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記事閲覧  プロ野球・鯉の陣!U  名前: 広さん  日時: 2012/10/21 18:00 修正26回 HOME  
      
【プロ野球・鯉の陣!U】
〜プロローグ〜
広島東洋カープに1位指名された18歳、川井隆浩。彼の夢であったプロ野球を舞台に
笑いあり、熱狂ありの燃える試合を繰り広げる!
あの男の電撃トレード、ギャラを巡っての大騒動、主力の不振。まさに人生、森羅万象!!

※本小説は閲覧のみとなっております。作者以外の書き込みを固く禁止します。
【目次】
>>1   第1話・新たなる鯉伝説
>>2   第2話・隆浩の憧れ、カープの4人衆登場!
>>3   番外編・大波乱ギャラ騒動
>>4   第3話・お金に恵まれた(?)休日
>>5-8  第4話・オープン戦
>>9-12  第5話・独特の技術
>>13   第6話・新しい仲間
>>14-18 第7話・越えなければならない滝
>>19-20 第8話・立ち上がれ大引!
>>21-25 第9話・対中日戦
>>26   第10話・な・ん・だ・と―――――っ!?
>>27   第11話・大波乱
>>28-29 第12話・対喜多川戦
>>30-32 第13話・進化した喜多川
>>33-37 第14話・喜多川の新球種
>>38-40 第15話・歓喜
>>41-44 第16話・協力
>>45   第17話・ムラッ気の28歳
>>46   第18話・休養日
>>47-48 第19話・大鞆の打撃師匠
>>49-52 第20話・その男、マックス・サムス
>>53-55 第21話・レイズの獰猛な鷹、マックス・サムス登場!
>>56-64 第22話・対巨人戦
>>65-66 第23話・Mr.iron man
>>67-70 第24話・死球
>>71-85 第25話・He is new read-off man
>>86-91 第26話・帰ってきた助っ人
>>92-94 第27話・怪物、天海陽介降臨
>>95-96 第28話・天性のセンス、飯田海翔復活
>>97-98 第29話・暴れ馬
>>99-111 第30話・最速の称号
>>112-115 第31話・ホームスチール!?
>>116-120 第32話・終盤戦
>>121-127 第33話・ルイスと沢村
>>128   第34話・大引のルーツ
>>129-138 第35話・決着
記事修正  スレッド終了
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2014/11/03 12:50  No. 100    
       
初回の工藤は圧巻だった。
一番二番をストレートとカーブのコンビネーションで連続三振。
そして三番の大田を152km/hのストレートでサードゴロに打ち取り、無難な立ち上がりを見せた。
「よーし工藤、ナイスピッチだ」
清水が手を叩きながらベンチに工藤を迎える。
「しかし初回で152キロって……随分と飛ばしてるな工藤よ」
その隣で、先程まで工藤の球を受けていた大引が呆れたように言った。
それに対して工藤は「大丈夫ですよ」と笑いながら言い、水分を口に含むとベンチに腰掛けた。
「しかし今日は外野が意外と暇になるかもですね」
飯田が半ば冗談という風に言った。
工藤は6月のソフトバンクとの交流戦で、自己最速の160q/hをマークしている。
それからというもの、試合を重ねる度に頻繁に160q/hを記録し、11勝を挙げる活躍を見せている。
彼のシーズン最多勝利記録は14であり、今年はその記録を塗り替えるだろうと言われているのである。

一方広島の攻撃は、飯田・御村の2連続ヒットでチャンスメイクするも、後続が続かずこちらも0点で初回を終えた。
そして2回、工藤と井浦の勝負に、両チームのファンの熱気は最高潮。応援歌のラッパが声援にかき消される程だ。
「よっしゃぁ! 一発かましてやんぜ!」
そう意気込んだ井浦は豪快に素振りをすると、大股でバッターボックスに向かった。
そして井浦の名前がコールされ、審判はプレイを告げた。
工藤はサインを確認すると、こちらも豪快なワインドアップから第一球目を投じた。

『ストライク!』
少し速めのカーブがアウトロー一杯に決まる。
見送った井浦はバットを担いで工藤を凝視した。
今日の工藤は変化球にもキレがある。相当調子が良いのだろう。
そう思った井浦は、一度打席を外して一回素振りをした。
工藤自身も、今日は調子がいいと自覚していた。練習の時から球にノビとキレがあったからだ。
工藤は深呼吸をした後、大引のサインを確認した。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2014/11/07 19:48  No. 101    
       
