝負だぜ……!」
「……、あぁ!」
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/02/12 23:59 修正1回
No. 159
事態は収まり、井本は気を取り直した。バッターは捕手の大野。打撃はさほど得意ではない。しかし、驚異的な粘りを見せた。
ファーボール!
スリーボールツーストライクから何度もファールで粘ったのだ。大野は悠々と一塁へ向かう。これで無死満塁。大ピンチ。そして、彼に回ってきた。
一番セカンド 伊東健 背番号2
ウグイス嬢がコールした途端、場内は沸きに沸いた。千載一隅の大チャンスにスターの登場であるからである。
井本は右バッターボックスに入った伊東ににらみを利かせるように見やった。一方の伊東は何気ない顔つきだが、秘めた闘志を井本は感じている。
井本は阿部のサインを確認。内角低めをえぐるスライダーだ。こくりとうなずき、セット・ポジションから第一球を投げた。コントロールは冴えている。しかし……、伊東は甘くなかった。
痛烈な音を放った速い打球は二遊間に転がっていく。坂本は打球に追いつかんと、猛烈な横っ飛びを仕掛けた。球際である。取れるか、取れないか。誰もが息を飲んだ。
しかし、あと一歩届かず抜けていった。三塁ランナーの小谷野は悠々とホームイン。二塁ランナーの鵜久森は決死の思いで全力ダッシュだ。が、彼が三塁を回ったと同時にセンター松本が好返球。松本の肩が勝つか、鵜久森の足が勝つか。鵜久森は全力でスライディング。それと同時に、阿部が捕球。勝負はクロスプレーに持ち越された。判定は……。
セーフ!
球審の高らかなコールが響き渡ると、日ハム応援団、ベンチ大盛り上がり。小さく拳を握る伊東。悔しさをにじませる井本。巨人7−2日本ハム、無死一塁二塁に局面は変わった。しかし、井本の目は死んでいない。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/02/13 00:02
No. 160
続く金子誠が送りバントを決め、一死三塁二塁の場面で打者は糸井。阿部はマウンドに駆け付けた。
「直球とスライダーのクロス・ファイア―でいこう!」
女房役の声には力があった。
「あぁ、分かったぜ、阿部ちゃん!」
この勝負、負けるわけにはいかない。ここで崩れたら、巨人のエースとして失格である。井本には決意がにじんでいた。
……、勝負はスリーボールツーストライクにまで持ち越された。
ここまで、糸井はここまで手が出ていない。バッテリーのクロス・ファイア―が効いているのだろう。井本はそう思い、奪三振を確信して、阿部の構え通り、内角の直球を投げつけた。結果は。
高々と、打球はライトに飛んで行った。打球はやや浅めか。長野が捕球したと同時に、三塁ランナーの大野がタッチアップ。長野は刺さんとばかりに好返球。大野は懸命に走る。井本は思わず「刺せ!」と叫んだ。クロスプレーだ。きわどいタイミングだ。茶色い砂が大きく舞う。判定は……。
……、アウト!
