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ファイターの小説
名前:
パワプロファイター
日時: 2012/06/23 06:37
皆さんに私から、重大な告知をしなければなりません。ついに私は決意しました。私が自分の家の印刷機で紙に刷っていた小説の第1章から第9章までを、可能な限り毎日、このズダダンに発表したいと思います!このパワプロファイターこと「タカハシユウジ」が! この小説、その名も「イーグルスの星」!
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Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/02/09 23:16
No. 217
甲高く大きな塁審のジャッチが響くと、楽天ベンチから大歓声が巻き起こった。岩村は、更に発奮、大きな声をあげた。
「ヨッシャ〜、来い!」
その力強い声に投手は身震い。さらに表情に力がなくなる始末。女房役の捕手は、すぐさま「おもっきり来い、負けんな〜!」と、声援したが、その声は裏がっていてとても頼りなくなっている。
その時、岩村の顔には、自信がみなぎっていた。投手は渾身の一球を。直球。燃えに燃えていた岩村明憲は、魂のフルスイング。その打球は、快音とともに、右中間を真っ二つに割った。二塁に悠々到達した岩村は、雨に打たれながら心の底から喜びを発して、両拳を天に突きだしたのだった。その瞬間、拍手喝采と共に、「い〜わむら! い〜わむら!」と歓声が響き渡り、場内には凄まじい熱気が。そして、楽天イーグルス、この回一気に逆転。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/02/09 23:22 修正1回
No. 218
直後の六回の表。秀行は降板。リリーフ登板を命じられたのはこの男、三田吉男である。彼はブルペンから出ると、ベンチにゆったりと座っていた秀行と目があった。秀行は、開口一番こう。
「せっかくの俺のデビュー戦だ、下手に打たれたら承知しないぞ!?」
それを聞いた三田、思わず吹き、一つ間を置いてからこう。
「安心しろ、盛大にノックアウトされてアンタの初舞台、台無しにしてやるぜ!」
「……、あぁ、そうかい……、じゃあ、炎上して来いや!」
三田は大笑いした秀行に掌でボンッと背中を押されたが、この時ばかりは悪い表情は出さない。そして、颯爽と駆け足でマウンドへ。
その時、だんだんと天から光が差し込み始めてきたのだった。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/02/09 23:24
No. 219
お読みいただき、ありがとうございました!
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/03/31 14:49 修正1回
No. 220
第二十九章・前篇
雨の影響でグラウンドはぐちゃぐちゃになっていたが、太陽は燦々と輝いていた。楽天ナインは、笑顔でベンチへと戻っていき、ベンチの者たちは笑顔で迎え入れる。一方の沢玉の方は、選手たちがただただ茫然としている中、日奈子はブツブツと。
「もう少しで勝てたのに、勝てたのに……」
すると、そのような中、秀行が沢玉ベンチに向かって来た。そのまま日奈子の方に向かってくる。周りが騒然としはじめる。日奈子はそっけなく、更に陰険な表情でこう。
「なによ、敗者を笑いにきたのかしら?」
すると、秀行の口から日奈子の予想だにしなかった返事が。
沢玉野球は手ごわかったよ、でも、いい試合をありがとう、また戦いたいね。
彼はとても優しい顔をしていた。日奈子は、思わず目を丸く。そして、顔を赤く。仇敵とみなしていた秀行からこんなことを言われるなど思ってもみなかったからだ。しかし、日奈子は素直な性格ではない。顔をそらして、そのままズカズカとベンチ裏に下がって行ってしまった。選手達もそのあとに、ぞろぞろと。
そして、試合後のミーティングに参加した後、秀行は報道陣に囲まれた。彼の受け答えの様子は、快活そのもの。マスコミの受けは抜群であった。矢継ぎ早に質問が飛び、その様子はかなりにぎやかそのもので、最後にこのような問いが。
「真上投手、試合直後に沢玉の日奈子監督にお声をかけたのに、返事をしてもらえなかったようですが、そんな彼女をどう思いますか?」
かなり皮肉な質問である。その記者の顔にもその様な言葉が書いているような感じだ。秀行は、苦笑しながらすぐ口を開いた。
「そのような話はなしにしましょう」
すると、報道陣の間からも苦笑が。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/05/01 23:44
No. 221
その翌日のこと。