大引のサインはインハイへの釣り球。しかし工藤はこのサインに対し首を振った。
以前工藤は、井浦に対して投じたインコースの球を東京ドームの看板に運ばれたからである。
その理由を鮮明に覚えている工藤には、釣り球とはいえインコースに投げる事を多少躊躇っているのだ。
工藤の要求に同感したのか、大引は対照的にアウトローに速球を外すサインを出した。
これには工藤も首を縦に振り、セットポジションへ入る。そして、再び大きなワインドアップから第二球目を投じた。
すると、これに井浦は手を出してきた。
足を右方向へ踏み出すと、強大な遠心力を纏ったバットをボールへぶつける。
「隆浩! 行ったぞー!」
しかしこの球は外角へ外したボール球である。
井浦の打球は隆浩の守るライトへ距離の出ない高いフライが上がった。
そして、そのフライはしばらくして隆浩の赤いグラブにきっちりと収まった。

「アウト!」

広島の観客席から大歓声が上がった。
井浦は悔しそうな表情を浮かべながらベンチへと走っていく。

その頃、ロッテ対西武の試合では……

『で、出たぁーーーっ!! 天海、日本球界最速、163キローーーっ!!』
QVCで行われていた試合では、なんと天海が163km/hを記録していたのである。
「な、なんなんだアイツは……か、怪物じゃねえか……」
これには西武の選手達もたまったものではない。
まだ3回だと言うのに163キロをさも当然のように投げられてしまっては、驚愕せざるを得ない。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2014/11/09 00:58  No. 102    
       
広島は連打を浴びせてはいるが、チャンスで一本が出ず、4回までを無得点で終了した。
一方の巨人も、絶好調の工藤にこれまでヒットわずか2本に抑えられ、二塁を踏ませてもらえずに5回表を終了した。
そして広島の攻撃は4番の大引から。
投手は技巧派左腕の梶井。大きく縦に割れるカーブを中心とした多彩な変化球を操る投手である。
一打席目に大引はこの梶井のスラーブを詰まらされてサードゴロに打ち取られている。
そこで大引は、敢えてそのスラーブに狙いを絞っていた。

大引の読みは的中した。
大引の膝元に落ちるスライダー、スラーブが投じられた。
――この球だ! 打ち損じるな!
大引は迷いなく踏み出し、スムーズにバットを走らせた。
心地良い快音と共に、打球は左中間のど真ん中を貫く。
「「「よっしゃあ!!」」」
カープベンチが沸く。大引は一塁ベース手前で膨らみ、二塁を狙った。
巨体を揺らして全力疾走する大引が一二塁間地点に達するとようやくセンターが打球に追い付き、
鋭い返球をセカンドに返した。
大引は勢いのままにセカンドベースへと滑り込む。そして悠々と立ち上がり、拳を握って突き上げる。
それに便乗するように、カープベンチからもガッツポーズが飛び出した。
そして、今シーズン現在29本の本塁打を放ちブレイク中の岡本に打席が回った。

その初球だった。

真ん中高めの釣り球を、岡本は強引に振り抜いたのである。
センターフライと思われた打球はぐんぐんと伸び、
遂にはマツダスタジアムのスコアボードのど真ん中に炸裂した。
ハイボールキラー岡本の30本目のホームランである。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2014/11/16 00:34 修正2回 No. 103    
       
「はは……そう言えばアレを打つ奴がいるんだよな〜」
梶井も流石に度肝を抜かれたようで、バックスクリーンの方向を向いたまま空を仰いでいた。しばらくして、我に返った梶井は、
「っつーかアイツに釣り球打たれたのコレで四回目だぞ!?」
と頭を押さえて喚いていた。
カープベンチに岡本が帰ってくる。
「おい岡本、結果は結果だけどあれは完全ボールだからな? なんでお前はいつもあの球に手を出すんだよ……」
呆れ顔で清水が指摘する。
「いや〜、なんか本能的にかな? 高校時代からあの球には必ずと言っていいほど手を出してましたから」
清々しい顔で岡本は言うと、ヘルメットを外してベンチに置いた。
しかし、後続がなかなか続かない広島打線。
6、7、8番を連続三振に取られ、5回を終了した。