数泊ためて発された球審のコールにドーム観衆の声は二分された。さて、これで二死三塁である。打者は、四番の中田だ。
井本は、もう無我夢中だった。直球で押しまくった。押して押して押しまくった。中田も魂のフルスイングで応えてみせた。この勝負、誰もがオープン戦とは思えなかった……。
そして、勝負が終わった瞬間、マウンドの井本は華々しい笑顔を浮かべたのだった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/02/13 00:04
No. 161
お読みいただき、ありがとうございました。これで、「巨人対北海道日本ハム篇」は終了です。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/03/28 21:11
No. 162
第二十章
ここは、狗鷲寮・秀行の部屋。原田はババをもっている。彼が小心者なのは周知の事実。体をガタガタさせている。そんなわかりやすい彼を見ている秀行、藤原は今にも吹き出しそうだ。岩尾は平然としているが。
彼らが何をしているかと言えば、無論「ババ抜き」だ。この日はオフで、選手たちは思い思いに過ごしている。ゆっくり羽をのばしている者、休日返上で練習に励む者、さまざまだ。
一足早く上がった秀行は、震えながらカードを差し出した原田と、不敵な笑みを浮かべている藤原を、ニヤニヤしながら見やる。正直な原田は、額に冷や汗をかきながら、あるカードを真ん中に突き出していた。ババである。なんとも分かりやすいことか! そう思わざるを得ず、少し吹き出してしまった。しかし、藤原は藤原でドジである。間違いなくそれを引いてしまうだろうな……。そう思いならが、成り行きを見守っていたが……、案の定そうなった。
思わずひきつった表情を浮かべた藤原。少しカードを切ったあと、岩尾に。だが、この結末を秀行は何となく察しがついていた。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/03/28 21:14
No. 163
今日の昼は藤原君のおごりだな! 食堂のテーブルにて、秀行はそう、なんとも仕方がないような表情を浮かべながら、藤原の肩を軽く掌で叩いた。
「うぅ〜、……でありんす……」
しょげた顔が変にかわいらしい。原田はそんな彼をみて、微笑んだ。一方の岩尾は淡々とメニューを眺め、「かつ丼がいいんだな〜」とのんびりな声色でつぶやいた。
秀行は鉄火丼、藤原はナポリタン、原田は生姜焼き、岩尾はもちろんかつ丼。彼らは食事と世間話に花を咲かせている。周りも、若手選手たちの話し声であふれていた。ちょうど昼ごろだからである。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/03/28 21:17 修正1回
No. 164
「そういえば、日ハムの糸井さんが急にトレードされたのは驚いたよな〜!」
秀行は、丼に箸をおいて、少し興奮して言った。先日の北海道日本ハム対巨人のオープン戦直後に行われた大きなトレードの話である。日本ハム・糸井外野手、八木投手と、オリックス・木佐貫投手、赤田外野手、大引内野手の大型のものだ。球界と多くのファンは驚愕。このトレードの両球団の意図がいかなるものかはわからないが、急成長中の「投打二刀流・大谷」の起用を見込んで、ベテランになる糸井を放出した、という見方が大方である。
「そうでありんすね〜。でも、今の球界では、それよりも秀行くんが話題をかっさらっているでありんす!」
「そうだよ〜、でも、ボクも驚いたな〜!」
「本当でありんす!」
藤原と原田も、少々語気を強めた。
「でも……」
秀行は、少し神妙に。「でも?」と訊く二人。
「横田が……、俺は気になる……!」
「あぁ……」
藤原と原田も同感して、箸を止めて、話を聞く。
「あいつが一軍なのに、俺は……、早く上がりたい!」
秀行は体を震わしている。そんな彼に藤原は優しく、一声。
「秀行くん……」
「なんだ?」
「焦らなくてもいいでありんす。今の僕たちは将来上のレベルで活躍できるようにするために準備する期間を与えられているでありんす。だから、今は、ここで着実に力を強めればいいでありんすよ」
そこに原田も口を添えた。
「ボクもそう思う!」
驚いた秀行は思わす、「原田君!?」と声を。
「育成のボクが偉そうなコト言うのもなんだけど、今の秀行君はここで土台をしっかりさせればいいと思う。『大器晩成』という言葉もあるけど、とにかく焦っちゃだめだよ!」
すると、そういった途端、原田は申し訳なさげな顔をして、「ごめんっ! 育成のボクなんかが……」と詫びた。しかし、秀行は、藤原と原田の励ましに少し心が楽に。
「ありがとう……、二人とも」
彼の表情は優しかった。そして、二人はそんな彼に安堵。そんなこんなで三人は再び食べ始めようとしたが、岩尾はとっくに食べ終わっていたのだった。
「む〜ん、ごちそうさま〜〜。ゲップッ!」
彼はとても満足そうに腹をさすって、その場を後に。そう、これが岩尾くんなのだ。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/03/28 21:19
No. 165