オフをもらっていた秀行は、軽いジョギングから寮に帰ったあと、中の自販機の所に向かっていた。すると、秀行は「おっ?」と思わず声を。偶然三田もペットボトルのドリンクを飲んでいたところだったのである。視線が合う二人。お互いに無言である。それからしばらくして、飲み干した三田がペットボトルをそばの箱に捨てると、さりげなくツカツカと。そして、すれ違いざまに、陰険な顔つきでこう呟いた。
お前のことを認めたわけではないからな……。
彼はそのまま去ってゆく。秀行も方も、昨日の試合のことくらいで簡単に三田は自分の事を認めるとは思いもしなかったし、秀行自身も三田のことを当然。
だが、こんなことを言われて気分は当然よくないことは確かである。秀行は、ムスッとした顔で思わず愚痴を。
「何だよアイツ、こんちくしょう……!」
そこへ。
「これでも仕方のないことありんす」
いつの間にか藤原が近づいてきていた。
「うわっ、神出鬼没だよ、藤原君……」
「そんなにビックリしてもらっても僕は困るだけでありんす……」
困惑顔の藤原である。
「ゴメン……、で、それで?」
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/05/01 23:49 修正2回
No. 222
藤原は話を続けた。
「実は昨日の夜、偶然ここで僕は三田さんと会って立ち話したでありんす、僕は三田さんに訊いたでありんす、『何であの試合の時、嫌いな秀行君が活躍して目立っていて、勝ち投手の権利まで得たところにリリーフを命じられたのに、清々しい顔をしていられたでありんすか?』と」
すると、藤原によると、三田はぶっきらぼうにこう捲くし立てたそうである。
アイツの活躍を帳消しにしてまで俺が打たれて負けてしまったら、俺の球団内での評価が下がることはおろか、全国紙でぶっ叩かれて赤っ恥をかくのも俺だ。それくらいのことは考えやがれ! だから、無理して取り繕うしかなかったんだよ!
秀行は思わず、「ほう……」とした表情を浮かべた。
「三田もやっぱこんなもんか」
「でも、そんなに安直に考えてもいいでありんすかねぇ〜」
「おい、なにニヤッとして意味深なこと言ってんだよ……」
藤原はしばらくしてゆっくり口を開いた。
「僕は、面と向かってそんな三田さんのことをつぶさに観察していたでありんすが、どうも赤面しているようで、テレを隠しているのが透けて見えていたでありんす。三田さんは確かに秀行くんを目の敵にしているでありんすが、あくまでそれは、初めの頃はただの妬みだったかもしれないでありんすが、だんだんとキミのことを『認める』という意味での意識に変わってきているんではないかと僕は推測しているでありんす……。だけど、まだ素直になれないんでありんすよ。……、と、秀行くんがのど乾いているにも関わらず、長々と邪魔してしまったでありんす、ゴメンでありんす〜!」
そうして、藤原は、悪びれた様子で俊足飛ばして一目散に駆け出して行った。おやっさんの「いい年して廊下走んなバッキャロー!」という怒鳴り声か聞こえた。
秀行は、腑に落ちた顔をして、スポーツドリンクを買い、その場で一気飲み、それから田野慎吾ちゃんトレーニングコーチのきわどい整体に寿命を縮ませた後、精根尽き果てて、部屋に戻ったあと、バタン、キュー。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/05/13 15:47
No. 223
第二十九章・後篇
その頃のこと。
秀行と正の父である吉良は、自分が経営している土建会社の社長室で仮眠を。その吉良、うなされていた、とてもとても。額から冷汗、そしてうなり声。
丁度その時、ドアをノックする音が。そして、「失礼します」という若い男性の声。秘書である。吉良、思わずハッと目を。飛び上がるように起き上がった。そして、一呼吸置いて、「どうぞ」と。
「失礼します」
吉良は、その秘書からのスケジュールの説明を「うんうん」とうなずきながら聞いていたが、汗は引かず、むしろ一向にダラダラと。「社長、お体の調子が悪いのですか? もう少し休まれたほうが……」こう言われる始末である。吉良、から元気で取り繕う。
「大丈夫だ、問題ない。ご苦労だった」
だが、その声はぶるぶると、頼りなさそうに震えていた。
帰宅後、セカセカとシャワーを浴び、風呂に浸かったあと、ベッドがある自室にて、日記をしたためた。以下、その一部である。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/05/13 15:50 修正1回
No. 224
五月十四日
今日、私は仮眠中に夢を見た。その夢を一言で言い表すと、お世辞にも心地よい夢とは言い難いものであった。
我が息子たち、秀行と正が現れたのだが、二人とも涙を流していて、正は悲しみを目で私に訴えかけるように見つめていた。そして、秀行の方は、怒りで目を充血させていた。
その秀行がズカズカと近づいてくると、私の襟をわしづかみにして、怒鳴ったのだ。
アンタのせいで、俺は楽天を首になって、正も野球部から追放された……、全部全部アンタのせいだ、俺たちの未来を奪ったんだ!