6回の表、巨人の攻撃、バッターはこちらも4番の井浦から。
井浦は片手でバットを担ぎ、無言でバッターボックスに入ると、バットの先端をピッチャーの工藤に向けた。
球場が静まり返る。しばらくして井浦は大きく息を吸うと、よく響く大声で
「よっしゃ来いやあぁあぁあ!!!!」
と叫んだ。
その瞬間、巨人側スタンドは沸きに沸きかえった。
オレンジ色のタオルを頭上で振り回し、盛大なラッパの音色と共に、『喧嘩上等』のサビがマツダスタジアムに鳴り響いた。
すると、次は工藤が井浦に向けて、堂々とボールの握りを見せつけ、
「行くぞ井浦!! こうなりゃ直球勝負だ!!」
とこちらも響く声で言い放った。
井浦の顔から、勝負が待ちきれないと言った笑みがこぼれる。
そして井浦は、バットをどっしりと上段に構えた。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2014/11/19 00:25  No. 104    
       
「タ、タイムお願いします」
大引が駆け足でマウンドに駆け寄る。
「工藤、お前……」
正気なのか、と言いたげな大引を制し、工藤が言った。
「すいません大引さん。でも……でもアイツとは、どうしても直球で勝負したいんです」
工藤は井浦に目線を移して続けた。
「もし打たれるとしても、弱気な変化球よりも思い切ったストレートを打たれたいんですよ。それに……」
もう一度大引に視線を戻し、笑顔を浮かべながら言った。
「このマツダに集まってるスタンドの皆も、直球勝負を望んでると思いますよ」
大引はその一言を聞いて確信した。
……こいつ、本当に勝負が好きなんだな。
記憶を辿ってみれば確かにそうだった。
いつも球界屈指の強打者を相手にしてはそれを上回る直球を放ち、数々の名勝負を生み出してきた工藤。
その工藤に対し、変化球でかわすリードをすることは、それこそ愚かな行為だった。
大引は半ば呆れながらも工藤を見つめ、
「やるからには勝つぞ」
と言ってミットで工藤の胸をポンと叩き、守備位置へと戻って行った。

井浦に対する第一球目はアウトローへの直球。
工藤は、お決まりのワインドアップから第一球目を投じた。
井浦のバットの上をすり抜け、乾いた音が球場に鳴り響く。
工藤は大引から素早くボールを受け取ると、早めの間隔で第二球目を投じた。
インコース低めに投じられたその球を、井浦は強引かつ技巧的に引っ張る。
打球はファウルグラウンドの観客席にぶち当たった。
早くも追い込んだ工藤は、変わらず早い間隔で第三球目を投じた。今度はインハイへの全力投球である。
井浦のバットにボールが吸い込まれる。
打った! 球場の誰もがそう思った瞬間、井浦のバットは根元から真っ二つに粉砕され、ボールは一塁側内野席の空席に当たった。
球場の誰もが、この刺激的かつハイレベルな真っ向勝負に息を詰めた。
今まで数々の特大アーチを放ってきた井浦の赤いバットが、たった三球で粉砕されてしまったのである。
これも、井浦の力と工藤の球威が衝突し合った結果なのだろう。
井浦は、バットを予備の黒バットに交換すると、またバットの先端を工藤に向け、
「勝負だぁ!!」
と叫んで再び構えに戻った。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2014/11/30 02:26  No. 105    
       
何秒経っただろうか。
先程までとは対照的に、四球目を投げるまでにかなり長い間隔が開いた。
カウントはノーボール2ストライク。状況的には工藤が圧倒的に有利だ。
ここで一球外して様子を見るか、それとも勝負に行って打ち取るか……。
大引は迷った末、サインを決めて工藤に指で伝える。インハイに一球外す全力投球。振ってくれれば儲けものだ。
井浦は多少のボール球でも手を出す事はしばしばある。その可能性を信じてのリードである。
小さく息を吐いてから、工藤は第四球目を投じた。
もはや弾丸に等しい工藤の直球は、井浦の胸元ぎりぎりをえぐった。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2014/12/03 19:12  No. 106    
       