数日後、春季教育リーグが開幕。その第一試合目の先発は秀行に決まった。相手は東京ヤクルトスワローズ。二軍選手の登竜門を秀行たちはくぐる。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/03/28 21:22
No. 166
お読みいただき、ありがとうございました。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/04/16 21:49
No. 167
第二十一章
午前。試合前。仙台市役所と宮城県庁の近くにある都市公園、「勾当台公園」を秀行は訪れていた。まだ三月の初めである。周りにある杉の木はもちろん剥げていて、少し寂しげではあるが。
三寒四温。寒くなったり温かくなったりするこの時期の仙台はまだ完全に肌寒さが消えない。秀行は、両手の平に「はぁ〜」と息を吐きかける。
「関西とはえらい違いだな〜……」
寒さが残る東北の杜の都の空気を秀行は感じている。しかし、春になると、街中に連なっている緑が都会の空気を浄化してくれる。早くこの地にも春が来ないか。そう、物思いにふけりながら、秀行は公園の中を歩く。そして、ある銅像に目をとめた。
「うわ〜、偉人の造だ……」
秀行が関心しながら眺めているそれは、江戸時代の名力士、「谷風梶之助(たにかぜ・かじのすけ)」の銅像である。188p、160s。生涯成績258勝16敗14引き分け。優勝相当成績21回。この堂々とした体格で、数々の勝利を収めた陸奥が生んだ強者を目の前にした秀行は心の中が沸々としてくるのを感じた。
「……、パワーをもらえそうだな……!」
秀行は、闘志を胸に秘め、公園を後にしようとした……、が、その時。
ガチャガチャとにぎやかな音楽が聞こえてきた。何だ? と秀行は思い、その方向に振り向いてみると音楽に合わせて「パラパラ」を踊っている人がいるではないか。何ともちゃらちゃらした奇抜なファッションで、髪も茶色だ。不自然に日焼けもしている。
「うわ〜、パラパラ踊ってる……。チャラオだチャラオだ……」
秀行はしばらく唖然としていると、そのチャラオがこっちに気付いた。そして、トコトコと数歩歩いたその直後、猛烈にダッシュして向かって来たではないか!
「やばい、逃げろ―!」
秀行は一目散に公園から飛び出し、寒空を駆け出した。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/04/18 21:14
No. 168
秀行は駆けぬける。人ごみをかき分け、サンモール一番町を。チャラオは追いかける。秀行は逃げる。人ごみをかき分け、広瀬通りを横切り。チャラオは追いかける。秀行は走りゆく。通りの人とぶつかりながら、中央通りを横切り。チャラオは追いかける。そして、青葉通りを秀行は駆けぬけ、仙台駅・ペレストリアンデッキの近くにあるビル、「イービーンズ」まで息を切らせて逃げた。この逃走劇は、道中の人々の目をひき、ツイッターや、フェイスブック、2ちゃんねるなど、ネット上は大賑わいになったという。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/05/10 22:19
No. 169
ようやく捲くことができたか……。秀行はそう、息をハカハカさせながらつぶやいた。とりあえずビルの中に入って、休むことにしよう。そう思い、入り口の方へ眼を向けようとした。その時である。チャラオがいつの間にかそこにいて、目があってしまったではないか。秀行は焦燥感でだんだんと冷や汗を流し始める。一方の褐色の男は、ニヤニヤしながらじろじろと見ている。
「ははは、すみません……。俺、忙しいんで……」
秀行は場をごまかすためにそう言って逃げようする。が、チャラオは強い力で秀行の手首を掴んで離さないではないか。パニックになり始める秀行。ついに大声を出そうとしたところ、日焼け男は口を開いた。
「おめぇ、あの真上秀行じゃね、俺のこと知ってる系?」
意表を突かれた秀行。彼の顔をよく見ると……。
「あなたは、もしかしてヤクルトスワローズの野田圭さんですか?」
「そうそう、あたり系! 俺は野田圭だよ」
野田はなれなれしい口調でそう。そして続ける。
「それはそうと、ひでっち、一緒に飯くわね?」
そんなこんなの成り行きで、二人は早めの昼食をとることになった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/05/10 22:22 修正2回
No. 170
仙台駅構内の某和食レストランにて
野田はがっつりと豚丼を、秀行はマグロ定食を食べながら、野球の話に夢中だ。野田は捕手なので、自分のリード理論・哲学をとうとうと語り、向かいにいる秀行はとても感心した。そして、彼自身も自分の投球理論を話し、野田に意見・質問をふる。すると、野田は懇切丁寧に、自分の野球理論に基づいて答えてくれた。充実した時間だ。
そうこうしているうちに時間が過ぎて、料理も食べ終えた二人。野田は、秀行に何か言いたいような表情だ。「なんすか?」と秀行は訊くと、野田はニヤニヤしながらこういった。
「ひでっち、今日の試合、楽しみにしてるぜ!」
晴れ晴れしい笑顔である。秀行も快く「こちらこそ宜しくお願いします!」と。すると、秀行はここであることを思い出した。
「そういや、野田さん、なんでここにいるんですか?」
野田はすぐさま答えを。
「俺っちさ〜、おとといのオープン戦でな、右足やっちまったんよ。それで小川監督に二軍調整を命じられた系ね」