私は、どう言い返したらよいか、分からずじまいで、ただただ、「すまん、すまん……」としか返せなかった……。
後ろめたい……、カラ出張、不正はつらい……。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/05/13 15:53
No. 225
吉良は、自分のなしていることにさいなまれているのだ。それも、ずいぶんと前から。自分の出自に翻弄されながら。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/05/13 15:55
No. 226
部落差別、それは今日まで多くの人々を苦しめている。その彼らの起源は、どこにあるのか。江戸時代までにさかのぼってみる。徳川幕府は、「士農工商」と呼ばれる四つの身分の他、更に下に身分を置いた。しかし、何故、幕府はそのようなことを。
それには、古来日本人が根強く持ち続けている「ケガレ」の意識というものがあるという説が有力である。それは、中世あたりから。
病気、天変地異などの災い、それらはケガレによって生まれると信じられていた。それは、人や牛、馬などの「死」、そして「お産」「犯罪」などから発生すると考えられてきて、当時の人々は災いから逃れるためにそれらを忌諱してきた。特に「死」に対する強いおそれがあり、死にかけた病人を粗末な小屋に放り込んで、死なせることもあったほど。他にもある。日本人は、化粧室で用を足した後、手を洗う習慣があるが、どうしてもそれを行いたがるのは、まさに「ケガレ」を処理するという意味合いがとてつもなく大きいからだという。それらの感覚が、貧富の差などよりも敏感だったのである。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/05/13 15:57
No. 227
平安時代の終わりごろから、「ケガレ意識」が強まった。京の都では、ケガレを取り除くための公衆衛生システムを整備し始めた。それを統括したのは「検非違使」である。それは、今日でいう、「警察」「保健衛生」の二つをこなしていた。彼らは、犯罪取り締まり、刑の執行、屍の片づけを中世の最下層の身分の者の手足を使って行っていた。彼らは村から追い出された障害者、病で故郷に帰れなくなった者、圧政により地域社会から逃れてきた者等、さまざま。
こうした人々から、武士勢力などを後ろ盾にした「清め(かわた)」の集団がうまれる。彼らは、初めのうちは、検非違使の下で行き倒れの処理や刑の執行に当たりながら、屍となった牛馬の処理を手掛けていたが、次第にそれらの皮や骨、内蔵を原材料にいろいろなものをつくり出すようになる。内臓からは薬も作れた。
そのような特殊技能故、彼らは戦国大名の庇護下、生き延びていった。だが、それは同時に人々の「ケガレ意識」により忌み嫌われ差別される宿命を、子孫代々にわたり引き受けるという宿命を背負わなければならないという悲しい現実でもあったのである。徳川幕府は、それを追認したが故に、士農工商より下の身分を制度化したのだ。(講談社・魚住昭著・「野中広務 差別と権力」より、内容を拝借)
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/05/13 16:00
No. 228
そのような彼らは、明治維新後、「新平民」となり、あくまで法制度の上では解放されたかのように見えたが、人々による差別意識は根強く、のちに「同和事業」と呼ばれる政府による部落民の生活向上のための政策が行われ、それが次第に部落の利権(同和利権)に利用されるようになっていき、さらには、過度の権利意識が働くようになっていって、公務員のカラ出張や、副業も横行するようになってきたのである。それが更に差別を助長し、差別が螺旋の様に堂々巡りになっているのが現状だ。吉良も無論その一人。秀行は、そのような同胞たちが許せないのだ。
いつの間にか、吉良の日記帳は涙でしみていた。そして、ベッドに倒れこみ、そして、静かに寝始めた。これを呟きながら。
人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光あれ……!