その直球に、井浦は手を出してきた。
殆ど条件反射によってのけ反るような体勢で振り抜かれたバットは、がつっ、という鈍い音をたてながらボールを根元で捉えた。
工藤の球威ならば凡打はほぼ確実と言っていいだろう。しかし……
「うおらあぁあぁああーーーっ!!!」
何たることか。井浦のとてつもない気合いと共に、ボールはレフト線の長打コースへと伸びていった。
「なっ……んだと!?」
大引はマスクを放り投げながら、レフト方向へ視線を向けた。
根元に当たったというのに、レフト線の長打コースへ飛ぶとは信じ難い光景だった。
しかし、その信じ難い光景から一瞬にして意識を切り離し、レフトを守っている大鞆に声をかける。
「大鞆ーーー!! 行ったぞーーー!!」
大鞆は飯田と充分渡り合えるだけの走力を振り絞り、懸命にボールを追った。
大鞆は懸命にグラブを伸ばし、なんとかグラブの先端で捕球した。
その直後だった。体勢を崩した大鞆は強烈な勢いで転倒。ボールがグラブから飛び出る。
「フェア!」
そして、こぼれ球に追いついた飯田がショートの御村に返球する。その後すぐに大鞆の元へ駆け寄った。
「大鞆! 大丈夫か!?」
大鞆は足首を押さえてうずくまり、その表情は苦痛に歪んでいた。
「た、タイム!!」
ベンチから清水と衣笠が猛ダッシュで駆け寄ってくる。
「どこを痛めた!?」
大鞆は、振り絞るような声で右足首を捻ったと答えた。
「よし大鞆、掴まれ」
衣笠が大鞆に肩を貸し、大鞆はベンチへ入って行った。
そして、ベンチに戻って清水は言い放った。
「神庭! 急だが行けるか?」
「待ってましたのー!!」
そして、凄い勢いで神庭がレフトへと走って行った。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2014/12/12 23:59  No. 107    
       
アクシデントの間に井浦は二塁へ到達。
負傷した大鞆に代わってレフトには神庭が入った。
「切り替えて行くぞみんな! ノーアウト!」
この重い空気を変えるべく、大引が大声を張り上げて守備陣に気合いを入れる。
幸いそこまで落ち込んでいる様子もなく、各ポジションから次々と威勢の良い返事が返ってきた。
確かに一発打たれはした。だが、まだヒットを一本打たれただけで点が入ったわけではない。
後続を打ち取りさえすれば、無失点で切り抜けられる可能性は充分すぎるほどにあるのだ。
打順は5番の坂本。巧打もあれば長打もある厄介なバッターである。
大引はライトの隆浩を前に、そしてレフトの神庭を後ろへ下がらせた。その後、思い出したように飯田もレフト側へ寄らせる。
坂本は巧打と長打の二つを抜け目なくこなすのがウリだが、そこに穴がある事を大引は見破っていた。
坂本が巧打を試みてバットに当てに来た場合、ほとんどと言って良いほどレフトに浅い打球は来ない。
だが、その代わりにセカンドとライトの中心に狙ったかのように落ちる打球が多いため、大体がライト前ヒットになるのである。
逆に、坂本が長打を狙って振り切ってきた場合、大体がレフト後方への強烈なライナーもしくは左中間を真っ二つに破る強烈な打球のどちらかだ。
だが稀に、外角一杯の球をフルスイングされるとライト後方への強烈なライナーが襲う。
しかしこの場面では、その危険性を承知したうえで勝負をかけるべきだ。その分、凌ぎ切った時にはこちら側に一気に流れが来る。
覚悟を決め、大引はアウトコース低め一杯にミットを構えた。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2015/01/31 00:03  No. 108    
       
そして投じる第一球目。坂本は積極的に手を出してきた。
一塁線の鋭い当たりだったが、わずかに切れてファール。
この打球から、大引は坂本を打たせて取る投球で抑えることに決めた。
今日の坂本は珍しく積極的に打ちに来ている。打撃が好調な証拠である。
しかし、だからと言って迂闊にストライクを取りに行くのは危険だ。
実際、今シーズンはストライクを取りにいった際の被安打率が高い。
打ち取ろうとした配球を読まれて狙い打ちされるケースも多いし、相手は球界でもトップクラス打者の坂本だ。
ここは無理に攻めず、一球カットボールを外角に外すのが賢明だ。
サイン交換が終わり、工藤はセットポジションから第二球目を投じた。
坂本はその球に反応したが、ギリギリ外れると見極めてバットを止めた。
判定はボール。カウントは1ボール1ストライク。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2015/02/07 03:03  No. 109    
       