「そうなんですか……、でも」
「でも?」
「さっきのダッシュは凄かったですよ? 恐ろしかったです……。大丈夫なんですか?」
すると野田は、さりげなくこう返した。
「いや〜……、くじいただけだから、だけだから! ヒャハハッ、指名打者として試合に出る系ね!」
それを聞いた秀行は「そうなんですか……」と、つぶやいた後、「あっ、そろそろ帰らないと!」と慌てはじめた。すると野田は「じゃあ、俺が払っとく! ひでっちは帰っていいよ」と。
「すみません……、ありがとうございます。では、俺はこれで……」
秀行は足早にその場を後にした。野田は、後姿が遠のくところを見つめる。そして、一人つぶやく。
「違う目的もね……、ひでっち……」
野田は、薄笑いを浮かべたあと、ゆっくりとレジに向かった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/05/10 22:25
No. 171
お読みいただき、ありがとうございました!
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/05/26 22:21
No. 172
第二十二章
とある新設球場のブルペン内できれいな回転音を鳴らす直球は、キャッチャーミットに小気味よい音を響かせた。
「いいよ〜、ナイスボールナイスボール!」
ブルペンキャッチャーは、ニコニコしながらマウンド上の秀行をほめ、「もう一球!」と声を張り上げる。
「次、スライダーいきまーす!」
秀行はそう声にだし、ゆったりとした球持ちのいいフォームからキレッキレのスライダーを放る。これも捕手のミットを微動だにさせなかった。
「ナイスコントロール、今日も調子いいね〜!」
「ありがとうございます!」
今日の秀行の声はいつもより気合が入った力強いもの。それには理由がある。一つ目は、今日の試合、いわば「教育リーグ開幕戦」の先発を任されていること。二つ目は、ヤクルトの先発がなんと主力投手で「和製ライアン」の呼び声が高い小川泰弘であるという。(もっとも、怪我で出遅れたこともあり、二軍での調整を命じられたそうだ)さらに野田圭が、「二番・DH」でスタメン出場するということだ。彼ら二人の主力選手の前で結果を残せば、もちろん自信につながる。そして、将来一軍に上るための実績作りにもなるのだ。
「最後、高速カーブいきます!」
締めの伝家の宝刀は、いつにもましてキュッとした威力のある変化だった。しかし、捕手はいくらなんでも飛ばし過ぎではないかと心配に。
「飛ばし過ぎんなよ〜……」
「大丈夫ですよ。これくらい投げ込まないと小川さんと野田さんに勝てませんから!」
秀行は汗を拭いた後、意気揚々とブルペンを後にした。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/05/26 22:23
No. 173
プレイボールは午後の四時から。一足先に練習を終えた楽天の後に、スワローズの選手たちが体を動かし始めている。今、グラウンドでは野手陣がフリー打撃にいそしんでいるところ。
その中で目立っているのが野田圭だ。シュアなバッティングが持ち味である彼は、快い打球音を響かせて、ライナーを広角に打ち分けていた。そのたびに、一足早く訪れている客が感心しながら「おぉ〜!」と大きな声を出す。もっとも秀行目当ての人が大半であるが、ヤクルトのスター選手を見たいが為に足を運んだ者も多いのだ。
野田が打撃練習を終えると、真中満(まなか・みつる)二軍監督が彼に声を。
「なんすか、真中監督?」
野田は彼のいるベンチまで向かった。真中は心配そうな表情で野田に話しかける。
「圭、肩と足の具合は大丈夫か?」
「いや〜、全然ダメっす!」
野田のあまりにもあっけらかんとした返事に真中は拍子抜けになった。
「おい、お前、爆弾なんだぞ、爆弾。くじいた足はともかくだな、肩の方は尋常じゃないだろ!?」
「そんなこと言われてもしょうがねぇべ、もうじき俺は引退するんだろうし、残りの選手生活は好きにプレーしたい系」
「おいおい……、お前は我がヤクルトスワローズに欠かせない正捕手なんだ。お前もっとだな……、チームのために選手生命を延ばすことを考えろよ……」
真中は諭すがしかし、チャラオは本気に話を聞いていない。がっかりする真中。
「やれやれ、ということで、監督さん、おれっちはこれで失礼」
そういうと、野田は休憩の為、バットをもってひょいひょいとベンチから下がって行った。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/05/26 22:28
No. 174
太陽が西の地平線近くまで傾きかけ、照明がつき始めた夕方、試合がスタート。秀行は河田とバッテリーを組んだ。もちろんサインの主導権は秀行が握ることに。
今日の彼は絶好調だ。一回の表からヤクルト打線をキリキリ舞いにさせている。特に野田圭に対しては、ほとんどバットを振らせることもなくすべて三振に切って取った。ただ、一方の小川も負けていない。威力抜群の直球で楽天打線を押しまくる。両チーム共に一本もヒットが出ず、四回の表まで進んだ。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/05/26 22:29
No. 175
ストライーク、バッターアウト!