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/05/13 16:02
No. 229
第二十九章はこれで終わりです。
お読みいただきありがとうございました。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/08/07 21:52 修正1回
No. 230
第三十章・前篇
五月も下旬に差し掛かり、プロアマ交流戦も今日の試合を残すのみ。秀行は、二試合目、三試合目の登板でも、しっかりと結果を残し、周囲の期待に応えていた。
さて、楽天の選手達は某地方都市のホテルで朝食を。秀行、藤原、原田、岩尾、雪の五人はそろって同じテーブルでトレイをつついている最中である。
「しかし、今日も秀行くんは相手をキリキリ舞いにするんでぁりんすかねぇ〜、センターから楽しみに眺めることにするでありんす!」
ニヤニヤと機嫌がよさそうな藤原である。
「本当だよね、いつ一軍に呼ばれてもおかしくないくらいだよ〜……」
原田はミートボールをフォークでさしながら相槌を打つ。
「そうよね、そうよね! ワタシも一塁からワクワクしながら見ていたわ〜、だってカッコイイもの〜!」
雪は巨体を揺らせ、ガツガツ頬張りながら話に入っている。
「む〜ん……、鮭の塩引き美味しいんだな〜」
岩尾は相変わらずである。
秀行は箸を置いた。
「皆、ありがとう、今日もがんばれそうだよ。だけれど、いつも通りに投げるだけさ!」
そして、手を合わせて「ごちそう様」と。
「じゃあ、ちょっと休んだら、すぐ移動だ。そして、ランニングが始まるよ。皆、今日も頑張ろう!」
「そうでありんすね!」
「頑張ろう!」
「今日もホームラン打つわよ〜!」
「む〜ん、ゲ〜ップ、ごちそう様なんだな〜」
と、秀行は「あっ」と声を。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/08/07 21:54 修正4回
No. 231
「どうしたんでありんすか?」
不思議そうに藤原は訊いた。
「情報屋の藤原君に訊きたいんだ。今日の相手はどんなチームなんだい?」
すると、藤原は得意顔に。ニヤリ。
「よくぞ訊いてくれたでありんす。今日の相手は『白馬コンツェルン(はくばの・こんつぇるん)』、社会人野球の強豪でありんす〜!」
さらに続ける。
「しかもしかも、そのチームは、昨秋の都市対抗戦の決勝で、あの社会人野球界最強の『M&Aブラザーズ』をゼロ封、見事優勝を果たしたでありんす。その試合で先発して完封をしてのけた『白馬王子(はくばの・おうじ)』投手はドラフトの目玉、しかも、会社の御曹司ときたもんでありんすよ。そして、彼の左腕から放たれる、流れるような変化をする特殊なスクリューボール、その名も……」
「『ロイヤル・スクリュー』なんだな〜」
岩尾、美味しいところをとってしまった。
「あぁ〜、言われてしまったでありんす〜……!」
落胆して肩を落とす藤原である。
「まぁまぁ、なんだ、とにかくだ、どんな強敵が相手でも、絶対勝つ!」
秀行の目は今日も力強い。
この日に行われる試合でつかわれる球場は、白馬コンツェルンが大金を叩いて造り上げた近代的球場である「白馬スタジアム」である。珍しく、社会人側が主催の試合となるが、噂では彼らが自らの威信を高めようとする思惑である。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/08/15 00:03 修正1回
No. 232
第三十章・中編
白馬スタジアムという球場、誰が見ても、外観は近代的というよりむしろ、荘厳なたたずまいに見えた。
まるで、外装は中世に欧州で建てられた城のよう。ブロックがしっかりと重ねられ、固定されている。さらに、これは遊び心だろうか、物見の塔までもしっかりと設置されているところが白馬コンツェルンの最大のユーモアだ。