(やっぱり一筋縄ではいかないな、坂本は)
大引はしばらく考えこんだ後、工藤に第三球目のサインを出した。
工藤は頬に空気をため、ぷぅーと息を吹いた。
そしてセットポジションに入り、素早く大胆なテイクバックで第三球目を投じた。
その時だった。二塁ランナーの井浦は、工藤の投球と共に三塁へ走り出した。三塁への盗塁である。
(バカな!? 自殺行為だ!)
大引は井浦が走っているのを確認すると、立ち上がりながら捕球し、三塁へ思い切り放った。
タイミングは完全アウトだ。三塁の岡本はサードの名手だし、こぼす事も無いだろう。
「うおぉらあああぁああぁぁあーーーー!!!」
岡本のグラブにボールが入ったその瞬間だった。井浦は方向を変え、三塁ベースの右側に滑り込むと、上体をひねって三塁ベースに左手を伸ばした。
その左手は岡本のグラブの下をくぐり抜け、がっしりとベースの端を掴んだ。
「セーーーフ!」
球場全体が歓声で揺れた。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2015/03/01 10:59  No. 110    
       
何という執念だろうか。
自宅の薄型テレビで試合を見ていた大引成留は、井浦の自殺行為とも思える三盗(三塁への盗塁)に驚いていた。
中学、高校までならば捕手の肩力もまだこれからなため十分三盗は通用する。
しかし、プロ野球の世界となれば三盗は至難の業とも言っていいほど難易度が高くなる。
しかも、捕手がセ・リーグナンバー1とも言われる選手ならばなおさらだ。
成留自身も現役時代は捕手だったが、三盗を仕掛けて来られたのは元ダイエーの玉城兵治と元近鉄の大多摩善造の二人のみだ。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2015/05/21 20:21 修正3回 No. 111    
       
「すいません。少しタイムを」
励ましの言葉をかけようと大引が一旦タイムをかけてマウンドに駆け寄る。
「気にするな工藤。仮に打たれてもセンターには飯田、それに両翼には神庭と隆浩がいる。大抵の打球は取ってくれるさ」
そうは言っても、やはり井浦に三盗を決められたのは痛い。これでヒットが出れば1点は確実だ。しかし口には出さない。
「まず前進守備を敷き、坂本・大田・小林を連続で凡打に打ち取る。なに、心配はいらんさ。意地でもパスボールはしない。だからお前も全力で攻めて来い!」
「はい!」
ミットで工藤の胸をばしんと叩き、サークルに戻る。内野は前進。大引は迷ったが、勝負をかけるべく外野も若干前へ寄せた。
さあ、ここが正念場だぞ。心の中でエールを送りつつ大引はサインを出す。
再び豪快なワインドアップから坂本に対する第四球目を放った。この状況で大引が勝負球に選んだのは……
――内角高め!
狙い通り坂本はバットを振ってきた。だが大引は、工藤が投げた時点で確信していた。この球は当たらない、と。
乾いたミットの音が響き渡り、坂本のバットは空を切った。当たるはずがない。なぜならこの球の速さは……

162km/h

球場が歓声に包まれた。自己最速の160キロを2キロも上回る162キロ。
アウトコースを意識させ、いきなりインハイの、それも160キロオーバーの剛速球が決まれば、どんな名打者でも打つのは困難。
しかも今のコースはストライクゾーンギリギリのこれ以上ない球だった。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2015/05/22 17:38 修正5回 No. 112    
       
〜第31話・ホームスチール!?〜

「センター!」
高いフライがセンターを守る飯田の前方に上がる。そのフライを、飯田は余裕をもって捕球した。スリーアウトである。
「よっしゃー! ナイスピッチや工藤ーー!」
ベンチから、いつの間にか現れた二宅が凍ったスポーツドリンクをがんがん打ち付けながら叫んだ。
清水は帰ってきた工藤に声をかける。
「よくやった工藤。あのピンチを0点で抑えたのは大きいぞ」
「ありがとうございます」
「よし、じゃあ今日はここで上がろう。投球内容はほぼ完璧だが球数を多く投げさせられたからな」
工藤は静かにベンチに腰掛け、スポーツドリンクを一口飲むと、ダウンをしにブルペンへと入って行った。
「沢村、次の回から行くぞ。準備はできてるな」
「はい!」
6回の裏、広島の攻撃は9番の工藤から。ここで清水はベンチを出て、審判に選手交代を告げる。
『広島東洋カープ、選手の交代をお知らせいたします。9番、工藤に代わりまして、林原。9番、代打、林原。背番号29』