球審の高らかな声が上がり、見逃し三振を喫した飯原誉士は悔しさをにじませながらバッターボックスを後にする。次の打者は野田圭だ。
「来た来た……、野田さん。また抑えて見せる!」
秀行はそうつぶやくと、ゆっくりと右バッターボックスに入って構える野田を鋭く見やる。向こうのチャラオは、そんな彼を見て少しニヤニヤしている。そんな彼に秀行は「なんだ、真面目にやってんの?」と、思わずぼそっと口に出してしまった。そうこうして、河田とサイン交換を済ませ、第一球を投げた。外角低めのサークルチェンジ。どろんと遅いスピードで弧を描きながら落ちてくる。野田は見送った。球審は一拍ためた後、ジャッチ。
ストライク!
野田は思わず「ヒュ〜」と声をだした。秀行はしたり顔である。第二球は内角高めギリギリの直球。思いっきり腕をしならせて振った。気持ちがいいくらいに回転がかかったストレートが、野田の内角を突く。野田は、これも見送った。これも判定は「ストライク」だ。これで秀行が完全に有利なカウントに。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2013/05/26 22:32
No. 176
しかし彼は、疑問に思った。野田があまりにもバットを出してこないのだ。遠慮でもしているのだろうか、いや、それにしても度が過ぎている。まるで、両目で丸かじりするようにじっくりと、味わっているように見える。一体なんで? しかし、そればかりを気にしていたらきりが無いように思えたので、切り替えることに。第三球は、再び直球にしよう。外角低めギリギリに決めて一気に三球三振に切って取ろう。河田にサインをだす。
だが、予想外なことが起こった。河田がカットボールを要求したのである。驚いた秀行は思わず首を振る。だが、河田も負けじとカッターを要求。何度もそんなやり取りが長く、長く。
「あぁ〜、もう、河田さん!」
秀行はさすがにしびれを切らしてしまい、河田をマウンドに呼んだ。
「河田さん、どういうことっすか、直球投げさせてくださいよ、一気に気持ちよく決めたいんです!」
「いや、秀行、ここはあえてカットボールで詰まらすぞ」
河田は表情を変えず。
「ですけど、野田さんはなんか今日の俺の球に手が出ていませんよ?」
そんな秀行に河田はこう切り出した。
「秀行、今日は『超絶技巧派』のお前らしくないぞ。ここは裏をかく方がいい。それに野田はな、外角のカットボールが比較的苦手であるというデータがあるんだ」
さらに続ける。
「それに、お前、疲れてきているぞ、肩のスタミナ大丈夫か? 直球が走らなくなってきている。要するに今日のお前はあまりにも出来が良すぎて自分の投球に酔いしれているんだろうが、それは甘いからな……!」
少し語気を強めた。
「河田さん……」
秀行は少し逡巡。確かに、ブルペンで飛ばし過ぎたのであろうか、少し疲れが出てきているように感じる。汗もダラダラだ。しかし、気持ちは固かった。
「いや、直球にしたいです。お願いします!」
「……、そうか」
河田は戻ると、外角のきわどいくらいの低めに構えた。秀行は頷き、渾身の直球を投げこんだ。 しかし!
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