だが、グラウンドに出てみると、そのイメージは一変する。芝生はクッション性を重視した人工のものが使われていて、内野の土も非常に上質そのものだ。ナイター設備も完備。電光掲示板も全てLED。近代的である。
そして、なんといってもこの球場の最大の特徴はとてつもない広さだ。両翼は115メートルでセンターまでの距離は128メートル。左中間・右中間の広さも阪神甲子園球場のそれらを凌駕するほど。これはよほどパワーとテクニックを揃えた強打者ではない限りホームランを打つことは難しいだろう。
チームがランニングをしている最中に、秀行は失笑をしてまでこう呟いた。
白馬コンツェルンって、どないやねん……。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/08/15 00:06 修正4回
No. 233
その頃、ブルペンでは、バシーン! と小気味いいキャッチャーミットの音が響いていた。投げている投手は白馬のエースである白馬王子である。
「ほれ、次はスローカーブじゃ!」
変化球が絶妙なコントロールで決まる。
「坊ちゃま、素晴らしき制球力とキレでございます〜!」
そう声をかけるのは、白馬家の執事であり、正捕手の瀬馬洲茶養老(せばすちゃん・ようろう)、柔和な目つきが特徴的な四十二歳である。
「おぉ、瀬馬洲茶、苦しゅうない、苦しゅうないぞ〜!」
カールした前髪を跳ねつかせながら王子は上機嫌だ。
「私執事は、今日もお坊ちゃまの好調さには心底ほれぼれしている次第でございます」
「そうかそうか、吾もお前のような者が捕手であることに心から幸せを感じておるぞよ、では、吾の決め球であるロイヤル・スクリューをビシッと決めて仕上げとしようぞ!」
「かしこまりました、坊ちゃま、試合前の景気づけにしっかりと決めてくださいませ!」
王子は、野茂を彷彿させるようなトルネード投法から、球持ちよく腕をしならせながらボールをリリースする。利き腕と斜め反対方向に流れ星のような変化をするこの球は、数々の打者を翻弄し、多くのプロのスカウトマンをうならせてきた。それが微塵もコントロールミスなく、ミットに収まる。執事捕手、更にうなり、王子を褒め称えた。
「最高、最高でございます、坊ちゃま!」
「苦しゅうないぞ!」
王子は得意げな表情を。
「今日の仕上がり通りに投球をなされれば、楽天イーグルスなどは我々白馬コンツェルンの敵ではないでしょう!」
「当たり前じゃ、キリキリ舞いにしてみようぞ!」
「はい、私執事も坊ちゃまの最後までお役に立つリードをする所存でございます!」
この関係は、まるで主人と家来とのそれそのものである。いつもこのような感じなのだ。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/09/03 23:00
No. 234
楽天の選手たちはシートノックも終わり、今はは試合前の小休止をとっている。今は、白馬コンツェルンの選手地たちがグラウンドで汗を流しているところだ。野手たちは打撃練習、投手陣はもちろんブルペンで投球練習である。打者たちが場内で打球音を響き渡らせる中、特に目立っている打者がいた。彼の豪快なスイングから放たれる打球は、凄まじい轟音を響き渡らせながら、広すぎるこの球場のスタンドにポンポンと叩きこまれる。センターバックスクリーン、右中間、左中間と。当然のこと、報道関係者もずらりと並んでいて、スカウト陣もバックネット裏から彼の練習の様子を注視している。
その名は、「猪瀬強太郎(いのせ・きょうたろう)」という。年齢は二十六歳。社会人野球界で最強の打者と言われるスラッガーだ。
猪瀬がしばらくして練習を終えると、カメラマンや記者たちが群がってきた。矢継ぎ早に質問が飛び交う。しかし、猪瀬はさばさばとした顔つきでそんな彼らを軽くあしらう。