林原了太郎(はやしばら りょうたろう)。元は年間40本塁打を誇っていた名捕手だったが、アキレス腱を断裂した過去を持ち、
引退の可能性が大きかったにも関わらず走力以外の能力を鍛えなおしほぼ完全復活。こつこつ当てる好打者へと変貌した。
「よろしくお願いします」
紳士的に審判に一礼し、どっしりとバッターボックスに入った。
マウンド上の梶井は、ワインドアップから林原に対して第一球目を投じた。
伸びのあるストレートが、外角低め一杯に決まった。そして、速いテンポで投じられた第二球目は縦に大きく割れるカーブ。
これもまた外角一杯に決まり、早くもノーボール2ストライクと追い込まれた。
(ふむ、なかなかの落差だな。しかし、ベンチから見ていたがこの投手にはいくつかのパターンがある……)
梶井はまたも速いテンポで投げてきた。しかしこれは外角に外れるボール。
(こうして外中心の組み立てで打者に外を意識させ、内角の球で打ち取る。普通打者はそう考えるだろう。しかし、この投手はそれを逆手に取り……)
第四球目が投じられた。
――インハイから真ん中に変化するスラーブ!
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2015/09/01 12:09  No. 113    
       
多少コースにズレはあったものの、スラーブという球種は当たっていた。林原にとってはそれで十分だった。
快音が響き、ライト線への鋭い打球が放たれた。ライトの早瀬は流し打ち警戒のシフトをとっていたが、元ホームラン打者の林原の打球は速い。
ボール一個分届かず、林原の打球は最深部へと抜けていった。
「よっしゃあ!!」
林原は吠えながら一塁を回り、ライトがボールを捕球したことを確認してから二塁で止まった。
そして、二塁ベース上から貫禄のあるガッツポーズを決めた頃には、広島ファンは大歓声を上げ、巨人ファンたちもベテランの一発に拍手を送った。
「お前も、将来あのような選手になれよ」
不意に清水が隆浩に向かって言った。
「信頼も厚く、敵味方関係なく声援を送ってもらえる選手に……」
「監督……」
隆浩は、思ったことを正直に口に出した。
「監督はそんな選手じゃなかったんですか?」
「悪かったな!!」

打順はトップに戻って1番の飯田から。その初球だった。
「なっ!? セーフティーバント!?」
サードは意表を突かれ、ダッシュでボールを取りに行く。その隙を狙って林原が三塁へ猛ダッシュ。
足の遅い林原を刺して有利な状況にするか、飯田をアウトにするか。
迷った挙句に一塁へ送球するが、50mを5.6秒で駆け抜ける飯田の足が先にベースを踏んだ。
「速い……!」
投手の梶井は顔を曇らせた。ここでジャイアンツ監督の阿部がベンチを出た。投手交代である。
左のスリークォーターで、今季18セーブを挙げている中継ぎのエース・上路だ。
大胆なフォームから繰り出す多彩な球種が武器の投手である。
三塁には林原、一塁には球界一の韋駄天である飯田。
三塁の林原の足では飯田の盗塁を刺す際にホームに突っ込んでくることはないだろう。
飯田が盗塁をすれば刺しに行く。キャッチャーとの意思もまとまり、上路はセットへ入った。
バッターは2番・御村。上路は、アウトコース低めに直球を投げ込んだ。
「ストライク!」
キャッチャーの鈴村は二塁へ送球するべく立ち上がったが飯田は走っていない。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2015/09/01 13:08  No. 114    
       
ここで、鈴村は違和感を覚えた。いつもは積極的に一球目から走ってくる飯田だが、今日は走るどころか走る素振りすら見せない。
嫌な予感がする……そう感じた鈴村は、上路にウエストのサインを出した。油断させておいて急に走ってくると読んだのである。
そして第二球目、上路はボールを外し、立ち上がって捕球した鈴村は二塁へ送球……しなかった。
飯田はまだ走っていない。とてつもなく嫌な予感が頭をよぎる。

その刹那、鈴村は視界の左下にありえない人物を捉えた。三塁にいるはずの林原がホームに走ってきている。
「なっ……んだと!?」
急にかがみこんでタッチに行くが、その時にはもう遅かった。
ヘッドスライディングを敢行した林原の手がベースの左端をかすめ、その上に鈴村のミットが当たった。

「セーーフ!!」
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2015/10/20 17:07 修正1回 No. 115    
       
「なるほど、考えたな林原の奴」
病院のベッドの上で、大引の父親である大引成留(おおびきしげる)は予想だにしなかった林原のホームスチールを目の当たりにした。
ホームスチールは基本的にサインプレーではない。選手自身が決めて実行する単独プレーだ。
そして、ホームスチールが他の盗塁と違う点は、ホームに突っ込んで直接点を取りに行くギャンブルプレーだということの他にもう一つ、
それは、ホームスチールの成功率を大きく左右するのは足の速さではないということだ。
単に三塁から俊足の飯田がホームスチールを敢行しても、簡単にアウトになってしまうだろう。
ホームスチールには、大きく分けて二つのポイントがある。
一つ目は『タイミング』である。
セットに入って何秒で投げるのか、この点はほかの盗塁とも共通点があるが、特にホームスチールを試みる際にはかなり要求される。
そして二つ目は『投手のクセを読む』ことである。
投手には様々なクセやタイプ、投げ方がある。それが投手の個性であり、逆に欠点となる場合もある。
このようなそぶりを見せればもう牽制はない、といったようなクセを見抜き、いかに良いタイミングで飛び出すか。
ホームスチールを試みるにはなによりも準備が必要なのである。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2015/10/24 22:24 修正1回 No. 116  HOME  
       
〜第32話・終盤戦〜

広島は林原のホームスチールで1点を追加し3対0。しかし2番の御村はショートゴロでゲッツー。3番の隆浩も三振に倒れ、試合は終盤7回。
清水は降板した工藤に代わり、最近は中継ぎとして大成しつつある沢村をマウンドへ送った。
先発補強のためにとトレードで抑え2人を輩出して獲得した沢村だが、ここ最近は伸び悩んでいた。
清水が沢村の2軍調整を考えていた時、投手コーチである前田が中継ぎへのコンバートを勧めたのだ。
最初は戸惑いもあったが、清水もやるからには、と辛抱強く起用し、ついには中継ぎで13イニング無失点という記録を打ち立てた。
それ以来、沢村は中継ぎとしての起用が主流となってきたのである。

『読売ジャイアンツ、選手の交代をお知らせいたします。 7番、小林に代わりまして、宇和。背番号06』

ここで巨人の阿部は、ショートの坂本を代える前提で代打に宇和を送った。

「沢村、ちょっといいか」
足場を均しながらロジンバッグを手に取っていた沢村のもとに大引が駆け寄ってきた。
「ヤツとは恐らくお前は初対戦だろうから情報を教えてやろう。あいつの名は宇和 慎太郎(うわ しんたろう)。本職はショートだから恐らくこの回の終わりに坂本と交代して守備に入るだろう。あいつの武器は堅実かつ広い守備範囲を持つショートの守備だが、バッティングに関してもヒット性の打球を飛ばすのが上手い好打者だ。塁に出たら完全に盗んだ盗塁もしてくるから気を付けろ。だから、持っている変化球を織り交ぜながらストレートで押していくぞ」
「了解です」
できる限りの早口で聞き取りやすい説明を終えた大引は駆け足でサークルへと戻っていき、沢村も落ち着いた様子で深呼吸をした。

「やっと上がってきたか宇和よ」
大引はすれ違い際に囁いた。それに対し、宇和も楽しげに答えた。
「そりゃあいつまでたっても2軍なんか居られませんからね。……っていうか沢村もそっち行ってたんスね」
「単なるトレードだよ」
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2016/01/20 16:10 修正1回 No. 117    
       