「皆さん、申し訳ないが〜……、ワスもいい加休みたいんでね〜、どいてくれんか」
そういうと、片手でちょいちょいと報道陣をのけると、そそくさとベンチ裏へ。そんな彼の背中に向けて、カメラマンが一斉にフラッシュを浴びせる。白馬野球部は、エースピッチャーの王子、主砲の猪瀬の二枚看板で都市対抗戦を制したのだ。
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/09/03 23:03
No. 235
勿論、ベンチに座って彼の打撃練習の様子を楽天の選手達もしっかりと見ていた。
「うわ〜、猪瀬さん……、化け物、化け物でありんす〜……」
「そうでござるな、拙者も武者震いがするわ!」
「僕だったら、とてもとても勝負らしい勝負が出来そうもないよ〜……」
「俺の自慢のフォークが少しでも抜けて、甘くなったらガツーン! だな、これは用心してかからないとな……」
「それに、俺たちはプレー動画も見たからわかるが、白馬の選手たち全員がほぼプロレベルだ……」
藤原と原田はさっそく怯え、木村は言葉通りの武者震い、三田も緊張した顔つきを浮かべている。運河は冷静さを保とうとはしているものの、驚きの表情は隠せていない。当然のこと、秀行も厳しい顔を。そして、立ち上がり、運河に近づく。
「運河さん、キャッチボールに付き合ってくれませんか?」
「……、そうか、わかった、やろう!」
Re: ファイターの小説
名前:
ファイター・ドクトリン
日時: 2014/09/03 23:05 修正3回
No. 236
運河がグイッと立ち上がった後、二人はベンチから出た。すると、ツカツカと足音をたててこちらに向かってくる人間が。白馬王子である。
「初めまして、真上秀行さん、吾が白馬王子です」
王子は気さくな様子だ。
「初めまして、真上秀行です。それはそうと、俺に何か用でも?」
秀行の眼光を鋭い。
「ハッハハ、そんな恐ろしい目つきで吾を見んでほしいな、秀行さん」
王子はあっさりした話しぶりだ。そして、話を続ける。
「ところで、秀行さん、貴方のライバルである横田真司とは対戦はできているのかね?」
「……、まだですが」
「いやいや、だからそんな怖い顔をせんでもね〜、ハハ! ……、そうか、貴方はまだ一軍に一度も上がっていないんだったのぉ〜、横田には先を越されているようじゃな!」
「……、なんだと!」
「おいおい、秀行、落ち着け!」
咄嗟に掴みかかろうとした秀行を運河は止めた。
「おおぅ、危ない危ない……、そんなに怒らんでもいいんだがのぉ〜。ただ、吾は、横田の坊やが貴方にプロの世界でもキリキリ舞いにされるところが見たくて見たくてたまらんのじゃ!」
王子はニヤニヤしている。
「何故ですか?」
怪訝そうに秀行。
「いい質問じゃ。ちょっと話が長くなるがのぉ〜」
王子によると、白馬コンツェルンと横田真司の父が経営している大企業、「横田グループ」は、ライバル関係にあり、国内でのもめごと、更には海外進出に関しても争いの種が尽きないのだという。つい最近では、民衆と従業員たちによる反日暴動が激化したこともあり、中国での事業を諦め、撤退を始めた二社は、新しい市場であるミャンマーでの事業展開、生産拠点進出を巡っての争いが新たな火種になっているということだ。
「……、とまぁ、そういうわけじゃ。……、あぁ、それと、その横田のライバルである貴方の実力も今日の試合で図ってみたくてたまらなくての〜、まぁ、楽しませておくれ。ではこれで!」
王子は、ほ〜ほほほ! と高笑いをしながらその場を去って行った。
「……、とことんむかつくやつだな、白馬王子って奴は……!」
「そうっすね、運河さん。絶対やっつけてやりましょう!」
秀行の心の中は沸々を燃え上がり始めていた。
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