宇和慎太郎、高校時代は宮城の天才守備職人と言われていた名遊撃手である。意外性に富んだ選手だが、バントをほぼ確実に決めるなどの確実性もピカイチだ。
入団当時はプロの洗礼を受け伸び悩んではいたが、3年目からは打率を安定して3割台に乗せるほどに成長した。
元々打撃には光るものがあり、練習の甲斐あってヒット性の打球を打ち分ける好打者となった。
今シーズンの序盤に衝突プレーを起こしケガで2軍調整をしていたが、大事には至らなかったようですぐに復帰した、という訳だ。
「お手柔らかに、大引さん」
そう言って左打席に入ると、大きな背伸びをした後バットを構えた。宇和は厄介なスイッチヒッターであり、無論左打席の打率も3割を超えている。
そして第一球目。沢村の速球が宇和の膝元に決まる。判定はストライク。ナイスボール! と叫びながら沢村にボールを返す。
「復帰直後とは言え、手は抜かないのが親父の教えなんでな。全力で行かせてもらう」
「ま、そうじゃないと面白くないですもんねー」
宇和は楽しんでいるかのような笑みを浮かべると、早く来いと言わんばかりにすぐさま構え直した。
(一球ドロップの軌道を焼き付けさせるか……)
大引がサインを出すと、沢村も意図を読み取ったように頷いた。そして、沢村はアウトコースに球界随一のキレを誇るドロップを投げ込んだ。
(……なに!?)
その瞬間、狙っていたとばかりに宇和が反応した。だがコースは外角に外れている。それでも、十分にドロップを引き付けると、バットの先で引っ掛けるように逆方向へ流した。
サードの岡本は187pの長身だ。しかし、その上を際どく超えた打球は、サード後方でライン上に落ちた。
レフト神庭はボールを拾うとすかさず2塁へ送球したが、宇和の足が一瞬早かったようでセーフ。
沢村の連続無失点記録に黄信号がかかった。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2016/01/21 22:40  No. 118    
       
「タイムを」
大引は審判にそう告げると、早足でマウンドへと駆け寄った。
「すまん沢村、俺にしては甘かったな。ヤツには多少のボール球ならば外野に運べる技術がある。出してしまったものは仕方ないが、一応三盗にも警戒しておけよ」
沢村は、はいっ! と気持ちの良い返事をする。そして大引は、サークルに戻るまでの短い時間で、後続をどう抑えるべきか高速で思考を巡らせた。
宇和のなにより警戒しなければならないのは盗塁である。非力なために達成できていないが、トリプルスリーの条件の内、3割・30盗塁は昨年達成している。トリプルスリーに届かなくとも充分脅威である。
三盗の可能性も否定できないが、先程の井浦の三盗で大体刺すイメージはできている。宇和が三盗を試みても刺殺できる自信はあるし、宇和もそれが分かっているはず。
ここは何としても8番9番を内野で抑える必要がある。センター・ライトへのフライは、打球によってはタッチアップを許してしまうからだ。
「内野陣! 集中切るなよ!」
大引が大声を張り上げて喝を入れると、内野陣は士気を一気に上げ、今まで以上に内野の結束力が高まる。状態は万全だ。
そして打順は8番・古谷野へ。
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記事閲覧   Re: プロ野球・鯉の陣!U  名前:広さん  日時: 2016/01/23 18:30 修正3回 No. 119    
       
古谷野は右投左打の巧打者。チャンスの場面を得意としていた。しかし、沢村の集中力は彼の上を行っていた。
内野ゴロが望ましいこの場面で、徹底的に相手打者の低めを攻め抜く。
膝元にカットボール。アウトコースに直球。そしてインローへのドロップで詰まらせピッチャーゴロ。
沢村が2塁ランナー・宇和を目で制し、まず1アウト。
9番・中谷にはストレート中心の組み立てでサードへのファールフライ。宇和はまだ2塁である。
2アウトとなって打順は1番・佐藤。しかし、ここで巨人ベンチが動いた。
「久々に来るか…………ルイス!」
広島ベンチの前田は興奮したように呟いた。

『読売ジャイアンツ、選手の交代をお知らせいたします。1番、佐藤に代わりまして、ルイス。背番号71』

「広島でコールを受けるのは、久々だな」

ここで打席に立つのは、元ヤンキースの1番打者にして、以前井浦とクリーンナップを張ってIL砲として恐れられた最高の助っ人、ルイス・デュランゴである。
実は数日前に会見があり、ルイスが巨人に再来するというニュースは多くのIL砲ファンを熱狂させた。
打撃能力に関してはメジャーでも群を抜いており、過去には日本で一度三冠王を獲得している。また足も速く、トリプルスリーも射程圏内だという。
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